異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第13話 実行、逃走

おっす。俺は3人の少年少女たちと共に、魔族の砦に潜入した。

まぁ12歳の俺が一番子供なんだけども。

で、皆に敵に見つかりにくくなる術を掛けてやって、俺自身は囮として目立つという作戦を用意した。

立案者が一番リスクを被るからこそ、この作戦はすんなり通った訳だが…まぁ、マジで囮をやってやるつもりはない。

俺は散々『やめとけ』と言ったんだ、勝手に死んでもらうとしよう。

 

(しかし、一応敵を引き付けておかないとな。

作戦が上手く行く可能性も全然ありうる。

何しろ子供とはいえ、アイツらは俺より遥かに強いし、主人公気質な所もある。

…まぁそれだけで魔族に勝てるとは思えないけど)

 

かつて高位の魔族と戦った記憶が蘇る。

あれもずいぶん昔のように思える…傭兵になってから直接戦闘を避けてきたので、余計に懐かしく感じる。

仕込みが偶然上手くいってなかったら、俺はあっさり殺されていたに違いない。

それくらい、高位の魔族と人間とは能力の面で隔絶している。

 

(派手にやらないと引き付けられないだろうしなぁ。

やっぱ爆弾か。それも、想像を絶するくらいヤバい威力がいい)

 

そこで頼りになるのが秘伝書さまだ。

いやもうホント毎日お世話になっているジェト族の秘伝書だが、ここにはこの世界の人間でもちょっと驚くような術や薬が記されていたりする。

その一つが、【爆ぜる柔らかい土】。

粘土のように素手で成形できる柔らかい爆薬であり、威力に関しては『手にて掬い取る一塊にして、岩をも微塵に砕く』という。

しかも『槌にて叩き潰しても爆ぜず、火に投げ入れても爆ぜず、ただ一瞬にして強く熱した時のみ目覚ましく爆ぜる』という性質からして、いわゆるプラスチック爆薬とほぼ同じらしい。

まぁ仕組みは知らんけど。

 

(いつまでも倉庫に隠れてても仕方ない、そろそろ行くか。

こいつを砦の本棟から離れた所で爆発させれば、多少の撹乱にはなるだろう。

警戒状態になれば敵のボスは自分の部屋から不用意に出られなくなるし)

 

つっても、魔族の軍隊は動きが予測できないのが怖い。

魔族に共通する個人主義、その上に成り立つ軍隊は『アウトロー集団』に近いからだ。

上の人間には従うが、行動は個々の判断に依る所が大きい。

要するにどいつもこいつも勝手に動く、野盗のようなものだ。

 

(派手に吹っ飛ばして混乱させてやるぜ!

今まで使った事が無いような量の爆薬だ、デカい花火が上がるだろ……うん。

よく考えたら怖くなってきた…どのくらい離れてから起爆すればいいんだコレ?)

 

最近は収入も安定してきて、材料を用意してくれる商人とも知り合えたので、今まで作れなかったような薬や道具も作れるようになってきた。

例えば、この世界の文明レベルからするとかなり進んだ技術である『時限爆弾』とか。

 

便利な魔法があるんだから、それくらい存在するんじゃないかと調べてみたが、どうやら火薬はあってもこれを魔法と組み合わせる発想が無いらしい。

というのも、魔法はその道一本で学んで初めて身に着くものらしく、また生まれつきの才能に左右される部分が大きく、兵器としてアテにならないようだ。

 

その点、ジェト族の秘術はかなりのアドバンテージになる。

こんな便利な術がいっぱいあるのに使わなかったとか、ホント脳筋極まってたなアイツら。

コレ使ってたら全滅せずに済んだと思うんだよね。

 

ちなみに遠隔で発火させられる【思念を火に変える法】などはあるものの、10m以上離れると点火できなくなるので、ちょっと爆弾の起爆装置としては使いづらい。

だから一定時間で発火させる【燃える定めの法】によって、時限爆弾として運用するのが基本だ。

 

(よ、よーし、ここに仕掛けよう。

さっさと距離を取らないと…!)

 

西の監視塔基部に爆弾をしかけ、鼠のようにこそこそ逃げる。

 

「あ?」

 

「あ」

 

巡回の兵と遭遇した。

 

「なんだッ…てめぇ」

 

「あああえと、えと、えっと…あ、そうだ!

