異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第21話 人類の勝機

 

「おォおおおおッ!!」

 

「ずぇりゃぁああああッ!!」

 

周辺領域を睨めつけるように聳え立つ魔城【灰の城】では、毎夜のごとく殺し合いが繰り広げられている。

支配者イスフェルが集めた指折りの実力者たちが、無為に命を散らすのだ。

その力が周囲への侵攻に向けられれば、魔族の勢力図は大きく変わるだろう。

 

「うがァあああッ!」

 

「効くかぁアアアッ!」

 

だが、何もしない。

何ひとつ益を生まぬ殺し合いに耽溺し、無意味に死んでいく強者の集団。

それがイスフェルの軍勢であった。

もしイスフェルの残虐性が【外】に向けられれば、人類は今以上に悲惨な生活を強いられる事になっていたハズだ。

 

「ククク…素晴らしい、侯爵クラスの殺し合いは見応えがあるわ」

 

血に染まった舞踏場で玉座に座る魔族が、誰に向けてでもなく独り言ちる。

魔族にとって爵位は強さの表れでしかなく、領地は独力で勝ち取るものであるため、侯爵クラスに評価されていても人が集まらず領地を手に出来ない魔族は多くいる。

そういう『人望の無い強者』を集めては、その強さをただの決闘に消費させる。

それがイスフェルの何よりの悦びであった。

 

「がはッ…」

 

「フハハハッ!この私が最強だァ!!」

 

今日もまた、強者が1人散った。

 

「クク、最強とは吼えるではないか【暴悪候】ネゼル。

余より強いか、試してやっても良いのだぞ?」

 

「おお、願っても無い栄誉!ぜひお立合いを!!」

 

怯みもせず、瞳を爛々と輝かせてみせる。

 

「ククク、頼もしいがやめておけ、今は身体を休めよ。

何しろ【凶風候】パズースを殺した後なのだからな」

 

「なんの、まだまだ力は有り余っておりまする!」

 

「休めというのだ戯け。

その元気は人間どものために取っておけ」

 

「おぉ…では、例の作戦とやらが決行されるのですか?」

 

傭兵ギルドによる大規模侵攻作戦の情報は、既にイスフェルにも伝わっていた。

隠す必要が無いからだ。

 

「恐らくは明日にも突入してくるだろう。

罠や策には期待するなよ?己の力のみを頼りとするがいい」

 

「無論です!そうと分かれば、じっくりと休養する事にしましょう!」

 

「うむ。今日のところは切り上げて、酒宴とする!

さ、宴席を並べよ!」

 

卓と料理、酒が手際よく運ばれ、並べられる。

殺し合いの後の恒例行事なのだ。

ズラリと用意された料理の数々は、今日の朝に周囲の村から収穫された新鮮な食材が使われている。

中には素材を活かした【活け造り】もある。

 

「今日は地下の食材も放出する。

存分に食らって英気を養うがよい」

 

灰の城の地下は固く封印されている。

そこにはイスフェルしか入る事ができないよう強力無比な結界が張られているが、どうやら『特別な処理(ごうもん)』によって熟成させられた食材たちが監禁されているらしい、とまことしやかに囁かれていた。

イスフェルがその美味を独り占めするためそうしているのだと、本人が仄めかしていた事もある。

 

「これは美味そうですなぁ」

 

「お、なんだメシかァ?」

 

ぞろぞろと、イスフェル自慢のコレクションが集まってくる。

いずれもその実力を認められた、魔界の強者たち。

 

「人間は新鮮なうちに食うのが一番だよなァ、ケヒャヒャ!」

 

下品に笑う男の頭には大きな角が二本、そして両足は蹄になっている。

元は山賊であり、イスフェルを襲ったがその強さで気に入られたサテュロス族。

【惨劇伯】ジュドローム。

 

「しかしどうも、最近の肉は貧相になってきたと聞きます。

いじめすぎて栄養が足らないのでは?」

 

一見人間のようだが、その色の薄い肌と魔性の瞳で吸血鬼と分かる。

ごく低級の吸血鬼ながら、大量の食人によって力を得た生粋の美食家。

【嗜血候】マルギエル。

 

「いやいや、熟成させた分絶望がたっぷり詰まっててうまいよォコレ。

でもせっかくなら、悲鳴を聞きながら食いたかったねェ」

 

