異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第2話 見つけた居場所

「よう、キルエ」

 

「あーどうも、おはようっす!」

 

「昨日は助かった。おかげですっかり良くなったよ」

 

「いえいえ。身体にまた不調があったら言ってください」

 

「ああ。俺の仲間も早く治してやってくれ、頼むぜ」

 

あれから4日。俺は城内の兵士たちから信頼を掴み取っていた。

 

(あ~ちゃんとした大人から頼られるの気持っち()ぇ~!!)

 

前の俺じゃ考えられない。

ガキの頃は誰にも必要とされた事が無かったし、自分が成人してからは定職に就いている『ちゃんとした大人』に対して劣等感を抱くばかりの人生だった。

 

しかし今は、王国とやらに仕える正式な軍人たちに頼られている。

それが気分良くてたまらない。

 

「キルエ。今日の分だ、またキミの力を借りたい。

地下牢に入れてあるから、治しておいてくれないか」

 

「はい、ただいま参りますよっと」

 

この責任者っぽい中隊長のおっさんからはまだ完全に信用されていないが、むしろその【ビジネスの距離感】がプロっぽくて良い感じだ。

 

「その巻物、やっぱり読ませてはくれんのか~?」

 

「ダメで~す、これはうちの秘伝書なんで~!」

 

軍医のおっさんはいつも馴れ馴れしいけど、儀式に必要な道具や供物を都合してくれる。

呪術に詳しいおかげで、色々面倒…というか自分でも良く分からない部分の説明を代わりにやってくれる。

 

…うん。正直職場としては最高では?

地下牢住まいは変わらないが、兵士たちがベッドを運んできてくれた。

城外への出入りも監視付きなら自由で、外の風にも当たれる。

捧げ物の分も含め、食料も優先的に配給される。

 

(これが俺の天職だったのか…!

実際どうするかはともかくとして、ここで活躍すれば正式に働ける可能性もある!)

 

前世でも至れなかった【正社員】という地位。

それが今、こんなにもあっさりと手に入ろうとしている。

 

「さて、これで解呪は完了しましたよ」

 

「ああ…気が狂いそうだったんだ、助かった…!

アンタは恩人だぜ!!」

 

「それは何より。じゃあ僕はこれで…あっ。

そう言えば…」

 

「なんだ?」

 

「そもそも皆さんはどこと戦ってるんです?」

 

生活が安定し始めたからといって、油断してはいけない。

今の状況を正確に把握しておかないとな。

 

…今までの俺だったら考えもしなかっただろうな、そんな事。

やっぱモチベーションってデカいわ。

 

「どこって…魔族に決まってんだろ?」

 

「はあ、魔族。なんかアレすか、魔王がいて世界征服してやるぜ~的な?」

 

「なんだお前、魔族の事知らないのに魔皇の事は知ってんのか?

別に魔皇の目的なんて知らねぇけど」

 

「いわゆる悪の魔王はいるんすね。

でも戦う理由には関係ないと」

 

「…お前、本当に知らねぇのか?

魔皇は城から出てこないらしいけどな、魔族たちに力を分け与えてやがるのよ。

で、いきり立ったソイツらが人間の領域を侵略しようとしてる訳だ」

 

想像より複雑な状況らしい。

しかしどうせ俺には関係のない事、【魔族は敵】と覚えておけばいい。

 

「ま、そうは言っても俺たちみたいな一兵士には何も分からん。

今の話も全部聞きかじっただけだしな」

 

「あはは、俺なんて森の奥に籠ってたから知らない事ばっかですよ。

…あっ、神様に捧げ物しないと!

すいません、教えていただいて助かりました!じゃ!」

 

いちいち術を使うたびに手間が掛かって仕方ない。

面倒だが、呪い殺されてはたまらない。

 

それに、今となっては食料庫へ行くのに監視は付かなくなっていた。

 

「お。これは…?」

 

食料庫には酒も多く置いているが、基本は樽詰めだ。

だが今俺の目の前にあるのは、瓶に入った明らかに高そうな酒だった。

 

(ふむ…)

 

ちょいと悪戯をしてやろうか。

…いやいや、余計な事とかじゃなくてね、念のためよ?念のため!

