異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第9話 籠の鳥

宿を貸してくれたヴァン老人は、吸血鬼となって暗躍していた。

だがそれはどうやら、キルエの物語で片付ける話ではないようだった。

ゆえにキルエは、その場を埋葬衆の笑06に任せて去った。

 

そして自身の物語に納得のいく区切りをつけるため、己の『最悪の想像』という伏線を回収しに向かった。

 

(音がしたのは…ここ、か。やっぱりそうなのか…)

 

街で一番の人気を誇る酒場、【血塗れの牡牛亭】が倒壊していた。

その原因となるのは、眼前の2名だとすぐに分かった。

 

青白い肌と長髪の美丈夫。

 

(なんか雰囲気違うけど、アレは知ってる。俺と同じ余所者扱いされてた奴)

 

もう一方は、白髪と真紅の瞳を月明かりに輝かせる、美しい女。

 

(あっちは…)

 

「昨日は殺し損ねた。まさか聖銀の刃で脳を焼いても死なぬとはな」

 

男が言う。

 

「キャハハハッ!

当たり前よ、私は第一吸血主(ファーストブラッド)によって吸血鬼にしていただいた、最上級の吸血鬼!

人間風情がアタシを殺せるはずがないでしょう?」

 

吸血鬼は、吸血行為によって種を殖やす。

そして最初の吸血鬼に近ければ近いほど、強大な力を持つ。

 

この世界において【第一吸血主】と呼ばれる者は1人しかいない。

原初の吸血鬼、魔界七王が1人【赩龍王(そうりゅうおう)】ドラグ・ガン・ヴァイン。

 

「あの男がこんな街に来て、お前のような一般市民の血を吸ったと?

…ありそうな話だ。あの男は笑えん冗句(ジョーク)が得意だからな」

 

「人間ごときが軽々しく知った口を利くじゃない?」

 

「お前よりはよく知っている。アレは私の父だ」

 

「なんですって?バカな事を…いや、その目…!」

 

何やら盛り上がっているので、キルエのため息は深く大きくなる。

 

(ま~た俺の関係ない物語っすか。

ま、いいや。確認するだけして帰ろ…)

 

その時、男の背後に何かが近づいているのが見えた。

 

「…おいロン毛!後ろ後ろ!!」

 

「ッ!」

 

男は瞬時に背後からの攻撃に反応、赤い刀身の長剣で受け止めた。

 

「ぅ痛でぇえええええっ!?」

 

「これは永劫を断つ剣、不死なる貴様らとて痛かろうよ」

 

「本当に使えないやつ。不意打ちくらいこなしなさい!」

 

そしてその場の注目が一気にキルエへと集まった。

 

「ロン毛…たしか長髪の事だったな。助かったが、次からはもっと分かりやすく頼む」

 

「あら?人間がもう一匹…あなたは…」

 

(うわっ、皆こっち見た…!

いや、むしろちょうどいい。話の腰を折るのは気が引けるからな)

 

彼としては、他人の人生に首を突っ込むつもりはない。

だから『最悪の想像』の答え合わせだけできればそれでよかった。

 

「え~っと、ちょっと聞いてもいいっすか。

あの、そっちの吸血鬼。そうそうあなた、女の」

 

「気安く呼ばわるじゃないの、人間ごときがさ?」

 

「あんた酒場のミアーダさんでしょ」

 

「……っ!」

 

きっぱりと問うてみせた。

今やためらうほどの気持ちの余裕もなかった。

 

「ええと…キルエ、だったっけ?」

 

冷酷な魔族の目が、まるでスイッチで切り替えたかのように穏やかになる。

 

「今日は仕事休みだったの?上司の無茶にはちゃんと無理って言えてる?」

 

「ええ、おかげさまで今日はサボっちゃいました」

 

「それはよかった。アタシの事は、いつから気づいてたんだい?」

 

「気付いてた訳ではなく、可能性として考慮してただけです。

最初に会った時、こんな肌寒い季節に『暑かっただろ?』なんて言われたので。

まぁ寒いと暑いを言い間違える事くらいよくあるし、気のせいだと思ってました。

でもジジイが『吸血鬼は日光が暑い』みたいな事を言ったんで、確かめに来たんです」

 

