──春の季節 五十三日目
「お、来たな!」
こちらに大きく手を振り、嬉しそうに近寄ってくる監督役の男に違和感を覚える。……そうか、何時ものラフな格好とは違い、装備を身に付けているからそう感じたのか。
「ついに出撃するのか?」
「おう。で、代わりの監督役を紹介しておこうかと思ってな。──コイツだ」
「自分は──と言います。帝都の騎士団所属の探索者です」
「赤城光だ。よろしく頼む」
良く手入れがされている竜革装備を着た探索者の男と握手を交わすと、そのタイミングで元監督役の男も名乗った。
「お、ようやく名前が聞けたな。ミツル、俺はレッジ・サウスフォレスト・アンレッジ。これでも男爵だ」
「よろしく、レッジ。いや、レッジ男爵の方が良いか?」
「いらんいらん。嫁と子供は貴族だが、俺は法服貴族だぜ?堅苦しいのは性に合わん」
「そうか。それならレッジと呼ばせて貰おうか」
「おう、それで良い」
ようやく公の場で名前を聞けたレッジと握手を交わす。
レッジ男爵 レッジ・サウスフォレスト・アンレッジ ♂38歳
冒険者Lv16
装備 激情のオリハルコンの剣 耐痺のダマスカスヘルム 頑強のダマスカスメイル 耐毒のダマスカス鋼のガントレット 駿馬のダマスカス鋼のデミグリーヴ 身代わりのミサンガ
強い。他の仲間も似たような装備だし、迷宮攻略者という事を疑いようが無い。
たぶん攻略時はレベル50の探索者だったのかね? 仲間に魔導師も居るし、装備的に貴族となった後に転職して鍛え直し中といった所か。
「あ、そうだ。ミツル、スキル合成を頼めないか?もちろん御礼はするぞ」
「ん?見た感じ不要じゃないか?立派なダマスカス装備に見えるが」
「俺はな。ただ仲間の装備が復旧中なんだわ」
その言葉で仲間達の方へ視線を向けて鑑定。……ああ、なるほど。ボスに仲間の装備を壊されまくったのか。
「カードはあるのか?」
「おう。伝を使って用意しておいた。頼めるか?」
「ああ──と言いたいところだが、装備の質次第だな」
「装備の質?」
「パラーで隻眼と仲良くなってな?その時に教わったんだ。武具を作った時に出来の良し悪しが分かるってな」
嘘は言ってない。メローの祖父との雑談で、その話を確かに聞いた事がある。
鑑定との違いは生成時にしか分からないという事と、発動するかどうかは長年の経験がものを言うとの事だった。つまり、レベル依存で発動率が上がるのだろう。
「んん?どういう事だ?」
「スキル付与が出来そうな高級装備は友人や領地の貴族に献上しちまってるって事だよ。鍛冶師の作品ならスキルを付与出来る品も出回るが、隻眼じゃないと作れない品は基本的には望み薄らしい。迷宮攻略の為に本人達も使うしな」
「……なるほど。言われてみればそれもそうか」
納得半分、怒りも半分ってところか。まぁ、高い金出して買った品がスキル付与出来ない品の可能性が高い事を考えると、そう思う気持ちは良く分かる。──だが。
「ドワーフを恨むのは筋違いだぞ?本人達は迷宮攻略の為に使い潰すつもりで取っておいた装備を商人が欲しがっただけだからな。恨むなら隻眼を金儲けの道具としてしか見てない商人を恨め。それに……」
「それに?」
「ドワーフは装備を壊しながら殴り合う攻略が主流だそうだ。*1一戦でどれくらいのオリハルコンやダマスカス装備を壊してるんだろうな?」
「……どの貴族も苦労してる事は変わらないって事か」
「魔法使いが居ようが居まいが迷宮攻略はしなくてはならない。そうじゃないと人類は簡単に生存圏を失う。貴族の辛いところだ」
「違いねぇ」
原作でのセリーの言動から、国家間の仲は良くても種族単位の確執がある事は間違いない。
