異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第19話 むりやり大仕事

キルエは魔道具作成のため、竜の角を手に入れるべく密輸業者に潜入した。

多くの同業者が同じ目的で襲撃してきたが、上手く掻い潜り『竜の頭蓋骨』を入手したのだった。

その過程で1人の少女の心に深い傷を刻みつけたが、後味が悪いので忘れる事にした。

 

「さ~て、これで竜の角は俺のもの…うへ、うへへ。

よしよし、今のうちに…」

 

いそいそと箱を抱えて逃げようとする。

 

「こりゃぁ~ッ!!」

 

「ひっ!?」

 

キルエは悲鳴を上げつつナイフを構える。

声の先にいたのは、痩せたその身に似合わぬ壮麗な黄金の甲冑を纏った老人だった。

 

「逮捕じゃ、逮捕じゃあ~っ!!」

 

「あ、あなた…えっと、さっき居た人!」

 

「何じゃ、ワシャ貴様なんぞ知らん!」

 

先程の馬車襲撃にも参加していた、【狂気の憲兵】と呼ばれる戦士、ドーラムである。

御者に化けていたキルエは知っているが、当然向こうは知らない。

 

「その小娘は密輸の現行犯じゃ!!逮捕する!!」

 

「え?…こ、この子の事っすか?」

 

キルエは一瞬逡巡する。

 

(この娘捕まえて持っていったら、お金とかもらえるかな?

何しろ魔族のお偉いさんの子供だし…)

 

しかし連れて帰るとなれば、この老人と敵対せざるを得ない。

 

「……あ、もうどうぞどうぞ!連れてっちゃってください!」

(無駄な戦いはしないに限る!もう目的の物は手に入ったし!)

 

「ふむ、協力的で感心じゃ。

…お主、ひょっとして賞金稼ぎか?」

 

「は、はい?」

 

この狂った老人の世界には彼だけのルールがある。

そこに他人を無理やり当てはめるのだ。

 

「よしッ!密輸犯の逮捕に、ご協力感謝するッ!

これは賞金じゃ、取っておきなさい!」

 

血でべちょべちょになった塊を素手直持ちで渡してくる。

 

「あ、何これ生肉…?まぁいいや、貰っておきます…」

 

「うむ、よい心掛けじゃ。

近頃の連中は『やる』と言っても『いらん』とか抜かしよるからのォ!

では、励めよ!」

 

「は~い、お疲れ様でした~…」

 

「ひょほほほーっ!!」

 

老人は唐突に叫ぶと、少女を小脇に抱えて走り去っていった。

 

「ふぅ…危ねー爺さんだ…」

 

トラブル無く邂逅を終えられてホッと胸をなでおろすキルエ。

ヒュッ!と風を切る音と共に、その足元に矢が突き立った。

 

「…へっ!?ひええ~っ!」

 

キルエは慌てて首飾りを握り、目を閉じた。

10秒の未来が一瞬にして脳裏に去来し、射撃を予知する。

 

「あわわっ…」

 

追撃の矢を辛うじてかわし、悲鳴を上げながら木陰に隠れる。

 

(あの狙撃手だ!漁夫の利狙いやがって、ちくしょう!

だったらあの爺さんも狙えよ~ッ!)

 

ほんのわずかに顔を出して様子を伺おうとしたが、その瞬間に矢が頬を掠めていった。

 

「ひっ」

 

未来予知が出来るなら、狙撃をかわして逃げる事は難しくないように思われたが…。

 

(頭痛ぇ…やっぱ脳への負荷がえげつないな、これ。

しかも『1発目を避けた場合』『更に2発目も避けた場合』の未来も同時にシミュレーションするから、脳みそアッチアチになって…)

 

垂れてきた鼻血を舌で拭う。

 

(あ、ダメだ。これ以上は死ぬ。このアイテムは使えないな。

しゃーない。このまま木の陰で1日でも1週間でも隠れてやる。

どのみちここは平原、まばらに生えた木しか遮蔽物がない。下手に場所を移そうとすればすぐち撃ち抜かれるからな…)

 

木伝いに、強い衝撃が身体を揺らす。隠れている木に矢が直撃したらしい。

 

(さすがに貫通はしてこないか。だったらしばらくは持ちそう…ん?)

