俺は褒められたい。だから傭兵になった。
でも危険なのは嫌だ。だから呪いと罠を使う。
自ら危険は冒さず、それでいて価値を示す事で、安全に承認欲求を満たせるのだ。
そして今回も褒めてもらいに来たのだが…
今、めちゃくちゃ武器を突きつけられている。
「背負ってるリュック、上の小さなポケットにギルドの会員証がありますよぉ!」
とにかく警戒するほどの者じゃない事を示すため、卑屈なスマイルを保つ!
そして速やかに身分を証明!
これ戦場の鉄則!
「大隊長、確かに彼は傭兵です」
たまにあるんだよな~、敵と勘違いされること。
まさか子供が傭兵として来るなんて思っていないんだろう。
「で、あの…コレどけていただけます?」
「あ、あぁ。そうだな、武器を収めてくれ」
「…チッ」
しぶしぶって感じで武器を下げるガキども。
生意気そうな赤毛のツンツン頭、フード被った小柄な女、きちっとした鎧姿のロン毛。
なるほど、こいつらが例のちびっ子傭兵か。
まぁ今の俺よりは年上なんだけどな。
「いや~、皆さんお休みだったので、起こさないようにこっそり入ってきたんですが。
かえって驚かせてしまったみたいですね」
夜中に行くとめっちゃ嫌そうにしてくる兵隊さん多いんだよな。
まぁ寝る時間貴重だろうし、気持ちは分かるからこっちも配慮するんだが、そのせいで殺されたらたまらんって。
「どうも、キルエと申します。ギルドの依頼を受けてこちらに参りました。
…さて。詳しい状況をお伺いいたしましょうか」
さっさと偵察済ませて、褒められて帰ろう。
「その、任務の事なのだが…」
「言ってやれよ?
偵察任務って名目で釣ったけど、危険な潜入工作をしてもらいますってよ!」
おいおい。…おいおいおい?
ちょっと話が変わってくるんですけど?
「あの…どういう事でしょうか?」
それから、一番偉いであろうオッサンが説明し始めた。
包囲しているとはいえ、いつ敵を抑えきれなくなってもおかしくないという現状。
なんとか拮抗状態を打破するため、危険を承知で敵地に飛び込む者が必要だったこと。
「しかし分かりませんねぇ。
とりあえず自軍の兵を送り込んでみればいいのに。
ギルドに嘘ついたのバレたら、今後一切助けてもらえないんですよ?」
「…ギリギリとはいえ、今は包囲できている。一応は有利な状況だ。
我が軍の兵士は、元々内地で人間相手を想定して訓練してきた者が多い。
私と…副官のゾラ以外は、将官クラスでも魔族の危険さを完全に理解しているとは言えんのだ。
そんな彼らにとって、わざわざ有利な状況で命を懸けるリスクは受け入れがたいのだと思う…そうだろう?」
問い掛けられたオッサンたちの中の数名は、腑に落ちない顔で気まずそうに頷いた。
「幹部の方針の食い違いから、今後の動きも決めきれずにいた。
そこでまず傭兵たちを雇い、危険な潜入偵察を行なってもらうという部分で手を打ってもらった…のだが。
ギルド所属の傭兵団に依頼を出しても一向に受けてくれる者がいなかった」
「まぁ危険高いわりにそこそこ無駄死にする可能性ありますしねぇ。
それで、嘘の依頼を出すしかなかったと」
「その通りだ。軽率に信頼を裏切った事、本当に申し訳ない」
うん…うん。まぁこの雰囲気なら、無理やりやらされる事はなさそうだな。
依頼者から騙されるにしても、呼び出された所に待ち伏せされて殺されるとか、そういう殺伐としたヤツじゃなくて助かった。
「事情はだいたい把握いたしました。
魔族を危険視するのなら、自軍の命を使う覚悟が必要でしたね。
まさか犠牲も無しに勝てると思っていた訳ではないでしょう?」
ちょっと説教する事で優位な立場に立つ。
子供はただでさえ舐められやすいからな。
「そうだな…結局のところ、部下を納得させられなかった私の不徳だ」
あら~…お偉いさんが素直にションボリしちゃってるよ。
仮にも正規軍の大隊長がギルドに嘘をつくなんて、よほどギリギリの状態での判断だろうから可哀そうな部分はあるけど、こっちとしちゃ好機だ。
「まぁまぁ、兵士の皆さんが人類の勝利のために日夜命懸けで戦っておられる事には、傭兵も敬意を表するところです。
今後一切このような事はしないと約束していただければ、後は【誠意】次第で我々の腹の中にしまっておく事も考えておりますよ」
「うむ…もちろんだ。依頼通りの報酬満額を払わせてくれ」
「それはありがたい!…のですが、依頼書には偵察任務としての報酬が掲載されていましたよね?
でも実際には危険な潜入任務をさせられる予定だった訳です。
となると、危険な任務に相応の金額を受け取る資格がありますよね」
「それはもちろん、そのつもりだ。
その他、何か可能な事であれば便宜も図らせてもらう」
よしよし、イイ子だ。そりゃギルドとモメたくないもんなぁ!
