異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

24 / 101
第22話 勝利の風向き

ついに【不死公】イスフェル攻略作戦が実行された。

傭兵たちは予想以上に有利に戦況を運んでいた。

イスフェルが待つ舞踏場に最初にたどり着くのはいったい誰になるのか。

その筆頭候補が、【狂気の憲兵】ドーラムだった。

黄金で構成された巨体が建造物もろとも魔族たちを蹂躙していく。

 

『正義ィ…執行ーッ!!悪しき魔族は…滅ぶべしーッ!!』

 

妄言を吐き散らしながら、本丸へと突き進む。

足元には魔界の強者がひしめいて押し返そうとするが、まるで歯が立たない。

強い弱いの次元ではないのだ。ただ大きく、重く、硬い。

それはある意味、生物としての強さの絶対条件だ。

 

「おいおい、アレで人間か?」

 

物見の塔の頂上で、男が呟く。

男の左目には眼帯。その下の魔眼こそ、【死眼卿】ヴァシリスのゆえん。

 

「ま、図体がデカい分狙いやすくて助かるがね」

 

眼帯を外し、その不吉なほど蒼い瞳を開帳する。

背負う筒を下ろし、ストックを肩に当て、窓枠から先端を突き出す。

その構えは、我々の世界で言うところのスナイパーライフルそのものである。

 

…が、これは銃ではない。望(●)遠(●)鏡(●)だ。

銃口にあたる部分と直結しているスコープを覗き込み、ドーラムの姿を捉える。

 

「とりあえず、頭狙っとくか」

 

魔眼の力、【死の呪い】を解放する。

呪いは望遠鏡の中で増幅され、致命的なエネルギーとなって放たれる。

そう、これは魔眼の力を遠くの敵まで届けるための武器なのだ。

 

『ぐわっ!?』

 

怪物の頭部が崩れ、中から老人の顔が露わになる。

…が、侵攻は止まらない。

 

また黄金は老人の頭をすっぽり包み込み、怪獣の姿を形成した。

 

(なんだ、再生しやがった?中のジジイが本体か?

まぁいい、だったら死ぬまで撃ち込むだけだ)

 

ボルトをコッキングし、薬莢のようなものを排莢する。

これは聖水の詰まった瓶であり、増幅された魔眼の力で望遠鏡自体が壊れないように浄化してくれる。

つまり1回照射するたびに聖水瓶を1つ消費する。銃と運用は同じだ。

 

(1発)

 

また魔眼を照射する。怪獣の頭がボロリと崩れる。

老人の顔が見えた。

排莢する。

 

(2発!)

 

早くも老人の顔は黄金に覆われ始めていたが、呪いは届いた。

 

『っぐげァーッ!!』

 

金色の巨体が、ドロドロに崩れていく。

 

(…よし。まだ死んではいねぇが…ジジイの姿が見えなくなっちまった。

ジジイは後だ、他の連中を殺す)

 

魔眼の作用は自然現象に近い。

逸らす事はできても、打ち消すのは他の魔眼によってしか出来ない。

 

避け得ぬ死の視線が、中庭に降り注いだ。

 

 

 

 

 

(…イスフェルはどこだ…?)

 

怪獣に平らげられた一面を見回し、吸血鬼ハンターは敵を探った。

 

「進め進めェーッ!!魔族は皆殺しだァーッ!!」

 

「どうしたどうしたァ!人間に負けて悔しくねぇのかァ?」

 

周囲では傭兵たちが魔族と戦っている。

人類の希望たちは、魔族の血に飢えていた。

 

(それにしても、このような傭兵がいたのか)

 

ハンターが見上げるのは、黄金の巨神。

 

(これは…【強欲の金】か?まさかまだこの世にあったとは)

 

【強欲の金】。とある質の悪い錬金術師が生み出した、生命ある黄金。

所有者の欲望に応じて増殖し、周囲を侵食する。

所有者がこの黄金の一部を売れば、売られた先の所有者の欲望に反応してまた増殖し、その所有者がまた他の者の黄金を売れば、その先でまた増える。

人間の欲望によって増え続け、やがては地上を埋め尽くし、人類は黄金の海で溺死する。

そういう性格の悪いアイテムだ。

 

(その危険性ゆえ、当時の【魔女集会】が全て回収して消滅させたハズだが。

回収漏れがあったのか、また作られたのか…。

…これはこれで皮肉ではあるな)

 

【強欲の金】は老人の正義感に反応し、爆発的に増殖。

正義の執行者たる巨大な怪物となって老人と一体化している。

たった1人の老人の狂気が、【強欲の金】を正義の鎧として支配下に置いているのだ。

 

『っぐげァーッ!!』

 

「ッ!」

 

突然老人の叫び声と共に、巨体が溶け始める。

 

(やられたのか?ありえない、どうやって!)

