異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第16話 最後のチャンス

老いたる猛将【裂牙候】キオフ・ホルトは討たれた。

謎めいた紋章を持つ少年と、家の復興を望む少年、人狼の少女の3人によって。

彼ら3人は後に人類と魔族の戦争において極めて重要な役割を果たす事とるのだが…もう1人の少年には、何ら関係のない話だった。

 

少年は、この南方戦線において生まれるいくつもの英雄譚に関わりながらも、その全てに最後まで付き合う事はなかったからだ。

 

「いや~まさか砦の陥落まで付き合うなんて。無茶しますねぇ」

 

「あ、あなたに任されたからちゃんとあの3人を瞠っていたんです!

その分の報酬弾んでもらいますからねっ!」

 

傭兵ギルドの受付嬢が、少年と談笑している。

この少年こそ、第四の少年。ジェト族のキルエである。

 

「お手数おかけしました、おかげで彼らも無事でした。

…報酬は現金でいいんですか、結構大金ですけど」

 

「はい。すぐ使うので」

 

「それでは…はい。こちら報酬の80万バルケーです」

 

「えへへ…やったやった」

 

麻袋から感じる確かな重みは、キルエをニヤつかせるのに充分だった。

あの3人はなんだかんだ言って通常の報酬しか受け取らなかったが、キルエだけはこっそり不正な依頼をした事の口止め料を大隊長からせしめており、大きな儲けになった。

 

「後こっちは、教会から出てる祓魔報酬です」

 

「ほあ?なんですこりゃ」

 

「あなたが倒したと聞きました。【裂拳卿】ゾルト・ボーゲンという魔族。

…グレンくんがそう言ってましたよ、違うんです?」

 

「ああ、いや…そうですね。ひょっとして賞金首的な?」

 

「そうそう、そんな感じです。

あの3人も【裂牙候】キオフ・ホルトを倒した報酬を分け合ってましたよ」

 

なるべく直接戦闘を避けていたキルエにとっては、初耳な情報だった。

 

「…あの、ちょっと前に【呪殺伯】って異名の魔族が死んだの覚えてます?」

 

「ああ、大事件でしたねアレ!

そうそう、その魔族にも掛かってましたよ、賞金。

この倍以上はあったんじゃないかな?」

 

「やっぱそうすか。へ~…」

(やらかしたー!うわもったいねぇーッ!!)

 

「それより、向こうでは色々大変だったみたいですね。

生意気盛りって感じのグレンくんも、なんか落ち着いちゃって。

知ってます?彼ら、これからは3人で行動するみたいですよ?」

 

「あ、そうらしいですね」

 

どれだけ己の力を磨こうと、1人で出来る事には限界があると悟った彼らは、それぞれの目標を達成するまで共に行動すると決めた…そういう旨の話を、キルエは3人から直接聞いていた。

この大きな出来事に関わった事で、皆意識が変わったようだ。

子供たちが積極的に血を流した事で勝利できたと知った兵士たちも、己の優柔不断さを痛感した大隊長も。

…何も変わっていないのは、キルエだけだった。

 

「あなたも一緒に行けばよかったのに!

彼らの強さは、共闘したあなたが一番良く分かってるでしょう?」

 

「ん~…俺はいいです。手口を知られたくないので」

 

「かーっ、プロですねぇ!さっすが【忌み屋】のキルエ!」

 

「…んっ?何です、それ」

 

耳慣れぬ響きに、思わず聞き返した。

 

「あれれ、ご自分の異名ですよ。把握してないんですか?」

 

「い、異名って…そんな香ばしカッコいいもんがあるんですか?」

 

「こおばし?まぁよく分かりませんが、異名がつくというのは名が売れるという事。

あなたの傭兵としての格を示すものでもあります」

 

「…へ、へ~え?そうすか?