「あら、ヴァン・ダイン爺さん。アイツもうバレたの?」

 

人外の顔つきに戻る。人間の命に家畜以下の価値も見出していない目に。

 

「やっぱり第三吸血属までいくと全然ダメね。まるで使えないゴミだわ」

 

「なるほど、そっちの吸血鬼もお前の眷属か」

 

吸血主と呼ばれるのは第一と第二のみで、第三からは吸血属と呼ばれて能力も格段に落ちる。

それでもなお、首を刎ねられても死なぬ不死性はあるのだが。

 

「へへ、どうも~!ケルス・ベスティってのが人間の頃の名前っす!」

 

「しくじって捜査官まで殺したバカな男よ。

おかげで警戒が強くなりすぎて動きにくいったらないわ」

 

「すいやせんね、うっかりさんなもんで。

で、姐さん…」

 

「姐さんはやめなさい。でも、そうね。

片付けておきなさい」

 

少年の前に、軽薄な男が立つ。

 

「あ~ちょっとちょっと!待ってよダメだってば!

勝手に行かれたら困るなぁ~」

 

「あの。俺はこの話に関係ないので、もう街を出ようかと…」

 

「それがダメなんだって。大人しくしててくれたらすぐ終わるからさ」

 

「なんでどいつもこいつもいちいち俺に絡んでくるんだよ、バカか?

何も言わないって!俺は厄介事に関わりたくないだけだ!

そっちで勝手にストーリー進めてろ!!」

 

ケルスは肩を竦めて回答に代えた。

 

「…ああそうかよ。どっかでいつか野垂れ死ぬだけの俺がそんなに怖いってのか!?

もういいだろ、俺は誰の人生にも大して影響しない道端の石ころだ!」

 

「石ころに躓く事もあるっす。ちゃんと処理しないと…」

 

言いかけた男の首が高く飛ぶ。

 

「痛でででで!?」

 

「逃げるのだろう。早く行け」

 

「…どーも、助かります!じゃあ吸血鬼退治頑張ってー!」

 

躊躇なく逃げ出した少年に、今度は闇の女主人が立ちはだかる。

 

「だ~め。逃げられる訳ないでしょ?」

 

「チィッ…!そんな小僧にかかずらっている場合か!

吸血鬼狩りを前にして、随分と余裕だな!」

 

「あなたこそ!私とそっちの雑魚、力は隔絶した差があるとはいえどちらも吸血鬼。

吸血鬼2人を相手にこの坊やを守り切るつもり!?」

 

「フン。なんだ、脅しのつもりか?よほど私が怖いとみえる…」

 

「もういい、分かりましたよッ!!」

 

キルエはその日一番の大声で叫んだ。

朝からろくに声を出していないので、むせた。

 

「ごほッ、ん゛んっ…はぁ。

そんなに石ころをどけたいなら、好きにすればいい。

ただし。蹴っ飛ばした石ころがどこに飛んで、その結果どこを怪我したとしても、後悔しない事ですね」

 

「あら、格好いい事も言えるのね!」

 

「おい。これは親切から言うが、吸血鬼は並のやり方では殺せんぞ!

そして何より貴様の前にいるその女は、まちがいなく貴族(ノーブル)級!それも公爵クラスの力が…」

 

「あーはいはい」

 

不死だろうが殺せる心当たりはあった。

だが同時に、これは『何もかも解決できる奥の手』ではなかった。

この世に『必殺技』などという都合の良いものは無いのだ。

 

「これ本当は使いたくないんです、危ないし、上手くいくか分かんないし」

 

「へぇ、命がけなんだ?

