トロムソの十三層に湧く魔物は、ナイーブオリーブ、サラセニア、クラムシェルの三種類。それぞれ弱点無し、火弱点、土弱点となっている。
つまり、メテオクラッシュで一掃可能だったりする。まぁ、グロリア達の練習も兼ねているので普通に戦うが。
「これでッ!」
「トドメですッ!」
グロリアが二本の剣を叩き付け、そこへメローが金砕棒を振り下ろす。すでに魔法で削られていたクラムシェルが耐えきれる筈も無く、アイテムを残して霞に変わる。
「ふぅ。やはりクラムシェルは硬いですね」
「一般的な探索者の天敵になっているのも納得です」
二人がアイテムを拾いながら愚痴を吐き出していると、同じくアイテムを拾っていたサギニが疑問を口にした。
「天敵ですか?」
「私達は御主人様のお陰で余り気になりませんが、銅や鉄の剣程度だと狩る事が厳しい魔物なんです。だから早い内にクラムシェルが現れる迷宮は敬遠される傾向にあります」
「なるほど」
三人からアイテムを受け取り、そのままボックスに投げ込む。詠唱破棄万歳。これが無かったら一旦鞄に詰め込んで、ボス部屋で入れるしかなかった。
「二十二層でクラムシェル、二十三層でグミスライムが出る迷宮は本当に討伐が進まないみたいですね。わざわざその為だけに防御貫通の付与された武器を用意するベテランの方も居ると聞いた事があります」
「貴族なら魔法で対処出来ますが、一般的な探索者ならそうなるのも当然ですね。硬すぎて稼ぎも下がってしまうでしょうし」
「ま、本当に嫌らしいのはグミスライムとクラムシェルの弱点が重ならない事だけどな」
グミスライムは何故か土だけ弱点では無く、クラムシェルは土しか弱点じゃない。共通だったら土の属性剣が活躍出来たんだが。
「言われてみれば確かにそうですね。そうなると魔法使いが居るパーティーでも楽にはなりませんか」
「ああ。しかも二十四層がドライブドラゴンだったら地獄でしかねぇ。防御貫通と雷魔法で攻める以外に楽な方法が存在してないからな」
タルタートルでもキツいが、あっちは土属性が弱点だからまだマシだと思う。
「私達も何時の日か引く事もあるのでしょうが……出来れば遠慮したいですね」
「まったくだ」
メローの言葉に憂鬱になりながら同意する。貴族になる前なら避けられるが、貴族になった後は逃げる訳にはいかないのが辛いところだ。
「──この先に敵です。構成は貝が三匹とサラセニアだと思います」
サギニの報告と共に意識を戦闘に切り替える。グロリアが視線で問い掛けてきたので軽く頷く。
「行きますね」
グロリアが先頭を駆け、メロー達が続く。一番右にサラセニア、その横に二体クラムシェル、一列奥に残りの一体か。面倒な。
「ハァッ!」
グロリアが力任せに中央の貝を吹き飛ばし、無理矢理奥に居たクラムシェルの下へ辿り着く。
メローは前列に余った一体に金砕棒を叩き付け、サギニはサラセニアに切り掛かった。
「あ」
「サギニさんはグロリアさんの方へどうぞ」
「わ、分かりました」
一撃目で石化とはツイてるな。
そんな事を考えながらサンドボールをメローの抱えるクラムシェルに放つ。ファイヤーストームは無しだ。MP回復したいし。
クールタイム経過と共にサンドボールを発射。楽だが、個人的には斬りながら魔法を使いたい。後衛は性に合わないのだ。聖剣を本気で探すか迷うぜ。
「……やはり二体では避けられませんね。どうしても防いでしまいます」
「私なんて一体でもキツいです。ドワーフの
グロリア達がその様な会話を交わしている内にサギニが二体目を石化させた。
「サギニさんはそのまま私の貝でお願いします」
「分かりました」
ここまでくれば後は消化試合だ。メローの抱えるクラムシェルにサンドボールを放ってアイテムに変え、そのまま全員でグロリアの抱えるクラムシェルを袋叩きにする。
アイテムに変えたら全体回復を二度ほど使い、デュランダルを抜いてサラセニアを叩く。──そのタイミングでふと思い付いた。
「主様?どうなさいました?」
「いや、せっかくだし附子を滋養丸に変えてから狩ろうと思ってな」
「なるほど。合理的ですね」
「サギニが石化してくれたお陰だ」
「えっと、頑張りました?」
サギニの言葉にほっこりしながら附子を取り出し、パパッと滋養丸に変える。そしてサラセニアにトドメ。
『『『あ』』』
附子
「ツボ式か。また使い道に悩む方が出たな」
「贅沢を言えば貝のカードの方が欲しかったですね。魔法ダメージ削減を付けられますし」*1
「サギニのエストックに突っ込むか?毒か麻痺を諦める事になるが」
「盾に付けて殴っても大丈夫ですよ?滅多にやらない方法ですが、出来なくはないです」*2
メローの言葉に思わず言葉を失う。そういやそんな仕様もあったな。すっかり忘れてた。
「って事は、サギニの盾に状態異常を付けるのもアリか?」
「いえ、状態異常は耐性の方になった筈です。基本的に
「そっか。それは残念だ」
本当に残念だ。サギニが疑似二刀流になるかと思ったのに。
◇
ボス部屋に続く道が分かっているという事もあり、午後だけで十六層まで辿り着けた。
間の魔物は十四層がフライトラップ、十五層がケトルマーメイド。
ケトルマーメイドはすでに戦った経験があるので省略するとして、フライトラップの説明をしよう。
サラセニアがウツボ頭の植物だとしたら、フライトラップは頭がハサミの形になっている食虫植物だ。凶悪なハエトリグサと言えば分かりやすいかね?
攻撃方法は主に噛み付き。消化液による遠距離攻撃が消えた代わりに火力が上がり、グロリアが鉄の剣で受けた時には火花が散った。お前は本当に植物なのか?
ボスはアニマルトラップ。より巨大化したハエトリグサで、人間二人ぐらいなら飲み込めそうなハサミを持っている食虫植物だ。
ドロップ品は陳皮。みかんやマンダリンなんかの果皮を乾燥させた漢方や入浴剤の一種で、生薬生成を使うとMPを回復する強壮剤が三つ作れる俺の強い味方だ。
この機会に大量に用意したかったが、残念ながら他の冒険者達が周回しており、一戦だけした後は諦めて十五層へ向かったので入れ換え出来ていない。明日の朝にでも狙うかね?
そして俺達にとっては初となる十六層。
その記念すべき最初の相手は──
「ハットバットか」
推定、硝酸をドロップすると思われる鏡の素材──じゃなかった。風弱点の魔物だった。
「考えうる中で一番の最悪を引いたな」
「そうなんですか?」
「ハットバット、ケトルマーメイド、フライトラップの組み合わせは敵の弱点が全て違うんだ。だから
説明しながら遊び人の枠をブリーズストームに切り替え、ついでに経験値十分の一を削ってフラガラッハを取り出す。
「グロリア。この階層はこれを使え」
「よろしいのですか?」
「火力が足りないんだ。俺はコウモリを優先的に狙うつもりだからハサミと人魚は任せた」
「分かりました」
ちなみにフラガラッハはデュランダルからMP吸収を抜いたスキル構成となっている。
攻撃力は不明。攻撃力五倍が付いているので、少なくともオリハルコンの剣以上の火力はあると思う。
「よし、それじゃ気合い入れて行くか」
『『『はいッ!』』』
これで不足を感じたら奴隷探しだな。