ちなみにその異名、どういう意味で付いたのか分かります?」

 

褒められ持ち上げられるのが何より好きなキルエにとって、聞き捨てならぬ話題だった。

 

「【忌み屋】…禁忌を売り物にする、という事です。

あなたが見たこともない術で得体の知れない成果を挙げているので、そう名付けられたようですね」

 

「き、禁忌ってほどでもないんですけどね…へへ」

 

しかしそこはかとなくダークで一筋縄ではいかなさそうな感じの響きは、キルエとしても思わずニヤケたくなるグッドなネーミングと言えた。

 

「いやいや、私知ってますからね。あなたが旅商人にめちゃくちゃグロいアイテム注文してるの。

あ、そうだ。『凶星堂』さんから伝言です、ご注文の品が届いたと」

 

何らかの術を使う傭兵は、そのための道具や消耗品を調達する必要があり、必ず贔屓にする商人がいるものだが、キルエにとっては『凶星堂』がそれだった。

 

「そうですか、今どこに?」

 

「お外で待ってらっしゃいますよ。中にいればいいのにって言ったんですけど」

 

「そういう人ですから…じゃ、色々ありがとうございました」

 

『凶星堂』は施設の外、木陰に腰掛けていた。

1人で負うには過剰な大きさの荷を背にした女だ。

 

「おや、やっと来ましたか。

頼まれていた呪物ですよ、【魔界賢者の眼球】」

 

手渡されたのは、異様なほど瑞々しく存在感を放つ青い宝石。

まるで抉り取られたばかりの目玉のように、美しくも悍ましい輝きを放っている。

 

「助かります~、これでまた新しい呪いを試せそうだ」

 

「まったく、よく分かんないもんばっかお買い上げいただけますね。

おかげで需要を把握するのが大変で大変で…」

 

「す、すみません。自分でも『なんでこんなもん用意しないといけないんだよ』って思ってますから」

 

キルエ自身も、秘伝書に書かれているままに材料を集めているだけだ。

仕組みも何も分かっていないものをなんとなくで使っているに過ぎない。

 

「それで…あの、もう一つの注文なんですけど」

 

「ああ、アレねぇ…すいません。もうちょっと時間がいるというか…いや!

もう見つけてはいるんですけど、手に入れるのが難しくてねぇ」

 

「そうですか。まぁ気長に待ちますよ。じっくりやってくれればいいです」

 

「ところが、そうもいかないのです。

ご注文の品は『竜の骨』でしたっけ?」

 

「ええ、角ならなお良いんですが」

 

キルエは竜など見た事も無いが、明らかに希少な素材である事は分かっていた。

だからこそ、そこまで入手を急いではいなかった。

 

「竜はこちらにはあまり棲んでいなくてね。

しかもそれを狩れる人間となると更に限られてくる。

となると、既に解体されて市場に流通したものを狙うしかないのですが…これがなかなか難しい。

強い魔力を帯びた素材は、五王国によって狩猟から流通まで厳正に管理されていて、裏市場にもほとんど流れてこないんですよ」

 

「でもさっきの話だと、見つけてはいるんでしょ?」

 

「ええ。実は、とある金持ちが竜の頭蓋骨を調度品(インテリア)として注文した、という情報が入りましてね。

それをここ南方戦線から内地へと密輸するようなのです」

 

「うう、買い手がもう付いちゃったんですね。遅かったか…」

 

「ですからね、キルエさん。

どうです、その密輸業者を襲って奪っちゃいません?」

 

「……はい?」

 

凶星堂は申し訳なさそうに笑う。

 

「いやほら、どうせ密輸品だから向こうも被害を訴えられないでしょ?」

 

「いやいや…」

 

「それに業者なんて身分の不確かな連中ばかりですから、最悪の場合殺しちゃってもバレませんって」

 

「いやいやいや!」

 

「だってもう他に手に入るチャンス無いですよ?

今回だって、かなり貴重で奇跡的な例なんです!民間の手に竜の素材が渡るなんて!」

 

「だ、だって、よくないでしょ…」

 

「まぁ、諦めてもいいなら別にいいんですけどね。

でもあなたが行かなくても、他の強盗どもはこぞって行くと思いますよ。

今回は積み荷が積み荷なもんで、ちょっとしたお祭り状態ですから」

 

「む…」

 

そこまで急を要する訳ではないが、二度とないチャンスと言われると惜しくなる。

 

「…話を聞かせてください」

 

「ふふ。そう来なくては」

 

 

 

 

 

主要な街道から外れた道無き道。そんな悪路を征く幌馬車が1台。

 

「嬢ちゃんよ、暇だしちょっとお話しねぇか?」

 

「……」

 

「聞こえてるだろ嬢ちゃん!」

 

「……」

 

並んで座る少女にしつこく話しかける髭面の男。

 

「密輸業者のお嬢ちゃ~ん!!」

 

