異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第33話 陰謀と現実

傭兵ギルドに属しながらも、密かに犯罪組織と繋がる堕落者ドニ。

しかしあるきっかけから次々と組織が潰されていく。

このまま連日の逮捕が続けば、いつか自分まで手が及ぶだろう。

そう恐れていた彼は、連合軍元帥との世間話で聞いた【悩みを解決するおまじない】を戯れに唱える。

 

そして…驚くべき事に、そのまじないを唱えた途端、虚空から声がしたのだ。

 

「聞こえますか。私はあなたを救う者。天啓です」

 

女の声。その源を必死に探すが、誰もいない。

 

「信じずともよい。ですが、あなたには助けが要るはず」

 

都市伝説的に語られる言葉や行為は、時に本物の効力を持っている事は稀にある。

これもその類だったか…しかしドニに考察する時間は無い。

 

「…あ、ああ。そうだ!

助けてくれ!」

 

「私は何もしない。ただ必ず上手く行く方法を教える。

それをあなたがするのです」

 

「お、俺の悩みは…」

 

何らかの魔術を用いた囮捜査の可能性を恐れ、口にするのをためらう。

彼の邸宅にはある程度の魔術防壁が張ってはあるが、それをすり抜ける術などいくらでもある。

所詮、魔術に対する根本的な対抗策などありはしないのだ。

 

「いいです。知ってます。

…あなたは、明かされたくない黒い繋がりを持っている。

それを消し去りたいのでは?」

 

「む…!」

 

その事実は自分以外知らないはず…などとは思い上がっている訳ではない。

ドニを怪しいと決めてかかって調べ続ければ、バレる事もありうる。

だがそれはそれで【詰み】だ。

 

神であろうと人間であろうと、魔族であろうとも関係ない。

ドニの黒い繋がりを知る以上は、その者に従うしかないのだ。

 

「…どうしろと、言うんだ」

 

「やり方を教えます。

どんなものであろうと、忠実にやり遂げる覚悟はありますか?」

 

「あ、ああ…どの道、このままじゃ終わりだからな。

それに、絶対上手く行く方法なんだろう?」

 

「そうです。かなり危ない橋を渡る事にもなりますが…堂々としていなさい。

絶対に捕まる事はないのですから。

さぁ、これから私の言う通りに…」

 

果たしてドニは、その声の言う通りにした。

 

 

 

 

猛火によって燃え上がる捜査課を、火傷顔の男が後にする。

 

「ハ、ハハハ…ハハハハハ」

 

乾いて震える笑い声は常軌を逸しており、明らかにこの怪事件への関連が疑われるが…それを見咎める者は誰もいない。

それどころではないからだ。

 

「だ、大丈夫ですかドニさん!?」

 

「ん?…あ、ああ。すまんね、茫然としてしまって…」

 

「下手人は?部屋に残ってた他の捜査官は!?」

 

「敵は窓から飛び込んできて自爆したよ。

みんな完全にバラバラだ…私も彼らのようになっていたかもしれん」

 

「そ、そうですか…」

 

職員の1人はガックリと俯き、ドニの手を引く。

 

「ともかく、こちらへ。

まさかこのギルド本部を強襲してくるなんて…魔族め!」

 

傭兵街アスム・セルナは幾度となく魔族の襲撃を受けていたが、今回は様子が違っていた。

街の警備が最も手薄で、警戒が甘いタイミングを狙い澄ました空からの奇襲。

しかも街には一切手を出さず、ギルド本部だけを集中的に襲っている。

 

「しかし、窓からだと?

…あの、ドニさん。敵襲が鳴ると同時にシャッターが閉まるはずでは?」

 

「いや。私もよく把握はしていない。

捜査課のオフィスを訪ねたばかりだったのでな。

ただ…シャッターが閉まり切っていないように見えた」

 

「誤作動、か…?

ともあれ消火が先か!でないと資料が全部…うわッ!?」

 

捜査課を覆う炎を裂いて、魔族たちが強襲してくる。

 

「皆さん逃げて!我々が対応します!!」

 

警備の兵たちがすかさず駆け付け、応戦する。

ドニら非戦闘員は、速やかに奥へと逃げていく…

 

 

 

 

「見たか?いや実際、見事な炎だったな!ハハハ!!」

 

ドニは邸宅の自室で、さも愉快そうに語り掛ける。

誰の姿も見えない虚空に向かって。

 

「そうでしょう。ただ人の少ない時間に爆弾を置き、その場を離れるだけ。

目撃者がいても全員死に、下手人は分からない」

 

だが確かに、女の声が返ってくる。

 

「そして手駒の組織を通して魔族に情報を流し、本部を襲撃させる。

これが同時に発生すれば、まぁ犯人は魔族という事になるでしょうね」

 

「しかし、そう上手く行くだろうか」

 

「行くでしょう、間違いなく。

何か大きな事実を誤魔化す時は、シンプルで過激なくらいのやり方で丁度良い。

…で、あなたが繋がっている連中は?」

 

