「やっぱ伝世の品はスゲーな!俺らだけならもっと掛かるぞ!」
「まぁ、信頼できない奴の前だと使えない武器だけどな」
「あ~確かに殺してでもって考える奴は多そうだよね。それ」
「スキル三つだもんなぁ~」
上からレッジ、俺、禰宜、百獣王の順だ。禰宜の男は物腰が低そうな優男で、何処と無く俺と同じ気配を感じる。
「それで?なんで回復役が盾役まで兼任してんだ?」
「俺とそこの駄犬以外は元々騎士団所属だったんだよ」
「駄犬言うなし!」
「いや、お前は駄犬だろ?」
何言ってるんだ?と心底不思議そうに首を捻るレッジに対し、百獣王の方は気まずそうに視線を逸らす。
本人に自覚ありって事は女に貢いだか、詐欺られでもしたか?外野が聞くのもアレだから深く突っ込まんが。
「で、故郷の領主様が迷宮討伐に失敗して無職になったところを誘ったんだ」
「合流した時にはすでに二人とも探索者と獣戦士として結果を出していたし、今は入り口で案内人やってるあの子は子供だったからさ。パーティー構成を考えると僕らが転職した方が丸く収まったんだんだよね」
「どちらかが騎士になろうとは考えなかったのか?」
「当然考えたよ?ただこの二人の動きを見て、その必要性を感じなかったんだ」
「というと?」
「我らも騎士団の若手の中では上澄みだったが、コヤツらは別格だったのだよ。何せ──
おいおい、野生の
「僕らも腕に自信はあったけど、彼らを見てサポートに回ろうって二人で話し合ってね?その結果、彼は貴族になって、僕らはお抱えの騎士の座まで登り詰めたって訳さ。我ながら慧眼だったと言えるね」
「確かに。ところで戦闘中に回復が必要な時はどうするんだ?」
そう尋ねると、禰宜と沙門の二人は顔を見合せ、はっきりと断言した。
「「二人に任せて思いっきり下がる」」
その言葉には嘘も誇張も何もない。つまり、彼らは本気でそう思っている。
「それで大丈夫なのか?」
「大丈夫というか、本来は彼らがメインなんだ。僕らは雑魚用なのさ」
「あー……なるほど。それなら確かに騎士は要らんな」
ロクサーヌさんと同等クラス──いや、少し下だとしても、二人も居れば盾役は不要になる。その分を火力に回さず、安全に割り振ったパーティーな訳だ。
そりゃ迷宮討伐出来るわ。迷宮ボスは一体しか現れないっぽいし。
「皆様。お喋りはそこまでにして、そろそろ先へ進みませんか?」
声を掛けてきたのはパーティーの紅一点、魔導師の女性だ。優しげな眼差しと気品のある立ち姿から見て、貴族である事は間違いないが……たぶん後見人となった貴族の出身では無いと思う。
もしそうならレッジ達は魔法使い抜きで迷宮を攻略したことになるからな。……いや、ロクサーヌさんクラスが二人も居れば行けるか?
