とある科学の太陽爆心   作:霧咲桐乃

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二話に分けます。その方が場面転換的にキリがいいので。




第二話『虚空爆破①』

 

 

 事件は唐突に、そして突然に引き起こされた。

 

「──風紀委員です! 早急にこの場から避難して下さい!」

 

 第七学区、とあるコンビニ店。

 突如として駆け込んで来た男女二人組の風紀委員に、店内にいた学生や店員が一斉に怪訝な視線を向けた。それらの視線を無視して男子生徒の風紀委員は慌ただしく店内を歩き回り、何かの捜索を始めた。

 事態の緊急性をいまいち把握しきれず、すかさず店長が訊ねる。

 

「あ、あの、うちの店で何か……?」

 

「重力子の加速が観測されました。この店に、爆弾が仕掛けられた可能性があります」

 

 爆弾。その言葉を聞いてようやく事態を把握し、店内にいた者達は大急ぎで店外へと出て行った。

 

「クソッ! どこに……」

 

 混乱に包まれた店内で、いつ爆発してもおかしくない爆弾を必死で探していくが、それらしき物は見当たらない。時間ばかりが過ぎていく苛立ちに、爆弾を探す彼の手も乱雑なものになっていく。

 

「きゃっ──!」

 

 そんな彼の耳に少女の悲鳴が届いた。見れば、避難途中だった女子生徒の一人が足首を抑えながら地面に座り込んでいた。少年はすかさず女子生徒の元に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!」

 

「す、すみません、足を……」

 

 自力で立ち上がれないらしく、少年は爆弾の捜索を一時中断して肩を貸した。

 

 そんな彼らの近くにあった“異物”を、少年は見逃さなかった。

 

 紙パックの飲料水などが並べられている商品棚の下に鎮座する、一体のウサギのぬいぐるみ。コンビニ店というあまりに場違いな場所に置かれているそれは、その可愛らしいデザインとは裏腹に得体の知れない恐怖を腹の底から湧き上がらせ、少年の意識に警鐘を鳴らした。

 

 しかし、気付いた頃にはもう遅かった。

 

 

 ──グニャリ、と。

 

 

 ウサギのぬいぐるみが突然あり得ない形に変形をし始めたのだ。原型がなくなるほどまで圧縮されたぬいぐるみは、パチンコ玉台の小さな球体へと変貌した。

 

「ま、まさか──」

 

 気付いた頃には、もう遅い。

 

 少年の言葉は、撒き散らされた爆音によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みまであと数日と、学園都市全体の空気がどことなく浮き足立ち始めた頃、風紀委員・第一七七支部では支部に所属する全ての風紀委員が招集されていた。

 

「……一週間前、初めての犠牲者が出たのを皮切りに、“連続虚空爆破(グラビトン)事件”はその威力及び範囲を拡大させています」

 

 議事進行の固法の言葉と同時、正面のスクリーンに事件現場の現場写真が映し出され、終灼は手元に渡された資料から目を外した。

 学区内のとあるコンビニ店。つい昨日起きた、この連続事件の中では一番新しいものの写真だ。現場はまさに凄惨といえる状態で、爆発の衝撃で滅茶苦茶に吹き飛ばされた商品棚と店中に爪痕を残す焼け跡がその威力を物語っている。

 被害者は、重力子の加速の報を受けてそのコンビニに駆け付けた風紀委員の一人。避難の遅れた女子学生を庇って被爆したそうだが、幸いにも一命を取り留めた。

 

 犯行に使われているのは主にアルミで、それをぬいぐるみや子供用の鞄など警戒心を削ぐ物に仕込んで爆発させているという。事件が起きる場所も時間もこれと言った関連性は無く、遺留品を読心能力者(サイコメトラー)に調べさせても手掛かりを掴めないので、犯人を未だ特定できないでいた。

 

「次の犠牲者を出さないためにも、警備員と協力して一層の警戒強化と事件解決に全力を尽くして下さい。以上──解散」

 