「身を隠せ、と言っておいた。

しばらくは捜査どころではないだろうな!」

 

「それは重畳。では、次の作戦ですが…」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

ドニは火傷で質感均一になった肌を引き攣らせ、笑う。

 

「目的は完了した。もうする事は無いぞ」

 

「いいえ。あなたは今マイナスからゼロに持ち直しただけ。

ここからが本当の願いでしょう?」

 

「な、何を…」

 

「戦争の終結は、あなたにとっても不利益となる。

決着を付けさせる訳にはいかない」

 

彼は企画課の職員として、多くの作戦を立案してきた。

その中には、ある一部の人間にとって都合の良いものがいくつもあった。

そういうやり方で便宜を図る事で、彼は不正な利益を上げてきたのだ。

 

「そうですね、例えば…ホイス司教との協定。

教会勢力が味方に付かなかったら、彼らは困るでしょうね」

 

「…あぁ、そういう事か。ハ、ハハハ…」

 

「ご理解いただけましたか」

 

「ああ分かったよ!アンタ、魔族か!

どうやってるかは知らんがこうして俺に接触し、スパイ役をやらせたいんだな!?

俺の弱みを握り、飴もくれてやって、信用してきたらいよいよ内通させるって訳だ!」

 

顔が見えていなくても『呆れている』とハッキリ分かる、大きなため息が返ってきた。

 

「違います。

違いますし、そうだったとして何か問題が?」

 

「なっ…はぁ?あるだろう問題は!

俺は傭兵ギルドの幹部で…」

 

「その幹部がした事は?

犯罪組織に加担し、魔族を呼び、施設を爆破する。

これ、立派なスパイ行為でしょう」

 

「しかし、それは……そうだが……」

 

「安心しなさい、あなたの利益と安全は保証しましょう。

まずは、ホイス司教を始末してしまいましょうか」

 

「し、始末!?殺すのか!?」

 

「そうですよ。それが終わったら実行犯に全て被ってもらいます。

そして死体にします」

 

「な、何人殺す気だ!?

そんな事を続けていたらいずれ…」

 

「ここは坂道。上り続けなければ落ちるだけですよ。

今まで楽をしすぎていたとお考えなさい」

 

「だ、だが…だが…」

 

必死に反論を紡ごうと頭を働かせる。

今や『無視する』という選択肢は消えていた。

 

「そ、そうだ!

あのホイス司教だぞ、警備厳重なアーバレス大聖堂だぞ!!

そこを突破できるような殺し屋が…」

 

そこまで言って、最近集まり始めている各地の名高い傭兵を思い出す。

ドニが傭兵をしていた頃には聞いた事も無かった、今までどこに居たのかと思いたくなる強者たち。

 

「…い、居たとして。

そんな奴を嵌められる訳がないだろう!?」

 

「なるほど、それはもっともな疑問です」

 

「だ、だろう?だから一旦待って…」

 

「ですが既にちょうどいい刺客を選定済みです。

…では、やり方を教えましょう」

 

 

 

 

 

キルエはギルド支部の待合室で1人掌を見つめ、吐き出した血を思い起こす。

 

(呪い…か。まさかこんな産廃だとは思ってなかったな)

 

彼の肉体は、【命を殺す法】を正しく使わなかった事により副作用を受けていた。

限界を超えて稼働し続ける肉体と、体内に蓄積する呪い。

 

(ともかく、これ以上はあの術を使えない。

戦う系の任務は全部受けないようにして、それから…)

 

しかしままならないのは、金。

 

(戦わない任務となると、当然大がかりな呪いや道具を使う場面が多くなる。

…これがまた金掛かるんだわ、いやホント。

どんな秘術だって、どんな道具の作り方だって、俺の秘伝書には書いてある。

だけどそれを使うには、多くの貴重な材料や手間暇が掛かる訳だ)

 

時には他人を雇い入れ、あれこれ道具やモニュメントを作らせる必要があるのだ。

そうして達成した任務で得られる額は、消費した金に釣り合わない時の方が多い。

 

(やっぱ戦う任務が一番金入ってくるしな。

今はまだ蓄えがあるが、ずっと戦わずに赤字を吐き出し続ければ…)

 

気が重くなる。

前世の彼に、『生まれ変わったらファンタジーの世界で傭兵になる』と伝えたらどうなるだろう。

こんな世知辛い苦境を想像できたとは思えない。

 

(結局どこでも金、金、金か…俺みたいなボンクラにゃ厳しすぎる世の中だ。

一発ドカンと稼いどかねぇと、腰落ち着けて考える事もできやしねぇ…)

 

「ちょっと、あの…いいですか?」

 

「え?…あ」

 

以前何度か世話になったギルドの受付嬢だった。

 

「あれ?ここの支部じゃなかったような…」

 

「奇遇ですね!転属があるんですよ、支部の職員は。

それより、大事なお話です!ちょっと…」

 

手招きされ、近づいていく。

 

「な、なんです?」

 

「大きな声では言えませんが、何やら重要な任務のオファーです。

ギルドの重役があなたを…【忌み屋】キルエをお呼びです。

カウンターに入っていいですから、奥の部屋までお越しください」

 

「…ほう?」

 

 

 

 

「いやぁ、悪いねわざわざ!」

 

重役の男は、厳めしい火傷面の割ににこやかだった。

 

「ええと、キミが【忌み屋】キルエかな?

