異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第38話 ジェトの始祖

引き延ばされた時を刻む精神空間。

眼前には、巨大なる妄執と殺意の具現。

不定形の呪いが、触手をもたげて少年を狙う。

 

「コレを屈服させろ」

 

師たる少女はそう言った。

 

「…コレを?」

 

流体的な表面に、苦悶の顔がボコボコと湧き上がっては弾けていく。

 

「そうじゃよ。このキモイのをな。

でないと貴様の身体は一生呪いに苛まれる事になるぞ」

 

「し、しかし…コレは数千年も積み重なった呪い…らしいですよ?

俺なんかにどうにかできるとは思えませんが…」

 

「まぁまぁ」

 

ウーシエは適当な相槌を打ちながら、キルエの胸元を指でなぞる。

 

「…あの?」

 

「勝たなくていい、屈服させよと言っとんじゃ。

今から術を伝授してやるから」

 

キルエの頭を両手で掴む。

 

「ぶちゅ」

 

「……んむももも!!?」

 

マウストゥマウスの、熱烈な接吻である!

 

「ぶはッ、な、何を…!?

いやもちろんありがたいですが!」

 

「だから、術を授けると言ったろ。

屈服させた魂を取り込む呪法をな」

 

「…魂を、取り込む?」

 

「そうじゃ。あの怨念を喰らい、己が力とせよ!」

 

「食べるんすかアレ!?」

 

グチャグチャ音を立てて這い、時に呻き声すら上げている、アレを。

 

「なぁ、貴様が恐れるのも無理はないが…こうは考えられんか。

まず、貴様にとってその呪いは何だ」

 

「何って…使ってた術の副作用でしょ。

邪魔で厄介なものですよ」

 

「ではその術は?貴様にとって何だ?」

 

「別に…道具ですよ。使いづらいけど」

 

「では!その道具が貴様に危害を加えてきたとすれば?

貴様はどう思う?」

 

「……それは、ムカつきますね」

 

先祖の怨念を、怒りの籠った目つきで睨みつける。

 

『呪わしい…生きた身体…』

 

『もっと、もっともっと殺したい…!』

 

『身体をよこせ…さぁ…さぁ…さぁ…!』

 

今やハッキリと言葉として聞こえる、先祖たちの言葉。

 

「…っせぇな、クソ使えねぇ術のくせに逆らいやがって…!」

 

「1つ聞くが。屈服させる方法は考えているのか?」

 

「決まってるでしょう」

 

伸びてきた触手の1つを引きちぎり、踏みにじる。

 

「ぶん殴って言う事聞かすんだよ…!!

道具風情がナメやがって…」

 

「ん、それで良い。

貴様には獣のような気性を感じる。

だのに、無駄な事を考えて鈍っておる!

理屈など終わってからひねり出せばよい。不快なら殺せばええんじゃ」

 

キルエはもう師匠の言葉を聞いていない。

 

『死を!破壊を!殺戮を!!』

 

「死んでんのはテメェらだろ、黙って従っとけゴミ共が!!」

 

赤黒い先端が押し寄せる。

その1つ1つを、草をむしるように無造作かつ執拗な手さばきで切断する。

そのたびに断末魔が響く。

 

「ズズズッ!グジュルルーッ!」

 

そして千切った塊を啜る。

 

(悪霊を分解しておる。

なるほど、1人ずつ屈服させて取り込む算段か。だが…)

 

「死に足りなきゃまた殺してやる!

逆らうな!従え!俺のために死ね!!」

 

『許すまじ…』

 

『滅ぶべし!』

 

恨む顔たちがだんだんとハッキリ浮かび上がるようになり、触手の動きも鋭くなっていく。

これを教わったばかりの動きで素早く確実に潰していく。

 

「ジュルッ!あァクソ不味ィなテメェらは!!