 『連続虚空爆破事件』

 

 この事件が、これから起こる更に大きな事件の一端であることは、この時はまだ誰も知る由はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ〜〜……ねみ」

 

 翌日、朝──。

 七月のうだるような暑さが誰もの気力と体力を奪っていく中、能力のおかげで暑さを全く感じない終灼も、しかし夏の暑さに負けた若者のような気怠そうな表情で大きな欠伸を溢した。

 

「なんだなんだ、どうしたんだ終灼? お前のそんなだらけきった顔を見るのは初めてだな。……はっは〜ん、さてはお前も夜更かししたんだな?」

 

 そんな終灼の隣には、夏に負けた高校生が一人。うだー、と前屈みになりながら歩く彼もまた、終灼と同じような──しかし終灼よりはるかに参ってそうな気怠げな視線を送ってきた。

 

「一緒にしないで欲しいな、当麻クン。俺はお前と違って遅くまで事件の調査をしてたから寝不足なだけだ。っていうかお前、昨日も夜更かししたのか? また不良達に追っかけ回されたか?」

 

 お返しに終灼からは冷ややかな視線を隣の親友に送ってやれば、彼──上条当麻は、そうなんだよ! と、ただでさえ暑いのに更に暑苦しく顔を近づけてきた。

 

「昨日、コンビニで弁当でも買って帰ろうとしたら店に入る直前で不良達に絡まれて恐喝されて! 隙をついて逃げ出したらなんとそいつら追っかけて来やがって! しかも滅茶苦茶しつこくて! 第七学区中を逃げ回って、帰って来たのは朝日が昇り始めた頃でした……」

 

 結局夕飯も買えなかったし……、と。90度直角くらいまで前屈みになって当麻は項垂れた。

 

「ソウデスカー、ソレハ災難デシタネー」

 

「あの、終灼さん? なんか適当じゃね? ここは優しく慰めてもらいたいところなんですが……」

 

「慰めるも何も、それは当麻の日常だから、俺が慰めたところでどうにかなるわけでもないだろ?」

 

「否定できないのが一層悲しい!」

 

 上条当麻という人物を説明するなら。

 

 ただ一言『すごく不幸です』とだけ言えばいい。それくらい当麻は日常的に不幸な目にあっているのだ。前述のように不良に絡まれて追いかけ回されることは珍しくないし、足の小指をタンスの角にぶつける、財布を無くす、自動販売機に金を呑み込まれる等は一日一回必ず起こる。

 身体検査の判定では無能力者(レベル0)と判定されているが、もし『不幸(アンラッキー)』というスキルが能力ならば、間違いなく当麻はレベル5認定されていることだろう。

 

 それくらい不幸な少年──それが、上条当麻──

 

「あーーーーっ!!!」

「耳元で叫ぶなあっ!!」

「ぐふっ!!?」

 

 いきなり当麻が絶叫したので、終灼は当麻の腹に正拳突きを喰らわせてやった。当麻は腹を押さえて蹲る。

 

「当麻テメェ、俺の鼓膜をブチ破る気か!」

 

「す、すみませんでした……」

 

 腹を押さえながらも土下座姿勢をとったので、仕方なく許してやる。小さく溜息を吐いて、熱くなった頭を冷ましてから、

 

「で? 何が『あーーーーっっ!!!』なんだ?」

 

 問えば、当麻は顔を上げて引き攣った笑みを終灼に見せた。

 

「財布……どっかに落とした……」

 

「…………………」

 

 ……まあ、そろそろ来るだろうとは思ったけど。

 

「……小萌先生には俺からちゃんと言っておくから、頑張れ」

 

「手伝ってはくれないんだな……」

 

「俺、今無遅刻無欠席なんだ」

 

「ちくしょーーっ!!」

 

 不幸だーっ、と涙目で来た道を全速力で戻っていった親友の背中を切ない目で見送りながら、

 