ふふ…傭兵でもない子供に何ができるか、お姉さんに見せてちょうだい?」

 

本来なら、あの魔族の伯爵もこの術で殺す予定だった。

術の反動は未知数で、だからこそ彼はあの時死ぬつもりだった。

…だが結局使う必要はなく、命拾いした。

 

「聞け!死すべき定めの者どもよ。

断末魔こそ我らの歌。怨嗟の叫びが鬨の声」

 

 

これはある時、あの黒い触手の神を呼んで聞いた事だった。

『う~む、お前の言いたい事は分かる。戦いに使いづらい術ばかりだ、と。

確かに事前に準備がいるものばかりだが…ひとつ良いのがあるぞ』

 

 

「いざや叫ばん!我が名は悪魔(キルエ)!」

 

 

『祖先の霊をその身に降ろし、積み重ねた戦闘技術や経験を借りる。

本来はそのような術だったが、時代を経て進化…いや異形化していった。

自らの肉体を祖霊の怨念で満たし、ひとつの呪いそのものとなる術』

 

 

「呪い重なる血脈の果てに立ち、我らひとつの呪詛と成らん!!」

 

 

『その名を…【命を殺す法】。一度使っただけでも、その肉体がどうなるかは分からん。

何しろお前は最後の生き残りにして当主。極めて呪術的価値が高い。

呪いが強まりすぎて、戻って来られなくなるかもな!ハハハ!』

 

 

「ホント、他人事だと思って笑いやがって…」

 

足元から赤黒い汚濁が湧き上がり、中から複数の人間の骨が混じり合った怪物が出てくる。

もはや原形を失った祖先たちの悪霊である。

 

「ア、ア……」

 

その手には、頭蓋骨を宝石と黄金で飾り立てた仮面。

キルエは粗雑に奪い取り、怪物を蹴り飛ばした。

 

「早く渡せボケ」

 

「な、なんなの…それは」

 

「あ、これ?仮面です」

 

「何をするつもりと聞いているのよ!」

 

「仮面は、被るもんでしょう」

 

仮面を顔に当てると、汚濁が溢れ出て少年の身体を覆っていく。

 

「なんか、これ被ると強くなるんだそうで」

 

元々魔術や呪術の知識など全くない一般人だったミアーダは、内心そのおぞましい姿に気圧されていた。

 

「あ、あら、そう!だったら何なの?人間の術ごときで、この私が…」

 

切断された腕が宙を舞う。

 

「あっ?あ…」

 

3秒後、高速で縦に回転する動きで接近・攻撃されたのだと気づく。

 

「これが壱の舞、【殺車(ギル)】。で、次が…」

 

横回転の斬撃を慌ててかわす。

 

「こんな単純な、ただの力押しで!それも、人間なんかの力押しでこの私を…」

 

少年は突如姿勢を低め、両足を切断した。

 

「弐の舞、【旋鬼(メラ)】」

 

「きゃあああっ!?こ、このっ…」

 

翼を生やして飛翔し、空中で手足を再生させた。

 

「ふざけんなこのクソガキっ!私は選ばれた存在よ!

そんなもので私を殺せるとでも!?」

 

吸血鬼が手を上に掲げると無数の光が生じ、降ろすと同時に降り注ぐ。

 

「吹き飛びなさい!

そんなちっぽけな刃物でっ、ナイフなんかでどうにかでき…」

 

超速度の跳躍が、キルエの肉体を一本の槍に変えて吸血鬼の腹に穴を穿つ。

 

「ぐぎょっ…!?」

 

「ダメだなミアーダさん。参の舞は刺突だよ、距離なんか取ったら思うつぼじゃん」

 

「ッ、く!」

 

ミアーダの身体が無数のコウモリの群れとなって分裂する。

 

「ハハハ。必死すか」

 

「「「黙りなさい下等種!!もう手加減なんてしてあげないわ!!」」」

 

「うぉっと…あだだだだ!」

 

群れが呪面の戦士に襲い来る。

刃のような翼が全身を切り刻んでいく。

 

「驚いたぞ、意外に()れるようだな!

…では一つ教えてやる、吸血鬼はコウモリの群れになっても、中に核となる1匹がいる!

お前なら捉えられるはずだ!」

 

「コラコラ吸血鬼ハンターさん。人にアドバイスしてる場合っすかあ?