 

「がッ!」

 

「ごぼッ!?」

 

傭兵たちも、顔中から血を噴いて倒れ出した。

 

「なんだ!?」

 

周囲に敵影無し。射撃の可能性を考慮し、遮蔽物に身を隠す。

 

(風を切る音が無かった、矢ではないのか…?)

 

死体は外傷ひとつ無く、ただ突然血を吐いて絶命したように見える。

 

(呪詛か…?だがいったいどうやって?

あの傭兵たちはここに来たばかりだった。呪いを仕込む暇は無かったはず…!

どうする?霧に変化すれば逃げられはするが、術のタネが分からん以上不用意には…)

 

「狙撃だとよ」

 

「!!」

 

後ろから現れたのは、顔の左半分を仮面で隠した女だった。

身の丈ほどの巨大な弓を持っている。

 

「…エルフ、か」

 

「んな事はどうでもいい。ちょっとどきな」

 

女は弓を構えると、迷いなく物見の塔の一番上を狙った。

 

「敵はあそこに居るのか?なぜ分かる?」

 

「うるせぇ男だな。内通者がいんだよ」

 

その手には、小さな紙が握られていた。

 

「こいつがついさっき、鳥の脚に結び付けられて送られてきた。

『要注意。格闘家1、サテュロス1、吸血鬼1、狙撃手1』だとよ。

結構ばら撒かれてるみたいで、何人か受け取った奴がいる」

 

「特に危険な敵のリストか。

この吸血鬼1、というのが妙だな。

イスフェルが吸血鬼なら、こういう書き方はしない気がする。

書くにしても、」

 

「知らねえよ、じゃあ他に吸血鬼が居るんじゃねーの?」

 

女は面倒そうに答え、弓の下端を地面に突き立てる。

 

「アタシはアタシで仕事するだけだ。

狙撃手がいるってとこまで分かりゃ、ポイントは簡単に割り出せる。

どうせ隠れて全体見渡せる場所なんてそう多くねぇし」

 

巨大な弓に相応しい巨大な矢をつがえ、剛力で引き絞る。

 

「で?いつまでここで遊んでんの?

アタシが狙撃手の相手引き受けてやるって言ってんだけど?」

 

「…ああ。感謝する!」

 

ハンターが瓦礫から飛び出すと同時に、女が弓を放つ。

 

 

 

 

(矢と違って遮蔽物越しに撃ち抜けないのが辛いとこだな。

…頼むからさっさと出てきてくれよ)

 

狙撃手ヴァシリスはハンターが隠れた瓦礫をジッと狙い続けている。

その間数名の傭兵が城内へ向かうのもお構いなしに、だ。

 

(あの男はヤバい。アイツだけでも仕留めなければ…!)

 

それを一目見て理解したヴァシリスは、ひたすら瓦礫を注視した。

そこに、大弓を抱えた女が寄ってくる。

 

(弓使いか。…何だ?こっちに矢を向けてる?

この場所がバレたのか…いや、まずどうやって俺の攻撃の正体に気付いた!?)

 

魔眼狙撃の恐ろしいところは、『何で殺されたのか分からない』部分にある。

銃声もせず、突然血を噴いて倒れるのだ。まさか狙撃されているなどとは気づけない。

そのはずなのに、弓手は明らかにヴァシリスの方向を狙っていた。

 

(どうやって見抜きやがった……チッ、姿を隠すしかないか)

 

窓から離れ、石壁を背にして気配を消す。

 

(1発撃ってきたらすぐ反撃してやる。

あのデカい弓じゃ連射はできねぇ、その隙を…)

 

ボゴオッ、と。

凄まじい音がして、石壁が木っ端微塵に砕ける。

飛来し、目の前に突き刺さったのはあまりに巨大な矢。

 

(…嘘だろ。砲弾じゃねぇんだぞ!?)