聞き取りづらい掠れ声でそう呟いて肉塊を喰らうのは、小柄なローブの男。

素性も素顔も知れない、つい最近招かれたばかりの新参者。

【呪猟卿】ファマ。

 

「メシの話なんぞどうでもいいが…敵はいつ来るのか分からんのか。

俺は事前に狙撃ポイントを選んでおきたいんだがね」

 

つまらなそうに肉をフォークでつつきながら、左目に眼帯をした男が問う。

この男はマルギエル以上に人間めいた姿をしている。

それもそのハズ、この男は半魔族でありながら爵位を授かったのだ。

【死眼卿】ヴァシリス。

 

他にも多くの手練れが、ただ殺し合うためだけに集められた。

だがその武力は今、人間たちの訪れを待ちわびているのだ。

 

「さて、乾杯と行こう」

 

イスフェルが杯を掲げると、魔族たちは追従して杯を持つ。

 

「己ただ1人のために」

 

それが乾杯の決まり文句だった。

仕える主のためでなく、共に血を流す同胞のためでなく。

自分自身が勝利するためだけに力を振るう。

それこそが真の強さと信じて疑わないのが彼らだった。

 

「イスフェル様!」

 

しかし乾杯のその瞬間飛び込んできたのは、見張りの魔物だった。

 

「…フン。人間にしては行動が早いな。もう来たか」

 

「はッ!神馬3頭立ての巨大な馬車が接近!

大きさからして、搭乗人数は50を超えるものかと!」

 

【惨劇伯】ジュドロームが嗤う。

 

「おいおい人間がたかが50匹かよ!舐めすぎだろ!」

 

「クク、そう馬鹿にしたものでもない。

連中は人間の中でも選りすぐりの戦士らしいぞ」

 

「へへ、そうかいそうかい。

そんならちょっくら…試してやっかなァ!!」

 

ジュドロームは卓を蹴散らし、会場から走り去っていった。

 

「気の早い事だね全く。

ファマくん、こちらはもう少し宴を続けようか」

 

「へへへ、そうしようかねェ。

おやどちらへ?ヴァシリス殿も1杯飲りましょうや」

 

眼帯の半魔族ヴァシリスは、奇妙な筒を背負って立ちあがる。

 

「狙撃ポイントにつく」

 

「狙撃ですかァ…おお、そう言えば銃を背負っておいでだ。

こんな最先端のモノもあるのですなァ」

 

ヴァシリスの持つ筒は、スコープといいストックといいマガジンといい、どうみてもスナイパーライフルそのものであった。

 

「銃?…人間の武器だろう、よく知っているな。

だがアレは実戦で使用するにはまだまだ手間が掛かり過ぎるらしい。

俺の得物は銃ではない」

 

「ほォ。しかしそれはどう見ても…」

 

「これ以上の種は明かさん。ではな」

 

ヴァシリスもその場を去り、ファマはくけけと甲高く笑う。

 

「付き合いが悪いねェ。イスフェル様は付き合ってくださいますよねェ?」

 

「構わんがな、おいマルギエルよ。

ここに吸血鬼狩りが来るようだぞ。ほれ、例のドラグ王の息子の…」

 

「なんと!【赩の公子】がここに来るのですか!

すまんねファマくん、私も飲んでいる場合ではないようだ」

 

マルギエルは嬉しそうに笑みを含みながら、軽やかな足取りで去っていった。

 

「ククク…余とお前だけになってしまったな?」

 

「へへへ…イスフェル様、肩か手でもお揉みいたしましょうか」

 

媚びるようにイスフェルに触れる。

 

「目上の者と2人きりでは気を使うか?」

 

「正直、酒の味が分からなくなりやすねェ」

 

「クククッ!面白い奴だ。

だが媚びずともよい。そんな事をせずとも、お前の欲しいものはくれてやっているだろう」

 

「そりゃあもう。呪いの材料も道具も、欲しいだけいただきました」

 

「では何を望む?」

 

「今更それをお聞きになる?

無論、陛下の命でございますよォ」

 

イスフェルは長髪をかき上げて高らかに笑った。

 

「クハハハッ!愚問であったな!

