異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第26話 新たなる英雄と騎士の到来

【不死公】イスフェル、魔界七王の戴冠を目前にして討たれる。

魔界・人界共に大きなニュースであるその情報は、戦に参加した者たちの名を伴って一気に広がった。

 

イスフェルを討った戦士、魔界七王の子たる吸血鬼狩り【赩の公子】。

それに連なるは【卑炎の将】ナンゾ・ワイズマー【殺戮遊漁】ビッシャー・マン【必殺砲】ガルフィア【獣剣】ボガ【鎚葬者】リュリ…

 

この戦線に蔓延する魔族への恐れを取り去るべく、人々が待ち望んだような英雄伝説に仕立てて喧伝された。

 

その一方で、畏怖とともに語られる名もあった。

城内を踏み荒らし、圧倒的な暴力で蹂躙した【狂気の憲兵】ドーラム。

多くの悪名高い魔族を闇討ちして貢献した【朧鬼】ダラマキ・ディーザエモン。

敗走する魔族を一切の慈悲も油断も無く殺し尽くした【兇仙】ウーシエ。

 

そして戦の最中、イスフェルを除いて最大の脅威であった魔族ネゼルを密かに討った首狩り呪殺者【忌み屋】キルエ。

突如消失したとされる幻の戦闘民族・ジェト族の末裔であるという彼は、その手に魔族の生首をぶら下げたまま城内を徘徊していたところを目撃されていた。

わざわざ首を落として武勲の証明とし、あまつさえ『ただの贄だ』と言って持ち帰る野蛮さ・残虐さは、今後この地で生まれるいくつかの童話のモチーフにさえなるほどだった。

 

 

「…でですね。この【首実検(ヘッドチェッカー)】を死体に刺します。

すると体組織を吸い取り、上の試験盤が魔力パターンを記憶します。

魔力パターンはほとんどの生物にとって、指紋と同等かそれ以上の証明になるんです」

 

「あ~…で、これをギルドの方にお見せすればいいと」

 

「そうです。パターンの照合はこっちでやりますんで。

あ、この道具自体は10本セットで売ってます。基本、どの支部の受付でも買えるんでね」

 

「は、はぁ~…なるほどねぇ…」

 

「まぁそういう訳で、首なんて持ってこなくていいんですよ。

ソレはその…捨てて結構ですので」

 

「わ、分かりました!お手数おかけしました!」

 

少年はギルドの職員にペコリとお辞儀をし、生首を抱えたまま去ろうとする。

 

「えっ?あっあの!首は要らないんですよ?」

 

「はい?ああ…いやちょっと、また別の用途が…」

 

「よ、用途?生首の、ですか?」

 

少年は気まずそうに呟いた。

 

「…い、生贄っていうか…いや死んでるんでただの贄なんですけど…」

 

術無しにはマトモに仕事できないキルエにとって、神々の協力は必要不可欠であった。

その点、人命は割の良い捧げ物だった。

何日分かの食料や貴重な宝石などを用意するより、よほど手軽で安上がりなのだ。

 

ただ、細かい事情を知らぬ者の目には…野蛮で残虐な風習と映るのもやむない話だという事は、キルエ自身よく理解していた。

 

「へ、へ~!そ、そうなんすね!

あ!あの俺、こっちの調査しなきゃ!し、失礼します!」

 

若い職員は青ざめて走り去った。

残った年上の職員が肩を竦める。

 

「許せ、新人でな。

…それより、仕事の方、お疲れさん。正直期待以上だった」

 

「あ、あなたに脅されたから、死ぬ気でやったんですよ!?」

 

「ああそうだな。悪かった。

腐ってもジェト族、巻き込めばそれなりの戦果は挙げられるだろうと見積もっていた。

しかしまぁ、まさかあの【暴悪候】ネゼルを殺すとはな。伊達に戦闘民族と呼ばれてる訳じゃねーな」

 

「いや、別に戦って倒した訳でもないというか。

呪いでハメて瀕死の敵をボコっただけなんで、強さを期待されても困るってか…」

 

「ふぅん?呪い、ねぇ…」

 

キルエは職員の表情に不穏なものを感じたが、気付かないフリをして話題を変える。

 