竜人族と仲が悪い種族。人狼族と仲が悪い種族。俺のような普人族なら集められるが、ハルツ公爵領の様に種族単位で動く貴族も多いのだろう。
そうなると、ただでさえキツい迷宮攻略の難易度はさらに跳ね上がる。
三種の神器が欠けるのだ。そりゃ帝国解放会なんて名前の組織が出来る訳だよ。せめて上の方だけでも確執無しに動けないと、どう考えても人類に未来が無い。
「で、どうする?やるなら自宅に招くが」
「頼めるか?スキル合成を受けてくれる鍛冶師を探すのも大変だし、せっかくの機会だ。やっておきたい」
「了解。それじゃ先に案内だけするわ。ついてきてくれ」
レッジの仲間の装備の鑑定は終わっている。どれに付与出来て、どれに出来ないのか。全て把握済みだ。
買い換えるかどうかは彼ら自身が判断するだろう。迷宮ボス相手に使い捨てにする可能性の方が高いと思うが。
◇
自宅前まで案内した後に一度解散し、私服に着替えてから改めてレッジ達を家に招く。残念ながら我が家に椅子は六個しかないので、俺達は立っている。
「仲良くなった隻眼に教わった方法で良けりゃ俺が良品かどうか見極めるがどうする?自分達の運を信じるか?」
「いや、お願いする。どうせ賭けるなら友人にするさ」
「了解。それじゃ見せてくれ」
「おう」
レッジがボックスからメインに使ってる装備と、予備の装備と思われる多種多様な武具を取り出していく。そして最後に十枚程のカードを取り出し、机の上に置いた。
「どうだ?」
「んー……」
スキル 空き
スキル 空き 空き
スキル 空き 空き
スキル 空き 空き
スキル 空き
スキル 空き
スキル 空き 空き
「この七個なら行けそうだぞ」
「それ以外は?」
「売るか迷宮ボスにでも使うと良い」
品自体はダマスカスや鋼鉄クラスだしな。スキルを付与出来ないだけで、悪い品じゃない。使い道は無数にあるだろう。
「悩ましいな。少し仲間と相談しても良いか?」
「おう。カードの種類によっちゃトレードも受け付けるぞ」
「助かるぜ」
グロリアが人数分の御茶を配った後、そのまま実験室へ移動。話すのは今後の流れについてだ。
「メロー。合成する時は出来るだけ動揺を見せずに頼む。それを交渉のカードに使いたい」
「かしこまりました。何処まで出来るか分かりませんが、尽力します」
メローに一度頷き、視線をグロリア達に移す。
「グロリア達には昼食の買い出しを頼みたい。簡単な物で良いぞ」
「それならプッタネスカの材料を買っておきます。あれならすぐに出来上がりますから」
「頼んだ。出来るだけ何時もの通りの時間に終えるつもりだが、探索状況によっては昼過ぎまでずれ込むかも知れん。各自それだけは覚悟しておいてくれ」
『『『かしこまりました』』』
リアクションが顔と尻尾に出るサギニを外に出しておけば、メローの演技に気付かれる心配は無いだろう。
上手く行ってくれると嬉しいんだが。
◇
話し合いを終えてから少し経った頃。レッジが俺達を探しに来たのでメローと二人で居間に戻った。
「あれ?残りの二人はどうした?」
「買い出しを頼んだんだ。今日は探索時間がずれそうだからな」
「すまんな」
神妙な顔で頭を下げるレッジに軽く手を振って問題無い事を示す。
「それより決まったか?」
「ああ。まずは竜革の鎧にコボルトとスライムをお願いしたい」
「了解」
視線でメローに合図を出し、机の上にある竜革のジャケットとカード二枚を合成させる。
「行きます。今ぞ来ませる
スキル 物理ダメージ削減
一瞬だけ居間を埋め尽くす光が放たれ、収まる頃には頑強の竜革のジャケットが机の上に鎮座する。メローは躊躇いの無さでベテラン感を演出したか。中々やるな。
