異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第17話 急襲

ある富豪へと届けるため、竜の頭蓋骨を密輸する半魔族の少女。

その情報を聞きつけた手練れたちが大挙して押し寄せるが、護衛の男はそれ以上の使い手だった。

敵を斬りながら進み続けて2日、休みなしの警戒と戦闘にも疲労を見せている暇は無い。

なぜなら敵が手強くなるのはここからだからだ。

 

「前方から高速で接近…3人だ」

 

そして現れた次なる襲撃者を始末するべく、走行中の馬車の屋根に乗って剣を構える男。

 

「ヒィーヤハハハハァーッ!!

さっさと荷物出しなァァ!!」

 

光の翼を生やした男たちが、凄まじい速度で飛翔してくる。

 

「おっと、あの飛行魔法は…」

 

「どうした、知り合いか!」

 

「【空の死神】スケアフィ3兄弟だ。

それなりに名高い傭兵どもだよ」

 

「チッ、傭兵だけしていればいいものを!

…自分から『馬車を止めるな』と言ったのだ、手助けは要らんな?」

 

「まぁね…」

 

男が剣を抜き、水平に構える。

 

「見せちゃいますか、おじさんのとっておき」

 

刀身が不規則に震え、まるで鞭のように波打って見えた瞬間。

 

「魔剣術理。飛葉(ひよう)」

 

「ヒャハァ!当たるかよォ!!」

 

先頭を飛ぶ長兄が急停止し、『飛ぶ斬撃』をギリギリで躱す。

 

「あ、あららっ!?」

 

「テメェが護衛に付いてるのは調べがついてんだ!

【魔人剣】ザラハの剣術は対策済みよォ!」

 

「じゃ、ソ(●)レ(●)もバレてっか!」

 

長剣の陰から飛び出した短剣が、長兄の眉間に突き刺さる。

 

「がッ…!?」

 

「魔剣術理・裏。影追(かげおい)」

 

魔族の剣術にも、裏…すなわち暗器術が存在する。

裏まで習得している剣士は、魔族の中でさえ稀だろう。

 

「あ、兄者ぁああああッ!!

おのれ、よくも兄者を……えいッ!!」

 

後ろの次兄が、長兄の死体をキャッチし投げつける。

 

「うおっ!?『よくも』って、アンタ自分で投げて…クソッ、これ邪魔!」

 

さらに死体で視界を塞ぎ、一気に近づいてくる。

相手の攻撃が見えないというハンデは、この高速下の戦闘において致命的だ。

 

「でもねぇ、浅知恵なんだなぁ!…魔剣術理、剪伐(せんばつ)!」

 

男が振るう横薙ぎの一刀は、死体の胴を丸ごと両断し次兄の胸板をも切り裂いた。

 

「ぐぅううおおおおッ!?」

 

「ハイ2人目~」

 

「テメェ、よくもダブル兄貴を!!」

 

末弟は怒り狂いながらも、男の周囲を高速で旋回し始めた。

全速力で走る馬車の上に乗る男の周りを、追い掛けながら旋回する困難さは想像に難くない。

 

「スピードではこっちが上!テメェに反応できるかぁああああッ!?」

 

「人間の速さじゃないね、全く……だからこそ、人外の技が活きるんだが」

 

男は己を取り囲む旋風を見極め…

 

「もらったァ!!」

 

「魔剣術理、雷迎(らいごう)!!」

 

末弟が突っ込んでくるまさにその瞬間、予測していたかのような神速の斬撃が迎え撃った。

 

「か…はッ」

 

「速度には速度で対抗すべし。俺の技で一番速いカウンター技だ。

こんな技まで使わせないでくれよ、あんま練習してないんだからさ」

 

光の翼が消えて、末弟は血を噴き出しながら落下していった。

 

「しっかし、こりゃマズいね」

 

「何がだ。もう倒したのだろう?」

 

「でもたぶん、他の奴らも監視してると思うぜ?