そろそろ諦めてくれませんかねェ!!」

 

『おのれ…小僧めが…!』

 

『血をよこせェ…!』

 

表面に浮かんだ顔が更に隆起し、人型の上半身を複数形成すると、赤黒い剣を振るって攻撃してくる。

決して闇雲に振り回している訳ではない。

死霊の動きは徐々に正確になりつつあった。

 

「チッ…グルルァアアア!無駄に抵抗してんじゃねぇよクズが!」

 

流体で作られた脆い身体を、素手で引きちぎっていく。

怨念は少しずつ削られ、ちょうど大人の男1人分ほどの体積になった。

 

「最後の1人じゃの」

 

その瞬間。

 

『オルァアアアアアッ!!』

 

「おごぉッ…!!?」

 

吹き飛ばされ、辛うじて受け身を取る。

 

「テメェ…いっちょ前に殴ってくれたなオイ」

 

『一丁前…か。ク、クク…それはこちらの台詞だ。我が末裔』

 

今までのうわ言めいた言葉の羅列ではない。会話をしている。

見れば、赤黒は1人の人型を作り上げていた。

 

「やれやれ、やはりこうなったか」

 

「あ?…師匠?」

 

獣の猛りを抑えながら、師に問う。

 

「よく知らんが、そやつは死霊の集合体なのじゃろ?

それを1つずつ剥いで吸収しようというのは、悪くない発想じゃ。

だが意識が少なくなればなるほど、個々の人格は明確になり、戦闘能力も上がる。

最後の1人にもなれば、人格はほとんど生前と変わらん」

 

『誰かは知らんが、よい説明だ。褒美を取らそうか』

 

「死霊がほざきよるわ」

 

その人型存在は流暢に語り始めた。

 

『おい小僧。俺はな、ジェト族の始祖…ドルグという者だ』

 

「つまり、あー…最初のジェト族…って事すか」

 

『ま、そういう事だ。そしてこの【命を殺す法】を作った者でもある。

全ては…いつの日か復活を遂げるために』

 

「…あぁ?」

 

その姿に顔面は存在しないが、明らかに愉悦に歪んでいるのがキルエにも分かった。

 

『この術の本来の名はな、【死滅転生(モーラ・ヴィジャ)】という。

ジェト族の族長にのみ代々密かに受け継がれてきた。

俺含め、多くの戦士たちが魂を仮面に封じた。

そして魂同士で相争い、勝ち残った者が新たな生を得るというシステムだ』

 

それは壺に毒虫を入れて争わせる呪術、【蠱毒】にも似ていた。

 

『ただ、なかなか決着がつかなくてな!

時が経つにつれ参加者は増えて余計に勝利は遠のいていく。

そして決着がつかぬまま…やがて俺たちの魂は混じり合い、あの赤黒い塊になっちまった訳だ』

 

「なぁんだ、つまり失敗ですか!ハハハッ!」

 

「まぁ…正直笑われても当然の無様っぷりだよ。

…だが今!お前が、俺の魂を掘り起こしてくれた!

しかもどうやら、ジェト族もお前1人になってしまったようだ。

生まれ変わるなら今しかない!』

 

「へえ、生まれ変わるってどうやって?」

 

『そりゃあ……お前の身体を貰うんだよ』

 

「うわっ、絶対そう来ると思っ…」

 

急速接近からの断頭チョップ。キルエはすんでの所で防ぐ。

 

「痛ぇな馬鹿!」

 

『ふゥむ…さすがに時が経ち過ぎた。

力も技も劣化しきっているか…』

 

「言い訳タイムは終わりましたか」

 

ジャンプして側頭部を掴み、引きずり倒す。

 

「とっとと死んで俺に力を明け渡せ、ご先祖様」

 

そのまま頭を踏み砕こうとして、ローリングで躱される。

 

『おっとと…気に入ったよお前。

その身勝手さこそ俺の末裔にふさわしい』

 

「フンッ!!」

 

しかしキルエも凄まじい勢いで猛追撃する。

ドルグは連続ストンピングを回転で躱し続け、勢いを利用して飛び上がって着地。

深く踏み込んだキルエに切り返しのアイアンクローを繰り出す。

 

『…チッ!』

 

だがドルグの手首が折れて落下した。

 

「身体が脆いと厄介だねェ?

ガキのチョップ一発で腕折られる気分はどうです?」

 

『こ、の…忌々しい…身体…!』

 

「死人が偉そうに出しゃばりやがってよォ!」

 

『いいぜ、それでこそ乗り換える価値のある身体だ』

 

ドルグの身体が、突如ドロリと溶けた。

 

「へあ!?」

 

そして液状になって背後に回り、実体化。そのまま拳を放つ!