ボロい仕事だぜ、行って帰ってくるだけで3000キトラ以上儲かるとは!
これなら、いくらガキとはいえプロの傭兵としては納得できる落としどころだろ!
…まぁ、褒めてもらえないのは残念だが。
「…どうでしょう皆さん?
彼らの誠意は確かに示されたと言えるのでは?
ここはひとつ、受け入れて…」
「カネを貰うのは当たり前だ!」
な、なんだぁ?意外とがめついのか?
ったく、欲をかいて話をパーにするつもりかよ!?
「どころか、詫び代含めてゴッソリ絞り取ってやる!
この仕事を完了したらな!」
…ん?んん?
「その通りです!我々は任務を受けてここに来た!
大隊長閣下、どうか我々に敵地へと潜入する許可を!」
何を言ってんだ、この人たちは???
「こ、このままじゃ、マズいんです…よね?
だったら、今なんとかしないと…!」
コイツらマジで言ってる?マジのマジ?
「いいのか、大隊長さんよ。アンタの危惧は正しいと思うぜ?
このまま包囲し続ければ、いつか敵は反転攻勢に出るだろう。
そん時、消耗してるここの兵で抑えきれるのか?」
「…キミたち子供が心配する事ではない」
「言ってる場合か?
その子供の力借りなきゃお前ら終わるぞ?」
いやなんでそんな上から行けるんだよ!
こういうのはなぁなぁにしとけよ、恩売りゃ今後楽できるだろ!
安全に金稼げるんだから、それで満足すればいいじゃん!
「安心しろ、俺が全員斬ってやる…!
俺に!魔族を!殺させろッ!!」
「閣下。僕たちは魔族を倒すため、ここに居ます。
僕たちに義務を果たさせてください」
…あ、なるほど。
コイツらは根本的なスタンスが違うんだ。
『戦場で金を稼ぐ』のが傭兵って仕事で、俺はそのために働いている。
褒められたいって欲求はあっても、それはあくまで仕事のモチベーション。
でもコイツらにとって傭兵って仕事はあくまで手段でしかない。
たぶん何らかのストーリーを持っていて、その大目標のためにこの仕事をしているんだ。
要するに、主人公なんだな。コイツら。
…あ~アホくさ。もう帰ろ。
これが何かの物語だったら、話の流れはだいたい決まってる。
俺はそんな流れには乗らない。
「そうですか、それはそれは」
彼らは俺抜きでも砦に潜入するだろう。
そして力不足で捕まるか、潜在能力を覚醒させて生き延びるか。
あるいは物語なんて関係なく、普通に殺されるか。
いずれにせよ、勝手にしてもらおう。
……と。
「やる気があるのは大変結構でございますが。
あなた方で勝てるんですか?」
切り捨てられたら楽だったんだが…。
俺はコイツらの子守を任せられてしまったしなぁ。
あの受付嬢カワイイからいいとこ見せたいしなぁ!!
「あ?…口の利き方に気を付けろよ」
「悪いが、キルエさん。今のは僕も聞き捨てならないな」
「あ、あの…喧嘩は…よくないっていうか…」
俺の狙いはこうだ。
ここで男2人を一瞬のうちにぶちのめし、無力さを思い知らせる。
こういう厳しい環境で生きてるガキは、『世の中は全て自分の力で生き抜かねばならない』という発想を拗らせて『今まで生きて来られたのは自分が強いからだ』と思い込むようになってる。
その鼻っ柱をへし折る。
さて、ここで問題なのは、コイツらは1対1でも俺より強いだろうってことだ。
実はあの後受付嬢からコイツらについて聞いていて、実力のほどはよく理解している。
どうやら単騎で魔族を殺せる『強者側』の人間らしい。
普通にやれば、秘伝書頼りの俺が勝てるはずも無い。
なので想定外のことをしようと思いま~す。
「えいっ」
「あ?」
「え?」
俺が懐から取り出して2人に投げつけたのは爆弾。
ただしこの爆弾には、あえて導火線を付けてある。
「テメェ…ッ!」
「なんとッ!?」
剣と槍の切っ先が、一瞬の内に導火線を切り落とす。
まぁ噂に聞く腕があれば、爆弾くらいなんとかできるだろう。
だが顔を見ると必死なのが分かる。そりゃ急に爆弾投げつけられたらビックリするわ。
それが隙だ。
「こんな場所でッ、正気か…うっ!?」
「何をっ…!?」
続いて投げたのは、小さい球。2人の顔にぶつかって弾ける。
中に入ってる液体は一瞬で揮発して、肺に吸い込まれていく。
「があッ、身体、が…!」
「む…!」
後は片手で1人ずつ押し倒し、喉を押さえつける。はい制圧完了。
麻痺毒が効いて、まともに身体が動かないだろう。
「これで分かりましたか?
あなた方は弱い。たかがこんな俺の細腕で動けなくなるほどにね」
「テメェイカレてんのか…爆弾、使いやがって…」
「あなた方なら対処できるでしょう?
