ザビルから再び別の街へ飛ぶ。政情が不安定になり過ぎて、カッシームが戦士を求める側に回ったのは予想外だった。
この感じだと東部の奴隷は軒並み買われている気がする。カッシームを除いても人気商品だしな。
同様に帝国北部も駄目だ。あちらはエルフ縛りを自らに課しているので、もっと酷い気がしている。
西部は西部で武器を扱う事に長ける人材が尊ばれる風潮だし、領地が安定しているので望みが薄い。
となると、残るは南部しか無い訳だが……
(南部は南部で群雄割拠してるというか、貴族の数が多いんだよな)*1
南部の特徴を端的に表すなら、誰にも開拓されてない中国だ。
平地が多く、水源も豊富。森林資源を始めとした各種資源も多くあり、海へと続く大河すら存在している。
そんな場所を放置する国がある筈も無く、帝国は長年に渡り開拓を推奨しており、それは現在でも変わらない。──つまり。
(成り上がりを目指す探索者達の聖地になるのは当然な訳で)
すでに成り上がった者。これから成り上がろうとしている者。儲けを求めて集う商人、鍛冶師、色売り。
良くも悪くも安定している他の領地とは違い、南部は成功と破滅を飲み込みながら成長し続けている龍の様な場所となっている。
(そのせいで、って言うのもおかしな話だが、とにかく不安定なのが特徴か)
迷宮討伐を行えるだけの実力があるなら南部ほど貴族になりやすい場所は他に無い。
逆に
ライバル達と競うように攻略している時は良い。多くの探索者が集い、それに惹かれる様に商人や鍛冶師も自然に集まってくる。
だが勝者が決まった瞬間、今まで居た人材は全て別のところへ移動してしまう。残されるのは空っぽになった領地と、貴族になる事しか考えていなかった探索者だけだ。
(法服貴族が多い訳だな。どう考えても国や大貴族が差配しないと無理だろ)
日本では大名の勢力を削ぐ為に行われた転封が、この世界だと飛び地となるのを防ぐ為に行われている気がするぜ。
まぁ、そんな土地だからこそ熟練の戦士奴隷は簡単には見付かるだろう。何だったら売り込みすらあり得る。
ただ、個人的な感想を述べるならば──
(信頼出来ない)
これに尽きる。
考えても見てくれ。探索者の需要が高止まりしている土地で、売られる、または売れ残っている熟練者なんだぞ?
どう考えても素行が悪いか、問題があるに決まってる。
もちろん引退を決意した探索者が不要になり、売り払った可能性もゼロじゃない。だが人間は付き合いが長ければ情が湧く生き物だ。
普通なら引退と同時に解放するか、余生に付き合わせるだろう。その選択を取らずに売り払うのだ。どう考えても人材としては微妙、排出率が1%を切ってるガチャより期待できない。
「……となると、狙い目は
領主の力不足や怠慢により、故郷を捨てるしか選択肢が残っていない街。幸いな事に俺はその場所を知っている。
良い奴隷が見付かると良いな。出来れば胸の大きい美女だったら最高だ。
◇
山と湖と海が描く美しい景色。立地としてはエルフ領に近いが、陸路では西部のドワーフ領からしか来れない陸の孤島。
そんな場所に──滅び行く街『レーヌ*2』は存在していた。
「前に来た時よりも人の数が減ってるな」
半ばゴーストタウンになりかけの美しい街を歩く。
すれ違う人達の表情は一様に暗い。年齢も老いた者が多く、この地以外に行く宛の無い者達しか残っていない様だ。
(景色は綺麗なんだけどな)
夕焼けが海面を照らし、全体的に白色の街を輝かせる光景は幻想的で、何度見ても息を呑む程に美しい。
だがそれは人の営みを感じさせないという事であり、街としては死んでいる。そう判断せざる得ないぐらい、静かな場所だ。
「いらっしゃい。──残念ながら商品は残ってないけどな」
冒険者ギルドで場所を聞き、何となくそうだろうなと思いつつ尋ねた奴隷商からの第一声。
それは目的の達成が不可能な事を知らせるには十分で、思わず大きな溜め息を吐き出してしまった。
「まぁ、そうだろうな。一縷の望みをかけてきたんだが、残念ながら空振りか」
「街を見れば分かっていた事だろう?」
「いや、こんな街だからこそ望みが叶うと思っていたんだよ」
「ほう?面白そうだ。茶を出してやるから話してみな」
案内されるがまま椅子に座り、暖かい御茶で喉を潤しながら考えを語る。
本気で貴族になるつもりがある事。その為に使い潰せる奴隷では無く、いずれ騎士として忠誠を誓ってくれる口の固い者が欲しい事。
ある程度は伏せたが、すでに三十層を攻略した事も伝え、用意してきた資金として白金貨も見せた。
無警戒だと思うかも知れないが、本気で貴族になる事を目指している証明としては、これほど分かりやすい
「────って訳で、遠路はるばるこの街まで来た訳だ」
「なるほど。確かに南部の奴隷じゃアンタの望みは叶わんな」
納得した様に頷き、お茶を淹れ直す奴隷商。ありがたく受け取って二杯目のお茶で喉を潤す。
普段飲んでるお茶とは違い、生姜湯っぽいのは地域差かね?何というか身体の暖まるお茶だ。
「……これも神の思し召しってやつかね?」
「ん?どういう意味だ?」
「アンタ、ここの迷宮を攻略するつもりは無いか?もし本気で攻略する気があるなら俺が責任を持ってお望みの品を用意するぜ?」
「……ふむ」
表情は真剣そのもの。瞳の奥には希望を見付けた人間特有の光が見える。
つまり、嘘は言ってない。だからこそ疑問が湧くんだが。
「ここは何処かの貴族の領地だろう?攻略するのは構わんが、横槍で揉めるのは御免だぞ」
「その心配は無いさ。この街は
「……手に負えなくて切り捨てたのか?」
「いや、巡り合わせが悪かっただけだ。……同時期に本領の方に複数の迷宮が湧いちまってな。そっちの対処してる内にこっちの迷宮も増えちまって、結果的に首が回らなくなっちまった。後はまぁ、坂を転げ落ちる様に今に至ってるって訳だ」
「そうか」
原作でも短期間に二つの迷宮が増えたハルツ公爵領は、主人公に迷宮入りを頼むぐらい忙しくなっていた。
たった二つでそうなるのだ。
最低でも本領に二つ以上の迷宮が湧いている状態で、追加で四つも迷宮を抱えられる筈が無い。
だから言い方は悪いが、こうなるのは必然だったのだろう。……この世界は本当に人類に厳しい世界だな。