異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第36話 窮地

ギルドの極秘依頼としてホイス司教の暗殺を依頼されたキルエ。

しかしキルエは嵌められており、依頼人に命を狙われる。

…が、それすらも巨大な陰謀の一部でしかなく、依頼人は葬られ、謎の敵に追跡・襲撃を受ける事となった。

 

この窮地において更に呪いの副作用が発症、その隙を狩られ左目を失う。

痛みから本能的な怒りに駆られ、ついにあの術を使ってしまう…。

 

「『第一の死者よ』ッ!!」

 

髑髏の仮面が顔を覆い、赤黒い呪いが民族的装束に変化する。

 

「『汝、天上に赦しを求むる事勿れ、地下に安らぎを望む事勿れ』ッ!」

 

背後の敵を投げ飛ばし、顔面を踏み抜く。

 

「『ただその罪科を以て慰めとし、ここに刻印を授けよう』ッ!」

 

ナイフを奪い取り、剣使いの脚を突き刺す。

 

こっそり粘土爆弾を取り出して剣使いの懐に投げ込み、群れの方へと蹴り飛ばす。

起爆猶予はデフォルトで3秒に設定してある。

 

「『我が名の下に、あらゆる悪徳は是認される』!!」

 

凄まじい爆発が生じ、2、3人まとめてバラバラに吹き飛ぶ。

 

「…『聖なるかな、死よ(オル・ドルグ・モーラ)』。

呪いなんざ知るか…全員殺す!!」

 

既にキルエは【命を殺す法】の副作用によって肉体を侵されている。

その上で再び発動したなら、その悪影響は計り知れない。

 

「ごふッ、げぼッ!!

どうしたゴミ共。ほら来い」

 

血反吐を吐き捨て、ナイフを構える。

鞭使いが巧妙に間合いを取りつつ繰り出した鞭を、驚異的な動体視力で捉え、先端を踏みつけた。

 

「ほ~れ、こっちゃ来~い」

 

そのまま鞭を掴んで引き寄せると、敵は鞭を捨て左側に…奪われた左目の死角に回ってくる。

が、それはキルエも予想済みだ。

 

「左目奪ったから左に行きますって?

単純すぎんだろ、なぁ!?」

 

脇腹に繰り返しナイフを突き刺し、押し倒して喉を裂く。

噴き出た血を浴びると、全身に力が溢れるようだった。

 

(これは…森で生きてた時の感じだ。

俺と血だけがある。これだ。これだよ。

色々余計な事を考えすぎた。邪魔なら殺す。それだけで良かったんだ)

 

彼は10歳になるかならぬかの頃、森へと捨てられた。

それからずっと、ただ1人で生きてきた。

頼る者も、救う者もいない。

 

(ま、そりゃ前世からそうだったけど。

ったく…人生2回分しくじってようやく気付くか、俺もつくづく無能極まるわ。

人から褒めてもらおうってのが良くなかったな)

 

キルエは始めから他人などどうでもよかったのに、中途半端に期待してしまっていた。

 

(とにかく、ムカついたからコイツら殺してスッキリしよう。

気取った仮面なんぞ着けやがって…)

 

表情の無い白い仮面を外す。

 

「おおっ…?」

 

そこにあったのは、老いて皺まみれの顔。

体格は確かに小柄だったが、それにしても老人という感じではなかったので、キルエは混乱する。

 

それに何より…

 

(肌も、目も、髪も…俺っぽいな。

つうか…ジェト族っぽい感じ?)

 

褐色の皮膚、赤い目、灰色の髪。

年老いているため、キルエが看取ったあの老婆を思い起こさせる雰囲気がある。

 

「……ぐがッ!?」

 

考えている暇も無く、背後からワイヤー使いが襲い来る。

 

「今考えてる途中でしょ…邪魔すんなや…!!」

 

術によって強化された肉体は絞殺攻撃にも抗えるパワーがあったが、無茶をするだけ負荷も蓄積していく。

 

「離せ、離せッ…………!!?」

 

何か危険な予感。

全力で押しのけ、その場から這うように逃げる。

一瞬後、天空から光の柱が降り立ち、ワイヤー使いを消滅させた。

そこに残るは仮面、装束、ワイヤーのみ。

 

「あっぶね!あっぶねぇ!!」

 

「あら。後ちょっとだったのに惜しい。

しかしアレですね。しょせんは試験段階の産物。

あっという間に全滅してしまいました」

 

光を降らせたと思しき、シスターめいた法衣の女。

目は細く、常に笑っているかのような印象がある。

両手は祈るように組まれ、頭上には円環が輝いていた。

 

(はっ、まるで天使気取りかい。

しかしこの光、どっかで見たか…?)

