異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第101話 裁きは下った

【亀甲楼】の安全区画を上下に大きく貫き、炎の竜巻が発生している。

竜巻の中心には、それを発生させた術師と聖女がいた。

ここは2人の戦場だ。

 

「あまり時間がない!手早く片付けよう!」

 

「だったら、こっちは持久戦を取らせてもらおうかしら」

 

筋骨隆々の男が、空中を高速で移動しながら光を追う。

1500年を生きる魔術師の王【輪廻の魔導王】ウルボルド。

 

「いいのか?その余裕があるようには見えないぞ?

この高温の環境で、いつまで体力が持つだろうな!」

 

光を放ちながら優雅に飛翔する女。

聖女に例えられる者は数あれど、”聖女”と名乗る事を許されるのは彼女以外にない。

【聖女】アルヴァ。

 

「だとしても、先に力尽きるのはお前です!

ただでさえ衰えた肉体を、無理やりに駆動させているのだから!」

 

「私には自己再生術式がある!

そのしぶとさは、私の首を刎ねたキミが一番よく分かっているだろう?」

 

ウルボルドは一度首を切断された。

だがこうして、未だ生き続けている。

生半可な手段では殺せない。

 

「いいでしょう…ならば正面から受けて立つ!

『来たれ』。『我が魂を救い給え』!」

 

アルヴァの眼前には5枚のカード。

 

(すでに神聖マナは10まで溜まっている。

ならばあえて手札を減らしてまで貯めずともよい…!)

 

聖女の魔法【天命占術】は、デッキからカードを引いて扱うランダム性の高い術。

だが先の戦闘でターンが進み、高いコストの術も使用できるようになった。

短期決戦を仕掛けるなら、余計な手間は省かねば間に合わない。

 

「行け!【神竜の咆哮】!!」

 

【神竜の咆哮】 コスト5 聖

断罪3:対象の悪魔等級が3以上の場合、このカードはコストを支払わずに唱えてもよい。

・聖なる光で広範囲を焼き尽くす。

 

「ほう、これは素晴らしい神聖魔法…!」

 

だがウルボルドは黒いエネルギーを生み出し、相殺した。

 

「ハハハ、確かに我が魂は魔に染まり尽くしているが!

私は教会から悪魔認定を受けてはいない。これでもれっきとした人間でな!」

 

(コスト軽減はできなかったか…まぁいい、ダメで元々。

どんどん仕掛けて、判断力を奪う!)

 

更にカードをめくる。

 

「【翠竜の口笛】!」

 

【翠竜の口笛】 コスト5 風

疾風:このターンに発動された風魔法の回数分、このカードのコストを軽減する。

・見えざる風の刃で敵を撃ち抜く。

 

「ぐおおおッ、これは!?」

 

右腕を斬り落とされたウルボルドは、追跡を辞めて空中で止まる。

 

(ただの魔法であれば、瞬時に分析・解体できるが…さすがは聖女の魔法!

欲しい…この魔法が、あの肉体がッ!)

 

魔導王の内で研究欲が燃え上がると同時に、右腕を再生させる。

 

「いいだろう、では返礼を受け取ってもらおうか!!」

 

聖女を挟むようにして、大きな岩が2つ出現する。

 

「地・火二重奏…【灼岩砲】!!」

 

岩が隆起して小火山を形成、溶岩流の十字砲火が聖女を襲う。

当然回避するが、ウルボルドの五指から呪詛が放たれ追尾してくる。

 

「くッ…『来たれ』。『我が魂を救い給え』!」

 

「させんよ!」

 

瞬間的にアルヴァの目前まで移動し、殴り飛ばす。

ただの拳ではない、霊力を乗せた一撃。

 

「痛ッ…!」

 

「金縛りの術だ!」

 

相手に付着させた霊力を使い、動きを止める仙術の一種である。

 

「かッ…身体、が…!」

 

「水・火・風三重奏…【極神災】!!」

 

雷雲が取り囲み、暴風と雷撃が荒れ狂う。

たった1人の人間に、天災そのものが殺意をもって襲い掛かるようなものだ。

身動きの取れぬ者へのトドメとしては、度を越している。

ウルボルドがいかに全力で、油断なく聖女を仕留めようとしているかの現れだった。

 

(…否。肉体を奪う事を計算に入れても、まだ足りぬ!)

 

だがまだ安心しない。ウルボルドは追撃を構えた。

 

「詰めを誤りましたね。

動けぬ私にトドメを刺すなら、素手で殺ればよかったのに」

 

「!!」

 

雲が、雨が、雷が、風が消える。

アルヴァが示したカードの絵は、黒く塗りつぶされていた。

 

「カードは、発動する意志さえあれば動けなくても使えるの」

 

【黄泉の瘴気】 コスト10 死

・いかなる神秘をも否定し、それを破棄する。例外はない。

 

(無効にしたのか…?災害級の大魔法だぞ…!?)