ぼっ立ちしてたら死んじゃいま…」

 

赤い剣の切先が五芒星を描き、ケルスの首と四肢を切り落とす。

 

「あっ?」

 

「驕るな。お前1人ならいつでも殺せた」

 

「な、にを…!」

 

「まだ再生できるか。だが再生力は着実に落ちてきているぞ。

いいから大人しくしておけ、お前は後だ」

 

寄り集まった肉塊が、メキメキと音を立てて変形、硬質化していく。

 

「お、れを…雑魚扱い、すんじゃねぇ…よ!!」

 

「チッ、土壇場で壁を超えたか…面倒な」

 

下等な吸血鬼でも、絶命ギリギリまで追い詰められると突然限界を超える事がある。

 

「俺は、選ばれた存在に、生まれ変わった、んだ…こんな所、で…!」

 

場が混沌としてきたその時、キルエは冷静に全体を俯瞰していた。

 

(しょーもな。な~んで皆して生まれ変わりたがるかねぇ。

どんな力を得たって人間そんな変われないと思うんだけど)

 

それは実際死んで生まれ変わった彼の経験則だった。

まったく別人になっても何も変われない自分の無様さを知っているキルエにとって、『生まれ変わった』くらいで特別になれるなど戯言もいいところだ。

 

(あっちの吸血鬼はロン毛に任せときゃいいか。

さて、問題はミアーダさんの方だけど…)

 

ボーっと物思いにふけりながらも、肉体はコウモリの猛撃に適応しつつあった。

 

(よし、目が慣れてきた。

…あのコウモリだけ色が違うな。アレか!)

 

そして群れに正面から突っ込み、ナイフの切先を波打つように滑らせ、1匹だけ狙って刺した。

 

「いだっ…クソ、クソぉっ!!」

 

コウモリは渦巻いて一体となり、女の姿を再形成する。

 

「この、バカが…ッ!

全身ボロボロのくせに、無駄に食い下がりやがって!!

アンタがアタシに勝てるハズ無いんだから、とっとと諦めて死ね!!」

 

焦りからくる負け惜しみのような台詞だが、実際のところミアーダの肉体に傷はなく、キルエの全身は切り傷まみれだった。

 

(そうなんだよなぁ…この技普通に使いづらいんだが。

いやもう、なんでもいいか…)

 

流星のように降り注ぐ赤い魔光をかわし、ミアーダに近づく。

 

「このッ…このッ!!」

 

「第伍…陸?え~と、もういいや」

 

腹部をめった刺しにしつつ喉元を掴む。

 

「痛っ、いだだぁ!や、やめろっこの!!」

 

(こんだけ刺しても『痛い』だけっすか。こりゃ勝てないかな)

 

【命を殺す法】。歴代当主が編み出した13の戦闘舞踊をその身で再現する。

壱から拾参までの舞は全て一連の『振り付け』であり、全ての攻撃を順番通り当てた上で踊りきる事で、対象を死に至らしめる呪いの踊りだ。

 

(無理ゲーなんだよな~そもそも。肉体の負担に見合ってねーっつの。

こんなエクゾディアみたいな術使ってらんねーわ、やっぱ)

 

なるほど強力な術ではあるが、戦いを現実的な目線で見ているキルエにとっては、やはり無用の長物という印象が強かった。

 

(しゃあねぇ、時間稼ぎモードに入るか…)

 

女の耳元で冷たく囁く。

 

「吸血鬼がなんだ、公爵がどうだとか言ってるけどね、ミアーダさん。

今この状況。けっこう予定と違うんじゃないすか?」

 

「な、なんですって…!」

 

宝石で飾られた髑髏面には、何の表情も浮かばない。ただ淡々と告げていく。

 

「お互い、だいぶグダグダ殺し合ってますが。

たぶんスマートかつ一方的に蹂躙するつもりだったでしょ?

でもしょせん酒場の女が、いきなり戦ってすんなり勝てるなんて見通し甘いんですわ」

 

「ッ…その物言い!!まるで傭兵の方が世間を知ってるとでも言いたげに!!

旦那もそうだったわ、ベラベラ戦場の話なんて偉そうに語って!