 

ガリガリという何かを削るような音が間近から聞こえる。

身を乗り出す事もできないキルエは知る由も無いが、狙撃手の放った矢の鏃は高速回転し、木に大穴を穿とうとしていたのだ。

 

「や、やばッ…」

 

撃ち抜かれる危険性も顧みず、木陰から飛び出す。

次の瞬間、木はメキメキと音を立てながら倒壊していった。

 

「クソッ、こそこそ撃ってきやがって…!

あぶ、危ねぇ!ひっ、ひ、ひい~!」

 

待ち伏せた狙撃をギリギリでかわしながら逃げるが、敵も然る者。一射ごとに狙いが正確になっていく。

 

(ダメだ、回避できねぇ…ッ!)

 

「いかぁ~んッッ!!」

 

矢は弾かれた。

突如キルエの前に立った黄金の騎士によって。

 

「無辜の市民に矢を射掛けるとは、許せぬ無法よ!

この正義の執行人たるワシの目が黒いうちは許さぬぞ!!」

 

そう白目を向きながら絶叫している。

 

「し、しみん…?」

 

「おっと、今のうちに逃げるのじゃ若者よ!

お前さんのような未来ある一般市民の生活を守る事こそワシの役目ぞ!」

 

(さっきは賞金稼ぎって言ってたじゃん!?

ホントにおかしい人なんだ、この人…こわっ)

 

とはいえ、危地を救われたのは事実。

頼れるだけは頼りたい、とキルエは考える。

 

「あ、ありがとうございます!

ま、守ってくれるんですよね…?」

 

「うむうむ!ワシに任せなさい!

こりゃ、聞こえとるかガルフィア!

これ以上の無法は、我が正義の槍が許さぬぞ!」

 

(…知り合いなのか?)

 

キルエの疑問を更に増幅させるように、狙撃はぴったりと止んだ。

 

「あ、あれ…?」

 

「よし、安全確保完了ッ!逃げなさい!」

 

「ど、どぉも~…し、失礼しま~す…」

 

恐る恐る老人の陰から出たキルエは、もう追撃が来ないのを確認してそそくさと逃げていった。

 

「全く…これから共に正義を為さんとする者が、民を傷つけるとは…!」

 

 

 

 

「…チッ、イカレジジイがッ…!

さすがにアイツを敵に回すのは面倒だな…」

 

キルエが襲われた地点から10㎞離れた森、中でも最も高い木の上で、女は毒づいた。

尖った耳と顔の半分を隠す仮面が特徴的なその女は、自身の身長ほどもあるような大弓を担いで飛び降りる。

 

(それにしてもあのガキ…1発目は的が小さすぎて外した私のミスだが、それ以降の狙撃は当たるハズだった!

まるで未来が見えてるように躱しやがって…只者じゃねぇな。

あのザラハをあっさり殺したし…とんでもねぇガキが出てきたもんだ)

 

仮面を外し、目をしばたたいた。

 

(遠見の仮面は目が疲れる…)

 

ぐっと伸びをして、仮面をつけ直した。

 

(大仕事前に勢いを付けたかったが…まぁいい。

金は次で稼げばいい…大勢殺せるからな)

 

森の獣たちにさえ聞き取れぬかすかな声で、女は笑った。

 

 

 

 

事件から1日後、キルエは何食わぬ顔で箱を抱えて傭兵ギルド支部を訪れた。

 

「いや~大変だったァ~」

 

「これはこれはキルエさん!何日かぶりですね。

おや、もしかしてその箱は…」

 

凶星堂は待合室でキルエを待ち構えていた。

 

「そうそう。竜の角は手に入ったので、残った骨は売ります」

 

「素晴らしい!高く買い取らせていただきますよ!

…と、言いたいところですがその前に。

どうやらあの方がキルエさんに用事あるみたいですよ」

 

「はえ?あの方って…」

 

凶星堂が指さす方向には男が立っていた。キルエに気付き、手をこまねく。

 

「はい?え?な、な、なんですか?」

 

「悪いね、お忙しいとこ。【忌み屋】キルエくんで間違いないかな?」

 

「はぁ、そうお呼びになる方も居るようで」

 

「そっかそっか。おじさんは傭兵ギルドの者なんだけどね。

ある非合法の輸出入業者が失踪した事件についてなんだけど」

 

キルエの心臓が跳ね上がる。

 

「なっ…ななななな!何の事です!?