もし余を殺せれば、お前は『魔界七王を殺した男』と呼ばれるぞ!」

 

「そりゃ、どういう…?」

 

「魔皇の代行者である【宣命王】から勅令を受けた。

余が次の王だ、とな。まだ拝命してはいないが…」

 

勅令となった以上、それは決定事項である。

命名法則に則れば、【不死王】イスフェルとなるだろう。

 

「ほ、本当ですか!?

へ、へへへ…こりゃ面白くなってきやがった!

もし今夜人間に殺されたらさぞ無念でしょうなァ!」

 

「クク、媚びるなとは言ったがお前は少し気を使え。

まぁそういう訳で、次に戦う時余はもう王となっている。

そして余と戦う権利は、この戦の働きで決める事とした」

 

「っ!!」

 

「やる気は出たか?」

 

「こうしちゃいられねえ、あっしも呪いの仕込みをするとしましょう!

あと、休んでるネゼル殿を起こしにいってやりますか」

 

そうしてついにイスフェルだけが残った。

遠くで爆発音が聞こえる。門が破られたのだ。

 

「ククク、派手にやり始めたようだな。

さて、何人ここまで辿り着けるか…楽しみに待つとしよう。

もっとも…辿り着いたところで、余は殺せぬがな」

 

彼は自身の不死に絶対の自信があった。

そしてその能力は、片手で数えられるほどの回数しか発動された事がない。

まず致命傷を負わされる事がほとんど無いからだ。

 

無敵の武勇に不死の肉体。

 

 

 

 

「オラオラ、どうしたよ!手練れなんだろテメェら!

やっぱ人間じゃここらが限界かァ!?」

 

サテュロスのジュドロームが、さも愉快でたまらないように爆笑しながら斧を振るうと、つむじ風が立ち上って傭兵たちをなぎ倒す。

 

「つまんねぇな、結局いつも通りの雑魚狩りか!

…まぁ俺は弱い者イジメ大好きだけどな?」

 

「舐めんなバケモンが!!」

 

「おッ!?」

 

胸元をざっくり斬られた傭兵が立ち上がり、至近距離で炎を噴いた。

 

「熱っちいバカ!」

 

斧を振るい風を起こして炎を絶ち、返す刀でそのまま脳天を割る。

 

「死ねヤァアア!!」

 

「ぶち殺すぞヤギ野郎が!!」

 

しかし倒したはずの他の傭兵たちもその隙に立ち上がり、雷の槍や毒の息といったジュドロームも見た事の無い術で襲い掛かってくる。

 

「うわっと…!」

 

しかしそこはもちろん伯爵級の魔族、直撃をものともせず反撃で全滅させる。

 

「ふぅ…確かに、いつも相手してきた連中とは違うらしいな。

こんな奴らが今までどこに隠れてたんだ?」

 

山賊として多くの人間を殺し、時には人間の国から送られて来た勇士を返り討ちにしてきた彼だからこそ分かる。

『今回の人間どもは何かが違う』、と。

そしてその上で、『問題なし』と結論付けた。

 

「しっかし人間ってのは馬鹿だねぇ。

他の魔族共と小競り合ってりゃいいのに、よりにもよってイスフェルの旦那に挑むなんてな!

しかも正面から乗り込んできやがって、自殺もいいとこだぜ」

 

「否」

 

「あ?」

 

背中から胸を通り抜ける衝撃。

ジュドロームが視線を落とすと、白刃が胸から飛び出しているのが見えた。

 

「驕るな化生め。貴様らは所詮、腕試しに過ぎぬ。

我らこれより魔皇へと挑む。その礎となれ」

 

頭上から落ちてきた何者かが、魔族の背中を刀で刺し貫いていた。

 

「ゴボッ…て、テメェ…名、は…」

 

「ダラマキ・ディーザエモン。【朧鬼】と人は呼ぶ」

 

「そうかよ………墓標に刻んどいてやるぜ!!」

 

「むゥッ…!」

 

ジュドロームは突如振り向きながら背後の敵に斧を叩きつける。

 

「フン、つくづく理から外れた外道の獣よな。

心の臓を貫いてなお生き永らえるとは」

 

「サテュロスってのは零落した精霊だぜェ?心臓の一つや二つやられたくれぇで死ぬ訳ねぇだろバァ~カ!

…で、なんだっけ?魔皇に挑む?間抜けかテメェら!?

