宿の店主にもう一度迷宮に潜ってくる事を伝え、人目を気にしつつワープで移動。壁や絨毯を起点に移動可能なこの魔法は本当に無法だと思う。
現在の装備は硬革一式のみ。武器はこれから取り出す予定だ。
デュランダルだと一撃で倒せてしまうので、その代わりに鉄の剣でギリギリまで削り、残りを素手又は毒で倒す。キャラクター再設定が無ければそうせざるを得なかっただろう。
だがボーナス武器は一つだけでは無いのだ。
デュランダルの一つ下にはフラガラッハという両手剣があり、その下にも代わりとなる武器がある。
一撃で死なないラインを見付け、そこから腕力にBPを割り振って調整、カスダメでも敵を仕留められる状態を作り出せば、いちいち調整する労力は少なく済む。
まぁ、原作主人公が魔法でやっていた事を剣でやろうとしてるだけなんだが。
現在の設定は武器五31P、
これで足りなかったら武器のランクを下げ、腕力に振るしか無い。足りるとは思うが。
そんなこんなでニートアントを発見。フラガラッハで即座に斬り掛かった。
「生き残ったか……!」
まさか一撃で倒せないとは。幾ら低レベルでも使える様に性能を制限されているとはいえ、耐えられるとは思ってもみなかった。まぁ、二擊目で殺すんだが。
ドロップ品の毒針をアイテムボックスに投げ込み、設定を変更。余っているポイントをそのまま腕力に突っ込んだ。
そして再びニートアントを探す旅が始まる。やっぱりロクサーヌはチートだと思う。索敵範囲どんだけ広いんだ。
それから三十分ほど時間を掛け、漸く一撃かギリ残る配分を見付け出す。誤差が出るのは同じ魔物でもステータスが違うからと原作では予想されていたが、個人的にはこちらの攻撃にも誤差があるのだと思ってる。
主人公も小指に大ダメージを負っていたが、あれが胴体に食らった時と同じダメージ量とは思えんし。
「……お?」
色々脳内で考えている内に、ニートアントがこちらの一撃に耐えた。それを合図に一度距離を取り、アイテムボックスから取り出した毒針を投げまくる。
一本目、駄目。二本目、駄目。一度噛み付いてきたニートアントの攻撃を躱わし、三本目を投擲。──駄目か。
原作でも20本投げて漸くだったしなぁ……当然っちゃ当然か。
取り敢えず再び距離を取り、四、五、六本目を投げる。
「まだ無理か」
七、八、九、回避、そして十本目──
「…………ん?」
ほんの僅かに感じた違和感。若干青白くになったような──と思ったら。
「あ、死んだ」
ニートアントが煙に変わり、ドロップアイテムを残して消え去った。
こりゃ主人公も気付けない訳だ。俺も事前情報が無ければ気付けなかっただろう。
そのままの勢いで生き残るニートアントを探しだし、僧侶も取得する。素手だと二発掛かったが許容範囲内だ。
「さて、後一つはどうするかな」
悩むのは、魔法使いまで取りに行くかどうか。
原作主人公がWeb版で魔法使いを取得した時より、今の俺の方がレベルは上だ。だから安全ではある筈。
MPを回復出来る強壮剤も銀貨六枚で買ってある。口に含んでおけば、すぐに回復する事は可能だろう。
だから問題なのは──
「俺がMP0のネガティブに耐えられるかどうか、なんだよな……」
ハッキリ言って、どうなるのか全く分からない。というのも、なんだかんだ生きる意思のあった原作主人公とは違い、俺は惰性で生きていたからだ。
何もかもが上手く行く人生。それに甘えた結果、俺が間接的に殺した人間の数は、そこらの殺人鬼なんて目じゃないぐらいの量にまで膨れ上がっていた。
多くの人間は俺は悪くないと言ってくれた。君が開発した物は人類の歴史を進めたと。それに甘え、兵器へ転用した者達が悪いと。
その言葉に甘え、現実逃避気味に生きていたのが俺だ。
──そんな人間が極度のネガティブに耐えられるのか。
「……正直、怪しいよな。右手に持つフラガラッハで首を切り裂いても不思議じゃない」
だがこの世界で貴族を目指すなら、魔法使いのジョブは必須と言って良い。単純に火力が足りず、敵の処理が追い付かなくなるからだ。
二の乗数ごとに出現する魔物の最大数が増加する関係上、迷宮の深さが最低の五十層だったとしても、道中で確実に六匹の群れを相手取る事になる。
デュランダルで斬れば良い?
