異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第23話 不死なる武の極致

全魔族10億の中に7人しかいない王の一角をも屠り、次期王にも選出された大魔族、【不死公】イスフェルの討伐作戦が決行された。

圧倒的だったハズの能力差は魔族の驕りによって押し返され、イスフェルに認められていた戦士たちも次々と葬られていく。

 

嵐を生み出して操る【惨劇伯】ジュドロームは暗殺され、魔眼の狙撃手【死眼卿】ヴァシリスは消息不明。

貪欲なる吸血鬼【嗜血候】マルギエルは、魔族の中で【赩の公子】と恐れられる吸血鬼狩りと交戦中。

残る謎多き呪術師【呪猟卿】ファマはといえば…

 

「ネゼル殿。ネゼル殿よ。

起きなよォ、寝てる場合じゃねェぜ」

 

「…起きているさ。貴公が扉の前に立った時からな」

 

決闘によって消耗し、自室で休息中の【暴悪候】ネゼル。

彼を起こしに来たのだった。

 

「なんだ、わざわざ起こしに来たのか。

呪い師の割に親切なことよ」

 

「そういうネゼル殿も、【暴悪】って割に気のいいお人だねェ」

 

「私の異名は荒れていた時代に付けられたものだからな」

 

「荒れてたんすか。元ヤンって奴ですかい」

 

「昔の私といえば…」

 

「おっとっと、昔話ならこいつが要らァな」

 

ファマの手には2人分の酒と、眼球や指が突き刺さった串の盛られた皿。

 

「せっかくイスフェル様が地下の食材を出してくだすったんだ。

1人だけ食えなきゃ気の毒ってもんだぜ」

 

「…ふむ?」

 

「んだよ、人がせっかく持ってきたんだぜ?

毒なんか入れねぇよ、いくら呪術師でもな!

オラ、自分で選びなよ!」

 

ネゼルは照れくさそうに頭をかき、串と杯を取った。

 

「よォし取ったな!ん、うめぇうめぇ!あー酒も肉もうめぇな!」

 

「フ…失礼した。そう来なくてはな!

うむ、うまい。実にうまいぞ!」

 

血と脂が滴る肉を喰らい、豪胆に笑う。

 

「で、しておくんなよ、昔の話」

 

「まぁ、取るに足らん話だ。

昔の私は己の力のみでのし上がり、魔族の頂点に立とうと思っていた。

だが現実は、大軍を纏めるカリスマ無しには出世もできん。

そして私には、それは無い。気に食わない現実だよ」

 

「ははぁ~、そんで暴れ回った挙句が【暴悪候】?」

 

「そうだ。名だけは上がるが、私はどこでも孤独。

しかしあの方が、暴力だけの男だった私を肯定してくださった」

 

「…へへへ、だったらなおさら寝てる場合じゃねぇや。

知ってっかい?次にイスフェル様に挑めるのは、この戦で活躍した奴だぜ」

 

「なに、真か!?これは面白くなってきた!」

 

串を一気に平らげ、酒を飲み干して立ち上がる。

 

「馳走してもらって悪いが、私はもう行く!」

 

「へへ。構わねぇよ、どうせあっしが作った訳でも無ぇ。

―ところでよ」

 

ファマも立ち上がる。

 

「酒に呪いを掛けといた。まぁ俺を殺せば解け…」

 

眼前に拳。

 

(……速ッ!!?まだ言い切ってねぇのに…!)

 

しかし命中の直前、ピタリと止まる。

風圧だけででローブが千切れ飛び、舞い上がる。

露わになった顔は…

 

「きさ…ま…」

 

褐色の肌に灰色の髪が映える、しわがれ声には似合わぬ美少年であった。

 

「あ゛~、あぁ…声、戻ったか。

いやすいませんねどうも、騙したような形になっちゃって」

 

「が、あ…」

 

ネゼルは顔面の穴という穴から血を噴き出し、倒れた。

 

「『術者に殺意を抱くと死ぬ』呪いですよ。よく騙されてくれましたね。

わざわざ人肉を我慢して食った甲斐がありましたね。あれクソまずいもん」

 

【呪猟卿】ファマは偽りの名である。

ジェト族最後の生き残りにして長、キルエこそが真の姿。

ギルドの依頼を無理やりの形で請けさせられ、灰の城に潜入していた。

 

(さて、吸血鬼の人と仲良くしたおかげで色々情報が入った。

まずは地下から調べ…)

 

キルエは突然バック転で部屋の外へ飛び出す。

そうしなければ、ネゼルの拳に仕留められていたからだ。

 

「う~そ~で~しょ~ッ!?」

 

「ぐ、ぐががァ…ごほッ!まだ、終わらぬ、終わら…ぬ!!」

 

死の呪いに捉えられたはずのこの男は、まだ胸の鼓動を刻んでいた。

 

「昔から、呪いだの魔法だのには、耐性が…ぐっ。有ってな」

 

(やっぱ呪いじゃ厳しいな。確実性に欠ける!

