「────居ました。ハットバット四体編成です」
先頭を歩いていたサギニが立ち止まり、報告を上げる。
「たぶん頭上を飛び越えてくるが、無理に追わないで自分の獲物に集中してくれ」
「追わなくてよろしいのですか?」
「一体ぐらいなら引き受けられるし、残りに群がられる方がキツいんだ」
俺は英雄持ちだが
「分かりました。さっさと片付けて駆けつけますね」
「頼んだ」
という訳で戦闘開始。何時も通りグロリアが突っ込み、メロー達が続く──
「御主人様!」
メローが叫ぶのとほぼ同時。四匹のハットバットの内、二匹が高く飛び上がって俺の方へ向かってくる。
「これは予想してなかったな」
感心しながらブリーズストームを二発放つが、コウモリは多少揺れるだけにとどまり、勢いそのまま急降下突撃して来た。
「だが甘い」
ハイキックでコウモリの側面を蹴り飛ばし、オーバーホエルミングを発動。目の前で噛み付こうとしている二体目を躱し、グロリア達の方へ走る。
「んー……」
オーバーホエルミングは要らなかったな。
二巡目のブリーズストームを発動。原作だとひもろぎのロッドとアルバの組み合わせで必要な魔法数は五。
俺はひもろぎのスタッフなので装備的には対等な筈だ。つまり、次でコウモリは落とせる。
クールタイムを待ってる間に二体のコウモリが復帰した。だが俺の下へ辿り着く前にグロリアが担当していたコウモリを仕留め、俺の前に立つ。
「任せた」
「任されました」
グロリアが左手に持ち変えたダマスカスの剣で噛み付きを受け止めた瞬間、五発目のブリーズストームを発動。
それがトドメとなり、メロー達が戦っていたコウモリも含めて全てアイテムに変わった。
これは予想してなかった。いや、納得のドロップではあるんだが。
だが同時に使うとアンモニアガスが発生する肥料の組み合わせもあるので、間違っても素人知識でやってはいけない。
というか化学薬品は基本的にネットで調べながら自宅で扱う物じゃない。せめて教師や知識のある人間の監督下で、実験室か理科室を使え。実験後の処理も簡単じゃないしな。
アイテムとしての使い道は、この世界でも地球と変わらず肥料だと思う。たぶん農夫ギルド辺りの管轄だろう。
農夫は原作だとスキル無しの職業だったが、この世界では塩安を始めとする各種肥料を上手く使える
適切に肥料を使えるジョブ、と書くと、途端に神職に見える不思議よ。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ」
一発も食らってないしな。
「申し訳ございません御主人様。本来なら私が止めなければならなかったのですが……」
深々と頭を下げるメローに対して首を軽く横に振る。
「いや、これは俺のミスだ。メロー、十九層まで槍を使え。金砕棒だと相性悪いだろ」
「……はい。まさか背の低さが仇になるとは思いませんでした」
高く飛び上がったコウモリ相手にメローが手も足も出なかったのは誤算だった。
グロリアが普通に叩き落としていたから勘違いしていたが、この世界はゲームでは無い。幾ら力が強くとも身長が低いドワーフでは、武器の長さ次第で届かない敵が居ても当然なのだ。
その
「あの、金砕棒はどうすればよろしいですか?」
「お前のアイテムボックスで良いぞ?」
「えっと、スキルが二つも付いた装備なのですが……」
「この程度でお前が盗賊になる事を選ぶなら、俺の見る目が無かったで終わる話だ」
確かに失ったら痛いが、別に取り返せない訳でも無い。これが聖槍だったら管理を厳重にしたかも知れんが。
「それより先へ進むぞ。サギニ、上へ行く前に混成編成と何度か戦いたい。案内してくれ」
「かしこまりました」
さて、ここからが本番だな。
◇
混成編成は想定していたより楽だったが、それでも苦労しなかったと言えば嘘になる。
