異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第10話 承認欲求

「…どけ、雑兵」

 

男は漆黒の剣を構え、現れた兵士たちを睨めつける。

 

「脱走兵、サリーク・レイジだな。

味方殺しに魔剣の強奪…許されると思うなよ。

大人しく同行せんと言うのなら、この場で殺さねばならんぞ」

 

「消えろ。貴様らに付き合う時間など無い」

 

月の光に照らされた切先が、獲物を求めて舌なめずりするように禍々しい輝きを放つ。

 

「俺には背負いし宿命がある。

人類も魔族も、俺にとってはそのための駒に過ぎん」

 

「勝手な事を…!

捕まるつもりはないと言うのだな…!」

 

「御託はいい。来い」

 

「おのれっ!」

 

兵士の1人が間合いに飛び込む。

 

「魔剣解放…!ことごとく塵に還っ」

 

迎え撃った魔剣が、兵士の剣に弾かれる。

全身から力が抜けていく感覚。

 

「…???」

 

「今だ!押せ!押せーっ!」

 

残る兵が一気に近づき、四方から鎧もろとも串刺しにした。

 

「ぐぎゃああああっ!!

おのれ…この、程度で…!」

 

応戦しようとするも剣が持ち上がらず、中腰になったまま身をよじる。

 

「ば、かな…こんな、ところ、で…」

 

そして事切れた。

 

「た、倒した…のか?」

 

「ああ…ホントに簡単に倒せちまったよ!

お前さんの言う通りだった!」

 

「お疲れ様でした、皆さん」

 

褐色の肌とボサついた長髪の少年が兵士たちの後ろから歩いてくる。

 

「いったい何をしたんだ?

20人がかりでも返り討ちにされたのに…」

 

「呪いを掛けただけですよ。

体調悪そうにしてたでしょ、途中から」

 

「確かに動きは鈍かったな…」

 

「殺しちゃったし、結局脱走した動機は分からずじまいでしたね。

宿命がどうとか言ってましたけど」

 

「ああ…やむを得んさ。死人が出なかった事を喜ぼう」

 

「そりゃそうですよ。でも…」

 

少年は死体の近くに屈み込み、指でつつく。

見下ろすその目は、宝石のように透き通って熱が無い。

 

「ちょっと悪い事しちゃいましたかね。

大人しく捕まっていれば、こんな目に遭わずに済んだのに」

 

「あ、ああ…」

 

兵士たちの恐れるような目線に気付いた少年は、慌ててヘラヘラと卑しい笑みを浮かべた。

 

「あーいや、皆さんも呪いには気を付けてくださいって事ですよ!

ホント、何に呪いがかかってるか分からないんだから!ねぇ、へへへ…」

 

「……」

 

「あ、え、えっと!ここに任務完了の印をお願いします!

ギルドに提出するので!」

 

「お、おう。分かった」

 

少年は書類に印をもらうと、そそくさと帰り支度をし始めた。

 

「おい、もう行くのか?

夜中だぜ、キャンプ泊めてやるから明日にしろよ」

 

「いいんです、他にも受けてる仕事があるので」

 

「そうか…夜道、気を付けろよ!」

 

「ありがとうございます!では!」

 

少年の身体は躍動し、闇の中に消えた。

 

「…なんて奴だ。たかが12やそこらのガキが…」

 

「呪いにも精通してやがるし…動きからして、直接()りあうのも弱くなさそうだ。

まぁそりゃそうか。あの歳で傭兵になる奴なんて、相当の事情持ちだろ」

 

「そうですね。レイジの持っていた目的にも興味を見せてたし。

彼にも恐らく、秘めた宿命があるんでしょう…」

 

 

 

 

 

 

(うわーッ!要らん自分語りをしてしまったぁーッ!!

絶対変な奴と思われたぁーッ!!)

