異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第44話 清算

キルエは逃走する勇者一行を成り行きで救い、事情を聞いていた。

そこから浮かび上がるのは、キルエの村を焼いた男が魔皇城を乗っ取った犯人でもあるという事実。

そしてキルエは決意する。

 

(…仕返しはやめとこう)

 

やる気も怒りも失せている今、それほどの巨悪と敵対するのは気が引けた。

 

「という事は、今その黒幕である元帥様は城に居るんですね?」

 

「そうだ。俺らはそこから逃げ出してきた。

例の【薔薇の猟兵隊】に襲われてな」

 

「ほほう!」

 

キルエの村を焼いた実行犯であり、彼自身も死ぬ寸前まで追い詰められた。

その怒りもほとんど薄れてはいたが、名前に思わず反応する。

 

「しかし妙ですね。

魔皇とやらがどれほどの強さかは存じませんが、それと比べれば雑魚じゃないですか?

だって魔皇ですよ?」

 

「その強い魔皇と戦った直後だからな。

しかも連中は手練れだった。特にあのデカブツ…!」

 

キルエは、その人物に心当たりがあった。

村を襲った1人、神話じみた威容の巨漢アルキュオード。

一目見て、『格が違う』とキルエにも分かった。

 

「万全の時でも、1対1じゃキツかっただろうな」

 

「ほう。そんなヤバいっすか」

 

「もちろん、次会ったら絶対に倒すけどな。

……あ、そうだッ」

 

グレンは急に慌てて、凶星堂を指差した。

というより、彼女が持っている瓶をだ。

中には4枚の薄羽が生えた小さな少女が入っている。

 

「ソイツ!開けてくれ!

中に入ってる、その妖精みたいな奴!俺の知り合いかもしんねぇんだ!」

 

「え、えぇ~?」

 

露骨に嫌そうな顔になる。

妖精はかなりの高値で売れる商品だ。手放したくないのは道理だが…

 

「話が進まないんで、とっとと出してもらっていいすか」

 

キルエが面倒そうに凶星堂の肩に手を置く。

 

「うぅ…わ、分かりましたよ!

でも逃げたらあなた方の責任ですよ、お金払ってもらいますから!」

 

「ゴチャゴチャやかましいわ。はよやれ」

 

キルエが瓶を奪い取って叩き割る。

 

「ああっ!?」

 

中から妖精らしきソレが飛び上がる。

 

「おい、ナンム!お前だよな!?」

 

「私たちが分かりますか?」

 

「きゅう!きゅ…!」

 

「えっ?」

 

少女は鼠のような鳴き声を上げた。

 

「しゃ、喋れないようだ…が」

 

「きゅう…」

 

「ちょっと、どういう事なんです?

その子は私が捕まえたんです、説明してくれてもいいでしょう?」

 

凶星堂が不満げに問い掛けると、グレンは口を開きかける。

が、途中で話してもいい内容か逡巡した。

 

(ナンムの正体は…魔皇ティアマト本人の魂だ。

その辺の事情って言ってもいいのか?)

 

「あ、説明はいいです。俺ら用事あるんで、これで失礼しますね」

 

「ちょ、キルエさん!」

 

「いいから。

話したくない事情がおありなのでしょう?あえて聞きはしませんよ」

 

キルエは女商人の手を取り、無理やり引っ張っていく。

 

「???」

 

「じゃ、我々はこれで。頑張ってくださいね」

 

「お、おう…」

 

 

 

 

 

グレンたちと別れて数分歩いてから、凶星堂が問う。

 

「あの!どうして事情聞かせてくれないんですか?

アレは私が捕まえたものですよ?」

 

「これ以上踏み込むと、巻き込まれる。

俺は面倒事は嫌いなんですよ」

 

「むぅ…しかし、仮にもあなたの故郷を滅ぼした相手ですよ?

