勝ち組男の異世界迷宮で奴隷ハーレム   作:Lilyala

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マダムバタフライ

 

 

「なんだかんだ何時もと変わらないぐらい時間を食ったな」

 

「多少の寄り道もしましたが、それ以上にボス部屋の位置が悪すぎましたね」

 

 

 待機部屋に辿り着いたのは、いつもと同じぐらいアイテムボックスを埋めた頃だった。

 

 俺達以外の人影は見えず、挑戦者を求めてボス部屋へと続く門も開きっぱなし。マダムバタフライは飛行型で麻痺持ちだし、一般的な探索者からは敬遠されてるのかね?もしくはドロップ品に価値を見出だされていないか。

 

 人目が無い事を良いことに堂々とウォーターウォールを発動して水分補給。冷たさを感じるが冷え過ぎてもいない水は喉をするすると滑り落ち、道中で蓄積された疲れを癒してくれる。

 

 こういう何気無い時間にも魔法使いの有無の差が出ている辺り、白金貨の価値は伊達じゃないな。

 

 普通の探索者がリュックに詰め込む水の量は多く、ついでに言えばどうしても生温くなる。水筒の質次第で革の匂いが水に移り、慣れていないと吐き気を感じる奴も居るだろう。

 

 魔法使いが居なければ、そんな重荷を背負いながら探索しなければならない。ただでさえ命の取り合いによる緊張から体力を多く消費するのに、余計な負荷まで掛かっている訳だ。そら、金で解決出来るならしたいわな。

 

 上手く想像できないなら2Lの水を担いで時代劇の動きを真似てみると良い。運動不足の現代人ならその辛さをすぐに実感出来るぞ。俺はやりたくないが。

 

 

「迷宮は上に行くほど広くなりますし、いずれ二、三日探索する事も覚悟しなければなりませんか」

 

「ま、それが探索者をパーティから抜けない理由の一つだからな」

 

 

 同時に仲間の為に冒険者になる事を諦める奴が多いからこそ、探索者ギルドは存続出来ている。

 

 そうでなければ冒険者ギルドの下部組織化待ったなしだ。わざわざ性能の低い探索者で居る必要は無く、さっさと転職した方が探索者ギルド以外は幸せになれるのだから。

 

 

「主様の考えを聞けば聞くほど迷宮探索には自由がありませんね」

 

「一応、枠を圧縮出来るジョブはあるにはあるぞ。俺の様な力を持つ人間か、貴族の嫡子の様な立場がなければ難しいと思うが」

 

「それって伝説の遊び人の事ですか?」

 

「メローは知ってたか」

 

「はい。遊び人皇太子の話は貴族の中では有名ですから」

 

 

 まぁ、廃嫡(はいちゃく)されて歴代最低と言われてたぐらいだし、知っていて当然か。

 

 

「遊び人の転職条件は暗殺者より厳しくてな。普通に生きていたらまず条件を満たせない。俺は最短で満たしたが、それでも苦労したぞ」

 

「御主人様でもですか?」

 

「次々とジョブを変えつつ、戦士が騎士になれるぐらい経験を積む必要があるんだよ」

 

「そ、それはまた凄い条件ですね」

 

 

 メローが引くのも無理ないが事実だ。それぐらい遊び人は条件を満たす事が難しい。

 

 

「ついでに言っておくと、遊び人皇太子は間違いなく俺よりキツかった筈だ。それでも遊び人になれたと吹聴していたなら、たぶんこの世界の誰よりも努力家だったんじゃないか?」

 

 

 立場上、盗賊が取れなかったと考えると博徒も含めて二ジョブ分の不足が出る。

 

 その分を埋める為には下位職を上げて中位職を狙うしかなく、遊び人になれたと吹聴していたなら間違いなく上げている。

 

 一つは冒険者で確定として、もう一つは皇太子という立場から魔導師辺りかね?雷魔法をセットして魔法剣士的な動きが出来るし、流石にワープほど便利では無いが探索者と冒険者枠を自分でカバー出来る様になる。

 

 廃嫡された理由も考えようと思えば幾らでも思い付く。例えば、惚れた女が平民で自ら地位を捨てたとか。

 

 

「ま、伝承が残ってない以上、何処まで行っても妄想の域を越えん。それよりそろそろ休憩を切り上げてボスに挑むぞ。今日は本縫いの日だからな」

 

「そういえばそうでしたね。急がないと汗を流す時間が無くなりそうです」

 

「昼食の時間を削れば──いえ、なんでもありません」

 

 

 悲しそうなサギニの表情を見て、慌ててメローが発言を撤回する。

 

 そんなに食べたいのか。蜂蜜ビスケット。

 

 

 

 

 十九層のボス『マダムバタフライ』は蠱惑的な瞳が翅に描かれている大きな()だ。

 