あっち、あの監視塔!あっちがヤバいんです!」

 

「ヤバい?なんだお前、どういう…」

 

凄まじい轟音と共に、爆炎が上がる。

覚悟していた俺は衝撃波に耐えられたが、魔物は姿勢を崩した。

隙だな。

 

「あァ!!?な、なんだ今の…塔は無事か!?」

 

意識は絶対に爆発の方へと向く。その隙はデカい。

 

「てめぇ、何をぼっ」

 

いきなり飛びついて、耳からナイフを刺し込む。

しばらく戦ってなかったのに、いざ殺すとなったら一瞬の遅れも無く身体がついて来たのが、むしろ怖い。

 

(久々だな…この感じ。

血管広がって、テンション上がってくる。なのに頭は冷えて、相手の動きがよく見える…)

 

久しぶりに動いたのに、どういう訳か身体が前より軽やかに動く。

いくらどうしようもない人間の俺でも、戦闘民族の血とやらのおかげか、辛うじてやっていけそうだ。

自分の実力以外のものに頼り切るのは気が引ける……とは微塵も思わないし、できればもっともっと楽したいくらいだが。

 

「こっちだこっち!」

 

「誰だテメェコラァ!!」

 

「捕まえろ!」

 

「うわぁ来た来た!ゾロゾロ集まってくんじゃん!?」

 

ボーっとしている間に、爆発音に釣られて魔物どもがわらわら群がってきた。

ホント、この仕事だって実際のところしなくていい事なのに、ガキどもが調子に乗るから…ここで逃げたら評判下がるかもしれないし…。

だから、わざわざ一番危険な役目を負う事で、逃げた時に名誉が傷つきにくい流れも作ってみせた。

ここまでは想定内。

 

「どっから入ったこのガキ…ッ!」

 

「グルルァアアア!!」

 

「ひぃーっ!」

 

…想定内でも死ぬほどキツいってだけだ。

いくら身体が上手く動こうが、人間以上の身体能力と特殊能力を持った兵士数十人に追い掛け回されたら危ないに決まってる。

俺には特別な能力も無ければ、術がその場で手軽に使える訳でもない。

事前の準備と持ち込んだ道具が全てでしかない俺にとって、この状況はギリギリだ。

 

「おい何騒いでる!爆発見に行くのが先だ!」

 

「だから、コイツがやったんだろ!?まず捕まえて…」

 

「くっちゃべってんな、逃げたぞ!追え!!」

 

おお、混乱しとる混乱しとる。

今の内にさっさと用事を済ませてほしいものだ。

 

ちなみに、アイツらには【呪術蟲】を飲ませてある。俺自身も飲んだ。

誰かが死ねば、そいつ以外に宿った蟲がそれを知らせてくれる。『こっちの死を知らせるために必要だ』と説明して了承させた。

まだ蟲に反応は無い。

逃げるなら、アイツらが負けたのを確認してからだ。

 

(ま、アイツらならこんな雑魚に追い掛けられてひーひー逃げ回ったりはしないだろうな。

しかし楽観視もできない…)

 

この作戦は速度が重要だ。混乱に乗じて一気に潜入し、暗殺する必要がある。

暗殺が成功すれば空に魔法信号を打ち上げる予定だが、そっちはそっちでまだ上がっていない。

 

「見つけたぞ人間…よくもちょこまかと!」

 

「えいッ!」

 

対魔族用に調整してある煙玉で敵の目を封じ、その隙に視界から外れる。

 

「ぐわぁッ!?煙、だとッ…」

 

後は倉庫の上に登って、黒いマントを被って伏せる。

飛べる魔物は意外に少ないようで、こういう所に隠れるとバレにくい。

 

「ふぅーっ…ひぅーっ…ううっ」

 

痛みと疲労に耐えて、呼吸を整える。

息を潜めつつ筋肉の動きを最小限に抑える事で、気配を消しながら体力消費を軽減できる。

この技術も秘伝書にあった潜伏術のひとつだ。

 

(思ったより爆発したな…)

 

監視塔から上がる煙を見て、ふと我に返る。

 

(アレ、もうちょっと近かったら俺もヤバかったんじゃ…)

 

まだ爆発の残響が、頭の中でガンガン鳴っている。次からは耳栓着けよう。

 

(…ま、いいさ。しばらく休んで、楽させてもらうとするか。

撹乱は充分にしたし、後は勝手にやってくれや)

 

本当なら、仕事せずに金を巻き上げられたハズなんだ。

妙にやる気出しやがって、テメェらの英雄気取りに人を巻き込むんじゃねぇよクソッ!