「お前…っふざけるな!バレないように移動しているのに、大声を出すバカがいるか!」

 

「だって相手してくんないんだもん」

 

「分かった、何の用だ!早く言え!」

 

「なんだこんな仕事してんの?嬢ちゃんみてぇなカワイイ子供がよ」

 

「下らん、そんな事か…勝手に想像するがいい」

 

「勝手に?」

 

男は少女を脳天から爪先までまじまじと見つめる。

頭には角。目の玉は黒く瞳は金色。手や太ももの一部を覆う鱗。

 

「半魔だろ?おおかた人間社会への復讐ってとこか」

 

「…人間だけじゃない。

魔族どもも私を虫けら扱いした…人間にとっても魔族にとっても、私は邪魔者でしかなかったという事だ」

 

「よく聞いた話だな。半魔の人間はどっちの社会でも受け入れられない」

 

「そういう事だ。もちろん、この仕事が直接の復讐になるとは思っていないがな。

私には力がある。後は金だ。そういう意味では、この仕事はオイシイ。

戦いの頻度も危険度も低いし、いいクライアントを見つければ傭兵よりよほど稼げる」

 

「傭兵を前にしてそれを言うかね。

羨ましい限りだが…それならなんでオジサンを1枚噛ませてくれたんだい?

力はあるんだろ、だったら護衛なんて付けず利益を独り占めしたらいいのに」

 

「私は油断などせん。今回はこれまでで一番の大仕事。

情報も厳重に隠してはいるが、それでもあちこちに洩れた事だろう」

 

その予想は当たっていた。

彼女らは既に2日で5度の襲撃に遭っている。

 

「ま、そのおかげで俺も自分の価値を示せたよな?」

 

「…それなりにはな」

 

男は既に21人斬っていた。

 

「だが本当に厳しいのはここからだ。

これまでの連中は、話を聞きつけた奴らの中でも小物。

慎重な奴らはまだ様子を見ているだろう」

 

「しかし不思議だね、そんだけ情報が洩れてんなら軍が動きそうなもんだが」

 

「だからわざわざ、すぐに軍が駆け付けられないルートを選んだのだがな。

そもそも情報が洩れてるとはいえ、大々的に広まっている話ではないだろう。

たった今小物と言ったばかりだが、それでも情報収集に長けた手練れである事には変わりない」

 

「確かに、密輸業者狙いの強盗にしてはなかなか強かったよ。

たぶん普段は傭兵とかでそこそこ名を売ってるんだろうね。

…そんな連中がこぞって奪いに来る積み荷ってな~んだ?」

 

「教える義理は無い。自分で調べるくらいの時間はあったハズだが?」

 

「でもお嬢ちゃんが『積み荷の中身は聞くな』っつーからさぁ、調べない方がいいかなーと気を遣ったつもりなんだけど」

 

「なら聞くな。無駄な会話をさせるな」

 

少女は取り付く島もない。

 

「おじさん1人に働かせといてちょっと冷たくな~い?」

 

「…私が何もしていないとでも思うか?

ルートは事前に綿密な調査済みの上、今も常に探査魔法を展開している」

 

「探査魔法…それが嬢ちゃんの能力かい?」

 

「違う。これは習得したものだ。

とにかく、今の所は魔術の罠や伏兵は無い。

絶対とは言えんが…居ても自然に溶け込める精霊の類だろう、精霊に知り合いは?」

 

「いないね。恨みを買った覚えも無い。

じゃあしばらくはお喋りしていられるねぇ」

 

「探査してるっつってんだろうが!

敵と野生動物の反応を区別しながら情報を処理する術だ、神経を使うんだよ!

いちいち話しかけてく……チッ」

 

「どしたの?」

 

「前方から高速で接近…3人だ」

 

「あらら」

 

瞬時に座席から飛び出した男は、車両の上に乗り上がった。

 

「御者の人、馬止めなくていいからね」

 

口布と色眼鏡で顔を隠した御者が、慌てて手綱を握り直した。

胡散臭い風体だが、この男もまた今回の作戦のために雇われた優秀な御者であった。

 

「へ、へい!」

 

「大仕事の前の肩慣らしのつもりだったが…これはちと手強そうだ。

おじさんのカッコいいとこ見せて、報酬上げてもらおっかな」

 

〈つづく〉

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