異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第43話 弱者の戦技

「いねぇ…どこ行ったんだマジで」

 

キルエは女商人【凶星堂】を伴い、かつての隠れ家を訪れた。

隠してある金を回収し、修行とアイテムの費用を支払うためだ。

 

だが凶星堂は妖精を追ってどこかに行き、キルエも後を追っているところだった。

 

「もう帰ろうかな…金も踏み倒せるし」

 

ブツブツと愚痴を吐きながら歩き回るキルエは、不意に気配を感知して構えた。

 

(いっぱい居る…?)

 

木陰に隠れ、様子を伺う。

 

「あいててて!ちょ、ちょっと!

私はただの商人ですよぉ!」

 

凶星堂は捕らえられていた。

 

(あちゃ~…あれ?この人たち酒場に来た…?)

 

捕えているのは、キルエたちがいた酒場に来た謎の一団だった。

それと、これまた異質な傷だらけの者たち。

 

(あらら痛そうな…お?おお?)

 

キルエは、傷ついた彼らの顔も見知っていた。

 

(どっかで会ったな。ええと、何とかいう名前のガキどもだ。

…そうか!連中の追ってた子供たちってのはコイツらか!!)

 

酒場の聞き込みで口にしていた特徴と、完全に一致していた。

 

彼らはかつて、キルエが共に任務を成し遂げた幼き傭兵たちである。

当時は同い年だったが、3年のズレによって身長も顔立ちも向こうは大人びていた。

 

「こちらにおられるのは、かの魔皇を討ちし勇者ご一行だ」

 

ちょうど山羊頭が3人に言及する。

 

(魔皇死んだんか…ていうか、アイツらがやったのかよ。

結局、本物の主人公だったんだなぁ)

 

一度だけとはいえ共に仕事をした者の大躍進は、キルエからしても嫌な気はしない。

 

(でもな…魔皇の部下って感じせんよなぁ、アイツら。

中には人間もいるし…)

 

状況を把握するべく、気配を消してもう少しだけ近づく。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってマジで!知らないってば!」

 

「事情を聞く必要がありそうだな」

 

そうしている間にも、凶星堂の立場はどんどん危うくなっていく。

この期に及んで、キルエの脳内には『助けない』選択肢があった。

 

(俺は弱い。戦いに慣れているが、それだけだ。

戦いにおいて勝敗を決めるのは一に人数、二に武器。そして三番目が技術。

素人でも槍か何かを持って5人集まれば、相当怖い。

少なくとも俺にとってはヤバい)

 

彼は今まで、無茶な強化と不意打ちや騙し討ちで勝ちを拾ってきた。

でなければ勝てないと自認しているからだ。

 

(鍛えようが、経験を重ねようが、その原則を破れる強さは手に入らない。

そのレベルの強者ってのは、生まれた時から強いんだからな。

つまり…この状況はめっちゃヤバい)

 

手練れらしき戦士たちが7人。その能力は不明。

しかもその内の数名は魔族だ。

 

(ま、これも自業自得と諦めてもらうのも、ひとつの選択肢――)

 

「ひぃっ!?ちょ、ちょっとぉ!

何見てるんですか!助けてくださいよキルエさぁん!!」

 

「ッ!!」

 

キルエの全身に血が巡り、瞬間的に思考する。

 

(わざと名前出しやがったな、あのアマ…ッ)

 

そして1秒の躊躇も無く飛び出す。

確実に仕留めるべき敵は…

 

(まずあの山羊野郎だな)

 

肩の上に着地しナイフで一撃殺。

 

「ふぅ…」

 

「お、お前は…!」

 

グレンが叫ぶのも無視して、0.5秒で敵を選別。

 

(次はアイツ)

 

爆弾を投げる。こけおどしの爆弾を。

 

「…!」

 

それを見たグレンは即座に察し、仲間に目線で『逃げるぞ』と合図した。

 

「小細工か、下らん!」

 

傭兵の1人が石を投げ、爆弾の落下地点を茂みへと逸らす。

なんと精密な投擲能力か!