アイツらさっさと殺すか死ぬかしてくれねぇかな…。

 

 

 

 

 

「今の揺れ…」

 

「爆弾、だろうか。かなり派手にやったようだ。

…キルエさんは我々を信じて命を懸けている。我々もそれに応えねばな」

 

「そ、そうですね!」

 

グレンは会話には参加せず、ひたすら無言で廊下を駆けていく。

 

(透明とまではいかねぇが…一瞬視界に入ったくらいじゃ全然気づかれねぇな。

俺ならその一瞬があれば充分。なかなか良い術だ)

 

廊下の突き当たりに影が差す。

右の曲がり角から、巨漢の魔物が飛び出してきてグレンと目が合う。

 

「邪魔だ」

 

が、グレンの魔剣が放つ炎に呑み込まれ、姿を認識する事さえ無く炭化した。

 

「ちょっと待ちたまえ、倒す前に敵将の居場所を聞くべきじゃないか?」

 

「…チッ、だったらテメェらも手伝え。声なんか上げさせるなよ」

 

「分かっている。静かに、素早くだ」

 

3人は曲がり角でしゃがみ、左右両方を覗き込む。

 

「あっ、右から来ます。3人です」

 

「尋問なら…まぁ、アテがある。1人だけ残してくれればいい」

 

「は、はいっ!…えいやっ!」

 

敵が近づいて来るのを待ってから、フェリスが獣の膂力で杖を振る。

 

「ぐぎゃっ!?」

 

先頭の魔物が昏倒し、後ろを歩く2名が目を剥く。

 

「な、なんだァ…がッ」

 

叫びかけた2人目が赤い斬撃に喉を焼かれ、無言で絶命。

防御しようと飛び退いた3人目の脚にラスタの槍が突き刺さる。

ラスタはそのまま残る左手で魔物の口を塞いで押し倒した。

 

「聞きたい事がある。が、答えてはくれんだろうな。

我がシュヴァイト家に伝わる『審判魔法』が無ければ…」

 

何か手で印のようなものを組みながら、魔物の顔に手をかざす。

 

「【術種(コード)045:法廷】。壁は音を遮る」

 

かざした手の甲に入れ墨のような模様が浮かび上がる。

と同時に、少年たちを光の壁が囲んだ。

 

「こりゃあ…結界か?」

 

「そうだ、結界内の音は外に出ていかない。

よし、もう喋っていいぞ」

 

抑え込んだ口を解放する。

 

「ぶへェッ…テメェら人間のガキか!?

いきなり爆発なんて起こしやがって、テメェらマトモに死ねると思うな…」

 

「【術種(コード)066:審問】。この問いに偽りを返す事、これを禁ず。

この砦を守る迎撃魔法の術者は誰だ?」

 

「へッ、誰が言うか…!

うッ!!?か、身体、が…ッ!」

 

魔物は脂汗を流し、ビクビクとのたうち始めた。

 

「黙秘する権利はあるが、お前にとって不利になり得るぞ。

血が煮え立つ様だろう?」

 

「かッ…ま、まぁ、別に大した情報じゃねぇ。教えてやるよ。

そうだ、あの術はオヤジが仕組んだもんだ」

 

「術を解除するためには、要となる物体を破壊する必要があるんだろう。

それは術者である、貴様らのボスが持っているはずだな?」

 

「あ?……ンだよ、知ってんのか。ああ、そうだ」

 

「よし。ではそのボスはどこにいる?」

 

「はァ?オヤジを売れってのか!?舐めんなよガキども!!」

 

「…もう一度聞くぞ。【裂牙候】キオフ・ホルトはどこにいる」

 

「ぐげッ…い、言う訳…ね、ねぇだろ…!」

 

「どこに、いる?」

 

「が、ぎぎ…ぐ、ううう…」

 

問いに黙秘で返すたび、全身の血肉が沸騰するかのような激痛に襲われる。

魔物が苦痛にもがくのは当然の事だが、不思議な事にただ質問しているだけのラスタの表情もまた、鬼気迫るようなものがあった。

 

「あの、ラスタ、さん?」

 

「どこにいるかと聞いている…ッ!」

 

「ま、ま、待でッ!ばなず、話すがらァッ!!