犯罪者への襲撃は法律で許されているはずです!」

 

「語るに落ちてるなぁ…でもその通り。そこは問題無し。

でもさ。ギルドに属する傭兵同士の戦闘は禁止されてるんだよね」

 

「うっ!」

 

「殺したよね、【魔人剣】のザラハ。【真紅の虎】カルネル・ヴィーゲも【ザフラムの勇士】ボルフも」

 

「違っ…俺が殺ったのはザラハって人だけ…あっ」

 

「困るんだよねぇ~、そういうのさぁ!

あの場に居たっていう傭兵のほとんどは、近々大規模な作戦に参加する予定だったんだよ?

それが3人も4人も削れたら迷惑もいいとこなんだよね!

空いてしまった穴は、埋めなければならないんだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

あなたが何を言おうとしているのか知りませんが、それは…」

 

「その作戦。参加してくれるよね?」

 

『無理です!』…そう叫ぼうとした。

反論はあるだろうが、とりあえず意志を表明しようと。

だがその意志は、男の目を見て挫かれた。

 

「…決定、してるんすね」

 

「勘が良いね。そう、もう書類には名前入ってんの。

参加しないのは勝手だけど、契約違反って事になるからね」

 

「そんな殺生なっ……俺、子供なんですけど!」

 

「そういうの通用するタイプじゃないからね、俺。

こちとら、キミくらいの歳のバケモノを何人も見てきたよ。

…あのさ。いくらなんでも足手纏いは参加させないからね?

実績見て、使えそうだから引き込んでんの。1週間後、よろしく」

 

「あわ、あわわ…」

 

「やれやれ、身体が休まりませんねぇ」

 

男と入れ替わるように凶星堂が寄ってくる。

 

「しかしこれはチャンスかもしれません。

何しろそれだけの傭兵が参加する作戦ですから、功績を上げれば名も上がりますよ!」

 

「は、はぁ…」

 

確かにキルエは褒め称えられたい。

しかしそれは生きる糧としての名声であり、命を危険に晒してまで望むものではない。

 

「う…胃がキリキリしてきた。何やらされるんだろう…」

 

「あ、それについて。今の方から書類を預かっております。

どうやら【不死公】イスフェルという魔族の居城への侵攻みたいですね。

ご存知ですか?割と有名な魔族ですが」

 

「ふしこう…公爵っすか」

 

「そうです。魔界七王を除けば一番偉いんですよ!

……まぁ大公は1人いますが、アレは例外中の例外ですし…それにですよ!

イスフェルはその異名通り不死身で有名なんです!」

 

「不死身…にも色々あるでしょ?

シンプルにめっちゃくちゃに強ぇとか、絶対防御とか、無限に再生するとか」

 

「どうなのでしょうね。

詳しくは書類を見ればいいと思いますが、部外者である私なんかに渡して問題ない程度の情報しか載ってないようですね。

本当にただただ正面から襲撃する作戦みたいですし」

 

「『正面から』とか一番向いてないのに…っ!

そう言えばあの戦いに来てた傭兵の奴ら、みんな直接戦闘に長けた連中だったなぁ!

アイツらの穴埋めなんて俺にできる訳ねーっつーの!!」

 

だが既に契約は為されている。これに違反する事は、傭兵ギルド内での立場が完全に無くなる事を意味する。

そしてギルドに属さぬ傭兵は、ろくに仕事も得られない。

 

「持っていける道具だって限られてるし、大抵の術は出撃の直前に準備しないといけないのに…」

 

多彩な術と道具に頼るスタイルは相手の虚をつく事に特化しているが、一作戦ごとに多量のリソースを消費するのがネックだった。

 

(爆弾もいっぱい使っちゃったし、また作るには時間掛かるんだよなぁ。

そもそも今までどんな敵も、術か道具でハメないとまともに戦う事すら出来ねーし)

 

最初の魔族殺しも、吸血鬼との戦いも、傭兵となってからの仕事でも、まともに戦った事などない。

少なくとも彼自身はそう認識している。

人間相手ですら、酷く体力を消耗したタイミングを見計らって、未来視を活用してギリギリ勝ちを拾えたのだ。

 

(だいたい、どういう敵なのコレ)

 

書類にはイスフェルとその居城の情報、そしてそこを襲撃する作戦が記されている。

といっても凶星堂が言ったように作戦内容は『突っ込んで皆殺し』以外に無い。

 