ブリーズストームを五発放った後に弱点魔法を追加で二発撃たないと敵が沈まないのだ。
その分だけMP回復が必要になる訳で、サギニの石化が追い付かず、何度か強壮丸を飲む羽目に。
途中からフラガラッハを持ってるグロリアに任せる事にしたけどな!正直、気付くのが遅すぎた。
しかも、俺のミスは
ボス部屋前で三人に『パットバット』の説明をしている最中に思い出したのだが、ハットバットは弱点が三つあった事をすっかり忘れていた。
水の方はクラムシェルにもフライトラップにも耐性があるので駄目だが、土ならクラムシェルとコウモリを纏めて落とせたのだ。それに気付いたのが本日の締めとして挑むボスの待機場なのだから、今日の俺は本当に呆けていた。
「えっと、主様も人間ですからこういう日もあると思います」
「そうですね。それに私達全員が忘れていたので御主人様だけの責任ではありません。私達全員のミスだと思います」
「あの、別に苦戦した訳ではありませんし、何が問題だったのでしょうか?戦闘時間が長いと言っても昔の御主人様と比べたら全然短いですよ?」
三人に慰められたら落ち込んだままではいられない。大きく息を吸って、吐き出し、気持ちを切り替える。
「ありがとな。それじゃボス戦を始めるか」
『『『はい!』』』
扉が閉じられ、靄が集う。現れたのは──二回りほど大きくなったコウモリ。噛み付きに麻痺効果があり、積極的に後衛を狙う面倒な敵だ。
随伴として現れた雑魚はロートルトロール。風耐性持ちの火弱点の魔物だ。
今日は本当に運が無いらしい。遊び人枠をサンドストームに切り替えてなかったら面倒な事になっていた。
「グロリア。ボスが俺の方へ来たら雑魚を優先しろ」
「かしこまりました」
指示を出しながら
突入前にキャラクター再設定を弄っておいたので、今のグロリアはフラガラッハでは無くデュランダルを握っている。
火力という意味では最大戦力であり、わざわざ俺の方まで走らせるぐらいなら雑魚に回した方が効率的なのだ。
ただ、こういう時に限ってボスは動かない。グロリアと正面から殴りあってらぁ。
二巡目もテンプレ行動。一巡目との違いは、状態異常耐性ダウンを雑魚では無くボスに使う事ぐらいだ。
そこで、敵の動きに違和感を感じた。自分の動きを極限まで簡略化してるが故に、それ以外に
「メロー!ボスに注意!」
「…………ッ!?」
今までグロリアと殴りあっていたパットバットが突如としてメローへ襲い掛かる。──回避は無理か!
「……ぁ……ぐぅ……」
運悪く麻痺を引き、崩れ落ちるメロー。トロールはサギニが被弾覚悟でメローとの間に割り込んだので問題無い。
「グロリアはサギニの援護ッ!俺はメローを回収する!」
「「了解です!」」
オーバーホエルミングを発動してメローを引っ張り、水筒の水を含んで抗麻痺丸を口移し。色気より人命救助感が強くてラブコメ的な波動は一切出ない。当然か。
「…………ぅっ!す、すいません。油断しました」
「動けそうか?」
「問題ありません。復帰しますね」
麻痺が治ったメローがすぐにロートルトロールの下へ向かうが、今までのダメージとデュランダルの一撃でロートルトロールが沈んだ。残るはボスのみか。──そのタイミングでグロリアが叫ぶ。
「主様ッ!」
先程と同じように突如として動きを変え、空高く飛び上がるパットバット。狙いは──俺か。
動きは散々見れた。回避は出来る。避けた後に魔法を叩き込めば良いか──
「ていっ」
壁を蹴って飛び上がったサギニが気の抜けた声でパットバットに斬りかかる。そして発動する石化添加。
「……何というか最後まで締まらんな」
「こんな日もありますよ」
「?」
グロリア達と顔を見合わせ、苦笑いを浮かべると、その光景を見たサギニが不思議そうに首を捻る。
もう今日はこういう日だったと割り切るとしよう。サギニの顔を見て、そう決めた。
ちなみにドロップは