残念ながらそれは不可能だ。制限状態のデュランダルは二層から一撃とはいかなくなり、頼みの綱の制限解放アイテムは迷宮ボスのドロップ品なのだから。
「……………………っしッ!男は度胸ッ!」
あるようで無かった選択肢なんて悩むだけ時間の無駄。俺に出来る事は最大限の保険を掛け、前に進む事だけ。
余ったBPで『MP全解放』を取り、ついでに『MP回復速度三倍』も取得。後はニートアントを探し出し、魔法を放つだけだ。
そんな覚悟に迷宮が応えてくれたのか、フラガラッハの一撃に耐える蟻がすぐに現れた。──行くぜ!
「『MP全解放』」
急速に自分の中から〝何か〟が失われていく。それと同時に聞こえ始めたのは──地球に居た頃によく投げられた罵声。
『お前が放射能除染技術なんて作ったからッ!!』
ああ。これはまだ世界の為に、と頑張っていた頃の幻聴か。
『人類は核を気軽に使える兵器として使う様になったッ!なってしまったッ!お前が……!お前があんなものを開発しなければッ!』
確か、目の前の男は後進国出身だった筈だ。先進国には除染技術を使えるだけの技術があり、後進国には扱えるだけの技術も、技術者を招く資金も無い。
その貧富の差がそのまま戦力の差となり、何処ぞの赤の国に侵略されたんだったか。
『返せよ……俺の息子と娘を……妻を……国をッ!』
その幻聴を最後に場面が切り替わる。続いて聞こえてきたのは、新たなエネルギーを開発した時の幻聴だった。
『お前のせいで我が国は終わりだッ!』
石油を始めとする資源で成り立っていた国。逆に言えば、エネルギー資源以外は何も無かった国。
その国の王子だった男が吼える。国民を愛し、慈しんだ男が泣きながら叫ぶ。
『満足か天才様よぉ!多くの国を自分の勝手で壊して!自分達は安全な場所で快適に暮らして!』
既存のエネルギーを全て過去の物にした代償は、エネルギー資源で成り立っていた国々の崩壊だった。
この時の俺は……何を考えていたんだっけ?
もうその記憶すらも曖昧だ。
『君の開発したリサイクル技術は革命的だ!間違いなく人類史に刻まれる功績だよ!赤城君ッ!』
何もかもが嫌になって、逃げ出した会社で作り上げた新技術。太平洋のダストベルトを処理する為の技術。
目の前の男は何処ぞの国の大統領だったか。
今まではただのゴミだった筈の物が、俺の開発した技術によって金塊に変わった。その新たなる利権を求めているのが記憶から再現したと思われる幻覚からでもよく分かる。
それは新たな戦争を引き起こし、また多くの死者が出た。
──お前さえ居なければ。
ああ、本当にどうしようも無い。俺が生きていると、この世界にまた争いをもたらすのだろう。
加賀道夫の愛するこの世界に人同士の争いをもたらすのだろう。
いっそ、俺なんて──死んだ方が世界の為になるんじゃないか?
「────ッ!危ねぇッ!」
首に傷を作り出したフラガラッハを引き離す。同時に再設定を行い、デュランダルを取り出した。
丁度良くニートアントが湧いた。餓狼の様にデュランダルを振り抜き、MPを回収する。
「危なかった……!一思いにやってたら死んでたぞ……!」
首にフラガラッハを当てたのは間違いない。その証拠に指で触れれば分かるぐらいの刃傷が残っている。
運が良かったのは、一思いに首を切り裂くのでは無く、唾を飲み込んでからやろうとした事だろう。
そのお陰で強壮剤を飲み込めたらしい。本当に危なかった。
「もう二度とMP切れにならん。というかマジで死ぬ」
一度目は幸運だった。二度目は無いだろう。そのつもりで生きないと、せっかくの異世界転移も意味が無くなる。
軽く頭を振って気持ちを切り替え、ジョブを確認。
魔法使いLv1
効果 知力小上昇 MP微上昇
スキル 初級火魔法 初級水魔法
初級風魔法 初級土魔法
目的の物は確かに手に入れていた。