あんまり手の内を見せたくないんだけどね」

 

「…心配いらん。いざとなれば私が……ッ!?」

 

「ん?どしたの嬢ちゃん」

 

「伏せろ!!」

 

「えッ!?」

 

男が咄嗟に伏せると、頭上を物凄い音が通り抜けた。

 

「どわッ!そ、狙撃かァ!嬢ちゃんの探査魔法で分かんなかったのかよ!?」

 

「反応は無い!おそらく範囲外、相当遠くから撃ってきている!

移動する標的を、これほど遠くから狙ってくるとは…!

敵の位置は特定できるか!?」

 

「この辺にある高所はそう多くねぇ!

たぶん西の森のデカい木から撃ってきてる!」

 

「バカな、そんな不安定な足場でこれほどの射撃を!?」

 

「それより警戒しなよ。

狙撃で馬車じゃなく俺を狙ってくるって事は…」

 

ザザザ、と風が吹き抜けるような音に振り向いた男は、予想通りの光景を見た。

獣のように四足で疾駆する者の姿。

 

「おい、後方から1人接近している!」

 

「やっぱりね。護衛を潰してから仕留めにかかるつもりだったか」

 

「ガルルァッ!!」

 

敵は一気に飛び上がって、馬車の上に着地した。

よく見れば、それは手足が獣のように変化した男。

 

「【魔狼】ベイレインか。ユグナ戦役の英雄にお目に掛かれるとは光栄だ。

狙撃手はアンタのお仲間かい?」

 

「そうだ。気を付けろよ、まだ狙ってっから」

 

言った直後、男の背後を矢が通り過ぎていく。

 

「おおっと…腕が良いねぇ。こりゃちょっと面倒か…?」

 

「心配は要らん!矢は私がなんとかする!!」

 

馬車の中から、きっぱりとした少女の声が響く。

 

「ほう?任してい~んだね?

…だ、そうです。心置きなく戦えるね」

 

「上等だよ、行くぞオラァ!!」

 

直撃すれば切り傷では済まない強烈な爪の攻撃を、剣で器用に逸らす。

 

「よっ、ほっ、はっ!」

 

「うっとうしい…ならもっとペース上げてくぞ!」

 

刺客の顔が変形し、狼に変わっていく。

 

「グガァアアアア!!」

 

(重ッ…どんな筋力だ!こりゃいい加減のらりくらりやってらんねぇか…!)

 

爪の連撃をいなして距離を取ろうとした時、狼男はいきなり飛び上がった。

 

「はッ…」

 

そのまま獣の牙を突き立てるべく迫り、男は剣で防ぐが押し切られて転倒する。

そこへ矢が飛来した。

 

「死ね!!」

 

(ダメだッ…信じるぜ嬢ちゃん!)

 

矢は男の眼前で曲がり、狼の左肩に突き刺さった。

 

「ッがああああァ!?」

 

「やるじゃん!」

 

生じた隙は、剣士として達人の域にある男が付け込むには充分すぎた。

懐の短剣を脇腹に突き立てる。

 

「ぐうげッ…クソ、アイツが狙いを外すハズがねぇ…テメェ何しやがった!?」

 

よろめき退きながら、狼男が問う。

 

「知りたいか?……俺も知りたいんだけど、どう~?」

 

「敵が居るのに教える訳あるかッ!

…話すならソイツを殺してからだ!」

 

「だってさ。悪いけど死んでくれよッ!」

 

「ほざけやァアアア!!」

 

爪と刃、野性と技術が交差する。

 

「―魔剣術理、獣華(じゅうが)」

 

「…く、そ。しくじった、か」

 

魔狼は脳天から鮮血の雨を降らせつつ、馬車上から落ちていった。

 

「ふー…で、聞かせてくれる?」

 

「何をだ」

 

「とぼけちゃいかんよ、キミの力さ」

 

「…歪曲の力。

空気中に魔力を放出し、一定範囲の物体やエネルギーを捻じ曲げる」

 

「そういう仕組みね。そんな便利な力があるなら楽勝だったじゃん」

 

「反応速度には自信がある方だが…それでもあの狙撃は想定外でな。

あのレベルの不意討ちには対応できん。アテにされても困る…」

 

「なるほど。それでなるべく反応できるように、探査魔法を覚えたのかい」

 

