──春の季節 五十六日目。
「おっす……?あれ、あの娘達はどうした?」
「あー……んー……ま、レッジなら良いか」
「おう?」
「頼んでいた新商品が届いてな?着せてみたら久々に抑えられなくてダウンさせちまった」
「ぶはっ!!!ちょ、マジか!!お前でもそんな事するのかっ!」
周囲の目を気にせず大笑いするリッジ。そのせいで周囲の視線を集まり始めたので、即座に思考を切り替え、有効活用する事に決めた。
「お前も嫁さん連れて帝都の────って服屋に行ってみろよ。俺の名前を出せば色々便宜を図ってくれるだろうしな」
「……そんなに凄いのか?」
「女性なら探索面でも恩恵がある。というか
「へぇ。ミツルがそう断言するって事は効果ありか。一度行ってみるかねぇ」
よしよし、釣れた釣れた。これなら聞き耳立ててる周りの奴らも向かうだろう。
何せ
それこそ無名の俺の宣伝を聞いて、一度向かってみようと思うぐらいには、な?
「あ。ってことは今日ヒマなのか?」
「おう。一人でコボルトのカードを漁る予定だったぐらいには暇だぞ」
「それなら俺達と冒険しようぜ!」
グッ!と親指を立てながら良い笑顔を俺に向けるレッジ。その姿を仲間達が苦笑いを浮かべながら見守っている。
「俺は構わんが、お前のところはフルメンバーだろ?俺の入る枠が無くないか?」
「そこは大丈夫だ。うちの探索者は入り口で案内人だからな!」
視線を入り口へ向けると、こちらに気付いたリッジの部下がこちらにグッドサインを向けてきた。
どうやら本当に問題ないらしい。
「真面目な話すると二十七層がスライムでな。探索者の手が足りんのよ。お前なら防御貫通の武器を持ってるだろうって事で、最初から手伝って貰うつもりだったんだが……」
「あー……そりゃすまん。前日に聞いていたなら我慢したんだが、休日だからはしゃぎすぎたわ」
「仕方ねぇよ。あんな別嬪さんに囲まれてたらな。それで、どうだ?」
「一度、家に帰らせてくれ。アイツらに置き手紙を残したい」
「おーけー。それじゃ準備できたら入り口前に集合な!」
「あいよ」
さて、ジョブはどうしようかね?
◇
一度帰宅して置き手紙を残し、再び迷宮の前へ。後は運搬役のパーティー編成を受諾して二十七層に飛ばして貰えば準備完了だ。
まさか初の第三ランクがグロリア達以外になるとはな。間違いなく数日前の俺に言っても信じないだろう。
「じゃ、軽く情報共有な。さっきも言ったが二十七層に現れる魔物はグミスライムだ。二十五層はシザーリザード、二十六層はタルタートルだったから、氷魔法の通りは良いぞ」
「そりゃ良い。楽できそうだ」
「この階層は、な」
「この階層は?」
レッジの言葉に首を捻っていると、面倒臭いという雰囲気を隠さないまま続きを口にする。
「この迷宮、まだ竜が未確認なんだわ」
「あー……つまり、スライムと竜が被る可能性があると」
「おう。ついでに言えば
「わーお」
最悪はスライム、鳥、竜の並び。これを引いたら普通の探索者じゃ無理だ。
魔法使いが居ても安心する事は不可能。前衛を無視する鳥や魔法耐性持ちの竜に止められる。
防御貫通持ちの前衛を求める訳だ。雷魔法持ちの魔導師を探すより現実的だし。
「ま、そんな訳でミツルには期待してる。ボスに対策装備を壊された俺達の代わりに頑張ってくれ」
「期待が重い」
俺の言葉を聞いて苦笑いを浮かべるレッジとその仲間達。ただ前言を撤回しないところを見るに、探索が滞っている事は本当らしい。
(……どう考えてもデュランダルを使うしかないな)
師匠の伝世の品という事にでもしておくか?ついでに遺品にしておけば深く突っ込まれない筈だ。
纏めると、こんな感じか。
師匠!貴方の剣は俺が世の為に役立てます!だから心配せず、安心して空の上から見守っていてください!