 

矢の表面、刻まれた複雑な金属装飾が、沸騰する水面のように膨れ上がった。

 

「やべッ…!!」

 

ヴァシリスが咄嗟に塔から身を投げるのとほぼ同時に、矢は爆発した。

 

 

 

 

背に爆発音を聞きながら、ハンターは血肉と脳漿のへばりついた城の中を突き進む。

支配者たる【不死公】イスフェルの下へ、その超人的な直感を駆使して。

だがその直感に、イスフェル以上の不快な引っかかりがあった。

 

邪魔であるような、あるいはずっと探していたような感覚。

 

(イスフェルではない…だが居る、吸血鬼が!

やはりあの内通情報に書かれた『吸血鬼1』とはイスフェルの事ではなかったか…!)

 

「やあ、誰をお探しかな?」

 

血腥い風が吹き、そこにマント姿の青白い男が立っていた。

 

「忌々しくも栄えある【赩の公子】よ!

汝の求める敵、吸血鬼はここにいるぞ!【嗜血候】マルギエルが…」

 

「イスフェルは?」

 

「は?」

 

「イスフェルは吸血鬼ではないのか」

 

「…ああ、なるほどなるほど」

 

マルギエルは大きく俯き、しばし黙る。

そして再び顔を上げた時、その顔は憤怒に満ちていた。

 

「つまり君は!侮っている訳か!この私を!!」

 

「油断はしていない。が、実力に関してはおおよそ計れた。

それより今はイスフェルの話がしたいのだが…」

 

風を切る音と共に、鋭い爪がハンターに迫る。

真紅の刀身がこれを受け止めた。

 

「くッ!!…触れただけでこの痛み。不死殺しの剣かね。

だが良かったのか?」

 

「何がだ」

 

「私が冷静さを失っていたこの瞬間だけが、私を殺すチャンスだったというのに!!」

 

マルギエルの全身が赤く燃え上がり、熱風がハンターを苛む。

 

「っ…」

 

離脱しようとするハンターを、剣ごと掴んで逃がさない。

不死殺しの刃がもたらす苦痛にも怯まず、更に迫る。

 

「苦しかろう赩の公子!

…あのドラグ・ガン・ヴァインの息子を殺したとあれば、我が武名にも一層の風格を帯びようというもの!!」

 

「お前の、目的はなんだ…なぜ吸血鬼になった…!」

 

「ン?どうという事もないよ、ただもっと血が欲しくてね!

大勢殺したら気持ちがいいだろう!?」

 

「そうか、つまらん動機だ」

 

刃がわずかに動くと、掴んでいたマルギエルの五指が切断された。

 

「くッ…この切れ味!」

 

「本題はお前ではない、早々に死ね」

 

「随分と調子のいい事を言うんだな。

ああ、外じゃ人間どもが勝ち越しているようだ、それで強気になっているのかな?

…だがねぇ、外の連中はまだイスフェル様に挑む資格のない弱者なんだよ」

 

吸血鬼のため息が、焔の渦に変わって狭い通路を舐め尽くす。

 

「お前たちが身内でどう盛り上がっているかなど知らん」

 

しかし空を切る斬撃が、その渦を割った。

 

「知っておいた方がいいと思うがね。

我々の定めた基準は正確だよ?キミたちの思い上がりが混じった目よりはね!!」

 

マルギエルの肉体が燃えるコウモリに分裂し、ミサイルのように襲い掛かる。

常人であれば、1発で粉々に砕けて炭クズになってしまうだろう。

熱もさることながら、速度が驚異的だ。間違いなく音速に届く。

 

(さすがに口だけではないか…とことん殺し合いが好きらしい。

どれだけの血を…犠牲を出せば、これほどの力を…!)

 

「フハハハハ!キミは王の子だろう、吸血鬼の力を使いたまえ!