「ああ…そういう事だ。

生まれつき使える力ではないから…消耗も激しくはなるがな…」

 

少女の声は疲れ切っていた。

 

「ちょっと休んだ方がいいんじゃない?」

 

「馬鹿を…言うな。一刻も早くこの地獄を抜け出て内地に入らねば…。

それに敵は消耗した所を狙ってくる…前方4人、後方1人」

 

「いやはや全く…休ませてくれないねぇ!」

 

「安心しろ」

 

少女は車両の屋根に手を掛け、一息で上がった。

 

「ここからは私も力を貸してやる」

 

「そりゃありがたいね。

でも能力のこと、僕に言っちゃってよかったのかい?

どうせこの仕事限りの付き合いだろう?」

 

「フン、それはお前が生き残れたらの話だ!」

 

その時、馬車の右車輪が砕けた。

 

「おっとぉ!?」

 

「クソッ、地中からの攻撃だと!?もう1人いたか…ッ」

 

「大人しく死ねやァアアア!!」

土の中から這い出てきたのは、全ての武器を失ってなお素手で魔族の軍勢を殺戮した戦闘狂。

【真紅の虎】カルネル・ヴィーゲ。

 

「半魔のガキなんぞが密輸なんぞしおってェ!

貴様らなんぞこの俺なんぞでも充分嬲り殺せるわァ!」

卑劣にして狡猾なる策士でありながら、その身には都市をも焼く黒炎を宿しているという。

【卑炎の将】ナンゾ・ワイズマー。

 

「積み荷を放棄して逃げるなら追わないと誓おう!

すまんが我々も金がいるのだ」

小国ザフラムの姫を攫った大魔族を討ち滅ぼした英雄。

【ザフラムの勇士】ボルフ。

 

「どいつもこいつも逮捕じゃぁ~ッ!!」

何の公権力とも関係ないのに、勝手に悪党を逮捕して回る異常者。

【狂気の憲兵】ドーラム。

 

「魔族、1人。魔族に与する者、2人。…処刑」

人も魔族も区別なく断罪する、慈悲なき暴力。

【断罪装置】ヘル。

 

「おーおー、どっかの戦場で見たようなスーパースターが勢揃いかい。

って事は、背後の1人は…」

 

男が首を傾げると、そこを手裏剣が高速で通過していった。

 

「…お命頂戴」

遥か遠国から来た謎多き暗殺者。【朧鬼】ディーザエモン。

 

「これだけのメンツを揃えて、やる事が強盗っすか。

いやはやなんとも情けねぇ…」

 

「ザラハ、もうそういう事態じゃねぇんだよ。

積み荷も確かに大物だが…重要なのはソイツだ」

 

カルネル・ヴィーゲが指さしたのは、半魔の少女。

 

「ククク、何が『積み荷を差し出せば追わない』だよ。

逃がす訳ねぇだろ、あの魔界七王の1人【墜崩王】ティルマータの娘をよ…!」

 

「っ!」

 

少女は、忌々しげに顔を歪めた。

 

「ソイツを捕まえりゃ、七王とも取引できる。

ティルマータは家族思いって話だからなァ~、今も血眼んなって探してるとか」

 

「家族思いだとっ…あの男が!」

 

「いやそっちの家庭の事情は知らねぇけどよ。

積み荷を売って大金をせしめ、娘を捕らえて栄光の足掛かりにする。

ヒャヒャヒャ、こんなウマい獲物はねぇぜ!!」

 

「ザラハよ。貴様なんぞに用は無い。

そんな小娘なんぞ見捨てて、今日あった事なんぞ忘れてしまえ」

 

「……」

 

護衛の男は、無言で少女に目を遣る。

少女は一瞬逡巡したが、すぐに言うべき事を決めた。

 

「わ、私は…私の名はメルトだ!

