「二十三層はブラックフロッグか」
第一印象は大型犬ほどの大きさの黒いカエルで、かなり気持ち悪い。
日本のアマガエルを見習って欲しい。いや、どちらにせよ大きかったら気持ち悪いか。
日本だと蛙は縁起の良い生き物として有名で、語呂合わせから安全祈願、お金が返るから金運祈願、雨を呼ぶイメージから豊作祈願、前にしか跳ねないので出世祈願など、実に多種多様な祈りの対象となっており、デフォルメしやすい見た目と相まって縁起の良いデザインとして広く用いられている。
その割には八百万いる筈の日本でも神様として祀っている場所は無く──いや、何か日本神話に出てきた気がするな?*1
俺の記憶では大抵神の使いとして神話に登場しており、神様達と比べると不遇なポジションなんだが。
まぁ、神として有名なのは古代エジプトのヘケトぐらいだろう。一応、人類創造神の嫁だし。
「舌による強力な打撃と凄まじい跳躍力を利用した体当たりが凶悪な魔物ですね。グロリアさんや私は大丈夫ですが、サギニさんは吹き飛ばされるかも知れません」
「装備の重量的にそうなるか」
金属鎧の重量は利点にも欠点にもなる要素だ。そうでなかったから格闘技に階級なんて物は生まれていない。
地球では土地や環境によって様々なタイプの鎧が生まれては消えてきた。
胸当ての発展系もあれば、最初から鎧として作られた物もある。
例えば日本の鎧は騎乗中に弓を放てる様に作られており、関節の可動域がそれなりに広い。
逆に西欧の鎧は可動域を極限まで削り、矢が刺さらない様に作られている。
後は騎乗攻撃に対する足止めもあるか。鎧を着た騎士が一人死ねば、馬の足はそれだけで止まる。その隙をパイク等で引き倒す訳だな。
面白いのは人間の殺意の高さで、日本では鎧対策として
攻撃は最大の防御というべきか、人類は殺意を先鋭化するのが得意な種族というべきか。
個人的には行き着いた先が防御不能な核兵器なので、間違いなく後者だと思うが。
「斬擊や刺突とは受ける衝撃が変わりそうですね。注意しておきます」
「私は……食らわない様に気を付けます?」
「まぁ、それぐらいしか言えんよな」
注意して何とか出来るなら苦労はしない。俺達は野生の英雄達とは違うのだ。
「それじゃ行くか。ボス部屋を抜ける頃には丁度良い時間になってるだろ」
カエルのドロップ品はなんだろうな?
◇
「これは……やりづらいですね……!」
ボクサーのパンチを金属板で受け止めた様な音が迷宮に響く。グロリアが鉄の剣でカエルの舌を受け止めただけなのだが、腹に食らえば朝食がリバースしそうな音だ。
「ラブシュラブの枝も厄介ですね!」
メローが肩で射撃を受け止め、お返しと言わんばかりに金砕棒を振るう。受け止めたのは後衛に被弾させない為であり、前衛としては間違った動きじゃない。
ただ、これで装備破壊の可能性が生まれる事を考えるとボス討伐の難易度の高さに溜め息が漏れる。
カス当たりとはいえサギニを除く二人が三回被弾したので全体回復を発動。その後にファイヤーストームを二連発。
開幕に二回、今ので二回。二十二層なら次の魔法で沈むが、第三ランクからは五か六巡まで掛かるだろう。
俺の装備も切り替え時かね?魔法攻撃力を上げる装備はそれなりにあるっぽいし、戦闘を楽にする為に金を惜しんでる場合じゃなさそうだ。
耐眠の額金は封印になりそうだが。
「しまっ──主様!」
「大丈夫だ」
飛んできたラブシュラブの枝を左手のガントレットで防ぐ。うーん、痛い。でも青アザにはならないレベルか。
ちなみに俺がラブシュラブの射撃を防げている事には、ちゃんと
守られる側にも努力が必要という事でSPに学んだのだが、基本的に対銃は射線を切る様に動き、射線が通った時だけ注意すれば、実は躱す事も防ぐ事も出来なくなかったりする。
狙撃に関してはどうしようも無い。スナイパーが狙える位置に陣取れた時点でこちらの負けだ。
後はSPごと吹き飛ばせる戦車砲や対物ライフルなんかも無理だ。アサルトライフルは……護衛次第かねぇ。
ついでに爆弾なんかも厳しい。……地球産の武器は殺意高いな?
異世界を見習え。盾で防げるレベルで抑えられてるぞ。
三巡目のファイヤーストーム二発でラフシュラブが落ちた。だがカエルは未だ元気に暴れているし、サギニが抱えているマーブリームも未だ健在。
魔法があってもこれなのだから、第三ランクの強さは恐ろしい。
「グロリアさん。一体引き受けます」
「お願いします」
メローが力任せにカエルを弾き飛ばし、一対一の状況へ強引に持ち込む。
グロリアも圧が減ったお陰で余力を回避に向けられる様になり、被弾する回数が減ってきた。
このまま行ければ楽なのだが……まぁ、そんな上手く筈が無いわな。
「────ッ!?ここに来て新しい動きですか……!」
真横に飛んだカエルが壁を使い、真横からグロリアを強襲。その攻撃にはダマスカスの剣を何とか挟めたが、がら空きになった胴体にもう一匹のカエルが体当たりを行った。
「大丈夫か?」
とりあえず全体回復しながら尋ねると、体勢を立て直したグロリアが敵に視線を向けたまま報告を上げる。
「ダメージ自体は大したことないです。ただサギニさんでは転倒してしまう可能性が高いですね」
「重装備のお前でも体勢を崩される威力だからなぁ」
「ですね。斬擊や刺突よりふらつきます」
個人的にはふらつく程度で済むのは竜騎士だけだと思う。他の種族なら間違いなく吹き飛ぶだろう。
モーションの大きさ的に強制移動技な気がするんだよな。壁魔法を挟めそうだし。
四巡目の魔法を放ち、少し待ってから五巡目を撃つ。
そこでようやくカエルが落ちた。後はマーブリームをグロリア達が処理して戦闘終了だ。
第三ランクは魔法十発か。三十三層では十四発ぐらいになりそうだ。
「主様。こちらがドロップ品になります」
「おう。ありがとな」
グロリアから手渡されたのは、膜に包まれている巨大なカエルの骨付きモモ肉。
迷宮産だから美味しい事は間違いないのだろう。……間違いないのだろうが、ついに食べる事に抵抗のある食材の登場か。
「ブラックフロッグの肉は鶏肉に似た淡白な高級食材です。使い方はウサギ肉と変わらないので、御主人様なら美味しく調理出来るかと」
「それは楽しみですね……!」
「そうですね……!」
グロリアとサギニが目をキラキラさせた以上、調理する未来は決まった。
ターキーレッグでも作るか……?身を剥いで唐揚げにしても良さそうだが。
◇