異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第42話 森の妖精と魔物

キルエは故郷を焼いた【薔薇の猟兵隊】に追い詰められたが、道具屋【凶星堂】によって救われた。

そこで謎の女仙人に修行を強制された挙句、3年後の世界の放り出されてしまう。

宿敵を殺すのが目的であったが、面倒になったので中止して貯金を回収する事にした。

 

「ええと…こっちでいいんですか?」

 

「そうっすよ」

 

「でも…この森の先にあるのって荒れ野じゃ…」

 

この辺り…特に魔皇城近くは、少し移動しただけで環境がガラリと変わる。

それこそ鬱蒼とした森林と砂漠が隣り合う事も少なくないほどだ。

その環境の歪みも、魔皇の力の一端である。

 

「荒れ野にポツンとある廃墟が俺の隠れ家です」

 

「そこにお金を…?でも、3年も経ったら…」

 

「どうでしょうね。上手く隠したつもりでしたが」

 

ギリギリギリ…なにかが千切れるような音。

 

「おっと、聞いた事のある鳴き声だ。

見つかる前に急ぎましょう」

 

「ここ、一応この辺りの住人は誰も寄り付かない魔の森ですよ。

よく住めますよね…そりゃあなたが住んでたっていう【死神の胃袋】には遠く及ばないのでしょうけど。

ほら、あそことか…見た事もない植物が生えてますよ」

 

「そんなに珍しいなら採取しとけばいいのに。

道具屋としてはそそられるんじゃないですか?」

 

「いやいや…珍しすぎてちょっと怖いんで。

それにこんな森であなたから離れたら危険…あ」

 

何か、蛍のような光が宙を漂う。

白昼にも関わらず、その輝きは何ら減ぜられる事が無い。

 

「おや、アレは俺も知りませんね」

 

「…妖精だ」

 

「え?」

 

言われてキルエが目を凝らすと、確かに光の中に人型の影が見えた。

 

「へぇ、アレが!マジモンの妖精かぁ、ちょっと感動しちゃいますね」

 

「つ、ついてきてください今すぐ!

アレ捕まえましょう!!」

 

「はい?」

 

「妖精なんて妖精郷以外じゃほとんど見られないんです!

生かせばペットとしても売れるし、磨り潰して霊薬にも出来る激レア生物!!

ぜッたいに手に入れたいのッ!!」

 

女は今自分で言った事も忘れて、走り去っていった。

 

「…なんなのマジで。

お前が代金用意しろ言うたんやろがい!」

 

 

 

 

 

3人の勇者は傷だらけで追手から逃げ、この廃墟に辿り着いた。

廃墟は酷く荒れ果て、地面はなぜか掘り返されて隆起していたが、それでも彼らにとっては久方ぶりの安息の地だった。

 

彼らは一様に傷つき血に塗れているが、その瞳は怒りに煮えたぎっている。

 

(ナンムが…魔皇が何を思って苦しんできたかも知らねぇ馬鹿どもが!

下らねぇプライドで何もかも無茶苦茶にしやがって…!)

 

魔皇ティアマトは存在するだけで怪物を生み出す力を持ち、ティアマト自身もその事を恐れていた。

そして今まで犠牲になった我が子や人間たちに心を痛め、自ら悪となって倒される事を望んだのだ。

だがナンムという妖精もどきの姿で交流を重ねたグレンたちには、その手段を認めるつもりは無かった。

 

(ナンムちゃんは生きてこそ、解決も償いもできるはずだった…!

それを、あの人が…!)

 

魔皇の城を乗っ取り、兵士たちに呼びかけて蹶起させた黒幕は、連合軍バロネリア帝国の元帥ドゥロワ・ネネル。

 

(ギルドへの不信感や職を失う恐怖を上手く利用されたな。

これだけ長く続いた戦争…人生の全てを費やした者、経済的に依存していた勢力も多い。

いざ戦争が終わるとなれば…焦り出す者がいてもおかしくはない、が…)

 

だが3人には、肝心のネネル自身の目的が分からなかった。

 

「お前ら、余計な事考えてねぇか」

 

「え?」

 

グレンの顔は2人がよく見る、救えない邪悪に立ち向かう時の表情だった。

 

「あのクソ野郎の目。分かるだろ、陰謀を巡らしてる奴らの濁った目じゃなかった。

ガキみてぇにはしゃいで、今の瞬間を楽しんでやがる奴の目つきだ」

 

「……」

 

「…目だけでは何とも言えんが、確かに異様だった。

仮にも元帥と呼ばれる立場の人間が、魔皇城を乗っ取るなどという大それた事に似合わない顔をしていたな」

 

