異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第50話 喧伝された勝利

キルエは死闘の後、過度の疲労とダメージで意識を失った。

そして次に目を覚ました時、見知らぬ家の見知らぬベッドに寝かされていた。

 

「…?」

 

「うおっ!起きたか坊主!!」

 

これまた見知らぬ男が、異常に興奮した様子でキルエの手を握った。

 

「あの…あなたは?」

 

「俺もあの場所に居たんだよ!

そんで見てた!坊主があのアルキュオードをぶっ殺しちまったのを!!」

 

「…居た?」

 

戦場となった廃神殿はアルキュオードの拳1発で破壊され、地形はめちゃくちゃに崩壊し、マグマさえ湧き出る地獄と化していた。

あの場所で生存した者が自分以外にいるのは、キルエにとって意外な話であった。

 

「あそこに居たって事は…あの木偶の坊を捕まえに来た人たちの1人ですかね」

 

「そうだ。俺と…俺以外にも何人か生き残ってな。

お、俺ぁもう感動しちまって…」

 

「な、何がっスか」

 

「あのアルキュオードを!お前みたいに小さなガキんちょが倒しちまったんだぜ!

もう痛快でよォ…」

 

男は涙ぐみながら熱く語り始めた。

面倒になったキルエは話題を変える。

 

「有名なんですかアイツ」

 

「そりゃあんなんが居たら噂にもなるだろ!

【蛮神】アルキュオード…アイツが戦いで地形を変えたって場所が、そこかしこに残ってんだ。

何百年も前から生きてるとか…神々と争ったとか…」

 

「はぇ~、そりゃ随分と御大層な伝説ですこと。

でもアイツ自分から名乗ってませんよ、よく分かりましたね?」

 

「顔は手配書にもなってたし知ってたんだよ。

でも俺も本物を見たのは初めてだった…あの力を見て心が折れちまって。

なのにお前さんは、パンチ1発でぶっ殺した!スゲェよ!!」

 

「パンチ…」

 

アルキュオードにトドメを刺した【怨邪絶死拳(ジェトゥ・ゴドラングエ)】は、右拳を胸に打ち込む動作で発動させる。

パンチで殺したと思われても仕方ないだろう。

 

「ええと…それで、俺を助けてくれたんですか?」

 

「あのまま放っとく訳にいかんだろ!

それによ、お前さんだって手配書に乗ってるじゃないか!

顔見た事あるぜ、【忌み屋】って…」

 

「…ッ!!」

 

掛布団を跳ね除けて飛び上がり、痛みに悶える。

 

「いだだだっ!」

 

「おおっと!ジッとしとけよ、そんな身体で無茶すんな!

大丈夫だって通報なんざしねぇよ!前に見た時と顔がまるで変わってないんで、むしろ気付くのに遅れちまったがな!」

 

「前に…?」

 

「俺は元々傭兵でよ、お前さんの姿を見た事があんだよ!

でもまさか、ここまで強ぇとは思ってなかったぜ!

あのバケモノと正面から渡り合って、最後にゃ素手で勝っちまうとはよ!」

 

「いや…まぁ、ハハハ」

 

男はすっかり感動しきりのようで、キルエをべた褒めした。

 

(…こんな褒められても、全然心が動かない。

なんか、俺…なんのためにこんな危ない生き方してるんだっけ?)

 

勝利を実感するにつれ、虚しさばかりが胸を占める。

 

(まぁいいか。生き延びたんだし。

それよりこれからの事が不安になってきたわ~…)

 

冷静な頭で考えて、しでかした事の面倒さを思い知る。

そもそも魔皇城のイザコザに関わるつもりなど無かったのだ。

 

「…あ~、とにかく、ええと…この事は内密に…」

 

「えっ!?…わ、分かった」

 

「な、なんですかその反応!もしかしてもう言っちゃったんじゃ…」

 

「俺は言ってねぇ!言ってねぇけど…」

 

男は気まずそうに、懐から紙束を取り出した。

 

