──春の季節 五十日目
記念すべき異世界転移五十日目のオークションはカエルとサンゴのカードだった。
これでサンゴの所持数は二枚。コボルトのカードさえ手に入れば、俺とグロリアの装備に石化耐性を付けられる。
出来ればアリと潅木のカードが欲しかったが。麻痺と毒耐性はあって困るもんじゃないし。
ただ、それ以外の成果もあった。五日ごとにカードを買いに来ているお陰で、ようやく商人ギルドに顔を覚えて貰えたのだ。
その関係で
やはり世の中はコネ、コネこそ正義よ。
金がある人間の下に金と物と情報は集まるのだ。だから金持ちは博打を打たずに金を稼ぐ事が出来るし、増えたお金で新たなコネを築ける。
成金と呼ばれる者達との差はそこだ。運だけで成り上がった者は、次の金策も博打になるからすぐ沈む。
まぁ、この世界は迷宮攻略出来る武力さえあれば、コネも含めて何もかもが転がり込んでくるんだが。
「──って訳で、午前中に帰ってこれたんだ」
「主様の人脈も順調に広がってますね」
「使うか分からんが、広げておいて損は無いしな」
帰宅と同時にグロリアが淹れてくれたお茶で喉を潤し、本日の成果を机に置く。すると対面に座っていたメローが簡単に説明してくれた。
「カエルのカードですか。ヤギと同系統のカードですね」
「上がるのは俊敏辺りか?」
「はい。コボルトを使えば俊敏二倍が付けられます」
ロクサーヌに付けたらヤバそうだ。
「確か腕力を付けられる牛人も持っていましたよね?」
「おう。ただどうせ付けるならアクセサリーに纏めたいし、現状では他のスキルを優先するつもりだ」
武器に付けるなら攻撃力二倍の方が効果が高い。だからこそのアクセ枠なのだが……身代わりのミサンガが強すぎて困る。
もしアクセ枠を生かすとしたら、防具に身代わりを付与するしか無いか。グロリアの足装備は二スロだし、壊してもそこまでのダメージは無い。いや、装備の値段次第か。
四スロや五スロのアクセがダマスカス鋼のデミグリーヴより安ければアクセで良いし、高ければデミグリーヴに芋虫を入れる。たぶんこれが正解だろう。
「他のスキル……鯉とハーブ辺りですか?」
「いや、俺のスタッフはヤギだけで限界だから鯉は無理だ。ハーブは防具とアクセ枠だから使えるが、絹のローブだと勿体無い気がしてる」
絹のローブはランク的に硬革装備と同じなので、二スロが限界なのが残念だ。肌触りが良くて個人的には好きなんだが。
三スロはアルバ──だと思うが、聖銀を少量使ってるので四スロかも知れない。
他にはランク四に居るホワイトキャタピラーのボスが落とす、銀の糸を使った糸系装備が候補に入る。
どちらも四スロ上限だとすると、三スロ装備は何処にあるのやら。
「だとしたら私の槍にサイクロプス辺りが候補ですか?」
「そこを悩んでるんだ。残りの人材次第でメローにはダマスカス装備に切り替えて貰って、前衛に立って貰う可能性もある。その場合は槍より別の武器に換えた方が良いだろ?」
「……なるほど。確かにその場合、槍は後衛の方に回すべきですね」
原作では巫女のロクサーヌが前に立っていたが、普通は金属装備でも楽に動けるドワーフを前に立たせる。
単純に安心感が違うしな。それを超越するのがロクサーヌさんなんだが。
「騎士という手もありますが、そちらはお考えでは無いのですか?」
そう発言したのは黙って話を聞いていたグロリアだ。サギニはクッキーに夢中になってる。耳は動いているので、話は聞いていると思う。たぶん。
「お前の強さを知ってる身としては種族の関係で仕方なく使うことはあっても、わざわざ使う必要がなぁ……」
「例の
余り目立ってないが竜騎士のクリティカル率上昇は有用なスキルだ。デュランダルを持たせるボス戦で、その凄さを全員が実感している。
体力上昇もあるし、本当に隙が無い。それ故に奴隷となる事も少ない訳だが。
「なるほど……。本当に次の人次第なのですね」
「二人の内、一人は魔法使いを狙いに行く事は確定してるけどな」