勇者さんのお手伝いはともかく、事情くらい聞いても…」

 

「元々復讐なんてするつもりなかったんで。

ただ単に襲われてムカついたから殺そうとしただけです。

でももうそんな気も失せたし…相手が悪いでしょ」

 

ネネル元帥率いる裏切り者の軍団はいずれも精強であり、即席の組織とは思えないほど統率も取れていた。

キルエが1人で挑むのは無謀の極みだ。

 

「あんなヤバい連中の相手なんかしてらんないですよ。

この眼帯だって、無駄な備えでしたよ…むしろ視界が塞がって見づらいし!」

 

「その目は?」

 

「別に何も。本来の魔眼の持ち主でない俺には、魔眼の力は使えないし。

同レベル以下の魔眼を打ち消す事は出来るんで、便利っちゃ便利ですけど」

 

「そうじゃなくて、眼帯ですよ眼帯!

見えなくなっちゃった訳でもないんでしょ?」

 

「コレは…魔力のチャージです。

ジェト族の秘伝に、魔眼使いのみが使える術を見つけたんです。

そうですね…一番軽い術でもチャージに1日、発動した後は10時間は失明しますけど」

 

「なかなか使いづらいですねそりゃ」

 

「ま、せっかくチャージしてるんで、1回は使ってみたいですけど。

そもそもこんな術使わないといけない状況なんて、ろくなもんじゃねぇ」

 

「それはそ…おっ?あの廃屋ですかね」

 

森を抜けた先の荒れ野に、ほぼ崩れて朽ちた廃屋があった。

あちこち掘り返されてしばらく経ったような跡と、血のシミがあちこちに残っている。

 

「大丈夫ですか?コレ…お金全部持っていかれちゃったんじゃ…」

 

「うわッ、貯金全部やられてるよ…最悪だわアイツら」

 

「…あの~お支払いの方なんですけども」

 

「フフフ。ご心配なく。金はいくつも分けて保管してありますから」

 

廃屋から若干離れた地面を掘り起こそうとする。

 

「なんかこの辺もボコボコしてませんか、地面。

いや3年経ってるんで、色々あったのかもしれませんが」

 

「そ、そんな事ないでしょ…あれっ?」

 

雑草を払いのけ土を素手で掘り進む。

 

「これ!……は、骨か」

 

掘っても掘っても、出てくるのは人骨ばかり。

死体など、この辺りでは腐肉や白骨、幼児から老人までありふれている。

 

「なんか売れそうな骨とかあります?

少しは返済の充てになるでしょ」

 

「ちょっとぉ!【支払い】から【借金】扱いにシフトするには早いですよ!」

 

「だって全部持ってかれてるじゃないですか…。

さすがに3年も財産を放置したらそうなりますよ」

 

「いや、待ちなさい。

…クッソ、これは使いたくなかったんだけどなぁ…!」

 

青白く輝く短剣を振るう。

 

「主無き番人よ。汝我が声に応え、宝物庫の鍵を開けよ」

 

虚空に穴が開き、2メートル超の石の巨人が現出した。

 

「うわッ!?いきなりはやめてくださいよぉ!

…召喚術まで習得しているとは、驚きですね」

 

「あ、そこ危ないっすよ」

 

「はい?それは…ぎょえっ!?」

 

横にズレた凶星堂の顔のすぐ近くを、石の扉が勢いよく通過した。

巨人の胴体は空洞になっていて、金庫のように分厚い扉が開いたのだ。

 

「ここに、司教暗殺の前金で貰った宝を仕舞っておいたんです」

 

大きな腹の中に、ちょこんと財宝が置いてある。

 

「こいつは金庫マン。名前は…なんだっけ?

遠い昔、ジェト族と契約を交わした精霊だそうです」

 

「こ、こんな収納法があるなら全部ここに入れとけばよかったのに…」

 

「いや~これ貸金庫なんで、量と時間に応じてレンタル代掛かるんすよ。

絶対安全な反面、使い過ぎると赤字になりかねないんで…」

 

財宝を取り出し、両手いっぱいに抱える。

 

『契約者よ。対価を支払え』

 

魂に届く霊音が、声となって2人の脳に響いた。

 

「しゃ、喋るんだ…」

 

「じゃあ、首飾り1つあげるから。これでいいでしょ?」

 

巨人が、薄く光る眼球をじろりとキルエに向けた。

 

『足りぬ……身の程を知れ』

 

「あー?じゃあ金の腕輪!これも付けるから!」

 

『……もう一声』

 

「精霊のくせに欲の皮突っ張ってやがんなコイツ…!