(【不死公】イスフェル…いかなる傷を受けてもたちまち癒える不死身の肉体を持つ魔族。

その仕組みは未解明だが、肉片になるまで磨り潰されても再生した事例アリ。

頭髪を操って無数の武器を振るい、その一つ一つが達人の技量を持つ…)

 

何やら不穏かつ、知ったところでどうにもならなさそうな情報が紙面で踊る。

見れば見るほど、『こんな怪物は自分の手には負えない』という思いが強くなっていく。

 

(周辺の10を超える集落では毎日のように死傷者・行方不明者の被害が後を絶たず、イスフェルの軍勢によって逃げ道も塞がれている。

逃げ場の無い恐怖に苛まれた住人の中には、自殺者も多数出ている…)

 

正義感がわずかにでも有る者なら義憤に駆られ、野心持つ者ならば討ち取った先に褒賞を見出すであろう、おぞましき巨悪だ。

 

(うへぇ、きっしょ。関わりたくねー)

 

だがこの少年の心を動かすにはまるで足りない。

ただ『無駄に人間嫌い拗らせてそうでキモイなぁ』程度の感想しか湧いてこないのだ。

                                            

(うん。いまいちやる気出ないし…サボるか!)

 

 

 

 

「…どうしたのかな?キルエくん。

キミから話があると呼びかけられた時は、応えるかどうか迷ったものだ。

だってどうせ、『自分には無理です』って泣き言言い出すに決まってるもんね?」

 

「無理なもんは無理です。

俺そういう『正面きって戦って功を上げる』タイプのスタイルでやってないんで…。

あなたの命令って俺からしたら、『死んで来い』ってのと同じなんすよ。

それはさすがにちょっと…ねぇ」

 

毅然とした対応というのが苦手なキルエは、逆ギレで乗り切る事にした。

が、さすがに傭兵相手に日々仕事をこなす男、ここはさらりと受け流す。

 

「ふむ。じゃあ賠償する?お金で。

しばらく無給でさ、危ないトコ4、5か所も回ったら金集まるし」

 

「だから…それじゃ意味ないでしょ。死ぬリスクを避けたいっつってんのに。

俺は『戦う』とかそういう傭兵じゃないんだって」

 

男はキルエの胸倉を掴んだ。

 

「じゃあどうすんだよ、この損失。どう落とし前つけんだ?」

 

(子供だと思って脅しに来やがって…この程度のパワハラ、前世で慣れっこなんだよ。

ここが勝負所だ…!)

「ですから、俺の得意なやり方でやらせてもらいます。

あなた方の突入作戦前に、その何とかいう魔族の城に潜入します。

そして内部から撹乱する。…それでいいでしょう?」

 

それは、ただ突撃するより危険な任務であるように思えた。

 

「1人で?正気か、ガキ」

 

「ええ、正気ですとも。

魔族どもの首を持ち帰り、あなたに捧げましょう」

 

もちろん、魂胆あっての事だ。

 

(どうせ戦いが始まれば、激しい乱戦になる。

傭兵どもが首を獲り損なった死体を2・3体も拾ってくればいい。

それに、潜入するだけなら俺の得意分野だぜ)

 

自分の血を流さずに済ませるためなら、どこまでも悪知恵の働く男であった。

 

「…足りねぇな」

 

「え?」

 

「それだけじゃ信用するには足りねぇ。

タブー中のタブーだが、お前さんが死体拾い(スカベンジャー)をやらかさないとも限らないしね」

 

「あ、いや、それは…」

 

「【不死公】イスフェル。

あるいは教会に祓魔対象として指定されている魔族の首を2つ以上。

ソイツを持ってこい。単独行動するなら、そのくらいの功績は挙げてもらわないとな」

 

「え、えっと…」

 

「以上だ。譲歩はしない」

 

男は取り付く島もなく背を向けた。

 

「あ、あわわわ…」

 

完全に裏目に出ていた。

これなら大人しく突入作戦に参加していた方が、まだ危険は少なかった。

今となってはもう遅いが。

 

(や、やるしかない…ちくしょう!

俺は楽な仕事をこなして、苦労せずに褒められたいだけなのに…!)

 

だが男の姿は既に無く、時は無慈悲に経過していった。

そしてあっという間に作戦の当日を迎えたのだった。

 

〈つづく〉

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