「あの~報酬なんですけど、いついただけますでしょうか…」

 

「ああ…これ、依頼書。ギルド持ってったら引き換えてくれっから」

 

「はいっ、ありがとうございます!じゃあもう帰るんで!」

 

「おうちょっと待て。…その手に持ってる首」

 

キルエは気まずそうに顔を逸らした。

 

「な、なんでしょう…」

 

「【死眼卿】ヴァシリスは魔眼の持ち主だったと聞く。

…だがその首は、両目ともに潰されている。

というより、抉られている…その目玉、どこにいったか分かるか」

 

「さぁ…ナイフを刺して魔眼を取り出したとこまでは覚えてますけど…必死だったので。

そのままならたぶんどっかに落ちてると思いますよ」

 

職員はキルエの顔をジッと見た。

 

「…ま、いい。

そういう特別な肉体を持つ魔族や化け物を倒した時は、傷つけずに採集して持っていくと追加で報酬がもらえる。

無理のない範囲で頑張りな」

 

「あっ、そうなんですね!じゃあ…はい。頑張ってみます」

 

キルエはくるりと背を向け、懐で不吉に輝く青い眼球の存在を確かめて、そのまま歩き去った。

 

「あ、先輩。あの子もう行きましたか?

いや~怖かった~」

 

「怖がり過ぎだ、馬鹿。

俺が新人だった時は、ああいうイカレたガキがゴロゴロ居たぜ。

ああいう常識外れの連中と付き合って力を借りるのが傭兵ギルドだ。

今の内から慣れといた方がいい」

 

「あの子はちゃんと会話してくれますけど、他の人たちとかキツいっすよぉ。

マジで強すぎて普通の人間と思考から違うじゃないすか」

 

「んな事言ってる場合か。

これからもっと大勢のヤバい傭兵と付き合う事になるんだぞ?

いや、傭兵だけじゃねぇ…」

 

「あ、そっか。この作戦が上手くいったから許可下りたんすね!

正規軍との合同作戦…!」

 

この2名は傭兵ギルドの企画課に所属し、ギルド主導の大規模な作戦を立案しているが、この先輩職員は今回の一連の作戦の企画者だった。

正規軍にもオファーを出していたが、協力する条件として『命を預けるに足る実績』を求められていたのだった。

 

(人類が生きるか死ぬかの時に悠長なもんだ、とは思うが。

人類の敵は魔族だけじゃない、他にも対処しなきゃならん脅威が居る以上、あまり手練れを自国から出したくない気持ちは分かる)

 

南方戦線で魔族と戦っている間にも、北では狂える竜王を討って美姫を救った騎士がいるという。

西に降臨した悪しき神の穢れは世界を蝕んだが、聖女によって滅ぼされ祓われた。

東においては国をも喰らう魔獣が出現し、半神の狩人に仕留められたらしい。

 

そのような噂を聞く限り、魔皇だけにかかずらっている訳にもいかないのは道理だった。

 

(だが、南にはまだ英雄がいねぇ…)

 

今は、その事を嘆く暇も無い。

 

「俺たちが作るんだ、然るべき舞台と役者を!でなきゃいつまでたっても魔皇は倒せねぇ。

年寄りどもが先送りにしてきたもんを、今解決するんだよ!」

 

「は、はい!そのためにも、キャメロット王国の助けは必要不可欠ですね!」

 

「ああ…あのバカ王がどの程度の戦力を寄越してくれるかだが…」

 

「向こうの兵士がもう王宮に報告してると思います。

ほら、キャメロットの兵士って不思議な魔法が使えるじゃないですか。

返事が返ってくるのはそう遅くもないでしょう」

 

「ああ、『返答はなるべく早くお願いしたい』とは言ったが…案外律儀なこった。

俺らもさっさと調査終わらせて、急いでギルドで次の作戦案を詰めるぞ!