はい指輪!これ以上は無し!」

 

『……よかろう。次もよろしく』

 

巨人は光の粒となって、虚空に溶けていった。

 

「で、余り物で悪いんだけど、どうぞ。

救出と修行とアイテム代、好きなだけ持って行ってください」

 

「あれ、私が決めていいんですか?」

 

「ええ。誠実にお願いしますよ?

俺が助けてやったという事も計算に入れてね」

 

「そもそも私があなたを助けたのが最初でしょお?」

 

「助けた礼は要らないと言いましたよね、あなた。

でも俺は欲しいんです」

 

凶星堂は顔を顰めた。

 

「ったく…はいはい、ちょっとはまけてあげますよ。

じゃあ…このペンダントとイヤリング、ナイフは頂きます。

救出費用が500万、修行費用が300万、購入したアイテム代金が50万。

お礼としてアイテムの代金はまけるとして、しめて800万ですね」

 

キルエの手元に残ったのは、小さな指輪と黄金のベルトだけだった。

 

「むむ…そもそも救出に500万使ったってのが信じ難いんですが。

だって修行費用より高いじゃないですか」

 

「師匠も言ってたでしょ、あの場所は【仙境】という異次元なんです。

あそこに行くには、次元の壁を超えるアイテム【仙人の印可】が必要なんです!

それ相応の値段がするもんなんです!!」

 

「あ~あ、金庫マンに300万くらい持ってかれたし…もう400万分しかないよ」

 

キルエはガックリと項垂れる。

大した蓄えではないとはいえ、さすがに貯金を全て奪われた喪失感は大きい。

 

「そんだけありゃ暮らしていけるでしょ。

どうせ贅沢なんて向いてないんですから」

 

「エライ言われようだな…まぁ、家もメシも森で済みますし事実ですが。

それじゃ、これでしばしの別れという事で」

 

「そうですね…しばらくは気を付けてくださいね。

何しろアレでしょ、魔皇城を乗っ取ったような大悪党に狙われてるんですから」

 

「はは、3年も経ってたら忘れてますよ。

それに敵は魔皇城にいるし、立て籠もってる以上は下手に外出もできないはず。

この辺から離れれば、もう一生会う事も無くなりますよ」

 

「だといいですけどね。

魔皇を倒したとかいう彼らでも苦戦したみたいですし…」

 

「見つからなきゃ戦う必要もないんですよ?

だから、さっさとずらかるとします」

 

「ですね。ではまたいつか…と言いたいところですが。

お得意様なのでコレあげちゃう」

 

何か模様の書かれた紙切れを渡される。

 

「チケット。私に会いたくなったら、これを燃やして。

そこにすぐ駆け付けますから」

 

「これはありがたい!…お金は」

 

「特別サービス。無料なんてめったに無いんですからね!

何か買いたくなった時か…私が恋しくなった時に使ってね?

それじゃ!」

 

「すぐに恋しくなりそうです。

…では、その時また会いましょう」

 

キルエは商人に別れを告げ、そそくさと走り出す。

 

(なんか怖くなってきたぞ…まさかとは思うが、急いで逃げるか。

チッ…何が【薔薇の猟兵隊】だよ気取りやがって。

あんなのに俺の人生グチャグチャにされてたまるか!)

 

特に、グレンすら恐れた戦士アルキュオード。

正面勝負では誰にも勝てない自信があるキルエだが、あの男が相手ではコッソリ背後から暗殺というのも通用しないと考えていた。

 

(面倒くさい事には関わってられるか!退散退散…!)

