「ミツルさん。ミツルさんがここまで情報を公開してくれた理由は何ですか?どう考えても私達が貰い過ぎですよね?」
「理由は二つある。一つはまぁ、今のうちから良縁を結んでおく為だ。貴族になった時、手を組める人間は多ければ多いほど良いからな」
迷宮攻略は何時だって命懸けだ。不測の事態は何時だって起こりうる。
対処出来なくなってからでは遅いのだ。そんな時に慌てて助けを求めても、救いの手を差し伸べてくれる人間なんて居やしない。
「もう一つは?」
「お前らと比べたら俺も含めて全員才能の無い人間なんでな。
「……成る程。討伐後の弱体化狙いですか」
納得した様に呟いた姫様に軽く頷く。
誰かが迷宮討伐に成功した時、その周囲にある迷宮も全て影響を受けて弱体化する。
原作では気にせず討伐していたが、俺達にそんな度胸は無い。俺のパーティーにロクサーヌさんはいないのだ。
それならそれで可能な限りの手を打つのは当然であり、その機会を得られるならこの程度の情報は惜しくない。帝都に刺客の貴族が居た以上、レッジ達ならいずれ暗殺者に辿り着けるだろうし。
「レッジさん」
「おう。流石にここまで教えて貰って手を振り払うなんてダサい真似はしねぇよ。──ミツル殿。帝国から男爵の地位を授かった者として貴殿と正式に手を結びたい。この申し出を受けて貰えるかな?」
「こちらこそ宜しくお願いする。レッジ男爵」
レッジとがっちり握手を交わす。……ふう。上手く運べて本当に良かった。
最悪、弱体化無しで初挑戦する事を覚悟していたが、わざわざそんなギャンブルを望んでやりたい奴はいない。
俺は臆病なのだ。僅かでも勝率を上げられる手段があるなら全部用意してから飛び込みたい。それが素直な気持ちだ。
「正直、よろしくして貰ったのは俺達だけどな。竜騎士の価値、鍛冶師の重要性、才能に頼らない迷宮攻略。どれも本来なら高値が付く情報だ」
「そうですね。私は
「お前らは真面目だなぁ。気持ちは分かるけどさ」
深刻な表情で考え始めた二人に対して、呆れた声を上げたのは百獣王だ。
「初挑戦の手伝いだけじゃ満足出来ないなら、その分コボルトのカードを多めに渡せば良いだけだろ?たぶん、ミッチーはそれが一番嬉しいぞ?」
「いや、流石にそれは……」
禰宜が百獣王の言葉に呆れているが──残念。大正解なんだ。
「この光景を作る為の武器は何本あっても良い。だからコボルトのカードは百枚あっても足りないぜ」
「だよな~」
「えぇ……」
ダメージが大きいならスライムや貝を差せば良い。何ならコウモリで回避二倍を狙うのもありだ。
人類が獣に勝てるのは、道具を作り、使う事が出来るからだ。足りない才能を補うために道具に頼る事は決して悪い事じゃない。
「部下を率いる立場になれば今の俺の気持ちが分かるかもな。歯痒いぜ?成長を待つ立場ってのは」
経験値二十倍を付けている俺ですらそう思うのだ。それが無いレッジ達は過去の自分と部下を比べ、絶対に歯痒い気持ちを抱えると思う。
凡人は野生の英雄に成れない。
だからこそ暗殺者の生み出せるこの光景には千金の価値があるのだから。
◇
ボスタウルスが石化する。雑魚と比べて時間こそ掛かったが、暗殺者を攻撃に専念させられる状況を作れるならば、この光景を誰でも作り出せるという事実の恐ろしさよ。
正直な話、この世界の最強の武器はハイコボルトのカード*1とサンゴの最上位カードを隻眼がスキル合成した武器*2だと思う。
石化添加でもこの活躍なのだ。それ以上の性能なら間違いなくボス相手でも活躍するだろう。下手すれば『確定石化』かもな。
「ボス相手でもきっちり石化させられるんだな」
「いや、これが出来るのは俺だけだ。一応、再現性はあるんだが……」
「あるんだが?」
「余り誉められた技じゃない。だから石化は雑魚狩り用で割り切った方が賢いぞ」
流石に盗賊の奴隷を買って育てろとは言えんし。博徒は強力なジョブだが、前提が悪すぎる。
「麻痺の方はどうなんだ?」
「そっちはそれなりに通る。二本用意するか、一本に纏めるかはお好みだな」
「ミッチーに頼んだらやってくれたり?」
百獣王の質問には横に首を振る。
「出回ってるダマスカスじゃ基本的に厳しいと思ってくれ。隻眼製ならいけると思うが出回らん」
「偶然に期待するには分が悪いのか。……レッジ、ここ終わったらドワーフ貴族の方へ行くか?」
「おう。姫様ともそっち方面で話を纏めてるぞ」
「さすが我らがリーダー!」
「よせやい。照れるだろ」
ギャーギャー騒ぎながら二人が次の層へと続く扉へ向かう。その後ろをゆっくり歩いていると、沙門が声を掛けてきた。
「先程、貴殿の奴隷を侮辱した発言を謝らせてくれ。──済まなかった」
騎士だった頃に学んだ礼儀作法のお陰なのか、腰をしっかり曲げて頭を下げる沙門。
良い御辞儀だな。教本に載せたいぐらいだぜ。
「謝罪は受け取った。そもそもアンタの見立ては何も間違っちゃいないしな。グロリア達に才能が無いのは事実だ」
「だが貴殿は才能を必要としない攻略を自ら考え、それを証明した。ならば間違っていたのは
そんな事を大真面目に言うのだから、こちらとしては笑うしか無い。
「くくっ。何処の国にも頭の固い僧侶ってのは居るようだ」
「何……?」
「アンタ達は圧倒的な武力の才能で栄光を勝ち取った」
遠くからレッジ達がこちらを呼ぶ声がボス部屋に響く。それに手を上げて応え、一度だけ沙門と視線を合わせた。
「俺達は知力と準備の才能で栄光を勝ち取りに行く。それだけの話だろ?」
使う才能が違う。とどのつまり、それだけの話だ。