 

「それと…」

 

黒塗りのカードをずらし、もう1枚のカードを見せる。

 

【烙印拝領】 コスト0 火

・火の刻印を2つ置き、刻印の数が5つ以上なら火属性のカードを1枚手札に加える。

 

「私とあの剣士の戦いを見てたお前なら、覚えているでしょう?

この手に刻まれた印を…」

 

アルヴァの手の甲には、指の付け根ごとに炎の紋様が刻まれていた。

つまり5つ。

 

「出でよ…【火砕獣アロガーン】!」

 

炎を纏った岩のような皮膚、大きく裂けた口にギロチンのごとき歯が生え揃った怪物が出現する。

 

【火砕獣アロガーン】 コスト6 火

刻印解放:このカードを唱える時、コストを支払う代わりに、プレイヤーに置かれた火の刻印を5つ取り除いてもよい。

・火砕獣アロガーンを召喚する。

 

「はッ、召喚魔法か!それがどうしたァ!!」

 

勢いよく食らいついてくるアロガーンを、津波のような水流で押し流す。

 

「属性を孕んだ魔獣なら、対応する属性で無力化すればよい!!」

 

「でしょうね。ただの囮だよバァカ!!」

 

水流を突き破ってアルヴァ本人が迫り、格闘を仕掛ける。

 

「『来たれ』!『我が魂を救い給え』!

さぁ、この距離で回避はさせない!!」

 

「……お互いになァ!!【至大絶命仙界諦呪】!!」

 

ウルボルドが先手を打ち、凝縮した死の呪いを浴びせかける。

飛沫の一滴一滴が即死の威力を持つが、ごく短距離でしか効果を発揮しないものだ。

聖女が怪物を囮にして接近してくる事までを読み切って、密かに編み上げた呪詛。

──しかし、聖女の魔法は、千年を生きる魔術師の予想をも超えていた。

 

「この瞬間、反撃魔法(カウンターマジック)【神の臓腑】を発動する!!」

 

カードから波動が放たれ、呪いが吸い込まれていく。

 

「馬鹿な…我が暗黒呪術の神髄を…!?」

 

呪いは一滴残さずカードに取り込まれ、消えた。

 

「魔導王にここまで近づくんだから、対策済みに決まってるでしょう…!

いいから黙って死ね!!」

 

アルヴァの手刀が胸板を貫き、心臓を掴む。

 

「がは…ッ」

 

「自己再生術式さえ摘出すれば、復活はできない!

魔力が一番集まる場所といえば、心臓でしょ!」

 

「……その、心臓に」

 

ウルボルドは腕を掴み返し、獰猛に笑う。

 

「その心臓に!この私が!何の仕掛けも施していないと思ったかァ!!」

 

胸から黒いものが溢れ出し、聖女の腕に巻き付く。

 

「これは暗黒の封印術!聖なる者を捉えるために編み上げた技だ!

闇の術以外で破壊する事は出来ん!」

 

「クソッ…絡みついてくる…ッ!!」

 

「そして、聖女は闇の術を使う事も習得する事も出来ないのは知っている!

運命視の魔術で、キミと戦う事は予知していたのでな!」

 

これは聖女と戦う事が決まった時から、特別に開発し仕込んでいた術。

聖女を縛る事に関してはこの世で最も優れている。

 

「その身体…その魔法!奪わせてもらうぞ!!」

 

「誰がッ…!クソッ、この術…!!」

 

聖女の目が、一瞬逡巡する。

 

「…仕方ない、か!」

 

手に持った【神の臓腑】のカードを噛み千切る。

 

「なッ…いったい何を…!」

 

【神の臓腑】 コスト7 聖

・術を吸収し封印する。

吸収した術は、カードを破棄する事で解放できる。

 

「確か、暗黒呪術とか言ってたよね?

この闇の術なら、封印を壊せるんじゃない?」

 

放り捨てたカードの破片から、ドス黒い死の呪いが溢れ出て封印術を侵す。

そして脆くなった拘束を引き千切った。

 

「な、なんと捨て身な…!」

 

「捨て身なのはここから。

私は聖女の身でありながら、闇の術を使うという禁忌を侵した。

天の裁きが下る─」

 

天井を破壊して、白い雷が聖女を撃つ。

同時に、ウルボルドをも撃ち抜いた。

 

「がぁあああああああッ!!?正気か聖女ォオオオオオッ!!」

 

「いいじゃん。罪は浄化され、悪も滅びる。一石二鳥ね」

 

目・鼻・口から血を噴き出しながら微笑んだ。

 

「…認めぬ、認めるものかよ!!」

 

「いいや認めてもらう。アロガーン、やれ!」

 

まだ足掻こうとするウルボルドの下半身に、炎の魔獣が齧りついた。

 

「まだ生きていたか、獣がぁ!!」

 

上半身を切り離して逃げようとする。

その頭を掴み、詠唱した。

 

「『来たれ』!『我が魂を救い給え』!」

 

手札は0枚、引いたカードは…

 

「…神は、お前に『死ね』と仰せです。

受け入れなさい。【シュハーレナの鉄槌】を」

 

【シュハーレナの鉄槌】 コスト10 聖

断罪5

・巨大な光のハンマーを生成し、極熱と質量で圧し潰す。

  

「ぉおおおおのれぇええええええッ!!」

 

光の円柱が出現し、ウルボルドを捉えて落下する。

もはやそこから逃れる力はない。

 

(馬鹿な…私は輪廻を繰り返し…魔導の探究を…!

