異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

14 / 82
第12話 戦う理由

最近傭兵として頑張ってる俺は、傭兵ギルドの受付嬢に頼まれて断り切れず、子供の傭兵たちと共に任務に参加して様子を見てやる事になった。

簡単な偵察任務のはずが、実は敵地へと潜入して内部から工作する危険な任務であることが発覚。

ただ、俺たちのような子供が派遣されてきた事で依頼人の方も冷静になったらしく、報酬だけ貰って帰れる事になった。

 

…だっつーのに、ガキどもが無駄にやる気を出しやがって、『任務を続行させろ』とかぬかし始めた。

一度頼まれた以上は他の連中を見捨てて逃げる訳にもいかず、なんとか力で分からせようとしたんだが、それが裏目に出た。

 

そもそも『一瞬で制圧して実力差を示す』なんてやり方が無理やりすぎたんだ。

たぶん俺、周りの人から『すげぇ…なんて強さだ!』と思われたかったんだなぁ。

ホント、承認欲求もここまで来ると笑えねぇな。

 

後悔してもしゃーない、切り替えよう。

 

「いいですか…俺ごときより弱いあなた方が生きて帰れるように、ちゃんと作戦を立てましょう!」

 

まぁホントはコイツらの方が絶対強いけど。

どっちにしろ、弱い奴に不意突かれて制圧されてるようじゃ危ないわな。

 

「まず、拮抗状態をどうやって崩したいのか教えてください、大隊長さん。

俺たちは何をすればいいんです?」

 

 

「う、うむ…想定していたのは、内側からセキュリティを崩させて、そこから軍を突入させる作戦だった。

砦には四方に監視塔が立っていて、楔のような役割を果たしていてな。

地下の霊脈から吸い上げた魔力で砦全体に自動迎撃魔法を張り巡らせているのだ。

門と城壁に近づくと即座に雷撃に撃ち抜かれてしまう」

 

「そういうの対策できないんですか?こう、魔法でチャチャッと」

 

「そんな即席で出来るわけがないだろう…」

 

ダメか~、魔法で出来る事と出来ない事の差が未だに分からんのよなぁ。

ジェト族の秘伝書に記された術って結構特殊みたいで、こっちの世界の常識からも外れた代物らしい。

 

…一瞬秘伝書に魔法を防ぐ術がないか探そうとしたが、どのみち俺じゃこんな大人数に術を掛けるほどの魔力は無い。

あと捧げ物もかなり支払わないといけないし。

 

「じゃあ中から解除するしかない?」

 

「そうだな…大軍で無理やり突っ込む事もできるだろうが、甚大な犠牲が出る。

そうなると数の有利が揺らぐ可能性が高い」

 

魔族の軍と戦う際の前提は、『数で勝っている事』。

同数ないし少ない人数でぶつかれば、確実に肉体の性能で上回っている魔族が勝つからだ。

 

「こっちの人数は?」

 

「546名。敵の数は300前半というところだな。なるべくこの差を維持したい」

 

「潜入するアテはあるんですか?」

 

「一応、魔法を逸らすタリスマンが数個あるので、それを身に付ければ…。

大軍の迎撃を目的とした術なので、少人数には反応しにくいというのもあるし、たぶん大丈夫だとは思うのだが」

 

なるほど、3・4人忍び込むくらいならセーフか。

 

「どうやったら解除できるか~、とか分かんないんすか」

 

「魔法分析官によると恐らくイシュトラン派の術式であると。

その傾向からして、要石となる物体を破壊すれば魔法は解けるらしい。

ただその要石は術者自身が持つ必要があってな。

恐らく、敵の司令官が術者だと予測される」

 

「敵のボスはどんな人ですか?」

 

「【裂牙候(れつがこう)】キオフ・ホルト。

かつてはその凄まじい暴れっぷりで武名を響かせたらしいが、今はかなり年老いて前線に出る事も無くなったようだ。

かわりに戦場で得た魔術の知識を用い、砦の防御に活かしているという」

 

「…下らねぇ。だったら頭殺りゃそれでおしまいだろうが」

 

やられたばっかでよくこんなイキれるなコイツ!

この我の強さが強者の所以なんだろうか。

…しかし実際、このガキどもはかなり強いらしいし、頼りにせざるを得ない。

一応、釘だけ刺しとこう。

 

「俺に負ける程度では、あまり期待できそうにありませんが」

 

「もう不覚は取らん。なんなら試してみるか?」

 

いやー、もう1回あの立ち回りは厳しいっす!

