異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第0話(後) 最後の継承

ロクな人生を送ってこなかった俺は、やっぱりロクな死に方をせず、誰にも看取られる事なくこの世を去ったが、生まれ変わった俺には『俺』としての記憶が残っていた。

 

かつてとはまるで違う世界・違う人生に戸惑うが、己のダメっぷりをよく知っている俺は、早々に自分に見切りを付けて自堕落に生きる事を決めた。

 

しかし謎の騎士たちに住んでいた村(実際には村八分にされていたが…)が焼かれ、部族は皆殺しにされてしまう。

瀕死の老婆から秘伝書を渡された俺は、『何の責任も負わない』という条件の下でそれを受け取り、逃げる。

 

そして冒険の旅に出る事を余儀なくされ、現在。

 

血めいて赤い不吉な草原を、休む事なく小走りで歩き続ける。

決して足は止めない。何故なら―

 

「ヴォオ……ン」

 

「やべやべやべ」

 

廃城の陰から巨人が姿を現したので、慌てて遺跡かなにかの残骸に隠れた。

こういうバケモノが普通に闊歩してる場所では、おちおち休憩もできない。

 

「ふぅ…行ったか」

 

つくづく、とんでもない世界に生まれてしまったものだ。

 

(しかしまぁ、悪い事ばっかじゃねえ。

良いもん手に入れたぜ)

 

背負った荷物袋から巻物を取り出し、思わずほくそ笑む。

 

(俺がどうにか出来るのは、普通の野生動物が精一杯ってところだ。

このままじゃ、いつバケモノ共に殺されてもおかしくねぇ。

だがこの秘伝書にはすごい術が書き記されているに違いない…!)

 

努力は嫌だ。絶対に嫌だ。

しかし魔法だの呪いだのといった不思議な術なら、身体を鍛えずとも使える。

 

正直魔法の存在を知ったのはつい最近、村が焼かれているのを見た時なので、いったいどういう仕組みなのかは分からないが、読めば分かるっしょ!

 

大いなる期待と都合のいい想像で胸を躍らせながら、巻物を開いた。

 

「…へ?」

 

一面に奇妙不可思議な紋様がびっしり描き込まれていた。

 

(よ、よめない?

村に置いてある本とは全然違う文字だ…いや文字かコレ?)

 

紋様は巻物全体でひとつの形を描いているように見えた。

文字なら多少は文章らしく見えるはずだが、これはどう見ても落書き…

 

「い、いや!そ、そんなハズはない!

こ、ここに何か仕掛けがあるはず…」

 

嫌な汗が滲み出てくるのを感じながら、一心不乱に巻物を弄り回す。

おいおい冗談じゃねぇぞ、これが最後の頼みの綱…おっ?

 

巻物の軸が、何かカチッと音を立てて展開する。

来た来た来たぁ!そうこなくっちゃ!

 

「…痛っ!?」

 

出てきたのは針だった。

 

(な、なんだよこれぇ…ひょっとして、巻物の形した暗器じゃねぇのか?

まさかあのババア…間違えやがったんじゃ…)

 

俺はもう嘆く言葉すら思いつかず、押し黙って俯くしかなかった。

 

(あーちくしょう、いっつもこうだ。

運が向いてきたかと思ったら、毎度毎度肝心なところでハズレを掴まされる…)

 

舌打ちして、手の傷を見る。

無意味な傷は余計に痛む。

 

(うわっ…血が出てるよ~マジで最悪~…)

 

血が軸に刻まれた装飾に沿って這い、行き渡る。

と同時に、奇妙な光を放ち始めた。

 

「…えっ?何これ何これ何これ!

ちょっ…怖い怖い!!」

 

光が視界を埋め尽くし、俺は巻物を投げ捨てて目を閉じる。

 

(……っ!?)

 

…まだ、閉じたままだ。

なぜなら、目の前に明らかな存在感が生じていたからだ。

 

しかも、相当デカい。

目を開けるのが怖い。

 

『おい』

 

声がした。人語を話している事でちょっと安心したが、声の禍々しさで心臓が縮み上がったのでプラマイゼロです。

 

『おい』

 

ダメだ。怖すぎる。

しかし、開けなきゃもっとヤバい気がする。

 

よし、開けるぞ。

怖いのは声だけって事もありうる。

 

…そうだ!そうだよ!

たぶん秘伝書から出てきた存在なんだから、部族の守護霊とかそんなんに決まってる!