 

 

 

 

「追跡部隊がやられちゃったよぉ」

 

髭が特徴的な中年の男が、右手に持ったバスタードソードをカチャカチャ鳴らす。

刃が突き立っているのは女の姿をした怪物の脳天である。

その巨大極まる死体の上に、男は腰掛けている。

 

「それがどうかしたか?」

 

英雄のごとく聳え立つ巨体の男が、こともなげに返す。

 

「僕はここから動けないの。魔皇ちゃんの死体を制御しないといけないからね。

ほら、僕が手を抜くとこの城すぐ落ちちゃうし」

 

中年男はつまらなさそうに笑う。

この男…ドゥロワ・ネネルにとって、この状況は退屈極まるものだった。

彼は魔皇の遺骸を介して魔皇城を制御している。動いてはいけないのだ。

それだけではない。

 

「あとほら、この【統制の宝玉】も操らないといけないしさ」

 

ネネルの左手には、常に形を変える宝石のようなものが浮遊していた。

これは、ホイス司教から盗み取ったアイテムである。

部下を洗脳するのではなく、反抗の意志のみを奪う魔道具。

効果が限定的なだけに、脱するのは難しい。

 

「このままだと僕飽きちゃうよ~」

 

「おっと、それは困る。貴様にはまだやってもらわねばならぬ事が山ほどある。

…分かった。詳細を聞いてやろう」

 

この巨悪に対等な口を利くのは、【薔薇の猟兵隊】筆頭、アルキュオード。

ネネルの配下の内で最強、ゆえにその態度も大っぴらに認められている。

 

「今言ったじゃん。勇者くんたちに送った追跡部隊が死んだよ」

 

「しょせんは敗残の魔族と裏切り者の傭兵の寄せ集めだ。

そこまで期待していた訳ではあるまい」

 

「それで片付けられたら話は楽だけどね。そうじゃないのは分かるっしょ?」

 

「…確かに、追跡部隊に選ばれた奴らは、寄せ集めの中ではそれなりだった。

だが相手は魔皇を討ちし戦士たち。不足だったという事だろう。

我らならともかく…」

 

かつての元帥は頷く。

 

「そうだね。だから、行ってくれる?」

 

「俺がか。ふむ……ま、よかろう。

城内での戦には飽き飽きしていたところだ」

 

魔皇城の内部は異界になっており、ネネル率いる軍勢すらも把握できていない。

それを利用し、人類側の兵士たちは未だ根強く抵抗している。

 

【薔薇の猟兵隊】のメンバーたちは、城内各地でその掃討を行なっている。

請け負った区画を早々に殲滅したアルキュオードを除いては。

 

「場所は?分かるのか?」

 

「うん。部隊長には呪いを仕込んでおいたからね。

どこにいても場所が分かるし、彼が死んだら殺した相手にマーカーが移る。

今は殺した相手の位置がハッキリと分かってるよ」

 

ネネルは近くに配置された机を指差す。

 

「そこに置いてある地図。

リアルタイムで位置情報が表示される優れものだよ」

 

「なるほど…この赤い点を追えばいいのだな?」

 

「そ。ささっと片付けよろしく~。

後で増援も送るからさぁ」

 

「要らぬ。足手まといでしかない」

 

巨漢はぶらぶらと手を振って広間を出ようとする。

 

「そう言わないでよ~【薔薇の猟兵隊】はそのうち解体して再編すんだから。

他の子たちとも仲良くしてよ」

 

「…解体?」

 

「そ!キミたち旧メンバーは大幹部【薔薇の七冠】とする。

加えて、こっちについた子たちから優秀なのを選んで、上級戦士【黒猟兵】として扱う」

 

「肩書きにこだわるタイプには見えなんだが、意外だな」

 

「肩書きは大事だよ?だってカッコいいからね!」

 

ネネルは子供のような無邪気さで言い放った。

 

「呑気な事だな、全く…そのくせ警戒心は野生の獣のようだ。

なぜなら手負いの勇者どもを追うのに、この俺を選んだのだからな」

 

「楽しい事に茶々が入るのは嫌だしね。

…あ~あ、キルエくんを見逃したのはつくづく惜しかったなぁ」

 

「言ってくれるな。あの場合は仕方が無かった。

何しろ得体の知れない霧のせいで、追撃もままならぬ有様よ。

まさかあそこから3年間も消息を絶つとは思わなかったがな」

 

「分かってるよね?

キルエくんを殺す任務は、まだ続いてるんだよ?」

 

「…無論だ。勇者もそやつも俺が殺す。

退屈を凌ぐ土産話を待っていろ」

 

「期待してるよ。旧き神の末裔の力にね」

 

〈つづく〉

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