既にけっこう疲労がデカいのよ、俺。

 

「だーかーらー!油断したからああなったんですよ、マジで気を付けて!マジで!」

 

「キルエさん、私も充分すぎるほど反省したつもりだ。

何か考えがあるなら聞かせてほしい」

 

「…じゃ、あなた方に頑張っていただきましょうか。

作戦っつっても、別に予定通りですけどね。

潜入して自動迎撃魔法を解除し、軍を突入させる。それだけです」

 

どうせコイツら戦いたがりの主人公どもなんだし、精々戦ってもらうとしよう。

 

「敵のボスと戦うのはあなた方。いいですね?」

 

「上等だ。テメェも分かってきたじゃねえか」

 

「潜入しやすいよう、魔物の視線を避ける術を掛けてあげますよ」

 

「そ、そんな便利な術が?」

 

お、食いついた。彼女は魔法を使うっぽいし、気になるんだろうか。

 

「ええ、我が部族に伝わる術の一つでね。

対となる術があり、これと併用する設計になっています」

 

「どんな術なんですか?」

 

「魔物の注目を集める術、ですよ。

大人数が視線除けの術を纏い、囮となる少人数が視線集めの術を纏う事で、ほとんど完全な隠密行動が可能になる。

俺がこの術を自分に使います」

 

「「「!?」」」

 

おーおー、驚いとる驚いとる。

 

「そ、それじゃ、あなたは…!」

 

「囮、ですね。どうやら皆さん雑魚相手では油断しちゃうみたいなので、俺が雑魚の相手を引き受けてあげますよ。

あぁもう、なんでこんな事をしなくちゃいけないのか…」

 

「き、危険ですっ!」

 

「そりゃ危険ですよ。

でも、この作戦は迎撃魔法を解除できるかどうかに懸かってます。

確実にボスの下へ行くためにも、術は完全な状態で使用したいんです。

別に慈善事業でやってる訳じゃないんで、自信が無いなら辞めてくださいね。

俺もそんな人たちのために命懸けられないんで」

 

あえて突き放すように言う。だってその方が…

 

「…いいぜ。俺が絶対に敵を潰す。

それまでせいぜい必死に逃げ回ってな」

 

ほらノってきた。簡単なんだよお前ら。

 

「ええ。俺が死んじゃう前に任務を達成してくださいね?」

 

「心得た。我々もキミの勇気に恥じぬ成果を上げてみせよう」

 

ちなみに嘘だ。視線除けの対になる術など存在しない。

とはいえ、囮にはなってやるつもりだ。

実際にはコイツらと別行動するための言い訳にすぎないのだが。

 

だってホラ、『かつて武勇で鳴らした老人』なんて絶対強いに決まってるじゃん?

そんなん相手にするくらいなら、大勢とはいえ遥かに対処しやすい兵士たちから追われる方が楽だ。

 

別行動なら逃げてもバレないし、戻って『彼らが敗れたので作戦は失敗した。なので逃げてきた』とでも言えば名誉も傷つかない。

元々この作戦には反対だった訳だしな。

もちろん、作戦が上手く行ったらそれが一番名誉なんだが。

 

そうだ。最も大切なのは、傭兵としての評判のみ。

コイツらが死んでもせいぜい『ちょっと悲しい』だけだが、褒めてもらえなくなるのだけは嫌だ。

 

「じゃ、こっちはこっちで準備進めるんで、そっちも頑張って!」

 

「え?さ、作戦はもう終わりなのか?」

 

「どうせ内部の構造も分からないんだし、潜入してからはぶっつけ本番しかないでしょ?」

 

「そ、それはそうだが…」

 

「じゃ失礼します!はいおつかれ!」

 

これ以上喋るとボロが出る。俺の目論見がバレる前に退散するとしよう。

 

 

 

 

 

「…ど、どう思う?…思いますか?あの人の作戦」

 

包囲陣の一角に立ったテントの中、明日に備えて3人の少年少女が言葉を交わしていた。

 

「奇妙な術を使えるらしいが…作戦自体は妥当だろう。

妥当というか、まぁああするしかないんだが。

しかし只者じゃないな、彼は」

 

「そうか?ただの雑魚だろ」

 

「キミは…!どうしてそういう事ばかり言うんだ!」

 

「それより気になるのは」

 