1つの呪いで皆まとめて仕留めようとしても効果が薄れるから、わざわざ1人ずつ殺そうとしたのに…!

まさか仕留めきれないとは思わないじゃん!)

 

魔族は元々呪いには多少なりとも耐性がある上、その強度もまちまちだ。

ネゼルは特に強い耐性を持っていたらしい。

 

「でもさ、死の呪いだぜ!?アンタもう死にかけじゃねーの!?」

 

「それまでに…仕留めれば…充分だ。

武人の恥は戦でしか(そそ)げぬ!」

 

「クソッ、この脳筋が…!」

(まともに戦えないくらい弱ってくれている事に期待するしかねぇ!

だってそうじゃないと死ぬもん、俺!)

 

キルエは両手で顔面を覆う。

 

「…『第一の死者よ』ッ!」

 

次に手を離すと、顔は黄金と宝石で飾られた仮面に覆われていた。

 

(【命を殺す法】…たいして役には立たねぇが!

今はコレでお茶を濁すしかねえ……)

 

「さ、あ…行くぞ…!」

 

死にかけとは思えない剛拳が飛び出し、キルエの耳に掠るが、構わず続ける。

 

「…『汝、天上に赦しを求むる事勿れ、地下に安らぎを望む事勿れ』」

 

【命を殺す法】は初回の使用時のみ認証の呪文を必要とし、以降仮面は自由に取り出せる。

この仮面を被り、後出しの詠唱によって効果を起動していく仕組みになっている。

 

「『ただその罪科を以て慰めとし、ここに刻印を授けよう。

我が名の下に、あらゆる悪徳は是認される』」

 

髪が獅子のごとく逆立ち、仮面から溢れ出た赤黒い汚濁が全身を覆う。

 

「『聖なるかな、死よ(オル・ドルグ・モーラ)』…」

 

キルエの身体から漂う呪力が、爆発的に高まっていく。

 

「おお…その仮面、戦場で…見覚えがある。ジェト族、か。

最後の戦いには不足無い相手、だ…!」

 

「来いよくたばり損ない。全力で相手してやる」

 

「応とも!!」

 

ネゼルは死にゆく肉体を奮い立たせ、渾身の拳を構え…

 

「えいっ」

 

構えたはいいものの、何かを投げつけられて思わず受け取る。

 

「なんのつも…」

 

爆発。衝撃を受け、近くに居たキルエも壁に叩きつけられる。

仮面を着けたのは、このダメージを軽減するためだ。

 

「あ~クソ痛ぇ…もういいから死んでてくれ……っつっても。

やっぱ殺せねぇか…」

 

「ぬ、ぬ、ぬぅううう…!なかなかだ、悪くない」

 

心臓は痙攣するような微弱さでかろうじて動く。

胸と顔、両腕の肉は爆発で深く抉れている。

だが両目はまだ輝きを放ち、キルエを見据えていた。

 

「ほとんど死体じゃねーか、アンタ!まだやるんすか!?」

 

「グフフ、軽い軽い。この程度では我らのうち1人も殺せぬ。

わずかとはいえ共に居たのだ、分かっておろう」

 

「いや、まぁ…」

 

キルエはため息をつき、ゆったりとした動きで両腕を空中に漂わせる。

これを見たネゼルが低く笑う。

 

「人間の武技は…美しいな。精密で、淀みなく、殺意に乏しい。

踊りを見ているようだ」

 

「それそれ。踊りですよ。

我が部族には、13の舞踊がありましてね」

 

「む?」

 

「呪術と武術の併せ技…ジェト族の戦士が代々開発し、受け継いできたもの。

そのうち素手で使える技は2つだけ」

 

道端を散歩するかのように無造作な歩法で接近し、ネゼルの胸に左手を置く。

 

拾参(じゅうさん)の舞」

 

置いた手の上から、右拳を打ち込んだ。

 

「…む、ぐ。なるほど、重いな。非力な人間にしては。

しかし……がはッ!?」

 