「流石にそれは厳しいのでは無いでしょうか?貴族となった後なら伝で見付かるかも知れませんが、オークションに出品されるとはとても思えません」
まぁ、普通に考えればそうだ。ただ……
「これは他言無用の独り言だが、後天的に魔法使いになる方法に当てがある」
『『『…………!?』』』
流石にこの発現は想定外だった様で、サギニも含めて全員が驚きの表情を浮かべる。
「ま、だからこそ悩んでる訳だ。極論を言っちまえば、どんな種族だろうと役立つ事は間違いないしな」
十六層から五匹、三十二層から六匹、六十四層から七匹。これを相手取るには、こちらも頭数を揃えるしか無い。
ボスの方も十二層で雑魚が増え、二十三層で雑魚が二匹になり、三十四層ではボスが二体になる。
四十五層ではボス二体に加えて雑魚付きだ。流石に四人では厳しいと判断するしか無い。
しばらく居間を静寂が支配する。それを破ったのはメローだった。御茶で乾いた喉を潤し、大きく溜息を吐き出した後、まるで何事も無かったかの様に自身の考えを言葉に変えた。
「狼人族なら獣戦士、竜人族なら竜騎士。それ以外の種族なら騎士や巫女や暗殺者。選択肢が多いというのも困りものですね」
「一般的な探索者のパーティですと探索者や冒険者の方が枠を埋めるのですが、私達は主様が兼任出来ますからね。その分の自由度の高さが悩みに繋がっている気がします」
「いざとなったら俺が前に立つという選択肢もあるしなぁ」
その場合は神官枠かね?英雄はちょっと特殊だし。
「いえ、御主人様を前に立たせるぐらいなら私が立ちます」
「そうですね。それは本当に駄目です」
「えっと、私もそれは止めた方が良いと思います」
三人に止められたら仕方がない。諦めるか。
「本当にやめてくださいね?主様が前に出るぐらいなら私が全ての敵を抱えます。ですから、どうか御身を大切にしてください」
「わかったわかった。俺が前に出なくて済む様に考える。だから安心しとけ」
とは言ったものの、迷宮高層でタンク系ジョブ以外がどれくらい耐えられるものなのか不明なのが辛い。
一般的なパーティ構成から逆算すると、高レベルとはいえ探索者が耐えられるレベルの攻撃力だと思うが……それを前提にパーティを組み立てる訳にも行かないのが困る。
これがゲームならステータスから逆算出来るのだが。
三人でああでもないこうでもないと話し合っていると、ポリポリクッキーを齧っていたサギニがスッと手を挙げた。
「えっと、発言してもよろしいでしょうか」
「どうした?」
「現状で行けるところまで進み、足りないと思うところを補うのでは駄目なのですか?」
確かに資金が出来たからといって即座に奴隷を買う必要は無い。ただ……
「迷宮討伐目前で新人教育する事になるが、お前らはそれでも平気か?しかもメローはいきなり立ち位置が変わる可能性すらあるぞ?」
「んー……出来れば早い内からダマスカス装備に慣れておきたい気持ちはありますが、新人教育の時に練習させて貰えれば大丈夫だと思います」
「本気か?そんな簡単に変えられるもんでも無いだろう?」
「御主人様の懸念は何となく察しますが、ドワーフは他の種族とは違って腰を据えて殴り合うだけですからね。多少の受け流しこそすれ、基本は殺られる前に殺れです」
お、漢らしい……!って、感心してる場合じゃない。
「それなら装備を探してくるかね。武器の希望はあるか?」
「選ばせて頂けるならば鎚をお願いします」
「了解。それじゃ行ってくる──っと、グロリア。悪いが付き合ってくれ」
俺一人だと持ち上げられない可能性があるんだよな。原作でも棍棒を持ち上げるのに苦労してたし。
「分かりました。すぐに着替えてきますね」
「休日なのに悪いな」
「いえいえ。私達は一般的な探索者より良い生活をさせて貰ってますからね。雑用でも何でも気軽にご利用ください。──それでは一度失礼します」
御辞儀をして二階へ着替えに行くグロリアを見送り、その余暇を使ってキャラクター再設定を弄っておく。
さて、新しい装備が補充されてると良いんだが。