「うん………ま、いつも通りだな」

 

 終灼はすぐに切り替えて。

 とりあえず遅刻しそうだったので、小走りで学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、終やんやない。一人で登校なんて珍しいなあ」

 

「上やんはどうしたんだにゃー?」

 

 学校に着いて教室に入ると、終灼を迎えたのは似非関西弁の青髪ピアス(本名不詳)と変な語尾の金髪サングラス(土御門元春)の二人だった。

 

「当麻なら例のあれで遅刻だ」

 

 そう言うと二人は「あー……」と揃って納得した。“例のあれ”で通じてしまう程に、当麻の不幸はクラス中──いや、学校中に広まっているのである。

 

「まあ、上やんはいつも通りってことで……あ、でも終やんもなんかいつもより元気ないんとちゃうか?」

 

「そういえばそうだにゃー。寝不足かにゃー?」

 

「ああ、ちょっと風紀委員の仕事でな」

 

「それってもしかして、最近ニュースとかで話題になってる『連続虚空爆破事件』のことぜよ?」

 

「ああ」

 

「それボクも見たで。しかも現場が近かってん。これじゃあ怖くて外出もできんわ」

 

 青髪ピアスがくねくねとワカメのような動きをする。何度かこの動きを目にしているが、はっきり言って気持ち悪い。

 

「まあでも安心するぜよ、ピアス君。その時は“風紀委員のエース”、火鳥終やんが助けてくれるぜよ!」

 

「変な呼び名とあだ名で呼ばないでくれるか?……でも、確かに。事件が解決するまでは迂闊に外は出ない方がいいな。まだ一般人の被害者は出ていないが、いつどこで爆発するか分からないし……」

 

 やはり、爆破場所に関連性がないというのが厄介極まりなかった。観測時に風紀委員が近くにいるというのがせめてもの幸いだろう。そのおかげで風紀委員側では数人の負傷者が出ているものの、一般人の被害者は奇跡的にゼロ──

 

「──ん?」

 

 終灼は、ふと眉を顰めた。

 

「ん? どないしたん、終やん?」

 

「あ、いや──何かが分かりそうな気がしたんだが……」

 

 青髪ピアスと土御門の二人と話して感じた違和感。それはあまりにも小さく、感じたはいいが、その正体は掴めない。

 

 何だ? 何かを見落としているような……。

 

「はいはーい! 皆さん、朝のHR始めるですよー。さっさと席に着くです!」

 

 しかし、突然ガラリという音と共に聞こえてきた幼さの残る“女性”の声に、何かを掴みかけていた終灼の思考はそこでプツリと途絶えてしまった。

 

「それでは出席を取りますよー。呼ばれたら大きな声で返事をして下さいね」

 

 教壇に立ち、出席簿を持ってクラスメイトの名前を次々に呼んでいるのは担任教師の月詠小萌で、それだけなら特に紹介することもないのだが、特筆すべきは彼女の容姿にあった。

 身長135センチ、真っ赤なランドセルとソプラノリコーダーが似合いそうな、明らかに12歳児にしか見えない外見をしている少女(女性?)である。最近では、学園都市の七不思議に指定されたとかされていないとか。

 

「上条ちゃーん、……上条ちゃん? いるなら返事をしてくださーい」

 

 教卓の陰に隠れて見えなくなっている幼女先生が当麻を探し始めたので、終灼は「小萌せんせー」と手を上げた。

 

「当麻なら財布を無くしたんで遅刻です」

 

「そうですかー。じゃあ、上条ちゃんが来たら『すけすけ見る見る』と『コロンブスの卵』の刑って伝えといてください」

 

 ……ご愁傷様。クラスの全員がそう思った。

 

 この数十分後、遅刻して来た当麻が「不幸だーっ!」と校舎中に響き渡る大音量の悲鳴を上げたのは、ほんの余談である。

 

 

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