 

「がッ…」

 

『慣れてきたよ、この姿も。

なるほど面白れぇ…殺し合いはこうでなきゃいかんわなァ!!』

 

半液状化した脚による、鞭めいた蹴りが直撃。

 

「げほッ!」

 

どれだけ劣化しようとも、戦闘民族の始祖にして、生涯を殺戮に捧げた狂人。

既に不定形の肉体にも適応しつつあった。

 

『次はァ~~~ッ』

 

大振りの拳を、液体となる事で加速させる。

 

…だがキルエが躱した。

 

「慣れたのはァ!」

 

繰り出された腕を引きちぎる!

 

「こっちも同じだボケが!!」

 

勢いで回転、裏拳を打ち込んだ!

 

『グワッ…』

 

「師匠はこの100億倍早かったよマヌケ」

 

喋りながらも意識は透明化していき、そこには本能が残る。

半日かけて嫌と言うほど叩き込まれたウーシエの技が再現されていく。

 

「キャキャキャキャァアアアアッ!!」

 

猿めいて絶叫しつつ、爆速で連撃を叩き込む。

 

「アレはワシの技、【猴魔(こうま)】か…合格には程遠いが、まぁ良し」

 

『調、子に…!』

 

人型が風船のように膨れ上がる。

 

『乗るなァアアアアアッ!!』

 

そして爆散し、キルエを吹き飛ばす!

精神世界にも関わらず、極大まで高められた呪いがキルエの魂を焼く。

 

「熱っ…!?」

 

『…ったく、もっと先祖を敬えよ、なァ?』

 

飛び散った赤黒いものは再び凝集し、人型を形成する。

 

「ほほ~大したものよ。

あそこまで砕け散った魂を元の形に修復するとは…並外れた精神力よな」

 

キルエは赤黒い破片の一部を啜る。

 

「ッざけんなよ、下らねぇ自爆なんぞしやがって…」

 

邪仙はほくそ笑む。

 

(だが我が弟子も大したもんじゃい。

少しずつ奴の魂を削ぎ、取り込もうとしておる)

 

技量で上回られても、自爆と再生をくりかえされても、削っていけばいずれは弱る。

それを本能で理解しているのだ。

 

『厄介だねどうも。こりゃ時間を掛けてはいられなさそうだ』

 

腕が分裂し、6本の腕で繰り出される舞いのような動き。

 

『最期に喰らっていくか?…【命を殺す法】のプロトタイプ』

 

「ガハッ…え、遠慮します!」

 

『そう言うなよ。せっかく見せてやろうってんだ。

コイツを受けたら精神世界(こころのなか)だろうが即死するぜ』

 

6本全てが放つ死の舞踏。

2、3本は躱せても、到底全部は回避しきれるものではない。

 

「う、クソ、が…!!」

 

叩き込まれていく、壱・弐・参・肆・伍の舞。

抵抗も出来ず、呪いが刻まれていく。

 

『これで下準備は完了』

 

「ま、まだ5番目の技までしか喰らってませんよ…!」

 

『言ったろ、この技は原型。最初は6つの舞しか無かったのさ』

 

「…じゃ、じゃあむしろ劣化してるじゃないっすか!

だって全部の技を順番に当てたら即死させられる技でしょ!?

技少ない方が楽じゃん!!」

 

『それはそうだよ。

じゃあどうして代々の継承者が技を増やしていったか分かるかな~?』

 

6つの腕が乱舞し、キルエの四肢を音も無く砕いていく。

 

「痛ッでぇえええ…ッ!!」

 

『この技が高度(ムズ)過ぎて、誰も再現できなかったからだよォ!!

だから少しでも再現しようと、技を改良し、数も増やしていった!!

……俺は失望したね!結局誰もこの技を完成させられなかったんだからよォ!!』

 

悪霊ドルグは最後の舞を構えた。

 

『テメェら子孫は1人残らず俺以下だったって事さ!