 いや、バタフライなのに何で蛾?と思うかも知れないが、日本が蝶と蛾を細かく分けているだけで、世界的には蛾も蝶も同じ言葉が名付けられている国も多かったりする。

 

 例えばフランスでは蝶も蛾も纏めて『パピヨン』と呼ばれている。日本的なニュアンスで伝えたいなら papillon de jour() や papillon de nuit() と伝える必要がある訳だ。

 

 わざわざこんな事をしなくても普通は伝わるし、通じるが、AI相手だとここらへんの違いを念頭に入れて指示をしないと()()()()を引き起こす事があるので、覚えておくと役立つ日もあるかも知れない。

 

 まぁ、中世の剣と魔法の世界にいる俺には関係無い話か。

 

 そんな事を考えている内に戦闘開始。湧いた雑魚は──ハットバットか。

 

 取り敢えず昨日の教訓を生かして移動開始。メローとサギニが相手をする方とは逆に陣取り、ブリーズストーム二連発から状態異常耐性ダウンを使う。

 

 

「ハットバットは抑えるだけで良いぞ。石化させてくれれば最高だけどな」

 

「「はいっ!」」

 

 

 金砕棒のままのメローの攻撃は空振りが目立つが、コウモリが飛ぼうとする度にサギニが壁蹴りからの攻撃で叩き落とすので、少なくともこちらに来る事は無いだろう。

 

 そう判断してグロリアの抱えるマダムバタフライに集中。二巡目の魔法に入る。

 

 うーん、楽だ。正直、ボスより雑魚の方がキツイ──

 

 

「…………ぁ」

 

「メロー!グロリアのフォロー!ボスは俺が引き受ける!サギニはコウモリを逃がすな!」

 

「「はいッ!」」

 

 

 即座に指示を飛ばし、マダムバタフライに駆け寄る。

 

 いつか来るとは思っていたが、やはり盾一枚だと麻痺った時に忙しくなるな!

 

 遠目からある程度の動きは把握していたが、いざこの距離まで近寄ると口吻(こうふん)*1を使ったレイピアの如き突きの連続がキツイ。

 

 ついでに羽ばたく度に舞い散る鱗粉がウゼェ。これ、絶対麻痺効果付きだろう。

 

 余りにも邪魔だったので、遊び人枠でブリーズストームを放ち、魔法使い枠でブリーズウォールを展開する。

 

 そよ風(ブリーズ)という頼りない名前の割に、しっかり鱗粉を吹き飛ばしてくれるお陰で息を吸う時間が出来た──

 

 

「サギニ!離れろ!」

 

 

 叫ぶと同時にオーバーホエルミングを発動して大きく距離を取る。その効果が切れると同時にばら蒔かれる黄色の鱗粉。

 

 このまま近寄って吸い込むのも馬鹿らしいので、ブリーズストームを放った後、ブリーズボールで鱗粉を吹き飛ばす。

 

 

「申し訳ございません!復帰しました!」

 

「おう!また前を任せるぞ!」

 

「はいっ!!」

 

 

 復帰したグロリアを前に置き、再び戦闘再開。雑に放っていた全体魔法に巻き込まれ、知らぬ間にハットバットも落ちていたらしくメロー達も合流してきた。

 

 ここまで来れば後は消化試合だ。

 

 定期的にブリーズウォールを張る作業を交えながらストームを放っていると、グロリアがデュランダルを振り下ろしてトドメを刺した。

 

 

カカオ豆

 

 

 チョコの素材、ゲットだぜ。周回する気にはなれんが。

 

 

「早いとこ灌木のカードが欲しいな。敵が強いというより対処の為の手が足りん」

 

 

 ドロップ品を拾いながらマダムバタフライ戦の感想を愚痴る。いや、思わず出てしまっただけなんだが。

 

 

「す、すいませ──」

 

「謝るなグロリア。お前は別に悪手を打った訳じゃない。単純に準備不足の影響が出ただけだ」

 

「そうですね。油断して敵の攻撃を食らった訳でも無いですし」

 

 

 口吻の突きは剣で受けていたのだ。その上で麻痺ったのは、敵が動く度にばら蒔いていた鱗粉が原因としか思えない。

 

 俺が近寄るまで見えなかったぐらい細かい粉を避けられるのはロクサーヌさんだけだ。流石にそれを求めないだけの常識が俺にはある。

 

 

「可笑しな話ですが、私達にとっては魔法を放つ魔物の方がまだ楽かも知れません」

 

「だな。残るはロートルトロールとラブシュラブとマーブリームだけだし、さっさと上に行くか」

 

 

 状態異常だけは本当にどうにもならんしな。せめて巫女か僧侶に状態異常を回復出来るスキルがあれば……いや、これは無いものねだりか。

 

 

*1
蝶が花の蜜を吸う為の器官。

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