人間のふりなどやめるがいい!!」

 

「思い上がるな、外道。お前が取ったのは、考え得る限り最悪の手段だ」

 

「何を…うぐぉッ!?」

 

紅い刃は、狙い過たず『核となる1匹』を捉えていた。

胸の中央を串刺しにされ、もがく。

 

「ふ、ざけ…!」

 

「速度など問題ではない。元より、吸血鬼に出せる程度の速度など見切れぬはずも無し」

 

核のコウモリに他のコウモリが集い、肉体が再形成される。

だが心臓を剣に貫かれたままであり、抜き外す事すらできない。

 

「これは中々…マズいな」

 

「マズい?マズいだと?……ようやく分かった。

手練れとはいえ人間相手に、これだけ武勇で鳴らした魔族たちが押されている理由」

 

「なに?」

 

「何人もの人間を虐げ、殺してきたのに…自分が死ぬ所は想像できないのだな。

この期に及んで、『マズい』か…まだ自分が殺されないと思っている」

 

「ほう、もう勝ち名乗りを上げるか?戦場で…」

 

マルギエルの全身を、血の酔いが覚めるような衝撃が貫いた。

 

「がッ、ああ!?」

 

「ここは戦場ではない。墓場だ。お前らのな。

―不死の王、是に在り。

彼の者、肉の丘を征し、骨の城を築き、血の美酒に酔う。

栄華は万夜続けども、いずれ滅びて朽ちるが定め」

 

詠唱が始まる。吸血鬼の名を明かし、剥奪する儀式。

 

「故に、呪われし父の名において告げる。

『此処に死すべし』…其は血に酔い惑う侯爵。名を示せ!」

 

「く、か…わ、我が名は【嗜血候】マルギエル・ゲウ・ヴォード…」

 

「【嗜血候】マルギエル・ゲウ・ヴォード。歪んだ汝の名を返す。

人として死ね」

 

刃を引き抜くと同時に血が溢れ、肌に色が戻っていく。

 

「あ…???ありえない、この、私が…」

 

「驕りが過ぎたな。人間も気づき始めたぞ。

魔族にも抵抗できる…とな」

 

奇しくも、【朧鬼】ディーザエモンの認識とシンクロしていた。

それはとりもなおさず、人間側全体に伝わる雰囲気の現れでもある。

『勝てる』と。

 

「粋がる…な…人間、風情が…!」

 

「お前ももう人間だ。

さて、この分ではイスフェルとやらも油断していそうだが…」

 

「く、くくく…」

 

「まだ言う事があるか?聞いておこう」

 

「あの方が、人間相手に油断…くくく。当たり前だろう。

あの方は強い。誰よりもな。魔族ですら、あの方に勝てる者はおらん!

げほッ、がはぁ…」

 

傷口からヒビが入り、肉体は無残にも崩壊していく。

 

「そんなお方が、不死身の肉体を得たのだ…無敵だよ、まさに。

実際、かつて七王の1人【死虐王】を殺したのはこの方だ」

 

「…待て、『得た』と言ったか?

後から不死になったのか?吸血鬼ではないのは薄々分かっていたが」

 

「ぐふッ…、不死身の仕組みは分からんが…何らかの術だろう。

それは分かっているから、人間どもも呪術師を大量に動員したのだろう?

」

 

「気付いていたか…」

 

傭兵ギルドも無策ではない。ギルド直属の術師を集め、傭兵たちの突入と同時に大規模な解呪儀式を行っている。

今のところ、成果が上がったという報告は無い。

 

「言っておくが、無駄だぞ…地下の封印を解けば、あるいは分からんがな」

 

「地下、だと?…ずいぶんとよく喋るな」

 

「くくく、せっかくあの方を倒すため調べた情報だ、抱えて死ぬには勿体ない。

…それに、分かったところで地下の封印はイスフェル様以外に解けん!

呪いは、その仕組みを知らねば解除できぬ…封印も、不死もな」

 

それが神秘の原則。

正体が分からないからこそ神秘は強い効力は発揮し、暴かれればただの技術に堕ちる。

魔術や呪術を会得する手段が極端に限られているのも、この性質ゆえに秘密主義にならざるを得ないからだ。

 

原理も由来も知らずに呪いを解く手段など、ほとんどありえない。

 

「先にあの世で待っているぞ、あの方に敗れて無様に死ぬ貴様の魂を、な…!

ふははははははははははは!!」

 

高笑いによって男の身体はたちまちに崩れ、朽ち果てていった。

 

 

 

 

「ほい、解除完了っと」

 

同時刻。地下への入り口、封印を解除した者がいた。

 

〈つづく〉

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。