 

(でもおかげで隙だらけ)

 

這うような低みから、走るような速度で接近。両脛を深く斬り付ける。

やられた敵は転倒しながら胸と喉を防御するが、キルエは既に背後。

 

「がッ…」

 

後頭部にナイフを突き刺されて死ぬ。

 

(残るは4人。さて、こっからだ。

これだけ時間が経過すれば、向こうも備えが出来上がる。

しかも俺は既に2人殺してる。向こうからすれば油断ならない敵だ…甘く見てはくれまい)

 

だが彼には、敵を正面切って迎え撃つ力など無い。

【あの仮面】を着ければ可能性はあるが…

 

(まだ使いたくねぇなぁ…仕方ない、眼帯外すか?)

 

彼の右目は、死の魔眼に置換されている。

もちろんそのままでは使用できないが、そこは色々と小細工がある。

 

(…いや。まだ早いな。自力で何とかしてみるとしよう)

「アイツらはもう逃がした。任務完了だ」

 

「何ッ…」

 

傭兵たちが一瞬だけ目を向けて、一瞬だけ驚く。

そこにはもうグレンたちはいない。

 

「チッ、面倒な…!」

 

意識がそちらに向いた隙をついて、猛毒の吹き矢を放つ。

 

「ぬ、ぐぅ…!?」

 

「こやつ…小癪な!!」

 

激昂した魔族が斧を振り上げて迫る。

 

(3人。そして…)

 

後退して距離を保ちつつ、2つ目の爆弾を投げた。

こけおどし爆弾を見ていた敵は、警戒しつつも意識をキルエから外さない。

 

が、その妥当な判断が今回は命取りだった。

 

「ぐああああッ!!」

 

キルエが投げたのは粘土爆弾。通常の火薬を用いた爆弾より遥かに威力が大きい。

爆発範囲を見誤った魔族は、爆熱と衝撃にやられて吹き飛んだ。

キルエも余波を辛うじて凌ぐ。

 

(これで2人、でも…!)

 

「おいおい、新魔皇直属の部隊ったってこんなもんか。

ま、俺ら裏切り者の寄せ集めだしな」

 

生き残っているのは人間の傭兵2名。

魔族よりは多少対応しやすいから、後回しにした。

だがキルエにとっては大差ない強敵だ。

 

「あっという間に2人ってか。

いいさ、そうやって殺し殺される。テメェで決めた生き方だ。

だが坊主。お前はここで殺す」

 

「あはは…こ、降参」

 

「降参はナシ。最後まで続行だ」

 

1人が拳を振るうと、冷気の波動が放出される。

 

「ちょ、危なッ!?」

 

波動は凍てつく軌跡を残し、かわしたキルエの背後の木を凍結させた。

木はシャーベット状になって崩れた。

 

「ハ、ハハハ…」

 

「楽しいか?俺もだ」

 

もう1人が手から黒い煙のようなものを吐き出す。

否、煙より黒い…闇。

 

「逃げ回れ。なるべく長くな」

 

闇は凝り固まり、猟犬となって襲いかかる。

飼い主との連携攻撃だ。

 

「あ、待て、待てって!俺は…そこの女さえ回収できればそれでいい!

殺しても何の旨味も…!」

 

傭兵と闇の猟犬を凌ぎつつ、後方で構える冷気の波動にも意識を向ける。

今にも喉笛を食い千切られそうになりながら。

 

「利益じゃねえ、生き方の問題でね。

正直俺は魔皇がどうだの勇者がなんだの、どうでもいい。

まだ戦えるし、まだ戦いたいんだ」

 

「ヒエッ!…じゃあ死ねよ」

 

キルエは爆弾を投げる。実際に爆ぜる本物か、音しか鳴らない偽物か。

外見はどちらも直方体で、見分けがつかない。

 

(こんな近距離で爆弾を?ありえない!

…いや、この坊主はさっきそれをやった。

だとすれば…?)

