「おっす。待たせたか?」
「いや、大丈夫だ。というか駄犬が食い過ぎて動けないから少し時間をくれ。……頼んでる側なのにホントにすまねぇ」
「気にすんな。そもそも俺が原因だしな」
近くにあるベンチに腰掛け、今のうちにキャラクター設定を弄る。
経験値二十倍はレッジ達にも恩恵があるので外せない。逆にジョブ枠を削ってまで付けたデュランダルは、俺が想像していたより活躍しなかった。
魔法をガンガン使って振り回すならMP吸収のあるデュランダル一択なんだが、それ以外ならフラガラッハの方がコスト的に良い気がしている。
とはいえすでに伝世の品としてデュランダルを見せてしまった以上、今更フラガラッハに変える訳にもいかないんだよな。……それならそれで、
「レッジ。午後の探索なんだが武器を変えても構わないか?」
「そりゃ別に構わないが……何するつもりだ?」
「ここじゃ流石にな?」
周囲には、こちらに聞き耳を立てる探索者の姿がちらほら見える。流石にこの状況でネタバレは勘弁だ。
「……了解。聞かないでおくわ」
「ま、駄目だったら午前の武器に戻すから安心してくれ。置物になるつもりは無い」
「そりゃ安心だ」
リーダーの許可も降りたので設定を弄ろう。
絶対に外せないのは探索者と英雄と遊び人の三つ。本来なら魔法使いも外せない枠に入るが、レッジ達に付き合ってる間は使う機会も無いので封印しても構わない。
育成中の神官と薬草採取士も不要。戦士と剣士は悪くない。が、良くもない。
という訳で、俺が選んだジョブはこの五つだ。
探索者Lv45 英雄Lv40 遊び人Lv42
暗殺者Lv40 博徒Lv40
遊び人枠には料理人のレア食材ドロップ率アップを付けてある。バラであの美味さなのだ。三角バラを狙わずにはいられない。
「あ、そうそう。今のうちに渡しておくぜ」
「なんだこれ?」
「午前の稼ぎ」
レッジから手渡されたのは、ギラギラ光る銀色の貨幣十枚。そのお値段、驚きの千ナールだ。
探索メインで魔物と余り戦ってなかったし、それを六等分する訳だから当然一人頭の稼ぎは減る。ただ普段との落差が凄すぎて、思わず言葉を失った俺は悪くないと思う。
「分かるぜ。その気持ち。俺も駄犬と二人で潜ってた時の稼ぎと、五人で潜る様になった時の稼ぎの落差には驚いたしな」
「うぷっ……あの時は女買えなくてギスったよな……」
苦しそうに腹を擦りながら百獣王が当時の記憶を語ると、横で待機していた禰宜達も参戦してきた。
「まぁ、報酬で揉めてパーティー解散なんて良く聞く話だしねぇ。僕らは喧嘩しながら何とかやって来たけど、駄目な時は素直に解散するのも間違いじゃないし」
「うむ。少なくとも迷宮で仲違いするより数倍マシだ。知り合いだった者の中には仲間と思っていた探索者に置いていかれ、迷宮内で
「あー……」
パーティー編成を使えるのは探索者系統のジョブだけで、遊び人を除けばダンジョンウォークが使えるのは探索者のみ。
だからこそ多くのリーダーは自身のジョブを探索者か冒険者にしている訳で、それ以外の場合でも基本的に長年の相方を探索者に指名する。
一層や二層ならまだ良い。歩いて帰る覚悟さえ決めれば、徒歩で帰宅する事は一応出来る。
五層辺りでも、まだ飢え死ぬ前に帰れるだろう。だがこれが十層や二十層なら?五十層以降だと、どうなる?