(ろく)の舞【怨印死掌(ジェトゥ・ガトラトル)】…ッ!!』

 

まず相手の核となる部位に触れて刻印を刻み、そこを殴る。

これを受ければ必ず死ぬ。そういう技だ。

 

キルエは1本ずつ対処しようとするが、最後の腕を回避できずに受ける。

その胸部に、呪印が浮かぶ。

 

「しまっ…」

 

『マーキングも完了。

…次の一撃。本気で避けろよ?死ぬぜ?』

 

6本全ての腕が、神速でキルエの胸の呪印目がけて伸びる。

…そう、6本全てが一点に、だ。

 

『テメェ…!』

 

「ぅおっと!!危ねぇ!!」

 

掠りそうなほどギリギリの間合いで回避。

 

「へ、へへ。来る場所が分かってりゃ、簡単に避けられるって寸法よ」

 

それは奇しくも、ウーシエに一撃叩き込んだ時に似た戦法だった。

 

『つまり…6番目まであえて受けたのか?

最後の技を喰らえば問答無用で死ぬんだぜ』

 

「でも最後の技は絶対かわせるんだから、怖がっても仕方ないし」

 

ドルグの懐、それがキルエの間合い。

すでにそこまで接近している。

 

『この技はあくまでプロトタイプ…お前が知ってる技とは違う可能性だって十分あったろ』

 

「んな事まで考えてたらキリ無ぇわ。

俺がイケると確信したんだから、それを信じる以外ないでしょ」

 

顔の無いドルグが、笑ったのが見えた。

その顔を、キルエの拳は打ち砕いた。

 

『…いいねぇ、獣の直感と狩人の理性。

人殺しはこうじゃねえと』

 

ドルグの霊体は、赤黒い水溜まりになって元に戻らない。

 

『俺を喰え!喰って糧にしろ』

 

「最初からそのつもりですよ」

 

四つん這いになり、最後の悪霊を啜る。

 

『見事だ…テメェに食われるなら悔いはない…』

 

「そりゃ…どうも、ハァ…ハァ…!」

 

『なんて簡単に諦められる奴が、子孫の身体を乗っ取ろうとすると思うか?』

 

「…あ?」

 

水溜まりが突然隆起し、キルエの呼吸器を塞ぐ。

 

「おごごッ…!!?」

 

赤黒い水は再び人間の形を成し、首に巻き付いた。

 

『そういう訳でさぁ、死ね』

 

「死ぬかよボケが!!」

 

キルエは力で振り切り、距離を取った。

が、疲労のあまり膝を付いてしまう。

 

「…っく、ふざけ…んな…!」

 

『あらら…お疲れで。

ところで今までのは全部時間稼ぎだった訳だが、どう思う?』

 

「時間…稼ぎ…」

 

『そうだ。やっと身体が馴染んで、生きてた頃の技量も戻ってきた。

こっからは武術ってやつも使ってやるよ』

 

「ひゃひゃひゃ!まんまとやられたのう、弟子よ!」

 

ウーシエは愉快げに大笑した。

 

(こりゃ、勝負あったかのう。

見込みはあると思ったが…まぁええか)

 

そして、キルエの精神内から退去する準備を始めた。

 

「死に、ぞこないの…クソジジイが…!」

 

『心はいつまでもヤングだよこの野郎』

 

赤黒の影はわずかに揺れ動いたかと思えば、消えた。

キルエはウーシエの動きを思い出す。

 

(これ…ダメだ。師匠と同じ、絶対捉えられないやつ…)

 

意識外からの衝撃で、キルエは吹き飛んだ。

 

「ぐ、ぞが…!」

 

立ち上がろうとしたところを、蹴り上げられる。

 

『遅ぇよ。立てるだけ大したもんではあるがな』

 

「上、から、言ってんじゃ…がぐ!」

 

せめてもの抵抗に吐いた言葉も、拳に潰される。

 

『お前の身体はちゃんと使ってやるから、そう拗ねるな。

じゃあな、子孫のガキ』

 

「う…」

 

赤黒が放つトドメの拳が、キルエの顎を打ち抜く。

…そのギリギリでかわした。

 

『お?悪運強いやっちゃ。

でも運だけじゃどうにもなんねぇぞ』

 

戸惑いつつも止まらない連撃で、今度こそキルエは…

 

「う、あ…」

 

やはりかわした。

 

『なんだなんだ?