「だから」

 

絞り出したグレンの声は、怒りに震えていた。

 

「あいつは、殺す。事情は聞かねぇ」

 

「それは構わないが…どの道今のままでは負ける。

どこかで休養し傷を癒さねば」

 

「そ、そうだよ。回復魔法でも追いつかないですよ」

 

対する2人の口調は落ち着いていたが、言葉の端々に悔しげな呻きが混じっていた。

 

「ああ…そうだな、分かってる。

いつまでもここに隠れていても仕方ねぇ」

 

「そうだね。こうして見つかってしまった事だし」

 

「「「!!」」」

 

3人以外の声。

 

「探したぞ、勇者殿よ」

 

杖を握る山羊頭の魔族が、傭兵たちを連れてそこに立っている。

 

「…よく見つけられたな。

足跡は無かったはずだが」

 

「新たな王が手ずから編成した追跡部隊だ、抜かりはないよ」

 

杖で後方にいる猪皮の帽子を被った傭兵を示す。

 

「彼は【咎人狩り】という傭兵だ。場に残存する生体情報を看破できる。

血は落とさないように気を付けていたらしいが、汗や皮脂の処理を怠ったな」

 

「…そりゃあよくよく運の無い事だ」

 

「ン?」

 

グレンは黒い魔剣をかざす。

 

「見つけなきゃ、ここで死なずに済んだのになァ!」

 

刀身が燃え上がった。

 

「まだそんな口が利けるか。それでこそ勇者よ」

 

山羊頭の【無塵伯】ウィーザが杖を掲げて応じる。

背後の兵も一斉に構える。

 

彼らは決して十把一絡げの雑兵ではない。異名を付けられるほどの戦士たちである。

対する勇者一行は魔皇との激闘を超え追手から逃げ続けて今に至る。

体力が致命的に足りないのだ。

 

「分かっていて挑むのならそれでよかろう。

塵も残さず消え去るがいい、我が虚無魔法でな!」

 

周囲に暗黒の球体が数個出現する。

この球体から放たれる黒い線は、当たれば全ての物質を消滅させる即死の攻撃。

 

「ぅおおおおッ!!」

 

グレンは叫び、剣を頭上に掲げる。

地面から炎が巻き上がって渦を成し、追手の視界を埋め尽くす。

 

「まだこの火力か、驚異的だな!

だが我が虚無に炎の壁など通用せんよ!!」

 

数発の虚無魔法によって、炎は散り散りに引き裂かれていく。

 

「……!」

 

猪帽子の男が真っ先に目を見開き、走り出す。

 

「どうした【咎人狩り】くん!」

 

「やられた、目晦ましだ。逃げられるぞ!!」

 

炎が消えたその場に3人の姿は無く、遠方に疾駆する人狼と小脇に抱えられた2人がいた。

 

「人狼の脚力か!だが、そう容易くは逃げられんぞ」

 

「ああ。アレをやる」

 

走りながら傭兵の1人が、赤い雲を吐き出した。

雲は高速で人狼の頭上まで飛んで大きくなり、赤い雨を降らせた。

 

「うっ!?こ、これは…!」

 

毒の雨だ。

人狼と化したフェリスの足が遅くなる。

 

「おい、大丈夫か!?やっぱり俺自分の足で…」

 

「いいよジッとしてて!私の方が速いんで!

それに、この辺に森があったよね!」

 

一瞬力が抜けて崩れた姿勢を、グッと踏ん張って立て直す。

 

そして荒れ野から地続きで突然森が現れた。

線を引かれたようにくっきりと境界が出来ている。

 

「ここなら…!」

 

鬱蒼と茂る葉が毒雲の行く手を阻み、雨を遮る。

 

「チッ、森に逃げたか。少し速度を上げるぞ。

私の魔法は天井がある空間では上手く作用しない」

 

「心配いらんよ。

いくら丈夫な人狼とはいえ、あれだけ毒を浴びれば動きは鈍る。

そしてこの森には怪物がうようよ住み着いている」

 

追手も森に飛び込むが、人狼の姿は既に無い。

先頭の【咎人狩り】が生体情報を探査する。

 

「…なるほどな。見た事もない生物の反応が大量にある。

確かにこの森は相当に危険なようだ」

 

「追えるか?」

 

「問題無い。俺の能力は個人まで特定できるからな…こっちだ」

 

即座に人狼の痕跡を判別、追跡を開始する。

 

「うん?何だ…人の痕跡が増えた。奴らの他にも居るのか?」

 

「こんな森でかね。少し気になるな…よし、二手に分かれよう。

お前たち3人は他の人間とやらを探してこい。

ああ、そこまで本腰を入れる必要は無いぞ、妙なのがいれば捕まえればよい」

 

「了解」

 

山羊頭が指示すると、兵らは迅速に行動に移った。

その間も、追跡は続けられている。

 

「…待て。この辺りで…消えた」

 

「消えただと?