それに魔族はどこだろうと構わず爆弾投げてきますよ?」
そもそもコンビニで買える花火と同程度の火薬だしな。
こういうこけおどしの爆弾が、意外と役に立つんだよ。
「なぜ、身体が…薬に対する耐性は、訓練してる、のに…」
えっそうなの?…あっぶねぇ!
たまたま耐性のない薬で良かった…さすがジェト族秘伝の毒玉だ。
「未知の毒薬など、魔族ならいくらでも持っているでしょうね。
あまり過信なさらない事です」
「くう…ッ!」
どいつもこいつも毒とか呪いに対する備えが薄くて助かるぜ。
魔族を恐れる反動なのか、魔族と1人でやり合える人間は英雄扱いされ、自他ともに過信する風潮がある。
いちおう毒とかも対策はしてあるんだろうが、どうやらジェト族の秘伝はウン千年以上も秘匿されて進化を続けたおかげで、一般的なセオリーが通用しないようだ。
「失礼、皆さんお騒がせしました。これで分かっ…」
後頭部に強烈な衝撃。
「ぎょえッ!!??」
痛っでぇえええっ…!
意識飛ばなかったのが不思議なくらいだ。
振り向くと、少女が血走った目で杖を振り上げていた。
「ぼッ!暴力はッ!いけないと思いますッ!」
「ちょ、ちょちょちょ―」
杖の暴力を両手で受け止める。
「や、めろ…!このガキ…!」
「ふぅーッ!ふぅーッ!」
いや力強ぇなコイツ!!
それに顔がめちゃくちゃ近づいて、汗の匂いまでもが押し寄せてくる。
ん?この匂い、どっかで嗅いだような懐かしさが…
「……獣?」
「っ!」
思わず呟くと、少女の力が弱まる。
何か知らんけどラッキー!このまま押し倒したれ!
と、倒れた少女のフードが外れ…動物の耳が露わになった。
「あ、ああ…っ」
うわスゲェ!初めてケモミミ生で見たーッ!
繋ぎ目どうなってんのか気になるー!
じゃなくて。
「うぎゅっ!?」
「落ち着きなさい!」
杖を奪い取り、そのまま喉を締め上げる。
獣を締めるのは慣れてるからね。
「はっきり言いますが、俺はあなた方が危険な目に遭わないようにギルドから派遣されてきました。
つまりは子守ですよ、子守!あなた方はまだ、その程度しか信用されていないという事です。
いくら強かろうと、『子供だから守ってあげて』と言われる程度の実績しか挙げてないんですよ」
ちょっと大げさに言ってやった。
あークソ、思い切り殴りやがって…でも、これでいくら生意気盛りのガキでも分かるだろ。
いくら不意をついたとて、もっと熟練の戦士が相手だったらこうも上手く制圧できなかっただろう。
子供だからこそ、脇の甘さに付け込めたと言える。
ガキはしょせんガキだからね。
「そもそも俺に一撃すら与えられないあなた方では、無駄に死ぬだけです。
大人しく従っていただけますね?」
「だ…ったら…!」
「はい?」
「だったら…ソイツには権利があるんじゃないか…?」
「ソイツ?」
もうええて…黙っとけよお前!
負けたんだから言う事聞いてくれってマジで!
「げほっ…わ、私ですか…?」
たった今首を絞めてる少女が、落ち着いたのか静かな声で困惑していた。
慌てて拘束を外す。
「そうだ…一発入れたお前が決めろ…!」
おいおい…おいおいおい。
この…なんか『一矢報いた奴には発言権がある』みたいな流れは何だよ!
ここでそれ許したら、『彼女もこう言ってる事だし…』って押し切られるに決まってる!
ダメって言ってるんだからダメですけど!?
…とも言いづらいな、この流れだと。
『ダメなものはダメ!』なんて一番反発される言い方だ。
クソッ、仕方ない!
「あの、自分の意見を大事にしてくださいね?命が掛かってる事なので」
「え、えっと…わ、わ、私は…」
救いなのは、この女の子は明らかに闘志が無いという事だ。
男どもがいきり立ってた時も、この子は一歩引いていた。
アイツらの圧に屈しなければいいんだが…気弱そうだしなぁ。
よし、それ以上の圧をかけてやる!
「戦うから勇敢・戦わないから臆病、なんて話ではありません。
我々は傭兵であり、命を懸ける以上冷静に自分の安全を取る判断が求められるからです」
「う、うう…私…!」
「ていうか戦いたくないでしょ?
もういいから本音で決めてくださいよ~!」
「えっと、その…うん。き、決めました」
少女は、訥々と語り出した。
「わ、私はどうしても見つけなきゃいけない人がいて。
そのために傭兵になったから…戦う理由なんて無くて」
「と、いう事らしいですが?」
「でもっ!」
「えっ」
今までの弱弱しい口調から一転、決断的に表明する。
「何の罪も無い人たちを傷つける魔物を、放っておく訳にはいかないと思いますっ!」
…うん。予想はできてた。なんかそういう流れな気はしてたし!
もういいや、さすがに面倒見きれん。コイツら捨てて逃げよっと…
「だから、どうかその力を私たちに貸してくださいっ!」
「は?」
これは予想してなかったやつ。
ヤバい。
〈つづく〉