 

『ようやっと目を開けたか』

 

そこには、無数の眼球と牙のような棘で形成された、巨大な肉塊が聳え立っていた。

突端から、どす黒い粘液が滴っている。

 

「きゅぅ…」

 

意識があるのはそこまでだった。

 

 

 

 

『起きよ』

 

空白の果てから、地鳴りの如く低い声が響く。

 

『起きぬか、ジェトの民』

 

声が近づいてくる…否、俺の意識が浮上しているのか。

 

「ん…」

 

目を覚ますと、眼前には無数の眼球と牙のような棘で形成された、巨大な肉塊が聳え立っていた。

突端から、どす黒い粘液が滴っている。

 

「きゅぅ…」

 

意識があるのはそこまでだった…

 

『待たんか愚か者!お前は一生ここで気絶し続けるつもりか!』

 

「はいごめんなさい!!

…え、ええと、貴方様は…」

 

蠢く目玉が、一斉に俺を見る。

ここは間違えられない所だ。

 

「か、神様…でしょうか…?」

 

『神。それも間違いではない、ヤツらの言い分ではな。

だが精霊と呼ばれる事もある。悪魔、ともな。

要はお前たち次第だ、好きに呼べ』

 

「あ、はい。

…それでですね、あの~どういったご用で…?」

 

『お前が呼び出したのだろう。

その『秘奥の書』に血を吸わせ、継承の儀式を行うために』

 

「え」

 

目玉たちが、そよ風に吹かれたようにざわめく。

 

『ク、ククク…お前たちの様子は見ていた。

あの老婆に騙されたようだな。

お前はこれから一生ジェト族の王として生きねばならぬ』

 

や、やられた…!

 

『そう青ざめるな。王だ族長だと言っても、導くべき民はもうおらぬ。

別段なにか変わる訳でもないのだぞ』

 

「で、でも…」

 

『どちらにせよ、王でなければ秘伝書は読めぬぞ?』

 

えっ。

 

………。

 

「…じゃあ、継ぎます」

 

『ふ、同胞を皆殺しにされてなお、己の利でしか動かぬか。

それもまた面白い!』

 

すごく嫌な理由で気に入られた。やっぱり悪魔寄りの存在だろコイツ。

 

「で、どうすれば?」

 

『別にどうもせんでよいぞ』

 

眼球が群がる隙間から黒い触手がせり出し、俺の額に触れた。

 

「ひっ!?」

 

思わず尻餅をつきながら後ずさる。

 

『動くな、別に怪我はさせん。

…よし、これで終わりだ。

さて、ジェト族とも長く付き合ってきたが、今回が最後か』

 

「は、はい?」

 

『お前は次代に継ぐ気がないのであろう?』

 

そっか。俺が末代なのか。

これも前世と同じ。つくづく成長のない男だな、俺も。

 

「ええ、まぁ…そうですね。

で、これからどうすれば?」

 

『知らぬ。好きにせよ』

 

「あ、そうすか…」

 

ちょっとがっかり。

これでいよいよ、生きるためのモチベーションが見当たらなくなってしまった。

う~ん、これからどうしよう。

 

『なんだ?お前は責任を負いたくなかったのではないのか?』

 

「責任は負いたくないです。

でも、自分で考えて行動するのも面倒じゃないですか」

 

『じゃないですか、と言われてもな』

 

先程から思っていたが、見るもおぞましい異形の割に気さくな奴だ。

 

『別に目的がある訳でもないのでな。

ただ、お前たちの先祖から契約を持ち掛けられたので、乗ってやっただけのこと』

 

「契約って、何のために?」

 

『世界で最も多く人を殺す血族を作りたい、とか言っていたな。奴は』

 

「変な人すね」

 

『呆れた誇大妄想だろう?

実に興味を惹かれてな。

そこで手を貸してやる事にした訳だ』

 

話が興味のない方向へと傾き始めた。

本来なら部族のルーツを知る重要イベントかもしれないが、俺にとっては無駄話。

聞きたい事だけ聞いて帰ってもらうとしよう。

 

「それはいいんですけど。

この巻物、読めるようになったんですか?」

 

『おお、その話があったな。

お前は村から外されて1人で暮らしてきたのだ、知らぬ事も多かろう?

諸々説明してやる』

 

「へへへ、助かりますぅ」

 

『…まず、秘伝書に記された紋様には、ありとあらゆる秘技秘術が刻まれている。

お前が望みさえすれば、自ずと浮かび上がってくるだろう』

 

「えっ!?つまり、【皆殺しビーム】を出したいって思ったら、出し方が分かるって事ですか!?

