異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第24話 弱点を無敵にすな

イスフェルの不死の秘密を探るべく、素性を偽って潜入しているキルエ。

一族に伝わる強制解呪儀式によって地下の封印を解く。

 

「おぉ~…いや、ふぅ~ん…?」

 

地下は極めて温度が低く、廊下の左右を埋め尽くすように存在する牢も、氷柱を生やしていた。

ズタズタに切り裂かれた状態で天井からつるされた人間たちには、霜まで降りている。

 

(なんだ…本当にただの食料保管庫か。……って)

 

キルエはいきなり何も無い壁に触れ、指先に魔力を集めて引っ掻いた。

壁紙が剥がれるように、その部分のテクスチャだけが剥がれて大扉が明らかになる。

 

(あるじゃんあるじゃん隠し部屋!

いよいよマジっぽくなってきたじゃん?…これでエロ本隠してたら笑うけどな)

 

扉には地下への道と異なる種類の封印が成されていたが、ジェト族の術の前には無意味な小細工だった。

10分ほどかけて物理錠もろともこじ開ける。

 

「は~い秘密の部屋オープン!」

 

口調こそ軽いものの、罠を警戒して開けながら石を投げ込む。

床の一部が開き、壁から槍がせり出した。

 

(うおっ、あっぶね!

…お。やっぱりそうかぁ)

 

部屋は全く物が無く殺風景だが、部屋の中央には宝飾品を展示するような台が備え付けてあって、その上で()()が脈打っていた。

 

(やっぱ心臓か。あのオッサンに触れた時、脈が無いから妙だと思ったんだよ。

よくあるよな神話とかで。急所だけ別の場所に隠しておくから無敵、みたいな奴。

いや、どっちかっつーとパイレーツ・オブ・カリビアンかな)

 

名作映画の怪人を思い出しながら、軽やかな足取りで罠を掻い潜り心臓を手に取る。

 

(映画通りなら、コイツを潰せば即死するはずだが…どうだろうな。

頼むよ~あっさり死んでくれ~!これで殺せればギルドから怒られずに済むんだよ~!)

 

力を込めて握りつぶそうとしか瞬間、心臓から闇が溢れ出る。

視界を塞ぎ、前後左右すら見失うほどの暗黒。

 

「え?え?うわわわわわっ!?」

 

動揺の叫び声こそ上げるものの、肉体は本能的判断に従った。

すなわち、『相手が何かしようとしている時は、何かする前に仕留める』。

 

「いいから死んどけってもう!」

 

キルエは無慈悲に心臓へと刃を突き立てた。

 

 

 

 

ついに不死公イスフェルとの決戦に挑む戦士たち。

達人並の髪が操る6本の魔法武器と両手から放たれる猛烈な魔力砲をかろうじて抑え込み、攻撃を当てる事には成功した。

だがそれは喜ばしい事ではなかった。

蟻が潰される前に指に噛みついたのを、『一矢報いた』と喜ぶだろうか?

否。人はそれを『無駄な足掻き』と呼ぶのだ。

 

「さて、どうしたものかな。これでも手加減が足りんとは。

余は互角の勝負がしたい。そちらの要求次第でいくらでも技を封じるぞ。

ほれ、言うてみよ」

 

舞踏場は鮮血と肉片で彩られ、戦士の遺骸が床を飾り付ける。

唯一、旗を支えとして膝で立つ男ナンゾ・ワイズマーは、血の塊を吐き出して息を喘がせた。

 

「あぁ…あ」

 

「む。喋れぬか。それならば、まぁ…仕方ない」

 

イスフェルはゆったりとした足取りで、その男に近づく。

そして旗に触れられる位置まで近づいたその時。

 

「ぅ…おおおおおおおッ!!」

 

ナンゾは絶叫し、総身に魔力を循環させた。

旗を中心として黒い炎の渦が巻き起こり、瓦礫や肉片…イスフェルの肉体を引き寄せる。

 

「無理はするな。ちゃんと殺してやろう」

 

イスフェルは面倒そうに力を込め、引力に逆らうその一瞬。

一瞬だけ、動きが止まった。

 

「がァあッ!?」

 

扉の外から、まるで槍のように太い矢がイスフェルの頭部を射抜いた。

続いて矢は爆散し、首から上全てを吹き飛ばした。

 

「…合図は、届いたようだな」

 

ナンゾの叫びは己を奮い立たせるためのものではない。

弓使いの存在に気付き、彼女へと送った合図なのだ。

 

「……で、どうすんだ」

 

倒れている傭兵の1人が呟く。

 

「生きていたのか」

 

「死んでられるかよ。ソイツだって死んでねえんだぜ」

 

「…うむ」

 

散乱した肉片が逆再生めいて集まり、イスフェルの顔を形作る。

 

「クハハハハ!なるほど、命がけの足止めか!