一度は収まったハズの顔面の出血が、先ほど以上に激しく再発した。

 

「【怨邪絶死拳(ジェトゥ・ゴドラングエ)】。

体内に残存する呪いを呼び起こし、反響させる」

 

「お、おおお…見事、見事な…」

 

言い終わるのを待たず、キルエは壁に掛かった鉈を奪って首を刎ねた。

 

(ギルドから出された条件は、教会指定の賞金首2人分かイスフェルの首。

とりあえずこの首は貰っておく)

 

一息ついて、体力を根こそぎ奪われる前に仮面を外す。

 

(ふぅ…まず、これから地下を調べてみるか。

地下への扉は封印されていたが…それは解ける。多分)

 

ジェト族には、術の原理や構造を無視して強制的に解呪する儀式が伝わっている。

かつて砦で兵士たちの呪いを解いたのもその一種だ。

 

(時間が掛かるし、やってる間に敵に見つからないようにしないとな。

直接見られなければ、誰にも気づかれる心配はねぇし)

 

この儀式の何より厄介な部分は、術を解いてもその事を本人が感知できないという事だった。

普通、魔法でも呪いでも、それが解かれればその場にいなくても気づく事ができるようになっている。

だがジェト族の儀式は、警報装置ごと解体してしまう事で術者に情報が届かない仕組みになっていた。

 

(問題は不死身の方だが…そっちも解除できるのか、まだ分かんないのが不安だな)

 

儀式に必要な素材や道具は、イスフェルを騙して調達済みである。

それを確認するために懐を探って、痛みに悶えた。

爆発と戦闘で受けた傷が、着実に少年の体力を奪っている。

 

(…ちょっと戦っただけでもうボロボロだよ、弱いってのは罪だな!

本当は1度も戦わずに楽に首が取れるハズだったのに。

今後はもう戦わないぞ…そのためにわざわざ危険を冒して潜入したんだし!)

 

そしてこの数分後、キルエは地下への封印を解き、不死の謎の核心に触れる事になる。

 

 

 

 

「……?」

 

イスフェルは玉座に座り、髪を指先で弄んだ。

 

(妙な感覚。胸騒ぎという奴か?いつぶりか…懐かしい感覚よ。

それだけの相手だというのか?今日の人間どもは)

 

「たのもーう!」

 

舞踏場の扉を蹴り開ける闖入者たちは、血に飢えた傭兵15名。

魔族の迎撃と死の狙撃をかいくぐってここにたどり着いた猛者どもである。

 

「我が名はナンゾ・ワイズマー!

【卑炎の将】と恐れられし魔戦士よォ!」

 

「俺様は【殺戮遊漁】のビッシャー・マン!

その首貰いに来たぜェ!」

 

「ワシは…」

 

「ああ、もう良い。お前たち人間同士でどう呼び合っているかなど興味が無い。

武勇は実力で示してみせろ」

 

イスフェルはため息をつきながら、長髪を梳かす。

 

(…胸騒ぎの原因は、こやつらではないらしい。

まぁ手慰みにはちょうどよかろう)

 

髪が6房に分かれ、座の背後に回る。

 

「…?」

 

「ああ、気にせず掛かってこい。今武器を用意しているところだ」

 

傭兵は油断なくイスフェルの周囲を取り囲み、ゆっくりと距離を詰めてくる。

 

「なんだ待っていてくれたのか。ずいぶん余裕がある事だ」

 

座の陰から取り出された、6つの髪が持つ6つの武器。

長剣・短剣・槍・斧・鎌・戦鎚、それぞれが魔法効果を付与された特殊武装である。

 

「まずは…そうだな。余を立ち上がらせてみせよ」

 

「何を~ッ…殺してくれるわ!!」

 

「やっちまえ!!」

 

飛びかかる傭兵たちを、達人レベルに磨かれた武器捌きで髪が迎撃する。

長剣は炎を巻き起こし、短剣は呪毒を帯び、槍は暴風を纏い、斧は雷を放ち、鎌は腐敗を加速させ、戦鎚は衝撃を増幅させる魔力を持つ。

 

「舐めんな!魔法使える戦士なんざ何人も殺ってきたんだよ俺は!」

 

「直接当たらなきゃ大した事ねーよ!」

 

イスフェルの予想に反し、傭兵らは互角に渡り合っていた。

髪の操作能力は、精度こそ凄まじいものの出力は高いと言えない。

せいぜい鍛えた成人男性と同等のパワーでは、同じく達人である傭兵たちに対して力押しが利かないのだ。

 

