相手の善意には甘えるが、貰いっぱなしは性に合わない。
あちら側が不安な気持ちを抱えている事も良く分かるので、明日はレーヌの迷宮に潜る事を伝え、一度トロムソに帰宅。
グロリア達に軽くイザベラの事を紹介して任せた後、パラーに飛んだ。
「おっす」
「小僧か。今日はどうした?」
「新しい奴隷を買ってな。そのついでに近況報告だ」
話すのはレーヌについて。陸路が西部としか繋がってない関係上、情報を求めるならパラーが一番効率が良い。
「……レーヌか。あそこをお前が攻略することになるとは不思議な縁もあるものだ」
「どういう事だ?」
「あそこを初めて解放したのは我らの一族よ。尤も、当時は騎士団の一人に過ぎず、先々代のパラー公爵の手柄となったがな」
「なるほど。そりゃ確かに不思議な縁だ」
偶然なのか必然なのか。メローを抱える俺としては気になるところだが……イザベラを受け継いだ以上、やる事は変わらない。
今更、託された思いが増えたところで大差無いしな。好き勝手やらせて貰おう。
「さて、俺の方の近況はこんなところだ。他に何か聞きたい事はあるか?」
「いや、特にないな。それよりさっさと本題に入れ。ワシの残り僅かな時間を無駄にするな」
「あと百年は生きそうな爺が何言ってんだ」
「老人は労るもんよ。若いの」
このクソ爺……!
とはいえ俺は大人なので、大きく溜め息を吐き出してから本題に入る。
「魔導師用の防具が欲しい。もちろん男性用のな」
「魔法使いを買えたのか?」
「そこは黙秘だ」
「……探索者なら当然じゃの。少し待ってろ、持ってくる」
部屋の奥に消えたメローの祖父を待つ間、店内に展示されている武具を眺める。
ここに来た当初は使えない装備だと思っていた。だが気軽にぶっ壊せる装備と考えると、ここに置かれてる品を見る目も変わる。
スロット付きはオークションで高値で捌き、店売りは破損前提で最安値。
一般的には高額な装備も、五十層以降を探索する冒険者達にとってはメインの装備を壊されるよりマシだろうしな。
「持ってきたぞ──どうした?そこにあるのは出来損ないだぞ?」
「いや、装備破壊対策としていずれ買う事を考えていただけだ」
「ワシら鍛冶師なら装備を作ってから挑むが、お主らではそうもいかんか。──メローは鍛冶師になれなかった娘じゃしの」
「…………そうだな」
早く堂々と合わせてやりたいもんだ。その頃には隻眼だろうし。
気を取り直してカウンターの上に置かれた装備を見る。
種類は様々。ハイヒールやボディピアスみたいな女性用の装備が置かれていないのは助かるぜ。
「ワシでもダルマティカの最高傑作は厳しくての。残念ながらこれが店にある最高じゃ」
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原作では白に金糸の刺繍だったが、流石は鍛冶師の聖地。どうやったのか見当もつかんが、見た目を変えている*1のか。
黒色に金糸と銀糸で彩られたダルマティカを手に取る。落ち着いた良い色合いだ。
「後はこの帽子と──
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「ここまで揃うと壮観だな。問題なのは購入する為の資金が足りないって事だが」
「カッカッカ!正しく価値を知っておるなら一つ五十万でも安いからのう!」
「本当にな」
この装備なら五十でも安い。俺なら即買いだ。……まぁ、普通の商人は
「で、どうするんじゃ?」
「帽子とダルマティカだけだな。ついでに竜革一式くれ。新しい奴隷の装備にする」
「うむ。帽子は三十、ダルマティカは五十、竜革装備は一式で六十。合計で百四十万ナール──と言いたいところだが、小僧にはメローが世話になってるからの。白金貨一枚にまけておいてやろう」
「良いのか?」
「前にも言ったじゃろ?ここはワシの道楽よ」
お言葉に甘えて白金貨一枚で装備を購入。三割引は使ってない。
メローの祖父というのもあるが、ほぼ三割引してくれた様なもんだしな。付き合いのある人間にこれ以上は駄目だろう。
「聖銀装備は取っておいてくれ。何時か買いに来る」
「おう。期待しないで待っておくよ」
◇
「ミツル!」
トロムソの冒険者ギルドを出てすぐの場所で、同じく遠征帰りと思われるレッジが声を掛けてきた。
「おっす。こんなところで会うなんて珍しいな」
「パラーを目指して西に進んできたところだ。ミツルは?」
「丁度パラーから帰ってきたところだよ」
「かぁー!羨ましい!」
少しも嫌味を感じないオーバーなリアクションでガックリ項垂れるレッジ。そんなレッジに対し、慰めという訳では無いが一応伝えておく。
「俺が冒険者になったら連れて行ってやれるんだが」
「今、何レベル*2だ?」
「四十六だ」
実はレッジ達と三十層を探索した事で一レベル上がった。今までサッパリ動かなかった事を考えると、二十九と三十には謎の壁があるのかも知れん。
「……うーん、反応に困る。せめて四十九なら頼んだかも知れないけどなぁ」
「だよなー」
原作主人公が冒険者や魔道士を取得したのは三十六層だ。俺も明日から潜るレーヌの迷宮で上げるつもりだが、それまでは何処にでも居る探索者でしか無い──っと、忘れてた。
「明日から依頼で別の迷宮に潜る事になったんだが、今の監督役に話を通した方が良いのか?」
「そろそろ三十四層に到達するだろうし、大丈夫だと思うぞ?何なら俺から話しておくし」
「お、頼めるか?朝一から向かう予定なんだ」
「あいよ。ところで何処の迷宮に潜るつもりなんだ?」
「レーヌだな。位置としては北部のエルフ領の西なんだが、陸路は西部にしか繋がってねぇ陸の孤島だ」
「ほう。領地として狙うのか?」
「どうだろうなぁ。狙いはギルド神殿だし」
領地運営を真面目に考えると、レーヌは海産物を輸出して小麦を買う形になるだろう。畑も作れなくは無いだろうが……ちょっと海が近すぎるってのと、土地の狭さが気になる。
まぁ、クーラタルの様に迷宮を抱えれば大半の問題は解決するんだが。
「ギルド神殿か。俺は後援の貴族から借り受けたが、ゼロから作るなら必要だよな」
「その場合、返済は現物になるのか?」
「おう。俺達はすでに返済済みだぜ!……ただ、そこらへんは後援になってくれた貴族次第だな。聞いた話によると領内の迷宮踏破を強制される事もあるらしいぞ?」
「その為に後援になる貴族も居るだろうしなぁ。理解はする」
幸いなのは『騙して悪いが……』のパターンは無いことか。一度でもそんな事をやってしまえば、自領の迷宮がヤバい時にヘルプを頼めなくなる。
人類に余裕が無いと悪党は栄えられない。アイツラはあくまでも余力を食う事でしか生きられない生き物なのだ。
ふと空を見上げれば月と星が顔を出していた。どうやら思っていた以上にレッジと話し込んでいたらしい。
まだまだ話したい事はあるが……今日はここまでだな。グロリア達も腹を空かせて待ってるだろうし。
「お互いに忙しい身だし、そろそろ解散にしておくか」
空を指差しながらそう言うと、レッジも月を見上げ、納得した様に頷いた。
「だな。もし迷宮攻略に詰まったら連絡くれ。すぐに助けに行くぜ!」
「その時は頼むわ」
頼むような事態にならないのが一番なんだが。
◇