異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第100話 老人ごくごく、聖女ボコボコ

聖女が敵の1人と共に消え、残るは老人1人。

悪名高き結界術師、【死に至る楽園】ミョードである。

キルエとチンフイは部屋に籠ろうとするが、ミョードはそれを許さなかった。

封印術に取り込まれかけたその時、鉄仮面の男が自室から出てきた。

 

「ドンドンうるっせェよ!!」

 

そして老人を思い切り蹴飛ばした。

 

「これはッ…ハハハ、ご迷惑をお掛けしましたな」

 

だが老人は衝撃を逃がしたか、さして効いていない様子で立ち上がる。

 

「迷惑よ。今ね、朝。分かるか?

寝てる奴いるの想像つかないか?」

 

「失礼しました、しかしこの状況で寝ていられるのは貴方くらいかと存じますな」

 

「は?何を言うてるかお前?」

 

「ここは今、我々による狩りの時間と化しています。

獲物は怯えて籠るか逃げ回るしかないのですよ」

 

シャーヤは頭を掻き、少し考える。

 

「…あ~アレか?この宿のお祭りか?

なんだ、楽しい事してるなら起こせよキルエ!」

 

「ゲホッ…思いっきりドア叩いて起こしたでしょうが…!」

 

「そうか?まぁどうでもいいな」

 

「それより、気を付けて…そのジジイ、心を読む…ッ」

 

「心を?ほ~」

 

老人は穏やかに笑い、杖を構える。

 

「何、嗜み程度の読心術ですよ。もっとも、貴方のような単純な方には有効ですが」

 

巨漢の拳が飛ぶ。老人はこれをひらりと躱す。

 

「ですから、単純なのです」

 

「そうか。お前死ね」

 

いきなりの激しいラッシュ。

一撃でも当たれば老人の身体はバラバラに砕けるが、実際はかすりもしていない。

嵐のような拳の乱打を、紙一重で避けていく。

 

「ぐ…ちょろちょろと…!」

 

「その勢い、いつまで持ちますかな?」

 

老人の言う通り、これは己の体力をいきなり使い切るような猛撃だった。

そして老人にはこれを凌ぐ術があり、また動きを止める算段も付いていた。

 

「さて、そろそろ大人しくしていただきましょう」

 

杖で地面を叩く。

 

「…ッ!?」

 

突然、足元の影が黒い沼となって、シャーヤの身体を下へと沈み込ませる。

キルエもこれに葬られかけたのだ。

 

「影に相手を封じ込める、高度な封印術です。

影の中に空間を作り出すのは難しい術でしてな、仲間内でも使えるのは私とあ(●)の(●)方(●)くらいのものです」

 

ミョードは、炎の渦にちらりと目線を遣った。

 

「その私とて、影の中を自在に移動するのは難しい…分かりますか?

つまり貴方が一度影の中に落ちれば、二度とは帰ってこられぬという…」

 

「ハァ~~~~~~~ッ…」

 

シャーヤは嘆声のような吐息とともに、霧を吐き出した。

老人はとっさに飛び下がる。

 

「これは…!?」

 

「どうした?ビビったか?

そうだろな、お前は常に心読める訳じゃないからな」

 

「……!」

 

「それ、仙人の術だろ。

人間が使うのは10秒が限界だし、一度使ったらその分だけ間を置かないと使えない。

だから、いきなり殴りかかってやった」

 

自分の体力を度外視した一撃必殺の拳の乱打を凌ぐため、老人は10秒ギリギリまで読心術を使った。

そしてインターバルの時間を稼ぐため、影を用いた封印術で足止めしたのだ。

だがそこへ、シャーヤの霧が襲い掛かった。

 

「となると?心が読めないお前は、霧にビビて後ろに下がる。

ここまで計算通りだが、どうか?」

 

「どう、と問われましてもな。

いやはや…この程度で追い詰めたと思っておられるなら片腹痛い…」

 

「じゃあ、読んでみろ、心。もう使えるだろ?」

 

「……ッ!」

 

シャーヤの得意とする霧の仙術の一つ、実体のある霧【白縄霧壁(びゃくじょうむへき)】。

この狭い廊下で、白縄霧壁から逃れる方法はない。

背後にじりじりと下がるが、そこにはまだ炎の竜巻があった。

 

「む、う…ッ!」

 

「捕らえろ」

 

