──春の季節 五十七日目
朝早くから奴隷を探しに行く事も考えたが、流石にグロリア達を三日連続休みにする訳にもいかず、午前中は探索する事に。
残念ながらレッジ達はいなかった。たぶん、錆落としの為に朝早くから潜っているのだろう。
「二十二層に湧くラブシュラブは動く
ちなみに潅木は樹木の便宜的な区分の一つで、潅木以外にも低木やブッシュなんて呼ばれている。
主な役割は土壌の固定。森林に低木層を形成して土壌の侵食を防ぎ、山地災害や土壌流出を防ぐ役割を担っている。
つまり、山森なのに見通しの良い森というのは地すべりが起きやすい。特に景観を理由に低木を伐採した土地は危険だ。
最近では科学的に対処している場所も多いので、一概に全部が駄目って訳じゃないが。気になるなら自治体にでも聞くといい。きっと答えてくれるだろう。
サギニを先頭に置き、後ろから指示を出しながら迷宮を進む。
灌木のカードは欲しいが、狙うなら十一層でコボルト、十二層でラブシュラブが湧く迷宮の方が効率がいい。
だからボス部屋を目指して一直線だ。
「敵です。初めての匂いが二、魚が三ですね」
「グロリアは魚を頼む。ラブシュラブはメロー達で抱えてくれ」
「初めての魔物ですが、私が抱えなくてよろしいのですか?」
尋ねてきたグロリアにニヤリと笑みを返す。
「ラブシュラブには攻略法があるからな」
「えっと、それなら魚に行きますね?」
「おう。任せた」
いつも通りグロリア達が敵へ向けて駆け抜ける。今回は魔法の詠唱は無し。そのお陰で早々にチャンスがやって来た。
「サンドウォール」
メローに対して枝を射出する直前、目の前に現れた砂の壁に阻まれ、ラブシュラブがひっくり返る。
すぐに起き上がろうと地面でジタバタ暴れるが、残念ながら何時まで経っても起き上がれる気配は無い。当然なんだが。
「えっと、殴りますね?」
「任せた──サンドウォール」
今度は遊び人枠のサンドウォールを使い、一体目と同じ様にサギニの抱えていたラブシュラブを地面に転がす。
「サギニはグロリアの援護。メローはラブシュラブを処理だ」
『『はい!』』
未だ起き上がれないラブシュラブに向け、メローが渾身の一撃を叩き込む。一度で駄目なら二度、二度で駄目なら三度。
一方的に殴れる状態を維持したまま容赦なく金砕棒を振り下ろす。
漫画版で分かりやすく描かれたこの戦法は、茂みに足が生えただけのラブシュラブには笑えるぐらい効果的だ。
なにせコイツらには手が無い。つまり、ひっくり返すと自力で起き上がれなくなる。
原作では偶然の発見だったが、ここは迷宮。お互いに命を賭けている場所だ。
だから卑怯なんてほざくなよ?
二巡目に入る。魔法使い枠は脳死でサンドストーム、遊び人枠は念のためにキープ。
理想は突撃に合わせての展開。ただグロリアの邪魔になる懸念があるのがもどかしい。
「あ、石化しました。次に行きますね」
「お願いします」
悩んでいるうちにサギニが一体石化させた。抱える敵の数が減ったお陰で、グロリアが被弾する事も無くなった。
回復はHP吸収だけで間に合うだろうし、後はサンドストームだけで回せば良いな。省エネは大事だ。
六回目のサンドストームで石化した魚がアイテムに変わり、七回目のサンドストームで生き残っていた二匹の魚もアイテムに変わった。
その間にメローが一体仕留めていたので、残るは未だ地面で足掻くラブシュラブだけ。逆転の目はもう無い。
「こうなると哀れですね」
「この状態でも枝は撃てるし、魔法も使えるから気は抜くなよ?」
「はい。油断はしません」
デュランダルを抜いてメローと共にボコスカ殴る。それから一分もしない内に最後のラブシュラブがアイテムを残して霞に消えた。
ドロップ品の板は装備の素材だ。他にも
まぁ、俺達にとって一番大切なのは、これが警策*1の材料という事なんだが。これさえあれば睡眠の状態異常も安心だぜ。
「メロー。これで警策を頼む」
「かしこまりました」
さっくり詠唱して警策を生み出すメロー。やっぱり生成系スキルはレベルかMP依存なのかね?