あのジェト族の戦士と聞くが…」

 

「ええ、それ俺ですね」

 

「そうかそうか、間違いはないようだ。

私は企画部のドニだ。よろしく」

 

差し出された手を、キルエは何も分からぬまま握る。

 

「…忙しなくて申し訳ないが、さっそく本題に入らせてもらおう。

急を要する任務で、なおかつ誰にも知られる訳にはいかないのだよ」

 

「はぁ…それはいったい…?」

 

ドニは水を飲み、息を整えた。

何かを覚悟したかのように。

 

「ホイス司教の暗殺、だ」

 

「暗殺。司教の…うん?人間の、ですか?」

 

「そうだ、そうなのだよ!

しかも公的には犯罪者として扱われている訳でもない!」

 

「え…ギルドが、それをやるんですか?

いいんですかそういうの?」

 

「良くはない。だがやむを得ぬ事なのだ。

全ては人類の勝利のため、あの悪徳司教を排さねばならない!」

 

「えっと、犯罪者扱いじゃないって事は、証拠はないんですよね?

だって証拠あったら捕まえればいいだけだし」

 

ドニは苦々しく頷いた。

 

「握りつぶされるのだ。ことごとくな。

しかも魔族と本格的にコトを構え始めた今、教会勢力との敵対は避けたい」

 

「うぅ~ん…どうにもよく分かりませんねぇ」

 

「無論、報酬は出す。相当の額をな」

 

「いやいや、報酬の問題じゃ…」

 

「3000万バルケーだ。満額を、小切手でも現金でも望みの形で出そう!」

 

「えっ???」

 

キルエの脳内に、金貨が飛び跳ねる甲高い音が響いた。

 

「さ、さんぜんまん…?」

 

「そうだ。危険かつ重大な任務だ。

我々に出来るのは、誠意を見せる事だけ…!」

 

「い、いやいや。いくらギルドの頼みとはいえ、こんな不確かな任務…」

 

「これが先払いの1500万だ」

 

ドニの合図とともに、うずたかく積まれた金貨が運ばれてくる。

 

「あ、あわわわわ…」

 

「どうする。箱がいるなら用意させるが。小切手の方がいいかね?

ああそれとも、宝飾品の形で贈与しようか」

 

「あ、だったら宝石とかで……じゃなくて!

まだ信用できないと言っ…」

 

少年の小さな手を包み込むように握る。

 

「頼む!頼れるのは今やキミしかいないんだ!

世界最高の傭兵、魔族を滅ぼす大英雄たり得るキミしか!」

 

歯の浮くような煽てっぷりは、この案件の後ろ暗さをそこはかとなく感じさせる。

…させる、が。

 

「え…いや、それほどでも、ないですけど」

 

彼はその煽てに弱すぎた。

前世でも、生まれ変わってからも、誰1人として彼の存在を望んだ者は居なかった。

ちゃんとした大人に頼りにされるという状況に慣れていないのだ。

 

「偉大なる戦士にして呪術師よ。

キミの…いえ、あなたの力をお借りしたい!!」

 

「へぇ。…まぁ、いいですけど?」

 

「おお…おお!あなたこそが救世主だ!

ありがとう…本当にありがとう…!!」

 

「じゃ、前料金は宝飾品にして用意してください。

それ持って帰りますから」

 

「ああ、すぐ準備させよう!

それから、成功した場合や緊急事態の時は、ここに書かれた場所へ」

 

「ここじゃないんですね。分かりました」

 

 

 

 

「帰りましたね」

 

「ああ、しかし驚いたぞ。

いくら子供とはいえ、あんな口車に乗るとはなァ」

 

「ええ、それでいて戦力としては充分。まさにうってつけのカモ。

もっとも、彼には任務を『程よく失敗』してもらいますが」

 

「…フン、お前の話を聞いて始めは正直ビビったが。

なんのことは無い、ホイス司教に脅しを掛けるってだけだ」

 

「そうです。彼の戦闘スタイルはかなり残虐なようですし。

ホイス司教は恐れおののくでしょうね、自分の命が狙われたら。

そこで『魔族と戦おうとしたから狙われた』なんて噂を流せば…」

 

「臆病者の司教は協定など結ぶ訳がない。

…そうなれば完璧だが」

 

「なります。これは運命ですから」

 

「あの小僧の失敗も、か?

本当に妨害しなくていいのか?」

 

「ええ。…自ずとそうなるでしょう。

あなたはただ待っていればいい」

 

女の声は、確信めいてそう告げた。

 

〈つづく〉

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