霧が集まり、老人を取り巻く。

 

「く、これは…!!」

 

霧の膜はすっぽりと老人を包み込み、白い塊に変えた。

塊はもぞもぞと伸び縮みし、中からくぐもった呻き声が聞こえる。

 

「~ッ!~~!!」

 

「ああ無駄。この霧、よく伸びるし結構硬い。

どれだけもがいても逃げるの無理よ。

そして、外からの衝撃は中に伝える」

 

煙の塊を蹴り付ける。この状態では衝撃を逃がせるはずもなく、鈍い音とともに老人の何かが砕ける。

 

「~~~ッ!!」

 

「骨折れたか。腕か、足か、あばらか?

安心しろ。どこが折れたか分からないくらいグチャグチャになるからな」

 

老人が閉じ込められた白い塊を、容赦なく殴りつけ、蹴り飛ばす。

その度、言葉にならぬ苦悶の絶叫が響く。

 

「…うん、もういいか」

 

動かなくなった塊を摘まみ上げて揺すると、チャポチャポと音がした。

術を解いて霧が剥がれると、中から赤黒い液体が溢れ出る。

肉も骨も皮も混ざり合って、原型のないシェイク状だ。

シャーヤはそれをゴクンと呑み込み、ゲップした。

 

「ジジイの果汁(ジュース)は美味くないヨ。

どうせなら若い女とかが良かったね」

 

 

 

 

 

 

赤い渦の中、男と女は落下していた。

 

「これは…!!」

 

炎の竜巻は際限なく広がりながら、複数の階層を貫いていた。

2人はその中心、台風の目に居た。

 

「これは私の作り出した戦場だよ。キミと戦うためのね」

 

痩せぎすの男が、落ちながら笑う。

 

「さて、このまま地面に激突して終わりというのもつまらない。

そうだろう?」

 

両者は同時に空中で静止した。

2人とも、宙を舞う高度な魔術を習得しているのだ。

 

「お前は…見たところ魔術師らしいけど」

 

「そういうキミは、紛れもない聖女だな!

一度お目にかかりたいと思っていた!」

 

「戦場、だったかしら?1対1でいいの?

この竜巻の中じゃ、援軍も入ってこられないけど?」

 

「そちらこそ、モタモタしてていいのかね?

この炎の渦の中は超高温。私はともかく、キミはすぐ限界が来るぞ?」

 

燃え盛る暴風の中で、男は汗ひとつかいていない。

雨に濡れたかの如く汗だくの聖女とは対照的だ。

 

「蒸し風呂っていうのかしら、こういうの。

お前を殺したら、冷水に浸かるとしましょうか」

 

「冷たいのがお好きかね?よろしい。

ではこういうのはどうかな!」

 

男が前方に冷気を放出する。

聖女アルヴァが飛行軌道を変えてそれを回避するが、髪の端が触れる。

パリパリに凍って、そのまま砕けた。

 

(なんて冷気…!この高熱の中で氷魔法を成立させるだけでも難しいのに…!)

「お前、名乗っていいわよ」

 

「ではありがたく。─我が名はウルボルド・ゼ・キルザーク!!

かつて【輪廻の魔導王】と呼ばれし者なり!!」

 

「魔導王…!?」

 

魔術師としての大成を志す者なら必ず行き着くという、ある魔法学院。

その頂点に立つ者は魔導王と呼ばれ、その時代において最も偉大な魔術師とされる。

 

「…でも、ねぇ。”かつて”でしょう?

何があったか知らないけれど、お尋ね者になった挙句ここに逃げ込んだ卑怯な犯罪者。それが今のお前。

そして厚かましくも、ここですら問題を起こしてる。

過去の栄光に縋るしかないとはいえ、惨め極まる有様ね」

 

「ククク、違いない。

ひたぶるに魔導の探究を求め、輪廻を繰り返し、その末路がコレだ。

だが、今回の事は私にとっても悪くない話だった。

何しろ、ここを占拠した暁には、設備や部屋を我が工房として接収できる訳だからな」

 

「現実見えてる?すぐに鎮圧されるわ。

こんな事をして、あの男が黙っているはずがないでしょう」

 

「あの男?…ああ、ここの支配人の事か?