「そんな話を知りながら良く俺を誘ったな?裏切るとは思わなかったのか?」
「一応、保険はあったぞ?ミツルだけ出てきて、俺達が出て来なかったら迎えに来て貰う様に頼んであったし」
「そうか。ちゃんと警戒心がある様で安心したぜ」
俺を信じて無かったのか!?なんて青臭い真似をするつもりは無い。むしろ良い歳して最低限の保険すら掛けない
信頼は信仰とは違うのだ。血の繋がった者達すら敵になる世界で、心から信頼するなんて言葉を使う奴が一番信用できん。
少なくとも俺は99%信頼する事はあっても、100%信頼する事だけは絶対にしない。SNSに流れるフェイクニュースに踊らされる人間になるのだけは御免だ。
「ぶっちゃけた話、あんな美人奴隷を所持していて、尚且つダマスカスまで着せてる奴が金に困ってる事はまず無いからな。だから俺らも安心して誘えるっつーか。報酬で揉める事が無いってだけで、かなり楽になるし」
「成程。装備や奴隷の容姿がある程度の目安になっているのか」
「後は直接顔を合わせての会話も大事かな?見下す様な視線や態度は論外だけど、太鼓持ちもそれはそれで困るんだ。寄生目的の人とか居るしね」
「そんな奴が居るのか?」
普通に自殺行為だと思うんだが。
「いるいる。迷宮ボスを倒したって箔が欲しい人とか迷宮を甘く見てる新人とか。他にも自称ベテランなんかも居たね」
「十層程度で欠損する奴が上で戦える訳が無いのにな」
「うむ。レッジ達に劣るとはいえ、我らも十層程度なら皮装備でも致命傷は負わん」
「これだから才能ある奴等は……!」
言ってる本人達にそんなつもりは無いのだろうが、グロリアの才能は残念ながら凡人寄りだ。才能という点では、むしろサギニの方があると思う。
それでも納得出来ないなら想像してみると良い。
もしグロリアに
だからこそ俺は装備を優先している訳だしな。凡人でも攻略出来る様に、
「うぷ……お前らさぁ……ミッチーの奴隷ちゃんを馬鹿にしてんのか……?」
吐き気を我慢しながら百獣王が仲間達を戒める。それは哀れみなのか、本心なのか。俺には分からないが、沙門はそれを同情だと思い、即座に反論する。
「だが事実だろう?少なくともミツル殿が拾わなければ、彼女が生きていたとは思えん」
「バァーカ。……うぇ。はぁ……もういっそ吐こうかな」
それは止めろ。せめてトイレに行け。
「はぁ……お馬鹿な君達の為にこの俺様が説明してやるが、ミッチーに選ばれた時点で
「そう断言するからには根拠があるんだろうな?」
「むしろレッジ。何でお前は気付かない?ミッチーはどう考えても頭の出来がそこらの人間と違うぞ?姫さんよりも、下手すりゃ帝国の学者連中よりもな」
「なんだと……?」
「俺は食事を一日三食に分けて食べる利点ってヤツを今日初めて聞いたが、馬鹿な俺にも分かる様に説明出来んだぜ?
「…………!」
これだから天才は……!何もかもをすっ飛ばして本能で辿り着くなよ!!
「ミッチーの奴隷ちゃん達には確かに俺らみたいな才能は無いと思う。でもな、そんなのは関係ねぇんだよ。ミッチーが選んだ時点でな」
「……そういう事ですか」
今まで黙って話の推移を見守っていた姫様が何かに納得したかの様に頷く。
「姫様?」
「レッジさん。ミツル様は個人の才能を重視してないんですよ。むしろ、それ抜きで迷宮討伐を成そうとしてるんです」
これだから頭の良い奴は嫌いなんだ……!
「は?そんな事が可能なのか?」
「少なくともミツル様には勝算が見えているのでしょう。──そうですよね?ミツル様」
嘘は許さん、と言わんばかりの姫様の鋭い眼光に、大きく溜め息を吐き出す。
「……流石にこんな大勢の前で答えを言うつもりは無いが、確かに俺はレッジ達の持つ才能とは別の部分を見てグロリア達を選んだ。それだけは確かだ」
竜騎士、鍛冶師、暗殺者、魔法使い。
そこにロクサーヌさんクラスの才能まで求める奴は稀だろう。だって、どんなジョブでも活躍出来るからこそ、彼女は誰しもが認める
「ま、貴族に成れた時に答え合わせをしてやるよ。それよりどうだ?そろそろ潜れそうか?」
「ゴメン無理。喋ったらより酷くなった」
今にも吐き出しそうな青い表情の百獣王。そんな百獣王にボックスから取り出した陳皮と半夏を細かく刻み、常温の水と共に渡してやる。
「食べ過ぎた時は陳皮と半夏だ。本職なら真面目に調合するんだろうが、今はこれで我慢しろ」
陳皮と半夏は、どちらも平胃散*1の材料だ。
最近、食の楽しみを知ったグロリア達の為に確保していたんだが……まさかこんなところで出番があるとは。この世界は本当に俺を飽きさせないぜ。
それから五分程で何故か百獣王が復活した。
漢方にそんな速効性は無い筈なんだが。とはいえ両方とも迷宮素材だし、ファンタジー的な効能でもあったのかねぇ?