 

「上手く行かなかった、というのも貴重な試験結果だ。

それでこそ改良の余地もあるだろう」

 

インテリ風の、金髪眼鏡男。

ラフな白シャツの襟を立て、どこか所作もキザったらしい。

 

「ジェト族なんだろ?だったらコレで終わりではなかろうが。

…立てよ。あの時のように楽しませてくれ」

 

巨体全てが筋肉で鎧われた男。

半ば裸体を晒したその姿は、神話の英雄めいている。

 

「え、と。ごほっ。がはッ、かはッ。

どちら様、ですかね?」

 

「一応同じ場所にいたんですよ、私。

ほら、シグレの教会で。まぁ顔は合わせてないですが」

 

「……誰だ、と聞いたんですよ。

頭が悪いのなら無理に返事しなくて結構です」

 

女は虚ろな笑みを更に深めた。

 

「【薔薇の猟兵隊】、エンディミカ・シュオン」

 

「同じく、二ーヴル・ガーガップ」

 

「我が名はアルキュオード。

見せてみろ、お前の力」

 

個性も能力も多様なこの3人が、自分1人を殺す為に送り込まれた。

キルエはまるで自分が突然物語に組み込まれた気分になった。

 

(今更主人公にされても、ねぇ。

どうせなら『寝てたら自動的に大金が入りました、めでたしめでたし』くらいのストーリーが良いんだがね)

 

「光よ、救いたまえ」

 

とっさに飛び退くと、さきほどより太い光がそこに降った。

 

「ちょ、ちょっと待ちましょうよ…!」

 

眼鏡男が鼻を鳴らし、蔑むように手を振った。

 

「待たない」

 

雨粒が一瞬にして凍り、波となって押し寄せる。

当たれば串刺しか氷漬け。いずれも即死に変わりない。

 

「ですから、こういうのやめましょ…」

 

氷を突き破り、巨体が迫る。

 

(速度はまぁまぁ…でも…!)

 

振り下ろした拳が落雷のような轟音を立て、クレーターを生む。

 

(どうせ全部即死攻撃だ、気にする必要もねぇ。

戦ったら負ける!)

 

強化された脚力を逃走に回す。

もはや無駄にできるだけの体力は一切ない。

 

「っあぁ…は。ぁはっ、ぅえ゛…」

 

雨が容赦なく、死にかけの身体から体力を奪っていく。

 

(呼吸が出来ねぇ。喉の辺りで血が詰まってやがる…)

 

懐には小さな翡翠色の魔法石が3つ。

奪ったナイフとワイヤーが1つずつ。

 

「…く、ああ!『汝の名は放浪者、翠の風を編み上げ、肉削ぐ刃とせん』!」

 

石を惜しみなく握り砕き、発生した魔法の風を刃として放つ。

 

「なんだ、つまらない魔法だな」

 

眼鏡男のニーヴルが指を鳴らすと、雨が氷結し壁となった。

 

「逃げながら倒せるとでも思っているのかい?

彼らみたいに足を止めて立ち向かってきなよ」

 

「…?」

 

ニーヴルの頭上で無数の雨粒が凍り付き、槍となって射出された。

 

「う、おォ!」

 

逃げた先の上空で光の円が輝き、柱となって降り落ちる。

 

「ク、クソ…はぁっ」

 

髪の一部が掠り、塵に還る。

そこで不意に思い出す。

 

(光の柱と…氷の槍?あれ、どっかで…)

 

焼ける村。上がる悲鳴。年寄りから子供まで、全員武器を取り戦士として死んでいった。

 

(……あっ!!ジェト族の村襲ったのコイツらか!!)

 

そう。彼を追い出し森に住まわせた部族は、村ごと彼ら【薔薇の猟兵隊】に滅ぼされたのだ。

 

「はァッ!!」

 

ズズン、と地面が揺れる。

前を向くと大木が道を塞いでいた。

大男の仕業らしかった。

 

「逃走は無意味だ。分かったか?」

 

「……村」

 

「なんだ?」

 

「村を焼いたのは、お前らか」

 

その言葉で、眼鏡の男が嗤う。

 

「ああそうか、気付いていないから逃げていたのか!