確かに、この楼閣の全域は奴のテリトリーだ。

だがな、何のためにこの魔導王が手を貸していると思っている?」

 

「…あの男の目を逃れる術があると!?」

 

「そうさ。この【生鶏区】を奴も踏み込めない異界に作り変える。

既に準備は済んでいる。後はキミたちのようなイレギュラーに対応するだけだ。

そもそも、私たちはキミを封じ込めるために派遣されたのだよ」

 

状況は思った以上に混沌としているらしい事を、アルヴァは理解した。

 

「やれやれ…この事態において、一番の貧乏くじを引かされたみたいね」

 

「くよくよしても始まらんよ。全てはなるようにしかならん」

 

「ええ、そうね。

…私を前にした貴方の方が、よっぽど貧乏くじだもの」

 

アルヴァが加速し、ウルボルドへと突っ込む。

 

「!!」

 

いきなり2連の拳をお見舞いし、さらに蹴り飛ばす。

飛んで行った方向へと先回りし、背後から頭を掴む。

 

「速い…な!」

 

「1対1…それも空中なら、周りを巻き込む心配もないからね」

 

そして掴んだ頭を炎の壁に突っ込む。

 

「お前が汗をかいていない理由、分かったわ。体表にバリアを張ってるのね。

でも、この激しく回転する炎の壁に押し付けられても、維持していられる?」

 

「うぐ…ぐ…!!」

 

ギャリギャリと音を立て、バリアが削れていく。

 

「魔法はご立派でも、身体はまるで病人ね。

女の腕力にも勝てないのかしら?」

 

「女というか…人間の腕力とは思えんがねぇ…ッ」

 

凄まじい力で押さえつけられ、身動きが取れない。

 

「炎の竜巻を消す?それともバリアが壊れるまで耐える?」

 

「ぐぐ…ぐぅおおおッ…」

 

「あら、もう遅いか」

 

甲高い音とともに、バリアが砕け散った。

即座に引火して、ウルボルドが燃え上がる。

 

「がぁああああ…ッ!!」

 

「『来たれ』。『我が魂を救い給え。そして赦し給え』。

…これでやっとこのカードが使える」

 

手元に残った1枚のカードをめくる。

 

「【宿命の刃】…!」

 

【宿命の刃】コスト5 無

・対象の座標に斬撃を発生させる。

 

「がぐッ」

 

ウルボルドの首が飛んで、落下していく。

アルヴァが身体を放り捨てると、2つは並んで落ちていった。

 

(あの身体…かなり軽かった。ほとんど半死人状態。

そんな体調であれだけの魔術を使えたんだから、魔導王とは大したものね)

 

敵が万全であれば危うかっただろう、そう思いながら死骸を見下ろしていると…

 

(……!??)

 

身体が落ちながら頭部を掴み、首の上に乗せる。

…そして、くっつけた。

復活したその死人は、身体を覆う炎を掻き消して、アルヴァのいる高さまで浮上してくる。

 

「…全く、いい教訓になった。

リスクを支払わずに大きな成果は得られない…当然の事だったな」

 

「いやいや…首を刎ねたら死になさいよ、人間として!」

 

「ん?ああ…この身体はな、キミの言う通り病人なんだよ。

作り変えたとはいえ、所詮は人間の身体。100年も使えばガタが来る。

その上、呪いと病魔に侵されていては…」

 

「そんな死にかけが、どうして生きているのかと聞いてるのだけど?」

 

「自己再生術式でな、辛うじて維持している。

だからこれ以上の負荷はかけたくなかったのだが…うむ。

それでは勝てぬと理解した!」

 

ドクン、と外から聞こえるほど激しく心臓が脈打ち、痩せこけた身体が膨れ上がる。

 

「ふぅ~ッ…!やはり、キツい…な!

だがリスクを取ってこその見返りだ、そうだろう!?」

 

「病人が無茶をするものじゃないわよ」

 

「大丈夫だ…!キミの身体を貰うからな!」

 

「なんとなくそんな気はしてたけど…輪廻ってのはそういう意味…!」

 

輪廻の魔導王、ウルボルド・ゼ・キルザーク。

おおよそ1500年前の魔導王であり、延命や知識の蓄積のために延べ100人以上の肉体を乗り換えてきた。

地水火風の4属性とその組み合わせによる魔術、加えて闇魔術、呪詛、神通力、仙法を使いこなす。ある方面において、魔術師の極致と言える犯罪者である。

 

「聖女よ…全力をもってキミを屠ろう…!!」

 

〈つづく〉

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