今のは少々油断していた!」

 

「…クソが!」

 

そう。イスフェルの異名は【不死公】なのだ。この程度で息絶えるハズもなし。

 

「よくぞこの余を1度殺してみせた!

褒美だ、余の全力を見せよう…数秒だけな!」

 

イスフェルは手を上げ、勢いよく振り下ろした。

 

「しぇええええいッ…」

 

「おごぁッ」

 

ナンゾはその風圧によって、触れられる前に地面にめり込んだ。

 

「おおっ…と。まだ当てておらんぞ?

死にかけとはいえ軟弱よなぁ…お前はどう思う?」

 

遥かに遠く、互いの姿が辛うじて形のみ見えるような距離。

その先で大弓を構えていた女傭兵が、思わず息を呑んだ。

 

「ヒッ…!?」

 

目が合った。と感じた。声は耳元で聞こえたとさえ思った。

全身が粟立つのを感じながら、その場を離脱する。

 

「…おっと、まぁ待て。褒美はお前にもやらねば」

 

イスフェルはそう言いつつ瓦礫の欠片を拾い、指で弾いた。

欠片は弾丸めいた速度で飛び、身をかわしたはずの女の背中…左肩辺りに直撃した。

 

「~~~ッ!!」

 

女は凄まじい衝撃にもんどりうって転倒し、意識を奪われた。

 

「クソ化け物が!死…」

 

生き残っている傭兵が立ち上がろうとした瞬間、イスフェルが床を踏みしめ衝撃波で壁まで吹き飛ばした。

 

「誰ぞおらんのか?おい、余を倒せる者は?」

 

応える声は無し。

 

「ふむ。つまらんな、もう全て消してしまうか。

あの不吉な感覚は、やはりただの勘違い……ッ?」

 

またもや悪寒。己の命に何か重大な危機が迫っているかのような感覚。

 

「…まさか、余の心臓を見つけた者がいたか?

いや、ありえん。あの封印を解くには破壊するしか…しかしその通報は無い。

まだ心臓に異変は起こっていないはず…」

 

立ち上がる。

 

「…確かめに行かねば。この眼で」

 

イスフェルは残虐にして傲慢な強者である。

だが己の命の危機に関しては、奇妙なほど鋭い感性を働かせる男だった。

―故に。

 

「その前に貴様を倒してからなァ!」

 

霧となって直前まで気配を消していたハンターの一撃をもしのぎ切った。

 

「…よく気の付く男だ」

 

「貴様は特に注意対象として気にかけていた。

【赩の公子】…【赩龍王】の息子よ。人である事を選ぶか。

人の身で魔の力を扱い、人のために死ぬか」

 

「選ぶ?たわけた事を。私は元より人でしかない」

 

ハンターは敵の喉に指を突き刺して掴む。

ドクンドクンと滾りながら血が奪われていく。

 

「がァッ…血を吸いながら言う事か?ククク…」

 

「良い血だ。これなら少量でも吸血鬼の力が使えるようになる」

 

「なら使ってみせよ…そして余を楽しませる事だ!」

 

剛腕をかわし、ハンターは再び距離を取る。

 

「その命に刃が届く時…同じ台詞が言えるか試してやろう」

 

 

 

 

 

「あわわわわヤバいヤバい」

 

キルエのナイフは確実に心臓を貫いたハズだった。

だが心臓は刃を折り、噴き出る暗黒はもはや心臓を覆っていた。

 

(なにあの心臓、超硬いんですけど!防護魔法かけてるやん!

なんかズルくね!?急所をどっかに隠すから不死身でいられるんでしょ?

その急所までガードしたらもう無敵やん!何このクソコンボ!ナーフしろや!)

 

暗黒が人の形を成した。まるでシルエットのような姿の中心に、心臓は脈打っている。

 

(あれ、イスフェルの影だ。

つまり心臓が危険に晒されると、アレが出てきて自動的に守るって訳か。

ええと、つまり……また戦うの?俺?)」

 

影が動き出す。髪に当たる部分や両腕をしならせ、鞭のように地面を打つ。

 

(音が軽い。しょせんは影、大した質量は無さそうだ。

当たったら即死って訳じゃない…なら!)