痕跡を消すほどの暇は無かったはずだぞ」

 

「ああ。……ッ!!」

 

何かを察した【咎人狩り】が飛び退いた瞬間、人狼が落下してきた。

爪の強烈な一撃に掠り、皮を裂かれながら呻く。

 

「ぐッ…!」

 

だがそこで終わりではない、続けざまのタックルで【咎人狩り】を吹き飛ばす。

【咎人狩り】は木に叩きつけられて昏倒する。

 

「ゴァアアアアアッ!!」

 

咆哮し、次なる標的である毒雲使い【鮮血驟雨】を攻撃しにかかる。

 

「させんよ。彼の魔法は使える。

この程度の任務で失う訳にはいかん…大人しく死んでくれるか」

 

リーダーの山羊頭は、虚無魔法を5つ装填し、2つ放つ。

 

「…樹上の勇者殿と一緒になァ!」

 

残る3つは、木の上で奇襲のタイミングを伺っていたグレンとラスタに放った。

 

「ッ!クソが!」

 

「目ざといな…!」

 

2人は飛び降りて回避したが、フェリスはかわし切れず右肩の肉を持っていかれる。

 

「ガァッ…この、程度で!」

 

気丈に吠え立ててみせるが、状況は彼らにとって厳しいものがあった。

 

(傷も疲労も限界に近い。対する敵はほぼ万全の4人。

見回りに行った連中が戻ってきたら…!)

 

ラスタの危惧に対し、答えは即座に返ってきた。

 

「よう、魔族の旦那。変なのが居たぜ」

 

森にいる他の人間を探しに行った3人が帰還してきた。

大荷物を背負った女を両側から押さえつけて連れている。

 

「あいててて!ちょ、ちょっと!

私はただの商人ですよぉ!」

 

「ふむ?おやおや?どこかで見た顔だ」

 

「へ?…あ、酒場に来てた方々ですよね?」

 

「それは?何を持っている?」

 

商人はその手に瓶を持っていた。

中には光り輝く翅を持つ少女が閉じ込められている。

何やら必死に外に呼びかけているが、声は聞こえない。

 

「妖精…か?」

 

「は、はい!捕獲のためにこの森に入った次第でして…!

それ以外の目的はございません!」

 

「本当かな。商人が自らこんな所まで?

そして偶然我々と再会した、と?」

 

「は、はい!偶然ですよぉ!」

 

「…なぁ商人。こちらにおられるのは、かの魔皇を討ちし勇者ご一行だ。

知り合いではないのか?ん?」

 

「えっ!!?ま…魔皇って死んだんですか!?

いや…え?知る訳ないでしょ、そんなの!」

 

女商人の反応は、真に迫っていた。

 

「ふむ…知らぬようだな」

 

「だから言ったでしょ!早く帰り…」

 

「おいッ!お前ナンムか!?」

 

突然、グレンが叫ぶ。

その視線は、商人の持つ瓶の中に注がれていた。

瓶の中の少女は、応えるようにバタバタと手を振る。

 

「ン~?なんだ勇者殿。小瓶の妖精と知り合いか?

…となると、その瓶の持ち主であるお前も怪しいな」

 

「へ?ええっ!?

ちょ、ちょ、ちょっと待ってマジで!知らないってば!

この妖精はそこで捕まえたばかりの…」

 

「事情を聞く必要がありそうだな。

なぁに安心したまえ。私は人から話を聞くのが得意なんだ。

貝の如く頑なな者も、最後は饒舌に語ってくれるようになる」

 

「ひぃっ!?ちょ、ちょっとぉ!

何見てるんですか!助けてくださいよキルエさぁん!!」

 

「…?」

 

何かが木陰から飛び出す。

勇者たちが真っ先に反応するが、疲労ゆえに身構える事しかできない。

 

「ぬ、ぐ…ッ!!?」

 

そして次に速かったのはリーダーの魔族。

とっさに杖を構える……が、それすら遅かった。

その時すでにソレは肩の上に飛び乗り、ナイフを山羊頭に突き立てていた。

 

「かはッ」

 

断末魔もなく絶命する魔族。倒れ込むのと同時に、襲撃者は着地した。

その正体は、褐色の肌の少年。

 

「…ふぅ」

 

溜息をつき、次なる敵を見定める。

 

「お前は…!」

 

グレンが目を見開いた。

 

〈つづく〉

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