 

「そこをどけッ!」

 

逡巡を吹き飛ばす声。反射的に身を逸らすと、そこを冷波動が通過した。

そして爆弾を凍結させる。

所詮凍らせた程度では、起爆を遅れさせる事しかできないが…

 

「助かるッ!」

 

猟犬使いが爆弾を蹴り飛ばし、猛然と襲い掛かる。

その後ろでもう1人が控え、敵の策に備える。

 

…そこまでは、キルエの誘導した通り。

 

「よっと」

 

突然猟犬使いの股下を潜り抜け、冷気使いに接近。

 

「ほう、俺を先に相手してくれるか。

では期待に応えると…しよう!」

 

冷気纏いし右拳が迎え撃つ。

掠りでもすればその部位はたちまちに凍り付き、使い物にならなくなる一撃を…キルエは素手で受け止めた。

 

「あぁッ?」

 

正確には、キルエの手のひらと相手の右拳の間に、奇妙な玉が挟まっている。

玉は光り輝きながら、冷気を吸い込んでいく。

 

「く…そッ、なんだこれは!力が吸われ…るッ!?」

 

「冷気吸収のアミュレット。

その手の攻撃を全て吸い取り、貯蔵できる」

 

本来、【薔薇の猟兵隊】の1人である氷魔法使いニーヴルを殺すための道具だった。

 

「なんで、そんな都合の良いモン持ってやがる…!」

 

「俺は何でもお見通しでね。

それより手を離した方がいい。吸い尽くされて死にますよ」

 

冷気使いは慌てて飛び退くが、既に多くの魔力を吸われており、思わず膝を着く。

その隙は大きい。

 

「おっと、忠告が遅かったですか」

 

首筋目がけてナイフを振り下ろし――

 

「GHARRRRR!!」

 

「そうだ!やらせるな!」

 

闇の猟犬とその主が背後から飛びかかる。

片方のピンチを片方が補い救う、実際即席にしては見事な連携であった。

 

だがそれも、キルエの想定内だ。

アミュレットをノールックで後方に投げ捨てる。

 

「あなたはそこでジッとしててください」

 

「なんッ…!!?」

 

アミュレットは爆散し、溜め込んだ冷気を放出する。

猟犬使いは一瞬にして凍り付き、闇の猟犬は消滅した。

 

同時にキルエのナイフは冷気使いの首筋を切り裂き、命を絶った。

 

これにて7人、全員殺戮完了。

 

「ハァーッ、ハァーッ…!」

 

過呼吸気味の息を整え、噴き出る汗と血を振り捨てる。

 

(コイツら、なんちゃら元帥の部下だよな?

しかも多分幹部クラスじゃねえ。使いっ走り程度だ。

そんな連中が、このレベルで強いのか?マジで?)

 

彼らは1人1人がかなりの手練れだった。

戦闘技術、判断力、そして異能。どれをとっても一級。

公爵などと呼ばれる魔族が、その強大さゆえの驕りを抱えている事を思えば、こちらの方がよほど厄介な敵であった。

 

「おおっ、さすがです!修行の成果が出ま…ぐえっ」

 

凶星堂の襟を掴む。

 

「アイテムの代金、タダにしなさい。それだけの事はしてやったでしょう」

 

「え、ええ~?でもキルエさん、私を見捨てようとしたでしょ」

 

「そもそもあなたが単独行動をしなければ…!」

 

「お、おい」

 

横から新たな声が割って入る。

赤髪の少年、犬耳の少女、長髪の少年の3人が立っていた。

 

「お前…キルエ、だよな。バサド砦の戦いで会った」

 

「あれ、何でいるんすか…まさか、助けに戻ってきたんですか?

なんとまぁ律儀な人たちだこと」

 

「全員、倒したのか」

 

「驚く事でもないでしょ。万全のあなた達ならきっと1分使わずに片付いた」

 

「だろうな。だが実際にはこのザマだ。本当に助かった」

 

グレンたちは真っすぐに眼を見て礼を言った。

2人はともかくグレンが素直に感謝する様は、他人に興味を持たないキルエから見ても隔世の感を覚えた。

 

「いやぁ、本当に3年経ったんですねぇ。

今じゃ勇者様…みたいですね?」

 

「ああ…そうだな。

でもお前の方はほとんど変わらないな…右目は怪我をしてるみたいだが」

 