死ぬ訳には、死ぬ訳にはいかぬ…!!)

 

もがくが、光の塊はウルボルドを潰しながら床へと墜ちていく。

 

(…そうだ!強い光には濃い影が生まれる!

あの術を使えば、あるいは…!!)

 

地面に着弾し、猛烈な衝撃を生み出す。

周囲を取り囲む炎の渦が消え去った。

 

「…さすがに、死んでくれると嬉しいんだけど」

 

聖女はふわりと降り立ち、着弾地点を確かめる。

 

「…殺した、のか?」

 

元が何であったかも分からない残骸を掻き分け、覗き込む。

クレーターの中央には、なにかの消し炭が散乱しているだけだった。

 

(……っ)

 

彼女は不意に嫌な予感がし、元居た階へと飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

キルエが老人に痛めつけられるのを見ながら、チンフイはこっそりと這いながら自室に逃げ込もうとしていた。

 

(アイツ、俺が人質にされても全然見捨てようとしてたな…)

 

その時の事を思い出しながら、一切不快感を感じていない自分を感じていた。

 

(普通あの状況で見捨てられたら絶望するはずなのに…アイツに見捨てられるのは、全然いい。

何でだ?俺らが友達だからか?でも、友達って助け合うもんだろ?)

 

今までも、助けてやりたい人間は多くいた。

だが結局、自分の身を削ってまで助けようとは思えず、それ故に友人を求めなかった。

その程度の感情しか持てなかったからだ。

 

(なのに、死のうが全然どうでもいいアイツの事を、俺は友達だと思ってる)

 

ふと、血みどろで襲われているキルエと目が合う。

目を逸らす気にはならなかった。後ろめたくないからだ。

 

(悪いな。俺は逃げるぜ)

 

キルエの目が笑ったように見えた。

 

(さ、部屋に入るか。バレないように…)

 

バンッ!と勢いよく扉が開けられ、仮面の巨漢が現れた。

そこからはもう一方的だった。

 

(なんか…助かっちったな)

 

(そっすね)

 

キルエとアイコンタクトで意志を通わす。

互いに見捨てたばかりなのに、気まずいどころか連帯感があった。

 

(やっぱり、俺ら友達かもな)

 

声を掛けようとした瞬間、口が押えられた。

 

「ッ!!?」

 

「すまんな少年。キミを人質にさせてもらう」

 

自分の影の中から手が伸び、チンフイを拘束していた。

 

「ふぐ、うぐぐ…!」

 

「…ッ!?おい、ちょっと待っ…」

 

キルエが駆け寄ろうとしたが、瞬時に影の中へと引きずり込まれて消えた。

 

「……」

 

唖然としていると、大穴から女が飛び上がってきた。

 

「大丈夫!?敵はどうしたの!?

……ど、どうしたの黙っちゃって」

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそ【亀甲楼】へ」

 

長衫を来た男が、新たな来訪者に頭を下げる。

同時に、ズズンと大きい揺れがロビーを襲った。

 

「妙に騒がしいな。【生鶏区】の方か?」

 

「はい。大変申し訳ございません、現在迷惑行為が多発しておりまして。

いつも通り【生鶏区】にお泊りになるのでしたら、少々お待ちいただけますでしょうか?

まもなく鎮圧完了いたしますので」

 

「いや、今日は泊まりに来たんじゃない」

 

「……と、おっしゃいますと?」

 

長髪に道士服の来訪者は、警戒を解かせるように爽やかな笑みを浮かべた。

 

「いや、なに。弟の危機を助けるのは兄の役目だからな。

ここに来ているのだろう?チンフイが」

 

「……」

 

「いや、答えなくとも良い。宿が客の情報を外に漏らす訳にもいくまい。

だが、何としても中に入れてもらうぞ」

 

穏やかだが、有無を言わせぬ声。

スタッフの男はしばらく押し黙っていたが、突然びくりと震え、ボソボソと小声で呟きだした。

 

「…はい、はい…では、よろしいのですね?

お待たせいたしました。ご案内させていただきます、ホンレイ様」

 

「うん、ご苦労様」

 

退魔の名門、シャン家の新たなる当主シャン・ホンレイは、弟を救うため【生鶏区】へと入っていった。

 

〈つづく〉

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