「…『第一の死者よ』」

 

言いつつ顔を撫でると、手を追うように仮面が出現した。

 

「『汝、天上に赦しを求むる事勿れ、地下に安らぎを望む事勿れ。

ただその罪科を以て慰めとし、ここに刻印を授けよう。

我が名の下に、あらゆる悪徳は是認される』」

 

血流が早まる。筋肉が膨れ上がる。骨が軋む。

肉体に負荷が掛かっているのが、キルエにもはっきり分かった。

 

「『聖なるかな、死よ(オル・ドルグ・モーラ)』…」

(1日に何回も使うもんじゃないなコレ。

こいつを使うからにはさっさと片付けねぇと…!)

 

彼にとってこの技は必殺技などではない。

やむを得ず戦わねばならない時に使用するドーピングでしかないのだ。

 

(硬いなら壊れるまで斬ればいいだけのこと!)

 

鉈を叩きつけるようにして心臓に斬り付ける。

影は溶けるような動きでこれをかわし、高速で背後に回った。

 

(えっ、速…)

 

そして背中に、影の触手による強烈な打撃が加えられる。

致命傷ではないが、皮が裂け血が滲む。

 

「痛ででででっ!?」

(質量がほとんどないせいで素早いのか…!

しかもグニャグニャ形が変わるせいで、動きが読めねぇ!)

 

このままではキルエも死なないが、影を討ち取る事もできない。

何より厄介なのは、心臓が動き回る以上、ゆっくりと防護魔法を解除する暇は無いという事だ。

 

影はせせら笑うかのように揺らめいた。

 

(はいはい速度ね。じゃあもういいよ、やってやるよ!!)

 

懐から取り出したのは、青白く輝く生体的なデザインのナイフ。

それは竜の角を加工した『神臣の刃』と呼ばれる魔道具。

そう、密輸業者を騙して奪い取ったあの素材を使ったアイテムだった。

 

「『病呼び込む熱風よ。汝神殿を開き、地の(しもべ)を我が下へ』!」

 

ナイフで空を切り、呪文を唱える。

竜の角が内包する強大な魔力と存在格によって、ジェト族が信仰する神々の使いを召喚・使役できる道具なのだ。

 

紙を破るように空間に穴が開き、巨大で黒い外皮に覆われたムカデが這い出てきた。

悪風の神バルガンの神獣であり、風の速度で熱病を運んでくると言われている。

 

「脚には自信あるだろ?そんだけ付いてんだから。頼むよ」

 

ムカデは愛おしげにキルエへと擦り寄り、足元に頭を垂れた。

キルエがその上に飛び乗ると、異常な速度で這い回り始める。

 

「うおおっ速ぇ!いいねぇそうこなくちゃ!

この速度で!あの速度を迎え撃てばよォ~…!」

 

ムカデは影の全面に回り込み、頭の上のキルエは迎え撃つ構えを見せる。

影はルートを変更しようとするが、既に鉈の射程。

 

「ッるるァああああ!」

 

火花が散り、鉈が跳ね上げられる。

 

「えっちょっと待って硬い」

 

心臓は異様な強度と弾力で刃を跳ね返してしまった。

それでも【命を殺す法】による強化が効いたか、表面が裂けて出血したが…

 

瞬時に再生し、元の形を取り戻した。

 

「ねぇ…マジでさぁ!倒せる流れだったじゃん!

じゃあどうやって倒すん??クソゲーすぎて萎えるんすけどォ!!」

 

だがこの世界はゲームではない。

急所が高速で移動し、なおかつ極めて頑丈で傷つけてもすぐ再生する…そんな攻略法が無い敵もいるのだ。

 

(…ま、絶対に勝てるチートも無い訳だが。

あいつ、何が『次期魔界の王』だよ。急所隠してガチガチにガードしまくってるくせに強者ぶりやがって。

絶対にこのインチキぶち抜いて殺してやる……俺の限界が来る前に!)

 

既に続けて2回の使用によって、身体には確かな負担が掛かっている。

それでも初めて使った時よりマシに感じるのが、キルエには不思議だった。

 

(まあマシってだけでキツイ事は変わらんけどね!

なんでこんな使いづらい……ん?)

 

【命を殺す法】を『強くなれる術』程度に認識していたキルエは、そこへ思い至るのに遅れた。

 

(おやぁ?そういえば本来の使い方がありましたね???)

 

ムカデの上、鉈を構えて片脚立ちになる。

 

(速度はこいつで追いつける。変幻自在な動きも見切った。

攻撃当てるだけなら出来る!…多分)

 

凄まじい速度で移動する小さな足場において、これは驚異的な体幹である。

 

(こういうクソしょうもない小細工は、しょうもないズルで潰してやる…!)

 

〈つづく〉

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