アタシが何も知らないって!?アタシがこの街に閉じ込められてるのは、アンタらのせいじゃない!!」

 

(はは、ヒスってら。でも隙あり)

 

首筋にナイフを突き立て、力任せに引き下ろす。

 

「ううううがああああッ!!痛いんだよ、ガキが!!」

 

吸血鬼の膂力で思い切り蹴り飛ばされ、地面を転がる。

 

(あー痛ぇ…あちこち折れたなコレ。だから嫌だってのに!

いちいち絡みやがって、ああもうウゼぇな…)

 

「アンタらがいくら偉そうにしたって、結局戦争は終わらない!

アタシはいつまでもこの街にいるしかないっ…何が酒場の華よ!!

アタシはこんなつまらない街のくだらない酒場で一生を終えるなんて嫌!!」

 

まくし立てて、突然黙ったかと思えば笑い始める。

 

「ウフ、フフフ…でもね、あのお方!あのお方がアタシを自由にしてくれた!

この高貴な力…そして永遠に美しい身体!

やっぱりアタシは平凡な酒場の女で終わらないのよ!!」

 

「あァ、痛ぇ痛ぇ……あ、傷がね?

ミアーダさんの事イタいなんてこれっぽちも思ってませんから!」

 

背筋のみを使い、ゾンビの如く立ち上がってみせる。

 

「な、何なのよ…痛いんでしょ!?傷だってすぐは治らないのに!

なんでそれが分かってて戦いに行くのよ、男どもは…!

明日生きて帰れるかも分からないくせに、はしゃいでんじゃないわよ!

残された女はどう待てばいいってのよ…」

 

ミアーダは自分が圧倒的に有利である事も忘れ、恐怖と困惑に頭を抱えた。

彼女は傭兵の街で生まれ、傭兵に娶られ、傭兵相手に商売をして生きてきた。

だが未だに傭兵のことが分からない。

 

「俺に聞かれても、俺傭兵じゃないんで。

それに……あ」

 

仮面がボロボロと崩れ、全身を覆う呪詛と共に塵に還っていく。

【命を殺す法】の効果が切れたのだ。

 

「あ、アハハ!お、脅かさないでよ!

もう限界じゃない!!」

 

「いや、これは肉体がもたなそうだったので、自分で解除しました」

 

「あっそう。死ぬ覚悟が決まったわけ?

いいわ、だったらとびきり派手に逝かせてあげる!」

 

女魔族が両手を掲げると、赤い光が無数に生じた。

 

「あなたの事、けっこう嫌いじゃなかったわ。

この街に少ないカワイイ子供だったし。

最期の言葉くらい聞いてあげ…」

 

「特に無いです。ていうかどうでもいいです、お疲れ様っした」

 

「…そう、アタシの好意を無碍にしたいんだ!?

いいわよッ!じゃあ死……あぇ?」

 

背後から、真紅の刃がミアーダの心臓を貫いた。

 

「やっぱトドメは主人公さんにお任せします」

 

「な…ケルス、は…?」

 

「手こずったが、殺した。少し覚醒した程度で吸血鬼狩りの私を殺せる訳がなかろう」

 

「う…嘘?なんなのソレ、急にふざけないでよ!

さっきまで1対1ずつでやってたでしょ…!?」

 

「だからやっぱり、何にも分かってないじゃないすか。

普通、手が空いたら加勢するでしょ」

 

戦闘が生活の一部となっている者と戦闘経験に乏しい者の、決定的な差だった。

戦闘を知らぬからこそ戦闘に没頭し、普段なら気付けるはずの道理を忘れる。

 

「う…で、でも!こんな剣でアタシを殺せるとでも…!」

 

「不死の王、是に在り。

彼の者、肉の丘を征し、骨の城を築き、血の美酒に酔う。

栄華は万夜続けども、いずれ滅びて朽ちるが定め。」

 

「な、なんなの!やめなさ…なんで、ウソ、やだ、抜けない…」

 

「故に、呪われし父の名において告げる。

『此処に死すべし』…其は自由に囚われし女公。名を示せ!」

 

「ぐぎゃっ!???あ、え?な、な、なんで、あた、アタシのくち…あ」

 