 

別に、次の仕事なんて無かった。

だってギルドでは複数の仕事を同時に受けるとか出来ないし。

あの場を去ったのは、恥ずかしくて居たたまれなかっただけだ。

 

(しかし、意外と褒められない仕事なんだなぁ。

よく考えたら命懸けだし、結果出すのは当たり前の仕事だもんな。

さっそく辞めたくなってきたかも~)

 

俺は事件以降傭兵になり、あの街に留まるのではなく各地のギルドの支部を転々としながら、任務を請け負うようになった。

…っつっても大した事はしていない。

ギルドも、いくら動けるとはいえたかが12歳の子供に戦闘を任せるような事はしたくないらしい。

だから今みたいに敵を呪ったり罠に嵌めて、兵士たちのお膳立てをしてやるだけ。

 

(ま、そっちの方が楽でいいんだけど)

 

今回も、敵が潜伏していた場所の水源に呪いを掛けて、水を飲んだヤツに呪印が付くようにしておいただけだ。

呪いは3時間程度で消えるので、その前に兵士をけしかけて魔剣を使わせる。

呪印が魔剣に反応し、体力を奪って行動不能にし…後はあの通り。

 

(やっぱデバフが一番有効だな。

一度使ってみてよく分かった。あの【命を殺す法】は役に立たない)

 

【命を殺す法】。ジェト族代々の怨霊をその身に降ろし、卓越した戦闘能力を得る。

それだけに留まらず、13の型からなる戦闘舞踊を一連の流れで命中させる事で、相手が何者であろうと即死させる呪いをも内包している。

ジェト族の当主のみに許された、究極の奥義である。

 

(アレめっちゃ使いづらい…ッ)

 

先祖代々の霊の集合体と言うと何やら凄そうだが、時代によって鍛錬も技術も全く違うので、身体がめちゃくちゃ混乱する。

だって数千年・数万人に渡る戦士の技術の塊なんて、俺に扱える訳ねーじゃん!

実際、あの時ほとんどちゃんと動けてなかったし。

たぶん達人は上手く使い分けるんだろうけど、俺には到底無理だ。

 

(あと即死がロマン効果すぎる。

この術使わないと倒せない相手には、この術がそもそも当たらないし!)

 

ま、しょせんこの世に必殺技なんて都合の良いモンは無いって事か。

当分は子供という立場を使って直接戦闘を避けつつ、呪いと罠で結果を出せばいい。

正直、そっちの方が手軽に褒めてもらえるし、今日みたいに人間を相手にする時も罪悪感が少なくて済む。

 

「確認が済みました。報酬をお支払いしますね」

 

ギルドの支部に帰還した俺は、依頼書を受付に提出して報酬を貰った。

 

「あ、次の任務なんですけど…」

 

「えっ?もう受けるんですか?

帰って来たばかりだし、一旦落ち着いてもいいのでは」

 

正直、今日は褒められ足りない。

俺はもっと評価されて、もっと讃えられたい。

たかがそんな事のために命を懸ける馬鹿だ。

 

「いいえ、もう少し頑張ります。

俺でも受けられる依頼、ありますか?」

 

「わ、分かりました…でも最近、あなたのようにその…」

 

何か言いづらそうにしてら。何だろ?

 

「ええと、若い、というか…幼い人?」

 

ああ、子供扱いを嫌がると思ってるのか。

確かにこの歳で傭兵やってるヤツなんて、相当尖った性格してそうだしな。

 

「いいです子供で!子供向けの任務ください!」

 

「あ、はい…あなたは他の子と違って大人な性格で助かります」

 

「他の子?俺と同じ年齢の傭兵がいるんですか?

聞きましたよ、俺ぐらいのガキが傭兵やってるなんて珍しいって」

 

「ええ、実は3人いるんですけど、そのおかげで比較的安全な任務は無くなってしまって。

ただ彼らは『ようやく本気で戦える任務が回ってきた』と喜んでいたんですけど。

さすがに子供1人に向かわせる訳にはいかないので、3人でパーティを組ませました」

 

「え、子供だけで…ですか?大丈夫すか、大人の傭兵とか付けた方が…」

 

「まず彼らが嫌がりますし、子守したがる傭兵もいませんよ…あ。

そうだ!あなたもその任務受けてみませんか!?」

 

我が意を得たりとはしゃぐ受付嬢を前に、俺は嫌な予感に襲われていた。

…これ、絶対断れないやつだ。

 

「でも、あの、子供が1人増えたところで変わらないんじゃ…」

 

「それそれ!そういう冷静さが必要なんですっ!