だったら最初から言うべきだったな。

…ジェト族を滅ぼしたのは、僕たち【薔薇の猟兵隊】だ」

 

「……!」

 

「許せないだろう?

だったら逃げずにかかってきなよ。…世界最強の戦闘民族なんだろう!?」

 

キルエは憤怒していた。

 

(んなのどうでもいいから人を巻き込まずにやってろや!!)

 

渦巻く陰謀、一族の因縁、過去の復讐。

キルエにとっては全て無価値なゴミでしかない。

そんなつまらない事で将来設計を崩されたかと思うと、怒りを通り越して吐き気すら催してくる。

 

(殺す…殺す!!絶対に殺す!!)

 

眼前の男の眼鏡を叩き割り、眼窩にねじ込んで脳を掻き回す想像をした。

だが力が抜け、息も出来ない。

そして髑髏の仮面が砕けた。

 

(クソが…ッ!!)

 

もはや抵抗は出来ない。回避も出来ない。

トドメを刺すまでもなく、呪いの負荷が限界に達し…

 

「…おい」

 

巨漢アルキュオードが呟く。

 

「おっと!時間切れみたいだね。

残念、意欲はあっても体力が足りなかったようだね」

 

「おい聞け!…なんだこの霧は」

 

「うん?なんだ、この雨なら別におかしくも…」

 

言っている間にも、漂う霧はどんどんと濃くなっていく。

 

「さすがにおかしい…ですね」

 

「へぇ…いったい何をしたんだい、キミ?」

 

「聞いている場合は無さそうだ。

霧の範囲から出るぞ。相当ヤバい霧だ、俺には分かる」

 

アルキュオードは1人でさっさとその場を後にした。

 

「チッ、お前の勘なら当たるんだろうが、にわかに信じられんな。

…キミ、大したものじゃないか。これほどまで大規模な術を使えるとは。

まぁいい。どうせ逃げる場所など無いんだからね」

 

ニーヴルも霧の向こうへ消える。

 

「なるほど、もう少し楽しめるのですね。

では、今の内に出来るだけ遠くへ逃げるがいいでしょう。

でなければすぐに追い付いてしまいますから」

 

エンディミカも去り、今にも息絶えそうな少年だけが残された。

 

(…???)

 

助かったのかどうかすら、彼には分からない。

徐々に意識が失われていき…闇に溶けた。

 

 

 

 

「う、あ…」

 

軋む肉体。その痛みで目が覚める。

 

「お?…おお?」

 

上体を起こし、周囲を見回す。

岩壁に囲まれた小さな空間。

 

(洞窟か?いや、なんか生活感あるような…)

 

床には用途すら分からない道具が散乱しており、キルエを寝かせてあるベッドも簡易的なものではない。

 

「おお、目が覚めたかや」

 

「…っ!?」

 

後ろから覗き込むように、顔が落ちてくる。

慌てて起き上がって振り向くと、そこに立っていたのは少女だった。

12、3歳のキルエよりなお幼い。

 

「傷は治してやったとはいえ、復帰が早いのぉ。

若いっちゅうんはええのう」

 

(…誰?)

 

痛みに加え、酷い気だるさで思考が上手くまとまらない。

 

「あの…」

 

「なんじゃい」

 

異様な少女だった。

極めて深く、なおかつ灰がかった黒い肌。

長い髪も睫毛も眉毛も、ギラギラと黄金のように輝いている。

 

…それでいて、汚らしい。

痩せこけた肢体も、纏っているぼろ布のような衣服も、薄っすら黄ばんだ歯も、浮浪者めいていた。

 

「見た目に反してお年を召してるタイプの…アレですか」

 

「いきなり歳の話かい!乙女じゃぞワシは!」

 

「す、すいませんつい!

ええと…で、誰ですか」

 

「そうそう、まずはそこからじゃろ!

…ワシはなぁ、貴様の救い主じゃ!ありがたかろう?」

 

そう言って少女はニンマリ笑う。

歯は全面的に黄ばんでいるようだった。

 

〈つづく〉

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