「おっと、姫様に怒られちまった。それじゃ探索を再開するかね」
「レッジ、姫さんの紹介はしないで良いのか?」
「それは歩きながらでも出来るだろ」
「まぁ、それもそうか」
納得した百獣王が先頭に立ち、鼻を頼りに迷宮を進む。地図を見ながら指示を飛ばすのは禰宜の役目らしい。本当にサポート役として動いてるみたいだ。
「姫様は俺ら五人でクーラタルの三十層に到達した頃にフラっと現れて、自分から売り込んで来たんだよ。魔法使いは要りませんか?ってな」
「他にメンバーの補充はしなかったのか?五人で三十層なら売り込みも多かったと思うが」
「今のミツルと同じだ。何度か枠を埋めた事はあったが、どいつもこいつも本気で上を目指してない奴ばっかりだった。そんな奴等と上手くやっていける訳も無いだろ?」
「奴隷は?」
「そこの駄犬が猿になるからダメだった」
「あー……」
俺も人の事は言えんが、それ以上にのめり込んじまうのか。
「その点、姫様はお家復興の為に上を目指していたし、何より魔法使いだったからな。二つ返事で了承して今に至ってる訳だ」
「羨ましい限りだ。こちとら魔法使いが見付からなくて──」
「おっと、話の途中に悪いが敵さんだ。数五のスライム四にトカゲ一」
意識を戦闘用に切り替える。小指からゆっくり力を込めていき、デュランダルを握り直す。
「この量だと出し惜しみしない方が良いな。姫さん、全力で頼むわ」
「わかりました」
細かいやり取りはレッジに任せ、敵が見えた瞬間に駆け抜ける。スキル兆候を見せたのは二匹。一匹は俺が止めた。もう一匹は──間に合わないか。
身を撫でる様に火の粉が舞い、俺の身体を焼く。熱さは一瞬、沸かしたての浴槽に手を突っ込んだぐらいの痛みだ。つまり、余裕で耐えられる。
「回復いくよ!」
禰宜が詠唱に入った。全体回復とは違う、それより力強い呪文。数秒ほどで唱え終えると淡い光が空から降り注ぎ、先程の痛みを消してくれる。
「詠唱しますね」
今度は姫様が詠唱開始。それをBGMにしながら被弾覚悟で攻め続ける。
「おいおいミツル!大丈夫なのか!?」
「HP吸収も付いてるって言っただろ?」
「そうは言ってもなぁ……!」
痛みには耐えられる。吸収効果で直撃しなければ収支は黒字。つまり、何の問題も無い。
敵の
スキルと補食モーションに気を付ければ勝手に死ぬしな。
「どっちが良い?」
「止めは刺さないのか?」
「巻き込まれて勝手に死ぬぞ」
「そうか。ならスライム」
「了解」
担当のスライムに意識を割きつつ、次は沙門が抱えているスライムに連擊を叩き込む。その僅な間に二回目のアイスストームが発動し、俺の担当はアイテムに変わった。
そのタイミングで補食モーションが見えたので、沙門と共に距離を取る──事はせず、そのまま禰宜の抱えるスライムを強襲。今宵のデュランダルは血に餓えている……!
「今度はこっちきたんだ?」
「三回目で瀕死なんだよ」
「なるほど」
最低限の言葉を交わしてスライムへデュランダルを叩き込む。その途中でアイスストームが着弾した。……沙門の担当は未だ健在か。それなら止めを刺しておこう。
「無茶苦茶だな」
「これぐらい出来ないと師匠があの世から甦って俺を殺しにくるんだ」
「ふっ。良い師だった様だな?」
「まぁ、誇りに思うぐらいには」
沙門と軽く言葉を交わしつつ、行き掛けの駄賃として禰宜の抱えるスライムに止めを刺し、そのまま百獣王の元へ飛ぶ。そのタイミングでレッジから指示が出た。
「ミツル。トカゲは吸精用に使うから生かしておいてくれ」
「あいよ」
百獣王の抱えていたスライムは俺が辿り着いた時には瀕死だった。具体的には言えば二振りで沈んだ。
たぶん百獣王のクリティカルと防御無視の効果だろう。元々俺を別動隊として動かすつもりだったみたいだし、そら防御無視付きの武器を持ってる奴も居るわな。
「いやー、ミッチー居ると楽出来て良いわ」
「普段はどうしてるんだ?」
「レッジに二体抱えて貰って俺がスキル連打」
「あー……確かにそれが手っ取り早いか」
レイピアのビーストアタックですらデュランダルを越える火力が出るんだ。それを防御無視付きエストックで放てば大抵の敵は消し飛ぶだろう。
そんな会話を百獣王と交わしている内に、姫様が吸精のダマスカスステッキでトカゲを背後から殴り始めた。
「……何というか様になってるな?」
「迷宮ボスに壊されるまでは毎回やってたんだ。壊された後は望めど手に入らず、ミッチーと出会うまでは縁が無かった」
「なるほど」
やっぱり予備の装備は必須か。グロリア達は優秀だが、残念ながらロクサーヌさんクラスの実力は無い。
装備を壊される確率は俺も含めてレッジ達以上だと想定しておいた方が良い。
それから少しして吸精装備が禰宜の手に渡った。そして再び始まる餅つき。
回復を終えるまでの間、ずっと回避に専念していたレッジが恨めしそうにこちらを見ていたのは言うまでも無い。
◇