少年は粋がるでもなく、冷静に言葉を遮った。

 

「俺たちはその雑魚に、容易に制圧された。

…俺も大概クソみてぇな育ちだと思ってたが、アイツどんな育ち方したんだか…」

 

「ど、どういう事です?」

 

「いくら俺らを窘めるためとはいえ、こんなとこで爆弾投げる奴がマトモな訳ねぇだろ。

必要だと思ったら即座に実行する…いつ死んでもおかしくないような環境じゃなきゃ、そういう人間は育たねぇ」

 

「そっか…私より若い傭兵なんて見た事無かったけど、あの年齢でこんな危ない仕事してるくらいだもんね」

 

少女はキルエと名乗った少年の顔を思い起こす。

常に卑屈な笑みか疲れ顔ばかり浮かべていたが、我を失った彼女が襲い掛かってしまった時、反撃から制圧するまでの一瞬だけ見せた目つき。

 

(うぅ…)

 

猛獣のようなその目を思い出し、身震いした。

 

「…あ、そう言えば名前!まだ自己紹介してませんでした」

 

「はぁ?…名前なんざどうでもいいだろ、どうせ二度と会う事も無い」

 

「わ、私は!フェリス・ロアといいます!じゅ…獣人族です!よろしく!」

 

「くっ…寄るな、うっとおしい!」

 

長髪の少年が、ツンツン頭の肩を叩く。

 

「そもそも我々は、彼女無しでは作戦に挑む権利すら無かったのだぞ。

敬意ぐらい払ったらどうだ」

 

「…チッ。グレンだ」

 

「姓も言うのが常識だろうに…」

 

「んなもん捨てた。必要になった事もねぇ。以上だ」

 

「キミという男は全く……僕はラスタ・シュヴァイト。

シュヴァイト家復興のため、聖騎士となるべく…」

 

「名前なんぞより、重要なのはな!」

 

いかにも生真面目で丁寧な自己紹介を、強引に断ち切る。

 

「な、なんなんだキミは本当に!」

 

「…戦う理由だろ、違うか?

それが薄っぺらい奴はすぐに逃げ出すからな」

 

「む…い、いや今言おうとしていた所なんだが。

僕は魔族によって滅ぼされた貴族家の生き残りとして、家を復興してみせる。

そのために名を挙げる必要があるんだ」

 

「…フン。貴族様か。

まぁいいだろう、貴族のプライドはこういう時良い方に働くからな」

 

「キミこそどうなんだ、偉そうに言っているが!」

 

「俺か?大体想像つくだろ。…復讐だ」

 

「やはりそうか…それは、その手の甲の紋様に関係が?」

 

グレンの右手の甲には、翼を象った入れ墨のようなものがあった。

 

「これか…別に。ただの痣だ」

 

「しかし、痣にしては形がくっきりと…それにこれは、どこかで見たような…」

 

「下らねぇな。もういいだろ、痣は関係ねぇんだ」

 

「そうだったな、それで、ええと…出身はこちらなのか?」

 

「ああ。ちっぽけな村。今は焼け跡すら残ってねぇ。

まぁ恨み言なんざ今更言う気はねぇが、魔族は皆殺しにする。

老若男女問わず殺して殺して殺し続けるために俺は居る」

 

大して激昂するでもなく淡々と口にするその様子からは、憎悪も悲嘆も枯れ果てるに至るまでの壮絶な人生が伺い知れた。

 

「…で、キミは確か『見つけなきゃいけない人がいる』んだったか?」

 

「ええ、まぁ。お姉ちゃんなんですけど。

猟師だったんですけど、ある日いなくなっちゃって。

一緒に狩りに出た猟師の人の死体が見つかって…これは絶対何かあったなって」

 

「なら、こんな所でやられる訳には行かないな」

 

「は、はい!」

 

「死ねないって事は、逃げる可能性が高いって事じゃねえのか?」

 

「逃げませんっ!」

 

グレンの混ぜっ返しにも毅然と返す。一度スイッチが入ると負けん気が強くなるようだ。

 

「…そうか。そんならせいぜい足手まといになるなよ」

 

「戦う理由、か…そういえば彼は…」

 

 

 

 

「俺ねぇ、実は皆さんより弱いんですよ」

 

作戦開始直前のテントで、キルエがそんな事を言いだした。

 

「ああ、それは知ってる。だからどうした」

 

「……え?知ってんの?」

(うわぁ俺めちゃくちゃイキって恥ずかしい奴じゃん…!)