魔族は人間の完全上位互換だ!!身の程弁えろや!!」

 

「…驕りもここまでくれば哀れよな」

 

「あァ?あのよォ、人間どもの中じゃちょっと強いからってあだ名かなんか貰って、調子に乗ってんじゃねぇのか?

だったら思い出させてやらにゃな、人間は魔族に何ひとつ勝る所のねぇ下等生物…ただの劣化品だってなァ!!」

 

そう言って斧を振り上げた瞬間、遠くで崩壊の音がするとともに大きな影が差す。

 

「あン?……あァん!!?」

 

『超巨大な黄金の怪獣』…そう呼ぶしかない怪物が闊歩していた。

 

「な、なんじゃありゃあァ!?」

 

「…何も理を外れた者は貴様らだけではない、という事だ。

我らとて人の持ちうる力の限界を超越した者…そう容易く片付けられると思うな」

 

『悪人は処刑!!処刑じゃァあ~ッ!!』

 

遠くから声が聞こえる。怪獣の声が。

 

「ア、アレが人間だってのか…?」

 

「張り切っているようだな、ドーラム翁は」

 

この黄金の怪獣の正体は、【狂気の憲兵】と呼ばれる傭兵ドーラム。

憲兵どころか公務員ですらないのに、逮捕や処刑と称して勝手に犯罪者を襲撃する、精神異常者である。

彼はかつて何ら取り柄の無い平凡な老人であったが、ある時突然発狂して奇行に走り出した。

その原因が、この強大な能力にあると言われている。

 

「だ、だったらどうだってんだ。

テメェが俺より弱いのにゃ変わりねぇ!!」

 

「ではやってみるか。いざ…ッ!」

 

「気取るな雑魚がァ!!」

 

ジュドロームは激昂し、斧で風を巻き起こす。

今度はつむじ風などという生易しいモノではない、嵐そのものだ。

 

「参るッ!」

 

だが命中する直前、ディーザエモンの姿は忽然と消えた。

 

「あァッ!!?」

 

困惑するジュドロームの背後に伸びる影、それは光の方向にそぐわぬものだった。

その影はゆらりと煙のように立ち上がり、人の姿を成す。

これぞダラマキ家秘伝、【融影(とかげ)の術】。

今や完全に姿を取り戻したディーザエモンは、一刀を背中に突き立て…

 

「っぶねぇなァ!!」

 

その直前、ジュドロームは背後に斧を回して刀を受け止めた。

 

「二度も背中からやられる訳ねぇだろ!!」

 

「フ、吼えるだけはあるか。…だが」

 

ディーザエモンは飛び退きつつ影にクナイを撃ち込む。

 

「どこ狙って…がッ!?」

 

これぞダラマキ家秘伝、【影縫い呪法】。

敵を金縛りにし、もがくたびに呪いが肉体を蝕む。

 

「なんだ、こりゃッ…ふざけ、んじゃ…!」

 

「我が秘伝は退魔の術。人よりも魔を討つ事に秀でるは道理」

 

「バカ…が。俺はまだ…技を、半分も出してねぇ…」

 

「そうか」

 

言い切る前に首を刎ねた。

 

「その技を喰らっていれば、拙者もタダでは済まなかったやもしれぬ。

使うまで待ってやる義理など無いがな」

 

つまるところ、ジュドロームは最初から最後まで人間を舐めすぎていたのだ。

 

(奴の言った事はある程度理がある。

人間同等の知能と人間以上の膂力…なるほど上位互換に違いない。

付け込むとすればやはりその驕りか)

 

また破壊の轟音が鳴り響く。

黄金の怪獣が城を蹂躙しているらしい。

 

(魔族との戦争は常に統制が取れず、各地でじりじりと戦線を前後させるだけだった。

皮肉にもそれが、人間を侮らせるに至った。

奴らも我らも、実力差を大きく見積もり過ぎていたのだ)

 

人間が思うほど魔族は強くなく、魔族が思うほど人間は弱くない。

この戦いで、人類の認識は大きく改められる事になるかもしれない。

 

(この戦は間違いなく勝てる戦だ。

勝てる戦を取りこぼす事ほど、致命的な失敗はない。

…不死公、か。必ず殺さねばならぬ敵将が死なぬとは、ままならぬものよ)

 

〈つづく〉

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