ていうか他に任務ないので、今すぐ受けたいならこの仕事しかないです!」

 

「あ、じゃあ…おねがいしゃす」

 

「本当ですか、助かります~!」

 

相変わらず断れない人間だな、俺も…。

今後も付き合っていかなきゃいけない人から頼まれると、つい断れない。

これから死ぬような人が相手なら、もう会う事も無いから本音で喋れるんだけど。

 

「で、その任務というのは?」

 

「あ。まずそれを説明する義務がありますね。

今あんな事言ったばかりですが、本当にダメそうなら受けなくてかまいません。

まぁさほど危険な戦場ではありませんが」

 

受付嬢の説明によると、3日前に軍から増援の要請があったらしい。

 

魔族の砦を包囲してはいるが、このまま敵を干上がらせるには時間が掛かる。

なので砦に潜入し、内部から崩したい。

ひいては高い城壁に囲まれている砦内部の様子を探るため、偵察兵が欲しい…と。

 

「仕事はあくまで偵察だけですね。

実際に工作を行うのは正規軍の兵士さんです。

敵に捕まればもちろん危険ですが、まぁ捕まらなきゃいいだけですよね」

 

「内部まで入って調査しろってんじゃ無いでしょ?

他の任務と比べれば、確かに安全ですねぇ。

…しかし、なぜわざわざ偵察の兵だけを募集しているんでしょう」

 

「推測ですが…既に彼らは砦を包囲しきっている。このまま待つだけでも勝てるっちゃ勝てるんですよ。

念には念を入れての作戦な訳ですから、無駄な人員は裂きたくないでしょう。

そこでとりあえず偵察させて、『潜入は無理そうだからこのまま粘ろう』という方針を固めたい…ってなところでしょうか」

 

「なるほど…」

 

いちいち細かい事を気にすると思うかもしれない。

だが俺は傭兵として生き始めて数か月、慎重に危険を避けつつ『活躍した感』を出す事に注力してきた。

リスクマネジメントは重要だ。

 

「あくまで推測ですから、当てにはしないでくださいね」

 

「…いや、ありえそうな話です。

包囲している方も気が逸ってくるから、浮足立つ兵士たちを納得させる意味もあるかも」

 

「ホント慎重ですよね。

あなたくらいの歳の子はなかなか考えられませんよ、そこまで。

さすがプロとして結果を出してきた」

 

「え~?いやいや…おだてられてもねぇ?」

 

あー、ダメだ。そんなん言われたらやるしかない。

だってその『おだて』と『褒め』のために生きてるんだから。

 

「まぁ、とりあえず?行ってみますけど?

期待しないでくださいね~?」

 

「お引き受けいただけますか!

…報酬にはちょっと色を付けさせていただきますね」

 

引き受けちゃったからには仕方ない。

いつも通り適当に『活躍した感』を出して、承認欲求を満たすとするか!

 

 

 

 

 

「…で?これが『偵察任務』かよ」

 

少年は呆れたように言った。

ここはバサド砦を包囲するムット大隊の作戦本部。

高い身分の将校に交じり、3名の少年少女が同席していた。

 

「小僧、大隊長殿になんという口を…!」

 

「良い。怒りたいのは彼らの方だろう」

 

雰囲気は決して『良い』とは言えない。

 

「包囲と言えば聞こえはいいが、数で押してギリギリ動きを封じているだけ。

いつ向こうが反抗作戦を起こしてもおかしくない。

そんな中傭兵を砦に潜入させて、拮抗を崩す起点にしたい…そんな所か」

 

「そうだ…」

 

「つまりは捨て石と」

 

その場の大人が、全員顔をしかめた。

 

「どうしたよ、気まずそうなツラしやがって。

そもそも偵察だっつって傭兵を釣ったのはお前らだろ?

そのくせ子供が来たら『危険だからやめたまえ』ってか?」

 

「あ、あのぅ…そういう言い方は良くないよ…」

 

3人の幼い傭兵の紅一点が、小さな声で諭す。

 

「命を懸けるのは傭兵だ、その傭兵に嘘をつく連中が信じられるか?」

 

「さっきから聞いていれば…」

 

もう1人の少年が、凛然たる口調で遮る。

 

「僕たちの目的は一致しているハズだ!