ちなみに警策の呼び方は
もし座禅会に参加する気があるなら、お世話になる寺の宗派を調べた方が良いかもな。
「普通に出来ちゃいましたね」
「まぁ、俺が万能丸を作れたしな。鍛冶師だけ別ルールってのは考えづらいし、当然の結果だろ」
探索する為に必要な薬をコツコツ作っているという事もあり、生薬生成のスキルはそこらの薬草採取士とは比べ物にならないぐらい使い倒している。
だが万能丸を作れるベテランと同じくらい生薬生成を使ったかと聞かれたら、俺は間違いなくノーと答えるだろう。
こちとら転移してまだ二ヶ月経ってないのだ。どう頑張っても物理的に回数をこなせる時間が足りん。
「そういえば主様」
「ん?どうしたグロリア?」
「珍しく魔法名を口に出していましたが、何か意味があるのですか?」
「あー……サンドウォールは他の壁と違って戦場に影響が残る。だから注意を兼ねて口にしたんだ」
砂となったサンドウォールの残骸を指で示してやると、納得した様にグロリアが頷く。
「なるほど。確かに戦闘中に足を取られると大変ですね」
「本来なら連発する様な魔法じゃないからなぁ」
詠唱さえなければ使い道は無限大だったんだが。
◇
必勝法を使わない戦いも何度か経験させつつ探索を進めていると、昼前にはボス部屋に着いた。
待機の列は無し。サンドウォールでボスの攻撃を防ぐ事だけ伝え、そのまま突撃する。
湧いた雑魚は──ハサミ式か。ファイヤーストーム安定だな。
サイズ自体は変わらず、より茂みが深くなったぐらいしか違いの分からない『ラ
「今日は運がいいみたいです」
「だな。次はボスを頼む」
「かしこまりました」
たった二回の攻撃で石化した
「運が良いなぁ」
「まぁ、こんな日もありますよ」
「がんばりました」
後は適当に処理して戦闘終了。今までで一番早かった気がする。
ラフシュラブのドロップ品は抗麻痺丸の材料だ。
生薬生成のスキルを使うと、アイテム一つで三個の抗麻痺丸を生成できる。
地球での扱いは祭具だな。柳やニワトコなどの破邪の力が宿るとされている若木の皮を剥き、白い幹の部分を薄く削って稲穂や花を表現する装飾品で、小正月*2の頃に良く飾られているぞ。
ただ飾る時期や使う若木の種類は地域ごとの特色が色濃く出ており、実に多種多様で正解が無い。
ぶっちゃけ祈願する内容まで違うから、同じ名前の別の行事だと割り切るのもアリだ。県民闘争したいなら別だが。
アイテムを回収して次の階層へ進む。二十三層からは敵の強さが一段上がり、一戦の戦闘時間も長くなる。
魔法使いの居ないパーティはここからが正念場だ。
火力不足が顕著になり、討伐しきれず敵の乱入が増える第三ランクは、英雄に成れる者とそれ以外を分ける
物理のみで駆け抜けられる者は一握りにも満たず、高額なドロップを落とすボスに満足して、大半の人間は迷宮討伐を諦めてしまう。
自身の実力を過大評価すれば事故からの大怪我に繋がり、最悪は死に至る。諦めれば安定した稼ぎを得られ、死傷する確率も大幅に低下する。
夢から目覚めるのか、それとも現実に立ち向かうのか。
その選択を突き付けてくるのが──第三ランクだ。