そんなザマで無駄にあがくなって…』

 

先程より更に加速し、キルエめがけて拳を放つ。

それを止めたのは、黒い腕。

 

『…師匠が弟子の喧嘩に首を突っ込むのは野暮だぜ。

弟子が成長しねぇじゃねーか』

 

「死んだら成長もクソもないからの。

分かるじゃろ。こやつがお前さんの拳をかわす時、一瞬お前さんと同じ速度まで加速した。

見込みありまくりじゃよ、このガキ」

 

『…俺だって本気じゃないさ』

 

「張り合うな、お前さんがシャレにならん達人なのは分かる。

なればこそコレも分かるじゃろ。

……今のお前さんではワシに勝てんぞ」

 

金色の瞳が、狂人の亡霊を見据えた。

 

「…………」

 

『……ハッ。よかろう、しばらくは大人しくしておこう』

 

「それがよい」

 

『そういや、誰も技を完成させられなかったと言ったが。

このガキ、初めてあの技を成功させた男だったな…』

 

赤黒の人型は、最初から何もなかったかのように掻き消えた。

 

「おい、起きんか」

 

「お、きて、ます…」

 

「ほう、偉いぞ。…奴の攻撃、見えたか?」

 

「ちょっと…だけ」

 

「そうかそうか!

…ギリギリじゃがなんとか形にはなったな」

 

「…あ、そういえば、時間…が!」

 

キルエの現実の身体は、今も谷を落ち続けている。

地面に激突するまでに修行を終えろ、というのが元々の話だった。

 

「これから目を覚ましたら、すぐに受け身を取れよ。いいな?」

 

「え。でも結局、受け身なんて習ってな…」

 

「目覚めよ!!」

 

「あっ、ちょ…」

 

世界が混ざり、薄れていく。

意識はその渦に吸い込まれ、浮き上がる…

 

 

 

「ッ!」

 

目が覚める。

眼前に地面。

 

「あっこれ無理…」

 

顔面から激突し、ゴロゴロと転がる。

 

「いッてぇええええッ!!

…あ?ほえ?生き、てる?」

 

鼻血は出たが、それ以外は擦り傷もほぼ無い。

 

「あんな高さから落ちたのに…」

 

谷の上を見上げようとして、気付く。

 

「あれ?」

 

その谷は、少年の身長の半分ほどしかない段差だった。

 

「カッカッカ!【幻影の谷】と言ったじゃろ?」

 

黒い肌の少女が呵々大笑する。

 

「谷そのものが幻って事ですかぁ…?」

 

「カカカ!そういう事じゃ!

当たり前じゃろ、貴様が死んだら金を絞れんのだぞ?」

 

「んだよソレ…」

 

「むしろ感謝して然るべきぞ?

呪いの影響も失せたのではないかえ?」

 

言われてみれば、とキルエは感覚を検める。

 

(まだ体内でいくらかわだかまっているけど…痛みは無い。

動きが重くなる感じも…消えた)

 

「それにな、頭から落ちたらこの高さでもちょっと危ない。

ワシの教えた動きが無ければ死んでおったかもしれんぞ?

…さ、上がってこい。話がある」

 

ウーシエがキルエを手招きしながら、寝所へと歩いていく。

その道中、【凶星堂】が囁く。

 

「酷いウソもあったもんですね」

 

「何がじゃ。むしろ優しいウソじゃろあんなん!」

 

「いや、谷の事じゃなくて。『修行失敗しても死なない』って方ですよ。

あなた使えない弟子は肉団子にして食べちゃうでしょ」

 

「いやアレは別に、そういうのじゃないわい!

たまたま腹が減ってたんで、ちょいと摘まみ食いしただけよ!」

 

「…やっぱり逃げて正解でした、師匠の下」

 

【兇仙】ウーシエ。

気まぐれに人里へと降り、時に病める村を救い、時に平和な街を喰い尽くす。

人間世界において極大の畏怖をもって警戒される、人の姿をとった災厄である。

 

〈つづく〉

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