もはや第三の故郷になりつつあるパラーに飛び、ダマスカス装備が置いてある店へグロリアと共に向かう。
今回の購入資金は白魔結晶を白金貨に交換した際の余剰分。金貨にして三十枚だ。増殖バグかな?
白金貨は金貨百枚の価値があるので『買取価格三十パーセント上昇』を付けているなら何も可笑しく無いのだが、ギルド神殿から当たり前の様に吐き出されたのが怖すぎる。
奉納した魔力の余剰分で新しく貨幣が生まれていると良いな。俺の心の平穏の為に。
まぁ、それでも三割引はするし、三割増しも酷使するのだが。
「あの、主様?先程から幾つもの店を通り過ぎてますが、よろしいのでしょうか?」
「ああ。一番初めに行かなきゃいけない店があるんだ」
「…………?」
何度もこの街を訪れ、装備を求めて多くの店を巡ったお陰で、俺の顔はこの街ではそれなりに知られている。──同時に
守秘義務はあるが、貴族の命令を無視出来るほどの強制力は無い。だからこそ俺の名がメローの親族に知られている事は当然であり、必然だった。
「メローは親族に愛されていたみたいでな。俺が買った事を何処からか嗅ぎ付けた親族に一度だけ脅された事があるんだよ」
──おい、小僧!ワシの孫娘を泣かせてみろッ!何処に居ようが探しだして金鎚の錆にしてやるからなッ!
街のど真ん中でモルゲンステルン片手に脅された時は心底驚いた。同時にメローが愛されていた事を知り、胸に仄かな暖かさが宿ったのは記憶に新しい。
「それは物騒ですね……。もしかして私の役割は護衛でしたか?」
「いや、単純に荷物持ちだぞ?メローやお前は気軽に持ち上げるが、普人族にとっては棍棒すら重くてなぁ……」
「そういえば棍棒を購入した時、持ち上げるのに苦労したと言ってましたね」
「おう。今回はアレより重い事が確定してるからな。だったら最初から任せようと思ったんだ」
街の主道から一本逸れる。とはいえ聖地の名は伊達では無く、逸れた先も表通りと変わらぬ活気があった。
「凄いですね。私達が普段目にする武器や防具以外にも、こんなにたくさんの種類があるとは思ってもみませんでした」
「俺もここに来るまで知らなかったわ。片手剣は特殊な形状の奴しか無いと思っていたが、普通にロングソードとかあって驚いたぞ」
銅のロングソードや鋼鉄のロングソードみたいな手抜き名称だが、性能は素材通りらしい*1。
そういや漫画版の公爵御一行もバラバラな装備として描かれていたな。公爵なんてバイキングヘルムみたいなの被ってたし。
さらに一本、脇道に逸れる。ここまで来ると活気は収まりを見せているが、逆にベテランの冒険者達を見掛ける事が多くなってきた。
「大分奥まで進んでいますが、目的地は決まっているのですか?」
「この先にメローの爺さんがやってる店があるんだ。そこへ向かってる」
「なるほど。それなら腕の方も期待出来そうです」
「この聖地で爺まで生きてるだけあって腕は確かだぞ?だから探すならそこを始めにしようと思ってる訳だし」
「そんなに凄いのですか?」
「
鍛冶師の中級職である隻眼は、オリハルコンや聖銀を扱えるようになると読者に考察されていた職業だ。
性能は不明、スキルも不明。ただスキルによって生み出せる武具が均一の品である以上、
それに対する答えを俺はこの街で
「それは凄いですね……。鍛冶師の聖地という名は伊達では無いという事ですか」
「いずれメローにもなって貰うつもりだが──ここだ」
年季の入った煤汚れが目につく店に入る。カランカランとドアベルが入店を知らせる事すら無い辺り、やる気は無さそうだ。
「いらっしゃ──なんだ小僧か」
「随分な挨拶だな。わざわざ可愛い孫娘の御主人様が来てやったっていうのに」
「ふん!この街の掟が無ければ殴り飛ばしてでも買い戻してるわい」
「だろうな」
それを出来るだけの資産はあるのだ。やらない訳が無い。
「で、何の用だ?」
「迷宮攻略の関係でメローを前に立たせる事になりそうなんだ。その為の防具を求めてる」
「鋼鉄か?」
「いや、ダマスカス鋼だ」
わざわざ鋼鉄で妥協する意味も無いしな。
「見た感じ後ろの嬢ちゃんは竜人族だろう?わざわざメローを前に立たせなくても大丈夫なんじゃないか?」
「前回も言ったが、俺は貴族になるつもりだ。迷宮攻略を妥協するつもりは無い」
「…………チッ。生意気な小僧だ」
舌打ちと共に後ろへ行き、大きな箱を持って戻ってくる。箱の中にはダマスカス製の防具が一式入っていた。
「ワシの目から見て、これが店で一番良い品だ」
スキル 空き 空き 空き 空き
スキル 空き 空き 空き 空き
スキル 空き 空き 空き 空き
スキル 空き 空き 空き
「……
「チッ。
スキル枠があるかどうかは見えていないと思う。ただ、何となく
素材に戻す
その判断が出来るだけで隻眼の作る武具は
都合が良すぎる解釈かも知れないが、クーラタルの探索者の中にはキャラクター再設定も無しに七十から八十層を狩り場としている者達がいるのだ。
そいつらがスキル無しで狩りをしているとは思えないし、やっぱり隻眼に何らかのスキルがあると見て間違いないだろう。
ただ最高傑作は自家で使うだろうし、隻眼になる頃には自身も成功者の一人だ。
金や名誉を求めないから作成数は少なく、店頭に置いたり、出荷するのは基本的に駄作か普通品止まり。
わざわざ作るとしたら豪商や貴族の様なコネがあるところだけとなると、バラダム家が放出した装備がスロット付きばかりだった事にも説明が付く。その証拠に店頭に並べられている品は一、二スロの装備ばかりだしな。
やはりコネ、コネこそ正義よ。
そんなドワーフと仲の悪いエルフは……御愁傷様としか言えん。
「あ、ついでに同レベルの鎚もくれ」
「金はあるのか?」
「ほれ」
ボックスから取り出した白金貨を見せる。それを見たメローの祖父は表情を真剣なものに変えた。
「────本気で貴族になるつもりなんだな?」
「
「…………分かった。すぐに持ってくる」
「値下げ交渉はさせて貰うけどな」
「ハッ。金は要らん。どうせ道楽でやってる店だし、素材は奴隷と共にワシが取ってきた物だ。誰にも文句は言わせんよ」
「良いのか?」
「その代わり──
本当にメローは良い祖父を持ってるもんだ。別れた両親を思い出すぜ。
姿勢を正し、真っ直ぐ視線を合わせる。欠片も不安を見せず、堂々と。腹に力を込めて、ハッキリ断言する。
「任せろ。アンタが死ぬ前に連れてきてやるよ」
「抜かせ。ワシは後百年は生きるわい」
◇