文句を言うより、悪しき魔族を退けるための一手を議論すべきじゃないのか!」

 

「そ、そうだね」

 

「…イイ子ちゃん共が。

くたばる時もそんな立派な口が利けるか?」

 

最初の少年が、背中に帯びた剣を抜く。

柄から刀身にかけて流線形を描く奇妙な黒い剣。

 

「やはり子供だな…こんな所でそんな物を振り回すか!」

 

「うるせぇよ黙ってろ雑魚が!」

 

将校の一喝を、少年の怒りが上回った。

 

「俺らはプロだ、金にならねぇ戦はしねーんだよ!

テメェらいい加減限界なんだろ?包囲するだけでも消耗してくもんなァ?

だからギルドに嘘をつくっつうタブーを犯してまで人手がほしかった!

そんで、来た傭兵に甘い言葉と金掴ませて危険な潜入任務をさせようとした!

お前らみんな嘘つきの卑怯者だろうが!!」

 

場を静寂が支配する。

大人は誰1人として反論できなかったからだ。

 

「だったらいいから俺に全部託せ。

俺が連中の大将首、持ち帰ってきてやるよ」

 

「…口は悪いが、同意する。

大隊長閣下。どうか我々にお任せいただけないでしょうか?」

 

「あ、あの…精一杯がんばります。信じてください!」

 

「し、しかし…」

 

子供を目の前にして、内地で育ってきた高級将校らは躊躇う。

無論、聞いた事はある。子供ながらに強大な力で魔族を打ち払う実力者はまま居ると。

だが倫理が拒む。いくら限界に近い状況とはいえ、子供だけで敵地に送り込んでよいはずがない。

 

「アンタらお綺麗な生まれのお偉いさんに見せてやる。

魔族を殺すってのがどういう事か…」

 

「あの~すいませ~ん」

 

「「「!!?」」」

 

そこに人間がいる事に、声がするまで誰も気づかなかった。

 

「あ、こちらムット大隊さまの指揮所でよろしいでしょうか?」

 

わざとらしいほど丁重な統一アルダー語。

乱雑に伸びた灰色の長髪から覗く、血のように紅い瞳。

褐色の肌をさらけ出す、原始的な装束。

全てが奇妙でありながら、気配までもがその空間に溶け込んでいた。

 

「どうやらまだ始まっていないようですね。間に合って良かっ…」

 

一瞬のうちに、2人の少年の黒い剣と白い槍の切っ先、1人の少女の杖が侵入者に突き付けられていた。

 

「動くな。殺すぞ」

 

「て、て、手を上げてください…っ!」

 

「貴様…何者だッ!」

 

侵入者は笑顔のままゆっくりと両手を上げて大げさに反応する。

 

「ああーっ待って待って!傭兵です傭兵!

背負ってるリュック、上の小さなポケットにギルドの会員証がありますよぉ!」

 

「……」

 

将校の1人が恐る恐る近づき、指定の場所から小さな金属板を取り出す。

 

「大隊長、確かに彼は傭兵です」

 

「ま、また子供だと…?」

 

「え、えっへへ、信用しづらいっすよねぇ。

でもやる気はあるんで、ホント!」

 

褐色の少年は首をかしげる。

 

「で、あの…コレどけていただけます?」

 

「あ、あぁ。そうだな、武器を収めてくれ」

 

「…チッ」

 

しぶしぶ武器を下げる。

 

「いや~、兵士の皆さんがお休みだったので、起こさないようにこっそり入ってきたんですが。

かえって驚かせてしまったみたいですね」

 

新たな傭兵は、見た目12歳ほどの幼い容姿に似合わぬ老成した落ち着きを見せていた。

ヘラヘラと卑屈な笑いを浮かべていながら、その佇まいにはある種の異様な凄みがあった。

 

「どうも、キルエと申します。ギルドの依頼を受けてこちらに参りました。

…さて。詳しい状況をお伺いいたしましょうか」

 

〈つづく〉

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