ミアーダは困惑した。なぜか『あの言葉』が、意志に反して勝手に口をついて出る。

 

「わ、わわ我が名は…【籠翼公】ミア・ゴド・ヴェルヒ……!」

 

ミアーダの、『ミアーダ』でない名前。

 

「な、なんで、あの方とアタシだけの、秘密の名を…!」

 

「それが父の与えた名か。『籠の中の翼』…悪趣味な事だ。

…【籠翼公】ミア・ゴド・ヴェルヒ。歪んだ汝の名を返す。

人として死ね」

 

「い、嫌よ…そんなの、やっと、やっと手に入れた自由なのに…!

い、や…」

 

刺された所から、風化するように崩れながら血が噴き出す。

 

「あ…」

 

心臓を刺されれば、人間は死ぬ。

女は倒れて、もう動かない。

 

…俄かに歓声が沸き上がる。

騒音に目覚めた住人たちが、こっそりと見ていたらしい。

 

「お~お~騒いでら。こんな子供に戦わせといて勝手な奴らだ。

…さて、お疲れ様です。なんか必殺技的なアレすか?今の」

 

「高位の吸血鬼を殺すための術だ。

父は彼らに名を授け、力を与える。それを剥奪し…」

 

「あっ、いいっす説明は。すいません余計な事聞きました。

で?これからどうするんですか?

『いつか吸血鬼の王である父を殺すため、吸血鬼ハンターの旅は続く…〈to be continued〉』

って感じですか?」

 

「なぜ私の目的を知っている?話したか?」

 

「いやヴァンパイアハンターの父親が吸血鬼の王って…いかにもな設定過ぎて。

だいたいそういうストーリーと相場が決まってるんで分かっちゃいますよ」

 

「お前の言う事は分からんな。だが世話になった。

私はもう行くが、お前はどうする」

 

「俺はもうダメそうです」

 

「そうか?そうは見えんが。

血を貸してやろうか。その程度の傷なら治せる」

 

「傷じゃなくて、ほら、これ」

 

キルエは辺りを見回してみせた。

 

「すげぇ…マジであの魔族を殺っちまった!」「でも、あの女どっかで…」

 

「ガキの動き見たか?ただもんじゃねえぞ」「あいつ傭兵じゃねえよな?惜しいな…」

 

満ちる歓喜と称賛の声を浴び、口元を綻ばせる。

 

「戦わなければ、平穏に怪我なく生きられると思ったのに。

ちょっと褒められて認められたら、もう病みつきなんですよ」

 

今キルエの心を満たしているのは、廃城で兵士たちと暮らしていた時に感じた、あの暖かな快感。

熱を帯びて胸を貫くような悦び。

 

「結局、承認欲求しかないみたいです…俺。

だから褒めてちやほやしてもらうために、戦場に出ようと思います」

 

「…そうか。戦う理由に貴賤はない。生きろよ」

 

男は掌を切って、血をキルエに注いだ。

 

「いっ…!し、しみる~…っ!」

 

「私の使命に巻き込んだ詫びと礼…それから餞別だ。

さらば。また遇おう」

 

男は颯爽と黒マントを翻し、去っていった。

 

(う~わ格好いいなぁ主人公さんは。

使命といえば笑06さん、ちゃんと爺さんを殺せたかな。

み~んな使命・責任って…はぁ)

 

ちなみに笑06は見事にヴァン・ダインを倒して因縁に蹴りをつけた。

 

だが彼には何の関係も無く、この戦いで得た物も無い。

得たのは痛みと、自分への失望だけだ。

 

「お手柄だったな小僧!お前傭兵じゃないんだって?」

 

「ええ。…ふふ、恐れ入ります。あなたは…」

 

「傭兵ギルドの者だ。

…子供に言う事じゃねえかもしれんが、傭兵にならんか?

危ない仕事だが、金は稼げるぜ」

 

「お話を聞かせていただけますか?興味があるので」

 

それでもキルエは、死地へ向かって歩み始める。

彼の虚ろな心はそうする事でしか満たされないからだ。

 

〈つづく〉

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