無敵じゃないっすか!!」

 

『いやお前の能力次第だ。

今のお前に使える技しか検索できないからな』

 

そりゃそうだ。さすがにそう上手い話は無いか。

 

『そう肩を落とすな。お前が手にしたのはジェト族4000年の叡智の精髄だぞ?

その気になれば巨万の富も権力も思いのままだ!』

 

…実際やるかどうかはともかく、そう言われると淡い期待が湧いてくるというもの。

前世では見下され搾取されるだけの底辺だったし、今も怪物から逃げ回るだけの日々。

 

もし、それだけの力があれば…!

 

『それから、精霊や神などと呼んでいるモノの力を借りる時は気を付けろ。

1柱の神に力を借りられるのは1日1回だけだ。

1日というのは日出から次に日が昇る前までだからな』

 

…ん?

 

『あと同じ神の力を2日連続で使うと怒る奴もいる。

それから、神どうしの仲が悪い場合もある。術を重ね掛け・連続発動する時は注意しておけ』

 

なんか、妙に細かいな?

 

『ああそうだ、術を使い終わったら感謝の供物を忘れるな。

それぞれに好みの供物があるから、ちゃんと使い分けろ。

まず炎と天空の神ウシルパウは…』

 

「ちょ、ちょっと待って!

そ、そんな面倒くさい事しなきゃいけないんすか!?」

 

『当たり前だろう。

お前は他人の力を借りるのに、相手の性格や人間関係を考慮しないのか?

人間どうしでもそうなのだから、神と呼んで崇めている相手には疎かにするな』

 

くっ…社会人経験に乏しい俺には、実に耳が痛い話だ。

でもしょうがないじゃん、どこも雇ってくんなかったんだもん…。

 

『あと大抵の術は、発動するために儀式が必要になる。

全部覚えろよ。間違えたら最悪殺される場合もあるからな』

 

「あ、あ、あう…」

 

『聞いているのか?忘れたらおしまいだぞ?』

 

「ダ、ダメです。俺2つ以上の事は覚えられないんです。

パニックになっちゃって…」

 

『ええい仕方ない奴だ、紙かなにか持ってるだろう?

書いてやる!』

 

「すんません…ホントすんません…」

 

そういや昔よく物覚え悪くてバイト先で怒られたな…。

怒鳴ったりネチネチ嫌味言ってこないこの神は良い上司だ。

 

『ほら、注意事項と神々の特徴、書いておいてやったからよく読んでおけ!』

 

紙には黒い粘液で例の紋様が書かれており、目を凝らすと文字が浮かび上がってくる。

各神の名前、好む供物、仲が悪い神など事細かに記されていた。

 

「な、何から何までありがとうございます」

 

『せっかくの秘伝書を、使う事さえ出来ずに死んでしまってはつまらんからな…』

 

呆れたように呟く異形の姿が、ボロボロと崩れ始める。

 

「あっ、身体が…!」

 

『ち、もう時間か。

結局自己紹介が最後になってしまったではないか!』

 

異形が高らかに声を響かせる。

 

『我が名はジェトゥ=ファマ!智慧と文字の神と、人の呼ぶ!

始祖ドルグから二百と八代。最後の(すえ)キルエよ!

汝が道行き、暗黒の底より見届けるぞ…』

 

その姿と声は、塵となって虚空に消えた。

 

(…う~む、とんでもない事になってしまった。

でもまぁ、秘伝書が読めるようになったのは収穫だな。

これからこの世界で生きるのに、何の力も無しじゃ…)

 

「ォオオアァ!」

 

早速だ。

例の巨人が、音を聞きつけたか戻ってきた。

 

「来た来た来た…!

秘伝書さん、どうかこのバケモンを殺せる術を教えてくださいよっと!」

 

巻物を広げると、大量の情報が脳に飛び込んでくる。

 

【風を刃と成す法】 たぶん威力が足りない。

 

【怒りを()べる炎の法】 怒ってないからコレもダメ。

 

…………

 

―【天より雷を降らせる法】、これだ!

 

「ええと、まず両手を天に掲げる…」

 

そうしている間にも、遠くから巨人は迫ってくる。

 

「続いて大地に膝を付き、両手で大地を叩く。

これを繰り返すこと6回…」

 

なるほど、手順が多い。

だが間違えてはいけない、最悪死ぬとか言ってたし。

 

「ヴォオオオ!!」

 

巨人の咆哮が近づいてくる。

 

大丈夫だ。慌てず、儀式を完遂するのだ。

 

「…そして、()()()()()炊いておいた火に、呪文を刻んだ木札を投げ込む…?」

 

巨人は目の前。

 

「…………」

 

俺は走った。

 

〈つづく〉

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