──春の季節 四十八日目
一層のボスであるコラージュコーラルを倒した時点で昨日の探索は終了。二層の到達報酬は残念ながら他の探索者に取られた。
聞いた話によると、魔物が少なくなった頃を狙い、迷宮を全力疾走してボス部屋に突入したらしい。良くやるもんだ。
ちなみにどう頑張っても俺達には二層の到達報酬を得る未来は無かった。最初の分岐で右へ進まないと辿り着けない場所にボス部屋があったのだ。幾らワープが使えても、見たことの無い場所には飛べんからな。
ただ、稼ぎ自体は何時もと変わらず三千ナール近く稼げたので、個人的にはプラスだと思っている。
少なくとも昨日だけで九千六百体分の魔力を魔結晶に突っ込めた事は間違いない。このペースなら十層に辿り着く頃には白魔結晶になるだろう。
売れば百万ナール。三割増しを忘れなければ百万三十万ナールで売れる代物だ。俺はその金を使って新たな奴隷を手に入れても良いし、装備を整えても良い。
全く……嬉しい悩みすぎて涙が出るぜ。
「それでは行きます」
遠くに旅立っていた意識を現実に戻す。目の前の机にはスタッフと二枚のカード。そして呪文を唱え、スキル合成を発動するメローの姿が。
スキル 知力二倍
「長かった。本当に長かった」
「おめでとうございます。主様」
「「おめでとうございます」」
「ありがとう。これでようやく上に進めるぜ」
知力二倍は魔法一、二発分の火力が上昇する人権スキルだ。今まで
唯一の欠点は値引きの為に一緒に買った妥協品だったという事もあり、スタッフのスロットが一つしか無い事か。せめて二スロあったら豚の精神二倍を突っ込めたんだが。
まぁ、無い物ねだりをしても仕方無い。気持ちを切り替えよう。
「コボルトは残り二枚。余ってるカードはコボルトを抜いて全部で十八枚。メローのお陰でカードの効果は判明*1しているが、幾つか効果の薄いカードもあるから悩ましい」
「羊のカードはどうですか?チープシープのボス戦が安全になりますが」
「やっぱり安全を考えるとそうなるよな。グロリアの足装備に牛とコウモリを入れるのもありかと思ってるんだが」
「回避率二倍と移動速度増強ですか。確かに悪くないですね」
自分の考えを口にすれば、メローが即座に答えを返してくる。流石ドワーフ、鍛冶への熱意が凄い。
「えっと、私の装備ばかり強化するのも不公平ですし、メローさんの槍にサイクロプスとツボ式食虫植物を使うのはどうでしょう?攻撃力二倍とHP吸収があれば、迷宮探索は確実に楽になると思いますが」
「うーん……前衛が主力のパーティーなら悪くないですが、私達の最大火力は御主人様ですからね。今の武器には強権の力がありますし、後回しで問題無いと思います」
「そ、そうですか」
メローにダメ出しをされ、しょんぼりしたグロリアのフォローを兼ねて、その場合の主としての判断を語る。
「グロリアの考えも間違いでは無いんだが、その場合はお前の二本目の剣に付ける事になると思うぞ?基本的に最後まで敵を殴ってるのはお前だし」
「そうですね。その場合はサイクロプスとハチの二枚で良いと思います。上位の冒険者達が好んで使う組み合わせなので実績がありますし」
「さ、流石にそれは……。暫くは主様かメローさん達の装備を優先してください。今の装備ですら不相応な装備ですし、これ以上は心労にしかなりません……!」
本心、だろうな。一番危険な役目を引き受けてくれてるんだし、もうちょっと我儘になっても許されると思うんだが。
これ以上はグロリアを追い詰める結果にしかならなそうなので、気配を薄くして隠れているサギニへ話を振る。
「サギニは何か意見あるか?どんな意見でも怒らないから気軽に言ってくれ」
「わひぃ!?えっと、そ、そうですね……硬革装備にスキルを付けるのは勿体無いと思います」
「その心は?」
「昔の私なら考えもしませんでしたが、コボルトのカードは貴重ですから。余るまでは上へ行く為の装備にのみ付けるとよろしいかと」
「んー……一理あるな」
この先も、それこそ貴族になった後にもコボルトのカードを追い求める自分の姿が見える。
他のカードと違って一枚手に入れば良いってもんでも無いからなぁ。属性耐性と状態異常だけに絞っても八枚使うし、それを六人分揃えるとなると四十八枚必要となる。
最低限でそれだ。武器を含めて考えれば、百枚あっても一瞬で使い切る自信しか無い。
「そういえば昨日の冒険者の方がまだ持っているという前提になりますが、アリのカードも悪くないですね。毒耐性はあって困るものでも無いですし」
「付けるとしたらグロリアの額金だな。出来れば麻痺耐性も欲しいが、残念ながら
オークションを利用し始めてからカードの入手は格段に楽になったとはいえ、目的のカードを確実に得られる訳では無い。
もしそうならコボルトの扱いにこんな悩んでいないのだ。毎回、必要枚数をオークションで購入すれば良いだけになるし。
「サギニさんのエストック用にも欲しいですし、まだまだ先は長いですね」
「本当にな」
コップに入れられた御茶で喉を潤し、軽く溜め息を吐き出す。儘ならないもんだ。本当に。
◇