 

「だがそんなお前に、俺らは制圧されたんだ。

爆弾にも毒にも対応できなかった」

 

「いやぁ、だったらコレもバレてたんすか!

このこけおどしの爆弾!」

 

あの時投げた殺傷力の無い爆弾を差し出すと、グレンはそれを奪い取った。

 

「おいッ…それは聞いてねぇぞ!

クソッ、なんでそんなもん用意してんだ…」

 

「え?いやほら、殺す武器はその辺にいくらでもあるけど、殺さない武器はなかなか無いでしょ?

こういうの持っとくと意外な時に役立つんすよ、あの時みたいに。

安っぽいオモチャでも、いきなり出されると判断鈍るっしょ?」

 

3人は、唖然として褐色の少年を見つめた。

 

「用意周到なのもそうだが、こういう小道具を作る技術…それを適切なタイミングで使う判断力。

…いったいどんな育ち方してきたんだよ、お前は」

 

「どんなってほど特殊でもないですけど…」

 

「なぁ、聞かせろ。お前は何のために生きて、何のために戦ってる。

どうして一番リスクのある囮を選んだ?」

 

「何のためって、別に大して…」

 

そこまで言いかけて気づく。

 

(あれ?俺試されてる?

…ヤベッ、ここで逃げる準備してるのがバレたらマズい!)

 

「別に大して…なんだ?無いのか?戦う理由」

 

「えっと…その…そ、そうですね。無いです。

だってほら、俺はあの…そう!戦闘民族の出身なので!」

 

「戦闘民族!?」

 

「ええ、あちこちで傭兵として雇われてたらしいんですが。

親子関係とかすら無く、小さい頃から殺し合いの練習ばかりして…」

 

正確には、キルエはそこに参加していなかったのだが。

 

「だから今更『戦う理由』とか言われても、ねぇ?」

 

「戦いが日常か…想像を絶するな…」

 

「も、もういいでしょう?隠密の呪術を掛けますよ!」

 

羽織ったマントの内側から道具が次々と出てくる。

若くして各地の戦場を転々とし、様々な人種と交流してきたと自負する少年少女たちすら、一度も見た事のない奇妙な珍品ばかりである。

 

「これね、本当は数人で施す術なんです。今は1人でやるしかないんだけど…」

 

木彫りの小さな笛をプピ~と鳴らしながら、アメリカンクラッカーに棒を付けたような打楽器を打ち振るいつつ、3人の周りをグルグル回る。

 

「ほ、本当にこれが術なんですか…?

私が習った魔術とは全然違うので…」

 

「なんすか、おたく他人の術にケチ付ける気?」

 

「い、いえ!でもこんなの、師匠の本でも読んだ事ないから…」

 

「あっ、次のパートやんないと…はいそこ並んで!ほら早く!」

 

そしてパイプをふかし、煙を3人に吹きかけた。

 

「ゲホッ…!?おいっ…」

 

「動くなって!煙に効果があるんですよ!」

 

「お、お前の方に掛ける術はどうした…ゲホゲホッ!」

 

「あ~魔族の視線を集める術ね。もちろん掛けましたよ、既に!」

 

嘘だ。そんなもの掛けていない。

ただ視線除けの術も掛けていないため、自分だけ無防備な状態である事は変わりない。

他人と自分同時に術は掛けられないし、一度使ったらその日はもう使えないからだ。

 

「お前が死んだら術はどうなる?」

 

「皆さんにかけた視線除けの術は消えませんが、俺自身に掛かった術は解けるので効果は半減するでしょうね」

(我ながらよくもまぁペラペラと嘘がつけるな…)

 

「…そうか。せいぜい死ぬなよ?俺が敵将を殺すまではな」

 

「お強い皆さんなら楽勝だと確信しておりますよ。

でなきゃ誰がこんな貧乏くじ自分から引くかっての…」

 

「無論だ。キミが命を懸けている以上、我々も逃げる訳にはいかない」

 

「ぜ、絶対に成し遂げますっ!」

 

3人が命を預けたこの少年が、内心1人で逃げようとしている事を、彼らはまだ知らない。

 

「では…作戦開始です。絶対に勝って帰ってきなさい」

(それが無理ならなるべく派手に散ってくれ!俺が逃げやすいように!)

 

〈つづく〉

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。