あとホイス司教との交渉な!」

 

「はいッ!」

 

 

 

 

『【不死公】イスフェルは討ち取られたとの事です。

死者は50名中12名。重症者は26名。敵方は32名中32名全員の死体が確認されたと』

 

「全員、か…まぁ32名という数字がどこまで信用できるかは知らんが。

雑兵でなく手練れの魔族が32人倒されたと考えれば、戦力としては充分か。

なるほど、傭兵ギルドの自信も頷ける。御苦労だったな」

 

『はッ、失礼します』

 

「…なるほど。これで向こうは約束を果たした訳だ」

 

白亜の宮殿。遥か遠くの部下の言葉に頷く、甲冑姿の美丈夫。

 

「お前さぁ…」

 

玉座に座る見かけ15・6歳ほどの少年が訝しげな目線を送った。

 

「なるほどじゃねぇのよ。俺に届いた報告を、ナニお前が応対してんだよ!」

 

「えっ、だって座ったまんまボーっとしてるんで…」

 

「ボーっとしてねぇよ!考えてんの色々!俺、王様だから!」

 

「いいじゃないすか細かい事をグダグダと。だからモテないんスよ」

 

「モテなくていいの!俺嫁いっから!!」

 

美丈夫はブフッと噴き出した。

 

「いやいや…寝取られたじゃないスかっ…フフフへへッ!」

 

「トリスタンマジで殺すぞテメェ!」

 

少年王は怒り狂い、聖剣を引き抜く。

 

「陛下…」

 

大男が面倒そうに立ち上がり、少年の腕を抑え込んだ。

 

「離せやガウェイン!コイツ殺す!!」

 

「まーまー抑えて。トリスタン卿も、ほらごめんなさいして!」

 

「しゃーせんしたぁ」

 

「ブッ殺す!!!」

 

まるで子供のようにぎゃあぎゃあと騒ぐ騎士たち。

しかし彼らはこのキャメロット王国を護る最高の騎士と名高き【円卓の12人】であった。

 

【円卓の12人】は別に12人という訳ではなく、在籍しているのかどうか曖昧な者もいたが、ハッキリ言えるのは全員が至高にして究極の騎士であるという事である。

彼らは皆、国父マーリンの語る【古き王の物語】において出てくる騎士の名を授けられた超抜のエリートである。

 

本来は一世代に2・3人いれば黄金世代と呼ばれるほどの称号だが、今代は王を含め本来の上限を大きく超えて16人以上の騎士が選ばれた。

まさに王国史上最強の騎士団…はずなのだが、これまでの光景を見ての通り、あまり評判は芳しくなかった。

いや、芳しくないどころか……。

 

「いい加減にせんか、馬鹿者どもがァ!!」

 

ガウェインを超える巨漢の老人が、王とトリスタンに拳を降り下ろした。

 

「なぁんで殴んだよ爺さん!俺悪くねーし!!」

 

「やかましいわ!この儂にまで恥をかかせるつもりか!」

 

老人の名はペリノア。キャメロット属国の王でありながら、国王アーサーと対等の地位を与えられた騎士の1人であった。

 

「今論ずるべきは、ギルドとの約定であろうが!

あちらはそれを果たした。応えねば騎士の名折れだぞ」

 

「わーったわーった、じゃ円卓から2・3人送っから!

向こうにいるウチの軍指揮させて、上手いことやらせればいいっしょ!」

 

「そこまでは良い。で、誰を送るのだ」

 

「まずトリスタンは罰ゲームで行くの確定な」

 

美丈夫は無言で顔をしかめた。

 

「後はまぁ…罰ゲーム繋がりでランスロットだな」

 

「罰ゲーム扱いは無礼だが…メンバーに異存は無い。必ず結果を出すだろうからな。

で、ランスロット卿は今どこに」

 

「さぁ…今逃げてるからなぁ」

 

「逃げてるからなぁ、って。陛下が『捕まえて殺せ』って言ったんでしょ」

 

ガウェインが呆れ顔で椅子に座り直した。

 

「俺はほっとけって言ったのに」

 

「ガウェインお前は悔しくないのかァ弟が殺されたンだろが!」

 

「円卓同士はいつでも殺し合って優劣を決めていい…陛下の決めたルールでしょう。

アグラヴェインが死んだのは、アイツが弱いからだ。

そもそも王妃の寝所をデバガメしようとしたアイツが悪い」

 

「あ、そだっけ。ちょ、『殺せ』は撤回!