そ、その先、こっちの道ずっと行って、右曲がってずっと行ったらデカい扉がある!

…ゲホッ、ゴボッ!!」

 

「そうか、分かった…」

 

フェリスには、答えた魔物より話を聞いていたラスタの方が安堵しているように見えた。

魔物は、その隙を見逃さなかった。

 

「死ねやクソガキッ!!」

 

「っ!し、しまっ…」

 

瞬間、灼熱が全てを押し流した。

 

「油断すんな馬鹿が」

 

「す、すまない…」

 

「何『もう限界です』みてぇなツラしてんだよ」

 

「ああ、そうだな…情けない」

 

「…チッ。さっさとその傷治せ」

 

「え?あ、ああ。魔物に傷を付けられていたのか」

 

「あ、腕を出してください!治しますね!」

 

心ここに在らずといった様子のラスタは、尋問を受けていたあの魔物と同じくらい酷い汗を滲ませていた。

 

「術の反動か何かか?まぁ確かに強力な魔法だったが」

 

「違う…これは、単に気分が悪くなっただけだ。

魔族とはいえ、嬲って脅しを掛けるのは好きじゃない」

 

「ほう?誇りある家に伝わる魔法じゃねぇのか?」

 

「もちろんそうだ。私はシュヴァイト家の嫡男として、この術を誇りと共に継承した。

この魔法は、幼少の頃から少しずつ全身に刻んでいく事で受け継がれる。

もちろんこれには激痛が伴う…誇りがあったからこそ耐えられたんだ」

 

「でも、その誇りある魔法を使うのは嫌だ、ってか?

何のために継承したんだっての」

 

「父からは…『痛みを知る者だけが、この術を使う資格を持つ』と言われた。

他者に苦痛を強いるからこそ、自分自身も痛みを理解する必要があると。

この魔法は、楽しんでコレを使えるような人間が持ってはいけないんだ」

 

「俺に言わせりゃどっちにせよただの拷問だがな」

 

「それも否定はしない。

だが許せないのは、何の覚悟も無くこの魔法を使う者たちだ。

…我が父は教会の人間に殺された。その皮膚は生きたまま剥ぎ取られ、保存されている。

特殊な保存法らしい。皮膚に刻まれた審判魔法の術式は未だ有効のまま、奴らの異端審問に使われているようだ。

そしてシュヴァイト家は、奴らの行なった違法な審問の罪を被せられ、潰された」

 

「ひ、酷い…っ!」

 

「魔族が憎いんだったな、キミは。

私は人間の方が憎いよ。皆殺しにしてやりたいほどにね。

奴らは罪を逃れ、まだ父の術式を利用した残虐な拷問を繰り返している。

反吐が出るよ」

 

「そうかい。今お前がやった事だって、充分に拷問だと思うがな」

 

「ちょっとっ、グレンさんっ!」

 

「…ただ、テメェの信念に従って魔法を使ってんなら、もっと堂々としとけ。

いちいち青ざめて、付け入る隙を与えるな。全部胸に秘めとけよ」

 

「……」

 

ラスタは無言で俯いた。

フェリスがグレンの頭を杖で叩く。

 

「痛っ…テメェ!」

 

「謝ってくださいっ、落ち込んでしまいましたよ!あなたのせいで!」

 

「いや。いいんだ。彼の言う通りだよ。

信念なんて、あえてひけらかしても意味は無い。心の中に強く刻んでおけばいい。

さあ、もう行こう。敵将はすぐそこに居る!」

 

「は、はいっ!」

 

「フン、手間かけさせやがって…」

 

3人はこの後、敵将キオフ・ホルトの下へと向かい、激突する。

そして彼らは砦の自動迎撃魔法の解除に……失敗する。

〈つづく〉

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