 

「こういうのにちょうどいい術が確か…あったあった」

 

術を使うのにも慣れてきた。

威力の高い術こそ使った事はないけど、どうせ使い道も無いし。

そもそも戦いたくないんだよ、俺。

 

「へへへ…上手くいったかな」

 

「おい、何してる?」

 

「ひょへっ!!?」

 

アルディ中隊長だった。

 

「あ、あのあの、た、高そうなお酒があるな~と思って…」

 

「ああ、あるな。大きな戦いに勝ったり、特にめでたい時に飲む酒が!

それがどうかしたか?」

 

「ちょ、ちょっと気になって見てみただけです!

俺お酒飲めないし…」

 

「……ハァ」

 

溜息をつくだけで済ませてくれたようだ。

信用され始めてる、と思っていいのかな。

 

「そもそも、監視の兵士は何をしているんだ」

 

「あっ、兵士の方を責めないでください!

俺が無理を言ったんです!」

 

「…キルエくん」

 

「は、はい!」

 

「私も正直、キミを疑うのは無駄だと思い始めてはいる」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「だが、決まりは決まりだ。次からは気を付けてくれ」

 

「も、もちろんですっ!」

 

へへへ、ちょろいぜ。

 

「ああ…そうだ、気になっていたんだが」

 

「はい?」

 

「キミは、他人に呪いを掛ける事はできるのか?」

 

「あー、なんか出来るっぽいっすよ。

呪印を付与して色々やる奴とか、相手の脳を…」

 

そこまで言って、我に返る。

…俺、戦闘要員にされようとしてない?

ヤバいヤバいヤバい!なんとか言い訳を……そうだ!

 

「あの、期待にお応えしたいのは山々なのですが、呪いは使いたくないんです。

一応、我が部族に伝わる秘伝の術ですから。

たとえ魔性の者が相手だとしても、戦の道具にする事はしたくないのです」

 

「……」

 

ど、どうよ?

 

「…無礼な問いだった、許してくれ」

 

っしゃオラァアアア!!セェェェフ!!

 

「ところで」

 

「え?」

 

「キミはその歳にしては、かなり鍛えているようだ。

まるで獣のようにしなやかな筋肉を持っている」

 

今度はそっち方面から来んのかい!

 

「は、はぁ…狩猟で生きてきたので。

でもあの、人とは戦えないっす!」

 

「そうか。それからもう1つ、キミは森の奥から来たと言っていたね?」

 

クソッ、なんだよしつけーな!

 

「思い出したんだよ、この辺りの森は『死神の胃袋』と呼ばれる超危険地帯。

人が住めるような場所じゃない。

…ただ、ある伝説によれば、その奥には謎に包まれた戦闘民族が住んでいるという」

 

そ、そんな有名なのかよ、うちの部族!

 

「えっと、あっと…俺落ちこぼれで!

森から追い出されてきたんですよ!」

 

「…その戦闘民族である事は否定しないのだな」

 

やべっ、早まった!

 

「あっ、もう地下牢に戻りますね!失礼しまーす!」

 

俺は足早にその場を去って、牢のベッドに飛び込んだ。

 

(余計な事に気づきやがって…せっかくいい感じの職場を手に入れたと思ったのに。

信用されるのは良いけど、戦場にまで出張らされたらたまんねーっての)

 

今なら逃げる事もできる。

兵士たちが知っているかは定かでないが、この地下には隠し通路があった。

地下への入り口がボロすぎていつ生き埋めになるか心配だったので、ちょっと【隠された道を探す法】で調べていて気付いたのだ。

 

(いや、例の悪戯もあるし、まだ様子見でも大丈夫か…?)