お前ちょっと行って生け捕りにしてこいよ」

 

ガウェインはう~んと唸って、溜息をつく。

 

「たぶん弟たちがもう出会ってる頃だと思うんですよ。

ほら、処刑場に吊るしておいた王妃の所です。弟2人が警備についてるでしょ」

 

「ガレスとガヘリスか…ちょい厳しいかな。

お前、助けにいってやれって」

 

「あんま弟の喧嘩に出ていきたくないんだけどな…まぁいいや。

ちょっと見に行ってみます」

 

 

 

キャメロット王宮、処刑場。

天井から、みすぼらしい服の女が胴体を縛られ宙吊りになっていた。

 

「ねぇ~え、降ろして!痛い!痛いんだけどぉ!」

 

「……」

 

ガウェインによく似た顔立ちの若者と、陰気な顔色の若者が立っていた。

 

「降ろして降ろしておーろーしーてー!」

 

不貞行為が明らかになり、処刑場に身柄を移されてから2日。

変わらぬ声の調子で喚き続けていた。

 

「マジうるっせぇこのアマ…なぁ兄ちゃん、コイツ殺そうぜ」

 

「罪人とはいえ王妃…そのような口の利き方は適切でない。

そして罪人は法で裁かれるべし。我らにその権利は無し」

 

「別に王様も文句言わねぇって。こんなクソビッチ1匹殺ったとこでよ!」

 

「正当な手続きが無ければ、たとえ王自身が現れても身柄は渡せぬ」

 

「あーつまんねぇ…2日間もこんな女の声聞き続けてたら頭おかしくなっちゃうよ」

 

「…ガレス」

 

「!」

 

顔まで兜で隠した重装の騎士が、彼方から2人に近づいてくる。

 

「ランスロット卿だ。構えろ。あの方ならこの距離でも一瞬で詰められる」

 

「…カッコいい」

 

「おい!」

 

「へ?お、おう!」

 

吊るされている王妃が、手足をバタバタ動かしてアピールする。

 

「あ~ん、ダーリン!こっち、こっちよ!早くやっちゃってぇ!」

 

甲冑の騎士は両手を無防備にブラブラさせて応える。

 

「おう!任しとけ~すぐ降ろしたるでのぉ」

 

「ランスロット卿。そこで止まれ。貴公には不貞と逃亡の罪が…」

 

ガチャリ、と鎧の擦れる音が、ガヘリスの眼前。

 

「じゃかましわァ!!ワシァ今オンナと話しとんじゃ!!」

 

まるで軌道の見えぬ斬撃を、間一髪でかわす。

 

「くッ…」

 

「おるァあああ!!ランスロットォ!勝負だァ!!」

 

ガレスが猛烈な斬撃でインターセプトする。

 

「チッ…邪魔な。オンナん前で恥かかすなや、おォ!?」

 

騎士にあるまじき粗雑な前蹴りでガレスを蹴散らした。

 

「ハニー!今降ろしちゃる!」

 

2人の円卓級騎士を相手取る片手間で剣を振るうと、間合いの外にあるハズの縄が切断され、その延長線上の遥か彼方にある城壁に傷が刻まれた。

 

「ふぎゃっ…わっ!?」

 

王妃は受け身を取れずにそのまま落下するが、身体は地面に衝突せず受け止められた。

2人と戦っていたはずのランスロットは、そこにいた。

 

「そんな重装備でよくやるわ、マジで…!」

 

「ん~会いたかったわいハニー♥」

 

「私もよ、ダーリン♥」

 

2人だけの世界を展開しつつ、ガレスとガヘリスの猛攻を凌ぐ。

 

「小バエがうっとうしいのォ…ちょっち待っとってな。

す~ぐ片付けちゃるけのォ!!」

 

ランスロットは王妃を降ろし、初めて両手で剣を構えた。

瞬間、殺気が膨れ上がる。

 

「「!!」」

 

兄弟はとっさに構えるが、その脳裏には既に【死】が浮かび上がっていた。

 

「行くでぇ~……ッ?」

 

突如、殺気が巨体に遮られる。

 

「オイ。弟の喧嘩に首突っ込むんかい。情けねぇのぉ」

 

「兄貴…」「兄上!」

 

ガウェインだった。

 

「弟どもより歯応えのある敵を用意してやる。来い」

 

〈つづく〉

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