「む…なるほど、さすがは傭兵ギルド選りすぐりの戦士たち。

座ったままではいかんか」

 

重い腰をゆっくりと上げ、溜息をつく。

 

「座ったままでは手が届かないしな…」

 

「あ?何の話だ…ぐわッ!?」

 

イスフェルは斧と長剣を相手にしていた傭兵の顔面を、両手でそれぞれ掴んだ。

 

「ぐがッ…あッ」

 

「クソが!離せ…ばァッ」

 

そしていともたやすく圧壊させた。

 

「この通り、両の手は空いている。誰ぞ、付き合ってくれる者は居らぬか?」

 

血まみれになって再び空いた手を正面に掲げ、魔力を充填させていく。

 

「でないと、お前たちは今すぐ死ぬぞ」

 

わずか3秒のチャージで放たれたその一撃は、何の工夫もなくただ魔力を放出する技。

しかし発生した極大熱量は、その場の全員を即座に薙ぎ払って消し炭にできるだけの威力を秘めていた。

 

「させぬわァ!」

 

ナンゾ・ワイズマーと名乗った重装の男は、手に持った戦旗を頭上に掲げて回転させる。

 

「ぬぅうううん!!」

 

そして旗を力強く地面に衝き立てた。

同時に黒い炎が噴き上がり、壁となって魔力砲を吸い込む。

 

「貴様なんぞ!この俺なんぞの魔法なんぞでも充分相手できるわ!」

 

「あらゆるものを引き寄せて呑み込む暗黒の炎か。

人間がその邪術を使うとはな…」

 

「フン、闇の魔術は貴様らだけのものではない!

…おい!両手は俺が引き受けた!空いた武器はなんとかせよ!」

 

「言われねぇでもやってるよ!」

 

長剣と斧を使う髪に、また新たな傭兵が付いて斬り合う。

 

「そうだ、お前らなんぞでも髪なんぞの相手はできるだろう!

6つの武器は6人で引きつけ、残る者は本体を攻めよ!」

 

「おうよ!!」

 

「少々単純ではないかね?そう上手くは…」

 

勢い任せの突撃とは違う、回避できない角度を狙いすました殺意の一撃。

攻撃の隙間を縫い、前後左右から重ね合わせる形で繰り出されたそれは、どれかをかわせば絶対にそれ以外の攻撃を喰らうようになっていた。

 

「む、ぐぅ…う!」

 

脇腹と背中の肉を抉られ、顔を顰める。

 

「よしッ!」

 

「この程度で勝ち誇られては困るな…!」

 

「少しずつ…少しずつだがテメェの命に指が掛かってきたようだぜ」

 

「面白い事を言う。しかしまぁ、認めよう。

確かにお前たちは余の予想を超えて強い。人類の中でも選ばれた強者なのだろうな。

―故に」

 

魔力砲を中断し、髪の操作を止める。

 

「っ!?」

 

「わずかにだが、見せてやろう。我が全力…そのごく一端をな。

……かァッ!!」

 

イスフェルが気合の声を上げて地面を踏み鳴らした瞬間、周囲を取り囲む全ての傭兵が、その衝撃波によって宙を踊った。

 

「な…」

「はぁ?」

 

更に両手を前に掲げ、指揮棒を振るように遊ばせた。

と同時に、髪が軌跡も残らぬ速度で動き、空中で逃げようのない6人を葬った。

 

「……な、に?」

 

旗を地面に突き刺し両足で踏ん張っていたナンゾさえ、抵抗すらできずに転がった。

 

「があっ!…なんだ、何をした!」

 

「いや、まだ何もしとらん。ちょっと気合を入れてみただけなんだがな。

…で、残るは7人か。増援は無さそうだな?」

 

イスフェルが破られた扉に目を向けると、ナンゾは眉間に皺を寄せた。

 

(俺が奴の両手を引き受けたとて、残るは6人。髪なんぞの相手で精いっぱいか。

まあ奴の頭が丸刈りでも勝てる気はせぬが…!)

 

そう。格が違いすぎたのだ。

この戦いには、各地で恐れられる勇士たちが集められた。

実際強大な魔族たちも次々と倒されている。

 

だが、関係ないのだ。

 

「すまん、今のはもう使わんからかかってこい!」

 

そう言って苦笑するこの魔族は、もはやそういう基準を逸脱していた。

何をやっても通じない。

 

(足りない。我らでは…殺せない!こいつは!)

 

〈つづく〉

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