【墜崩王】ティルマータ・バストラの娘、メルト・バストラだ!」

 

「ご丁寧にどうも。

おじさんは【魔人剣】とか言われてる傭兵のザラハ・イスフールです」

 

そして向き直る。

 

「…と、ちょうど自己紹介が終わった所でね。

仕事はこれから始めるとこなんだわ」

 

「こ~の傭兵の鑑がァ。

依頼は全てに優先されるってか?」

 

「そっちこそ。魔族と取引なんてしてどうすんの」

 

「そりゃ上手いこと無防備にさせて、殺すんだよ。

俺たちゃ魔族を殺すのが商売だろ」

 

「…アンタらこそ、傭兵の鑑みたいな事言うじゃないの。

どうせ取引するなら魔族の側に寝返っちゃえばいいのにさ」

 

「ま、お互い仕事のためだ。容赦は要らねェ…!」

 

互いに構える。

 

 

 

 

 

「あ゛ァ~…よってたかってか弱いおじさんをイジメやがって…」

 

「隣にはもっとか弱い少女もいるが、な…」

 

息も絶え絶えな、血塗れの男女。男は剣を、少女は箱を抱えていた。

辺りには人間の手足や首といった部位が散乱している。

乗っていた馬車は戦いの余波でとうに崩壊し、今は2人並んで地面に倒れていた。

 

「さすがに全員倒すのは無理だったが…退却に追い込めた。

正直メルトちゃんの魔法のおかげかな」

 

「…お前の剣術は、魔族のものだな。

だが人間用にチューンアップされている…だからあのような奥義が使えたのだな」

 

「奥義?アレはただの技の1つだよ。

っつっても俺魔法使いじゃないから、ああいう系の技は使うのしんどいんだけどね」

 

「私は、見くびっていた。

魔界の王の娘として生まれ、逃げ出してこの地獄で生き続けて…もう怖いものなどないと思っていた。

だがあの傭兵どもは怖かった。人間の中に、まだあんな強者たちが…しかも、たかが強盗と誘拐のために動くような連中なのに…」

 

「そうだね、アイツらは頂点じゃない。

スゲー強いけど、それでも最上位層とは程遠い…だから勝負になったんだけどね」

 

戦闘の中で確実に仕留められたのは、【真紅の虎】カルネル・ヴィーゲ、【ザフラムの勇士】ボルフ、【断罪装置】ヘル。

これだけの戦士を討ち取ったなら、本来魔族側であれば勲章ものだ。

 

「まあヘルは不死身って噂だから、そのうち蘇ってくるかもね」

 

「なっ!?に、人間ではないのか…?」

 

「だから、油断は禁物って事さ。このくらいで喜んでる場合じゃない。

むしろこういう、安心した時が一番危ないんだから」

 

「し、心配いらん…戦いながらも探査魔法は張り巡らせている。

ここにいるのは3人だけだ…生きているのだろう、御者!」

 

「へ、へ~い…終わりやしたかぁ~…?」」

 

馬車の瓦礫の中から、ヘロヘロの声が返ってくる。

 

「終わった終わった」

 

「へい、馬は呼び戻してよさそうですね!」

 

御者がピューイっと口笛を鳴らすと、彼方から2頭の馬が帰ってくる。

 

「襲われた時に逃がしておきやした!

で、どうです?馬の状態は…」

 

「抜け目が無くて助かるよ。2頭とも無事だ。

俺の方は1人で大丈夫だから、メルトちゃんを乗せてあげて。

ほら早く!また狙撃されたらマズいんだから!」

 

「た、ただいま参りやす!痛っ、ててて…!

ちくしょうッ、邪魔だなこのっ…!」

 

瓦礫の下から這いずり出た男は、ナイフを振り回して瓦礫に引っかかった服を切り裂いた。

そしてヒィヒィ息を切らしながらメルトを助け起こす。

 

「肩など貸さんでいい…それより……?」

 

メルトには、自身の見ている光景が理解できなかった。

御者の持っているナイフが、自分の腹部に突き刺さっているのだ。

 

「が、はッ…何を…して…???」

 

「…ッるぁあああああッ!!」

 

ザラハは瞬時に起き上がり、力を振り絞って御者を斬り付ける。

元から襤褸(ぼろ)だった帽子と衣服が宙を舞う。

 

「……」

 

そこに立っていたのは、褐色の肌と赤い目を持つ少年だった。

 

〈つづく〉

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