「さて、レッジ。これ持って防具屋に行ってこい。親しい仲でも確認は大事だからな」
「了解。ちょっと出てくるぜ」
レッジがジャケットを持って玄関に向かう。その間にこちらはこちらで話を進めておく。
「次はどれだ?」
「え、レッジを待たないのか?」
俺の質問に疑問を返したのは狼人族の百獣王だ。中々のイケメンフェイスだが、女癖も悪そうだ。
「メローが合成した以上、頑強の竜革のジャケットになってるからな。わざわざ待つ意味がこちらには無い」
「凄い自信だな。それならウサギとコボルトの組み合わせをロングソードで頼めるか?元々持ってたんだが壊されちまってな」
「あいよ。強権だな」
ロングソードとカード二枚をメローの手元に寄せ、詠唱したらピカッと光って完成だ。
スキル 詠唱中断
「武器屋まで走るか?こっちは構わないぞ」
「いや、ここまで来たら後で纏めてやるさ」
「じゃ、次が最後の合成だな」
「カードはまだまだあるが?」
「コボルト抜きは勿体無くないか?俺達は別に構わないが」
「……言われてみれば確かにそうだな。それじゃコボルトとハサミ式食虫植物の組み合わせでダマスカスステッキを頼む」
「了解」
三回目になると、レッジの仲間達にも驚きは無い。そして完成したのがこちら。
スキル MP吸収 空き
「まさかこんなあっさり作れるとは……」
「パラーには多少無茶しても一度訪れた方が良いぞ。安定してダマスカスクラスの装備が出回ってるし、隻眼に顔を覚えてもらえれば今回のようなスキルを入れられる武具が手に入りやすくなる。貴族なら尚更顔を繋いでおいた方が良い」
「レッジにはそう伝えておくよ。ところで代金はどうすれば良い?」
来たか。交渉フェイズ。
「今回はタダで良い。だが次からは一回コボルト一枚だ」
「普通の探索者なら高過ぎると文句を言うのだろうが……成功率を考えるとむしろ安いか。カードで求めるのは有象無象対策か?」
「ああ。俺は貴族を目指してるんだ。だからこれを仕事にするつもりは無いんだよ」
「成る程。確かにあんたならいずれ貴族になれそうだ」
「踏破経験のある探索者にそう言って貰えるのは自信になるぜ」
百獣王の男とそのような会話をしていると、玄関のドアベルがリンリン鳴らされた。メローが一旦席を外し、玄関に向かう。それからすぐにレッジを伴って戻ってきた。
「ミツル!確かに頑強の竜革のジャケットになってたぜ!ありがとな!」
「あいよ。それよりまだ何かあるか?特に用が無いなら迷宮に向かうんだが」
「ちょ、俺抜きで合成しちゃったのか!?俺も見たかったのに!!」
「まぁ、死ななきゃ見る機会は幾らでもあるだろ」
「そりゃそうだか……」
不服そうなレッジを見かねて仲間が声を掛ける。
「レッジ。あんまり我儘言うもんじゃないぞ。俺達は彼らの迷宮探索の時間を奪ってんだからな」
「あ~……それもそうだな。分かった、さっさと片付けて俺達も迷宮に行くか──っと、報酬はどうすれば良い?」
「今回は要らん。次回以降の報酬は仲間に伝えておいた。後で聞いてくれ」
「了解、了解。ただ俺も貴族なんでな。これだけは受け取ってくれ」
レッジが机に置いたのは亀のカード。体力二倍を付けられる欲しかったカードの内の一枚だ。
「良いのか?」
「感謝の気持ちも大切だが、友人付き合いを長く続ける為には実利もないとな」
「それじゃありがたく」
「おう!それじゃ失礼するぜ!」
玄関までついていき、そこでレッジ達を見送る。その後は一旦、居間に戻って軽く休憩。
上を目指すには微妙な時間になったな。幸いな事に十七層は土弱点で揃うし、狩りに切り替えるかねぇ。
◇