これは凄く理想的な愛弟子の鏡。──全部嘘という事を除けば、だが。
◇
「レッジ。まずは数が少ないところに行くか?」
二十七層に飛んですぐ。百獣王の男がレッジに確認を取った。
「だな。ミツルの動きを見てからにしよう」
「あいよ」
やはり狼人族を索敵役にする事はポピュラーな様で、何度か鼻を動かした後に先導を開始する。
「この先にスライム二体と亀だ」
「よし。ミツルはスライムを優先してくれ。他は何時も通りだ」
レッジに対する返事の声はバラバラだった。まぁ、探索者の一団なんてこんなもんだろう。
という訳で戦闘開始。共に走る前衛を
「オイオイ、お前ら負けてんじゃねーか!」
「おめーもだろ!」
百獣王と禰宜がスライムを相手取り、沙門とレッジがタルタートルと戦闘開始。
そのタイミングで女魔導師のアイスストームが着弾する。
「何発撃つ予定だ?」
「雑魚は二発だ」
「了解」
威力としては魔法使いと変わらないが、氷系魔法は二種属性持ちな事が利点だ。俺の補正もあるし、魔法に弱いと考えると、デュランダル四発入れておけば沈むか?
そんな事を考えながら伸びてきた葛餅の攻撃を受け流し、伸びきったところでデュランダルを振り下ろす。
これで二回目──とカウントを進めたところでタルタートルがスキルの発動兆候を見せたので、取り敢えず横から殴り、止めておく。
「おいおい!その剣、強権も付いてるのかよ!」
「HP吸収も付いてるぞ。師匠の伝世の品だからな」
「かぁ~!良い師匠だったみたいだな!」
「俺には勿体無いぐらいにな」
何せ俺の想像した最強の師匠だ。現実とは比べ物にならないぐらいハイスペックだぜ。
ふざけながら飛び付いてきたスライムを切り落とし、ついでに横を通って背後に回る。相手は不定系の魔物なので前後は関係ないが、タルタートルにはある。
スライムを相手しながら観察した感じだと、基本は噛み付きと頭突きだけだ。つまり、背後に回って損する事は無い。
一歩横に移動してスライムから伸びた
そこへアイスストームが着弾。まだ死なないか。
「ここからは魔法の援護は無しだ!お前ら気張れよ!」
『『『おう!』』』 「あいよ」
軽く返事を返しつつスライムを警戒していると、今度は
残念ながら止めは刺せず、代償として中々良いダメージを貰ってしまった。具体的には子供の全力体当たりを受け止めたぐらいの痛さだ。
「おい、大丈夫か!?」
「駄目だ。後三十発ぐらい食らったら死ぬ」
『『『余裕じゃねぇか!!』』』
「そら、これでもレベル44の探索者*1だしな」
ふざけている内にスライムへ今度こそ止めの一撃を振り下ろす。だが俺の予想に反して、スライムは未だにプルプル震えていた。
取り敢えず大きく飛び退き、補食モーション*2を躱す。そして反撃。
「お見事」
「気を付けてないとビビるよな、これ」
「それな!」
「魔法使い居ないと基本的に即死攻撃だしな」
最初の発言は黙々とタルタートルの攻撃を防ぎ続ける寡黙な沙門の男だ。次が俺、そして百獣王、最後にレッジ。
禰宜の男はスライムの攻撃を受け流していて喋る余裕は無いらしい。……うん?
「なんつーか不思議な編成だな。いや、馬鹿にしてる訳じゃ無いぞ?ただ禰宜と沙門が盾持って壁役やってる姿の違和感がな?」
「あー俺らにとっちゃこれが普通だが、他から見れば確かに違和感あるか」
レッジの話を聞きながらスライムへ剣を振り下ろすと、ようやくアイテムに変わった。魔法二発+デュランダル八発か。
第二ランクが弱点属性六回から八回と考えると、第三は十から十二ってところか。真面目に火力が足らなくなりそうだ。
「スライムと亀」
「スライムで」
「了解」
禰宜と百獣王のコンビと挟み込む様に位置取り、スライムへデュランダルを振り下ろす。ついでにもう一回。さらにもう一回。盾役が居ると楽で良いな!
さらにスキルの発動兆候を見せたタルタートルにも斬りかかると、そのままアイテムに変わる。後は全員でスライムを殴って戦闘終了。お疲れ様でした。