 

 

 

 

「中隊長殿。貴方らしくもなく早まりましたね」

 

副官が、嘲るでもなくむしろ穏やかな口調で言った。

 

「ああ。伝説なんぞに縋って、年端も行かん子供を戦場に出そうとした愚かな男を嗤え」

 

「戦闘民族…ですか。笑えませんよ、その伝説も、貴方のことも。

もしそんな戦力があるのなら、私とて頼りたくもなる」

 

人間と魔族の戦力差は、それほどまでに絶望的だった。

人は徒党を組んで初めて魔族に対抗しうる。

だがそれすら、騎士(ナイト)級や貴族(ノーブル)級と呼ばれる高位の魔族が1人現れるだけで、容易に崩れるバランスでしかないのだ。

 

「慰めてくれるな。

だが魔族は強い。情緒も慈悲も持たない、知能が高い獣のようなものだ」

 

しかも今アルディ中隊が戦っているのは、その貴族の中でも次期七王と名高い【呪殺伯】バザルド。

そしてその部下である騎士【斬殺卿】ガルミラ。

…生きて退却できただけ、彼らは優秀であると言えた。

 

(ここが正念場だ。ここを耐え抜けば、援軍が来る。

援軍のミデアス中隊には、魔族とやり合える戦士がいる!

そこまで行けば、バザルド相手でも拮抗できるハズだ)

 

そのためにも、今はなんとか持ちこたえねばならないのだ。

 

「彼が呪いを解いてくれたおかげで、動ける人員も増えた。

それだけでも僥倖と思うべきだな」

 

「ええ。彼も『同じ術は1日1回』とかいう制約をかいくぐって、色々な術で解呪してくれているようですし。

今あるもので何とかしていくしかありません」

 

アルディは自戒の念を強めつつ、覚悟を新たにした―

 

「…?」

 

その時だった。

廃城全体を強い震動が襲ったのは。

 

「くっ!?…中隊長殿!」

 

「敵襲だ!こんな時に…っ!

巨獣槍の準備を…」

 

窓からわずかに顔を出し、外の様子を見る。

物見台が、()()()()()いた。

 

「なっ…!?」

 

爆発。

副官は爆煙の中に消えた。

 

「ギャギャギャ!」

 

破壊された壁の穴から、翼が生えた魔物が飛び込んでくる。

 

「…このクズ共が!!」

 

アルディは剣の一撃で魔物を突き刺す。

 

「ウゲーェ!!」

 

瀕死の魔物は暴れて、アルディを蹴り倒した。

 

「くっ…足掻くな!!」

 

トドメを刺すが、蹴られた部分の鎧は歪み、肉体はズキズキと痛む。

 

(これでは戦にならん。やむを得ん!)

 

「総員、拠点から撤退!!他の者にも伝えろ!!」

 

「了解!!」

 

これが、人と魔族の差。

一度戦いになれば、基本性能で圧倒・蹂躙されるのみ。

 

「おやおや…逃げてしまうのかい?」

 

「っ!?」

 

指示を出すアルディの背後から、耳慣れない、しかし聞き覚えはある声。

 

「き、貴様は…」

 

黒いマントに黄金の肩鎧が映えた、壮麗な装束の男。

その巨大な双角と青黒い肌が無ければ、どこぞの貴人と間違えられそうなほど。

 

「バザルドォ…ッ!!」

 

「【呪殺伯】!【呪殺伯】バザルドだ!

諸君らのような雑草と同じにしてもらっては困る」

 

「なぜ貴族級である貴様が…!」

 

基本的に、高位の魔族は自ら動きたがらない。

だからこそ、人間の抗う余地があるとも言える。

 

「なるほど、弁えているじゃないか。

自分たちのような下等種のために、どうしてわざわざ高貴な御方が?と聞きたい訳だ。

その質問への答えは簡単だ…私は油断せん」

 

「ク…ソォ…ッ!」

 

アルディは自嘲した。

己が、魔族は皆人間を侮っていると高をくくった事。

その考えがあったからこそ、無理に長距離を移動せず籠城を選んだのだから。

 

「年寄り連中はどうにも腰が重いがな。

私は手間を惜しまん」

 

「おのれ!!」

 

「そう急くな。あれを見てみろ」

 

「な、何…ッ!」

 

全霊を振り絞った剣を片手で止められ、壁の穴から外を示される。

 

「あそこに居る者、分かるか?」

 

狂乱した獣のように剣を振り回す、青い甲冑。

城の壁を脚力のみで立体的に飛び回り、建物もろとも人体を紙屑のように斬り散らす。

 

(奴が物見台を破壊したのか…!)