グレンはキルエの眼帯に目を付けた。

 

「ああ、これ…ちょっと戦いでね」

 

「聞いたぞ、ギルドの職員を殺して逃げたって噂。

正直それを否定できるほどの関係じゃねぇけど…どうも妙だと思ってな」

 

「いや、ほぼ事実ですよ。

ウマい話に乗せられまして…ギルドを信用しすぎましたね」

 

キルエは、あの不良仙人の助言に歯車がピタリと合うような感覚を受けた。

 

(獣になれ、か…そうだよなぁ。

俺はあの森の中で、生きるのに必死だった。あの時の俺が一番強かった。

それを、一丁前に仕事なんて貰って、将来設計までしちまって…)

 

森で必死に生きていた頃の彼は、何一つ不要な思考を抱かなかった。

だが文明に触れる事で前世の感覚を思い出し、すっかり慣れきっていたのだ。

 

「森じゃ自分自身も信用せずに生きてきたのに。

フフフ、ちょっとギルドに頼りすぎていましたね」

 

「お前…」

 

グレンたちの心情は複雑だ。

魔皇城を占拠したネネル元帥に味方する兵士たちも、ギルドへの不信感を募らせた果てにそうなった。

キルエの言葉を、否定も肯定もできない。

 

「まぁ俺の話なんてどうでもいいでしょ!

勇者様の話を聞かせてください!魔皇倒したんでしょ?」

 

「…あ、ああ。確かに俺らは魔皇を倒した。…でも、殺さなかった」

 

「おやおや、それはそれは。

で?雑誌によると魔皇城は乗っ取られたとか?」

 

「もうそこまで情報が出回ってるのか?

…ああ、軍の元帥の1人であるドゥロワ・ネネルがやった事だ」

 

キルエは手元の雑誌と見比べ、情報の差異を確かめる。

 

「ふむ。で、その元帥様は何やら【薔薇の猟兵隊】とかいう部隊を持ってると」

 

「それ自体は前々から言われてた噂だ。

ただ、その姿を見たのはあの時が初めてだった」

 

「ああ、事実なんですね…」

(となると、魔皇城を乗っ取るような奴を敵に回す事になるのかぁ。

…やっぱ仕返しはやめとこうっと)

 

キルエは徹頭徹尾、己の感情だけで動く愚鈍な獣だ。

どんな巨悪であろうと不快なら殺すが、飽きれば即座に辞める。

 

彼はもう飽きていた。

 

(村を焼いたっつっても、元々ロクな連中じゃなかったしな。

勝手に巻き込まれて襲われたのはムカつくが、ぶっちゃけもう怒り薄れてきたし…ここらが潮時だな)

 

そしてそのまま世間話へと移行する事を決めた。

 

「…あの時というのは?」

 

「奴は魔皇を殺した。

…言って信じてもらえるか分からねぇけど、魔皇は悪い奴じゃなかった。

確かに魔族が暴れる一因だったのは事実だけど、アイツはそれを気に病んでた」

 

「なるほど、よくある話だ」

 

「…信じてくれるのか」

 

キルエからしてみれば、『悪の親玉が実は良い奴』というある種物語においてのテンプレート的な展開でしかない。

 

「嘘をつく理由が無いので」

 

「驚くほど変わらねぇな、お前」

 

「だけど、それは悪い事なんですか?

軍の元帥としては、魔皇には死んでもらわないと困るのでは?

だって、魔族の力を高めてるとかいうのは、事実なんでしょ?」

 

「そうだ…アイツが軍の責任者として判断したのなら、それは分かる。

殺したのは許せねぇが、それもまた正しい判断だ。

…でもアイツは!!」

 

グレンの目は、血走っていた。

 

「アイツはガキみてぇに嬉しそうな顔で、言いやがったんだ」

 

『欲しかったんだよ、このお城!

いやぁ、家主が邪魔で困ってたんだ。倒してくれて助かったよ!』

 

それは、玩具を買い与えられた帰り道の幼子を思わせる、溌剌と弾んだ声だった。

 

〈つづく〉

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