二十九層はロックバードだった。茶褐色の岩の体を持つ白鳥サイズの魔物で、弱点は無し。名前の通り、土属性に耐性を持っている。
ドロップ品は羽毛。インクを付ければペンになり、軸を取って布に入れれば布団にもなる優れたヤツだ。
ちなみに羽毛は高価らしい。原作でセリーが明言しているので、もしかしたら買取価格が八十から百ナールを超えるアイテムかも知れない。まぁ、俺も羽毛布団が出来るまで売るつもりは無いが。
「悪いな。わざわざ
「依頼料は貰ったんだ。こちらに文句は無いさ」
レッジからの依頼はこうだ。
前払いで貰ったのはスライムのカード。グロリアがさらに強くなるな!コボルトは一枚も無いが。
「一戦に一回ぐらい発動する感じか。ジョブの力ってスゲーな」
「連続で石化したのは運かな?十戦ぐらいの情報だから断言出来ないけど」
「うむ。戦闘中に一度も発動しない事もあったし、頼りすぎは不味いかもしれん」
「石化と麻痺を一つの武器に纏めたいですね。そうすれば安定しそうです」
百獣王は素直に感心、沙門と禰宜の二人は結果についての感想。姫様は発覚した問題に対する対処法か。
その道は厳しいぞ?俺ですらまだ作れてないし。
「ま、それ以前に俺達は情報集めから始めないとな。ミツルに依頼する為のコボルトも集めなきゃならねーし、隻眼との繋ぎも欲しい。これから忙しくなりそうだぜ」
「その割には随分、嬉しそうだな?」
「やる事が出来たからな」
「最初に掲げてた目標は達成出来ちゃったもんね」
「うむ。それ以降は何となく惰性になっていた事は否めん」
目標ロスによる無気力化か。世界が違っても、人間って生き物はそう簡単には変わらんらしい。
「それと隻眼とコネを作るついでに鍛え直さないとな。今の俺達じゃ迷宮ボスは厳しいだろ」
そう言ったのは百獣王だ。見た目通りの軽い男だが、芯の方はしっかり埋め込まれてるらしい。もしくは英雄の直感か?
「確かにそうですね。それも含めて予定を組み立てないと……」
姫様が頭を抱えて悩み始めるのを眺めつつ、パーティージョブ設定を開いて現状を把握する。
(この短時間の成果としては悪く無いんだけどな)
レッジ達の現在のレベルは、探索している階層と経験値二十倍の合わせ技でレベル三十まで上がっている。ただグロリア達が伸び悩んだ様に、三十から四十はこの階層でもそう簡単には上がりはしないらしい。
もちろん中級職ってのも理由の一つだ。だけどそれ以上に必要経験値の桁が一つか二つ増えてる気がする。
「……ある意味で運が良かったかもな」
「ん?どういう事だ?」
俺の呟きを拾ったのはレッジだ。
「この階層、鍛練するなら最高なんだよ。ここが潰れてもドワーフ領で同じ構成の迷宮を探せば、稼ぎながら鍛えられるだろ?」
スライム、牛人、鳥の並びは水魔法の通りが良い。さらに羽毛とスライムスターチという高額品で稼ぐ事が出来る上に、バラと三角バラまで手に入る。
落ちるカードも物理ダメージ削減と腕力二倍、それに防御無視の三つとなっている。
つまり、どう考えても腐らないラインナップだ。
「物足りなくなるまでカードを狙いつつここで鍛え、その後に三十五、四十、四十五層にコボルトケンプファーが湧く迷宮を転々とすれば良い。そうすれば装備強化と錆び落としを同時に出来るんじゃないか?」
「コボルト系列はドロップが安いから基本的に避けていたが……確かに今の俺達にとって一番価値のある魔物はコボルトか」
「隻眼や鍛冶師と顔を繋ぐ為のお土産にもなりそうだしね。余ったらミツル君への代金になるだけだし、無駄にはならないと思う」
「うむ。拙僧もその意見には賛成だ」
「私も異論はありません」
「決まりだな!それじゃ、さっさとこの階層を抜けて鍛練の時間を作るとしますか!」
「やる気だけでボス部屋が見付かるなら苦労はしないけどな──って、マジかよ」
会話しながら曲がった先には、ボス部屋へと続く上下に開く壁の姿が。
昔の自分を見てる気分になるぜ。何をやっても上手く行くってのは、こういう光景の連続だし。
「ミツル。依頼はここまでだ。時間も時間だし、全力でやってくれ」
「あいよ」
特に休憩する事も無く、戦闘前の会議すらせずに突入。黒い靄が集い終える頃には、ボスである燃え盛る炎の鳥──ダチョウサイズのファイヤーバードが堂々とした姿で舞っていた。
「雑魚から行くわ」
宣言だけして雑魚──危険度がより高いサイクロプスへ斬りかかる。さらに追撃の博徒のスキル。
今回湧いた雑魚は、サイクロプスとシザーリザードの二匹。
サイクロプスは風弱点の火耐性の魔物で、シザーリザードは土弱点の火耐性の魔物だ。
ボスのファイヤーバードは水弱点──と初見では思うかも知れないが、実は弱点無しの火耐性だったりする。見た目詐偽じゃねぇか。
「やっぱ、物理耐性無いと楽で良いな!」
「殴り甲斐があるよな!」
野生の英雄たちがボス鳥を虐めている隙に、雑魚を斬って、突いて、また斬る。うーん、石化ならず。
ここで一旦距離を取り、敵の攻撃に対処する。サイクロプスの拳によって目の前の地面が派手に巻き上げられたが──特に支障は無いな。戦闘続行だ。
そのタイミングでシザーリザードにスキルの発動兆候。黙らせる為に殴っておく──って、お前が石化するのかよ。
「サイクロプスは僕らで相手するから、ミツル君はファイヤーバードをお願い」
「あいよ」
博徒!石化添加!……やっぱり一撃じゃ無理か。
「ミツルもこっち来たのか!」
「歓迎するぜぇ~?」
「お手柔らかにな」
軽口を叩きながらも絶え間ない連擊をボス鳥に叩き込む二人。
回避は基本的に皮一枚。相方が狙われているなら全力で攻撃。息の合ったその動きのお陰で、どう考えても俺の二倍近い攻撃回数を叩き出している。
これがロクサーヌさんクラスの動きか。俺も地球では上澄み側の人間だったが、流石にこれは無理だ。
「────ッ!」
何かを感じ取った百獣王が
そして敵が麻痺して一瞬だけ動きを止めた直後に、百獣王のスキルが叩き込まれた。
「……未来でも読んでるのか?」
「勘だッ!」
これだから野生の英雄は……!
「伊達に迷宮攻略してないぜー?」
「嫌になるほど理解させられてるよ……!」
その後は特に見所も無く、何の波乱も無いままファイヤーバードがオストリッチを落として戦闘終了。
生き残っていたサイクロプスは、殴ってる俺が哀れに思うぐらい一方的に袋叩きにされて銅に変わった。
結果論になるが、大人しく石化してた方が幸せだったな。そうすれば、少なくとも多少はマシな最後だったろうに。