「お、午後も出勤か。精が出るねぇ──って、後ろの嬢ちゃん達はどうしたんだ?悩んでる様に見えるが」
消沈気味のグロリア達を引き連れ、迷宮の入り口に着いたのとほぼ同時。ここ最近毎日言葉を交わしている冒険者の男が胡散臭げな視線を俺に向ける。
「俺は最初から貴族になるつもりだって言ってたんだが、それを話半分に聞いていたみたいでな?今更になってプレッシャーを感じてるんだよ」
「ハッハッハッ!懐かしいねぇ、俺の昔の仲間もそうだったぜ!」
「って事はやっぱり?」
「おう。まだ公開出来ないが想像通りだ」
グミスライムで詰むもんな。そりゃそうだとしか言えん。
「あ、そうだったそうだった。お前さんが潜る前に渡しておくぞ」
軽く投げられた小袋を空中でキャッチ。ジャラジャラ何かが擦れる音がする。
「なんだこれ?」
「お前さんが公開してくれた地図の報酬だよ。大した額じゃないが、足しにはなんだろ」
午前の探索を終えた時、どうせ必要無いからという理由で地図を公開したのだが……どうやらそれが役立ったらしい。
「律儀だな。別に良かったのに」
「そのお陰で三層への道が開かれたんだ。どうせギルド持ちだし、有り難く受け取っておけ」
「……じゃ、遠慮無く」
呪文を唱えてボックスを開き、袋を逆さにして
銀貨二十枚か。中々な額だな。
「二層のボス部屋へのルートは教えてもらえるのか?」
「そんな面倒な事をせずとも三層に運んでやるよ。──聞いての通りだ。運んでやってくれ」
「ういっす!それじゃさっくりパーティに入れてくだせぇ」
冒険者の男の仲間が一歩前に出たので、その人を対象に呪文を唱えてパーティに組み込む。
「よろしく頼む」
「はいはい。それじゃ開きますよ~っと」
呪文を唱え、入り口に作り出される門。軽くお礼を言ってからグロリア達と共に靄を抜ければ、別に二層と変わらない迷宮の姿が。そしてパーティから探索者を外す事を忘れずに。
「レベル的に大丈夫だと思うが、怪我だけはするなよ」
慰める訳でも無く、ただ主としての望みだけ伝えて歩き出す。十層までに立ち直ってくれると、余計な手間が掛からなくて楽なんだが──さて、どうなる事やら。
◇
トロムソの新迷宮三層に現れた魔物はニードルウッドだった。一層はサンゴ、二層は蜘蛛、三層は木か。何というか反応に困る順番だ。
何時もなら案内を任せているサギニは未だ落ち込んでいるグロリア達のフォローに回した。俺が貴族になるという言葉を真剣に受け入れていた訳では無く、かと言って話し半分に聞いていた訳でも無い。
スキル付き装備を奴隷に渡したり、食事に拘る姿を見て、俺の事を貴族だと思っていたらしい。
だから真剣に話を聞いていても二人と違って悩む事も無く、むしろ首を捻っていた姿は思わず笑ってしまった。
サギニ視点では貴族なのに貴族になろうとしているという摩訶不思議な話し合いだったからな。さもありなん。
それから少しして、俺の鼻でも嗅ぎ取れるぐらい森の様な匂いが漂ってきた。軽くサギニに視線で問えば、こくりと頷く。
どうやらこの先に魔物の群れが固まっているらしい。
「それじゃ行ってくる」
それだけを告げて通路の先へ突撃。木が六割、蜘蛛、サンゴが四割の集団だ。数は一杯、数える方が馬鹿らしいぐらい居るのは確かだな。
一番手前のニードルウッドに対してデュランダルを振り抜き、魔法使い枠でファイヤーボールを撃ち込む。
ついでに遊び人枠でファイヤーウォールを敵陣のど真ん中に展開しておき、二回目のデュランダル。
木とサンゴはお互いが邪魔でロクに動けていないが、やっぱり蜘蛛は壁や天井を走り、こちらに襲い掛かってくる。面倒な。
とはいえ命の危険を感じる程じゃない。飛び掛かってきた蜘蛛をデュランダルで切り払い、先程と同じ魔法を繰り返す。ついでに丁度良い位置に居たサンゴを蹴り上げ、ファイヤーボールを叩き込む。
うーん、この作業感。俺も強くなったもんだ。
それから五分ほどで戦闘終了。カードは落ちなかったが、代わりにリーフがそれなりに落ちた。
正直、視覚的暴力が襲ってきた二層の蜘蛛とは違い、見た目的にマシな三層の群れを相手にする方が楽だった。むしろ蜘蛛の比率が下がった事で戦いやすいまでもある。
「アイテム拾いは任せた。俺は先に行く」
三人の返事を背中で聞き、一人寂しく曲がり角を曲がる。するとそこには──周囲の蔦の這った壁とは異なる、不自然に蔦が途切れている
運が良いやら悪いやら。というか相変わらず違和感が凄い。
「あの、主様?どうかしましたか?」
ぼーっと壁を眺めていると、アイテムを拾い終えたと思われるグロリアの声が聞こえた。
「たぶんボス部屋だ」
「えっ?こんなに早く見付かったんですか?」
「そうらしい。──ほら」
壁に近付くと、ゆっくりスライドして下へ落ちる。その奥にはボス部屋へと続く門の姿が。
ここまでの探索時間は十分ほど。というか最初の分岐を右折するだけで辿り着いた。途中に魔物が詰まってなければ、下手すれば三分も掛かってない気がする。
「こんなこともあるんですね……」
「ま、階層報酬を有り難く貰いに行こうか」
という訳でさっさとボス部屋で突っ込み、靄から現れた『ウドウッド』にデュランダルを叩き付ける。
そこへ調子を取り戻しつつあるグロリア達が追撃を仕掛け、最後にデュランダルを振り下ろせば戦闘終了。
ドロップ品は薪*1。ニードルウッドより一回り大きいし、納得のドロップ品だな。
◇
四層に出る魔物はチープシープだった。それだけ確認した後、ダンジョンウォークを無詠唱で使って離脱する。
「ん?どうした?何か問題でも起きたか?」
「いや、四層開けたから戻ってきた」
「はえーな、おい」
「最初の分岐を右折するだけだったぜ。ところで誰を四層に連れていけば良い?」
「あ、自分っす。パーティに入れてもらっても?」
「了解。──友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」
「どもっす」
「じゃ、開くぞ。入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の、ダンジョンウォーク」
門を開くと、慣れた感じですぐに探索者の男が通り抜ける。それから数分もしない内に戻り、上司の下で緩い感じのまま報告を上げた。
「確認しました。四層はチープシープっすね」
「おう、それじゃ報酬だ」
冒険者の男から銀貨十五枚受け取り、それを再び
「あ、三層の掃討と四層の探索どっちが良い?俺はどちらでも良いぞ」
「それなら四層の探索を頼む。今は少しでも上へ行きたい」
「了解。それじゃ行ってくる」
再び呪文を唱えて門を開き、グロリア達を連れて潜り抜ける。
それからは特に語るべき事は何も無かった。
残念ながら二度目の幸運は訪れず、普通に探索を終え、四割ほど埋めた地図を託して帰宅。
暫くはこんな毎日か。腕が鈍りそうだ。