 

「あれは我が友、【斬殺卿】ガルミラ。

相変わらず素晴らしい働きをしてくれる」

 

「友…だと?」

 

「…ククク。魔族は知能が高いだけの残虐な獣、とでも思っていた顔だな。

身分の違う者を友と呼ぶような情緒は無いと?」

 

「ぐぅ…ッ!」

 

「それこそ侮りであろうよ。

侮らぬ者が勝ち、侮った者が敗北する。戦の常よ」

 

アルディには、返す言葉が無かった。

 

(魔族との肉体的な差に囚われ、敵の本質を見失った…!

兵士たちを死に追いやったのは俺だ…!)

 

もはや大勢は決した。

アルディに出来る事は一つだけだった。

 

「貴様の言う通りだ。敗軍の将として、責務を果たそう」

 

剣を構え直す。

 

「どのみち人間を生かしておくつもりは無いんだろう?」

 

「当然な。図体ばかり大きいが美味くもない。

奴隷としても脆すぎるとあっては、使い道など無いからな」

 

「では時間を稼がせてもらう。

貴族級である貴様を足止めできれば、多くの兵の命を救える」

 

「結局はそうなるか。下らんな。

能力の差も理解できんらしい。

お前ごときでは足止めにもならんわ」

 

「ああ。1分か…いや10秒もつかどうか。

だが少しでも1秒でも長く持ちこたえれば、それだけ逃げられる兵も増えるというものだ!

―行くぞ!!」

 

最初から、相手の動きを見切るつもりは無い。

ただ自分の身体を壁にして、動きを遅らせる事に専念する捨て身の構え。

 

(たわ)け」

 

「がぎゅッ」

 

アルディは、目・鼻・口その他ありとあらゆる穴から血を噴き出して倒れた。

その肉体は急速に腐って行き、黒い汚汁となって石畳を流れていく。

 

「1秒持つと思っていたか?

最期まで侮りが抜けぬ男よ」

 

バザルドの天性の才、それは二つ名にも刻まれた【呪殺】。

彼が殺意の念を込めれば、それは死の呪いとなって敵を蝕む。

持って生まれた力ゆえ、幼い頃から呪いに興味を持っていた彼は、その才に溺れる事なく研鑽を積んで多くの呪いを我が物とした。

 

「それにしても、妙な…」

 

「バザルド様ァ!」

 

「…どうした」

 

「食料庫を見つけましたぜ、持って帰りやしょう!」

 

部下の野卑な口ぶりに、バザルドは鷹揚に頷いてみせた。

 

「お前たちで好きにせよ。だがその前に、人間を全て刈り取ってからだ」

 

「へへへッ、心得てまさぁ!

上等な酒もありましたんで、そいつぁ旦那が…」

 

「当然だな。封を開けた1杯目と2杯目は、私と我が友のものだ。

だが…残りはどこに捨てても構わんぞ?

胃袋にでもな」

 

「さっすがバザルド様は話が分かる!

そうと決まりゃたっぷり殺してこなくちゃあな!

働いた後の1杯は美味ぇからなァ~!」

 

喜び勇んで飛び去っていく。

 

(働きには報酬、裏切りには罰。

規範を徹底しつつ、その中では自由をくれてやる。

他人を使うとはこういう事よ)

 

彼は立ち振る舞いで部下の扱いを差別しない。

下品な者、愚鈍な者にも使い道があると知っているからだ。

 

(兵も友もよく暴れているようだが…存外粘っているな。

狂乱の呪いをばら撒いておいたから、少しは混乱しているかと思ったが。

…まぁいい、1人捕まえて聞けば済む事だ)

 

それから2時間後、ヴェント城は陥落した。

籠城していた第3師団・アルディ中隊203名は全滅。

3日後に到着したミデアス中隊は、他隊と合流してバザルド軍への大襲撃を計画したが、それが実行される事は無かった。

 

〈つづく〉

 

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