「【神眼新聞】……まさかっ」

 

一面の見出しには、こう刷られていた。

『狂える蛮神死す 魔皇城浮遊事件と関連か?』

 

「こ、これは…」

 

そしてもう一つ、【ゼスト・マガジン】の方はもっと露骨だった。

 

『伝説の【忌み屋】は生きていた!? 半神屠る奇跡の一撃!』

 

「……」

 

「あ、あの場には俺以外にも何人か生き残りが居てな…。

まぁその…そういう訳だ」

 

キルエは無言で立ち上がる。

 

「ちょ…まだ無理しないほうが…」

 

「…もういいです。外で儀式を済ませてきます。

悪いですけど、必要な資材をいくつかいただきますよ」

 

「ぎ、儀式ぃ?」

 

「これでも色々大変なんです。

ウチの部族に伝わる風習でして…ほら、準備手伝ってください!忙しいんですから!」

 

「お、おう…」

 

「心配しなくても長居はしませんよ。

儀式を済ませたら早々にトンズラこくので」

 

 

 

 

 

 

魔皇城内の乱戦は、未だに続いていた。

 

正規軍の騎士が1人、魔族の大剣を受け止めながら膝をつく。

 

「く…!」

 

「死ね…死ねェ!!」

 

頭を割られるすんでの所で受け流すが、兜が外れて騎士の顔が露わになった。

 

「けッ、女か…弱ぇくせに出しゃばるなよ!」

 

「確かに…弱いくせに偉そうな奴は目障りだな」

 

「ッ!?」

 

背後から雷を纏った拳を喰らった魔族は、悲鳴も上げずに絶命した。

 

「だらしがねぇな、軍人さんよ」

 

「助かった。命乞いせずに済んだ」

 

「正直だな。騎士はプライドが高いもんだと思ってたが」

 

「命乞いで私のプライドは傷つかん。

そもそも忠誠心も大してある訳じゃない」

 

「うぉおおおおおりゃぁあああああボケがぁああああ!!」

 

「な、なんだなんだ!?」

 

猛獣のような叫びと共に血が舞う。

壁を突き破って現れたその騎士は、剣の一振りで敵の群れをくず肉に変える。

 

「…あの人が来たか。大勢は決したな。

あの人を見ていると、命がけで戦っているのが馬鹿らしくなる」

 

「アンタはキャメロットの騎士か。

…アレが噂に聞く【皆殺しの】ランスロット卿だな」

 

「そうだ。【円卓の12人】に会話は通じん。

王宮で殺し合うのが日常の狂人集団だぞ、その筆頭があの方だ。

…私たちなど、所詮戦の趨勢には何ら関わる事などない」

 

「そこは同意見だが…そうは言いつつ、まだ戦ってるじゃないか」

 

「それを言うなら貴様もだろう。私のような宮仕えでもないくせに…」

 

「俺か。確かに、俺の周りにいた奴らはほとんど向こうについたな。

で、傭兵がチームを組んでて意見が割れると多数決を取るんだが…少数派を殺すって風習があんのよ。

少数派がチームの足を引っ張る可能性があるからな」

 

「野蛮だな、まぁこの土地では珍しくもないが」

 

「で、俺はそっから逃げてきた。どうしても裏切りたくなかったんでな」

 

「…ハッ。貴様の方がよほど忠誠心が高そうだ」

 

「そんな高尚なもんじゃねぇよ。勇者って言われてるガキどもと会った事があんのさ。

アイツら、マジでただのガキなんだぜ。俺の息子っつってもおかしくねえ歳のな。

なのに諦めず戦い続けて、ついには魔皇を殺りやがった」

 

女騎士は、皮肉めいた表情を浮かべる。

 

「その勇者たちも、城から逃げたと聞くぞ」

 

「ああ。そして絶対に帰ってくる。アイツらはそういう奴らなんだよ。

…お前も、何かを信じているからまだ戦っているんじゃないのか」

 

「私は先の見通しが出来ているだけだ。

裏切り者の傭兵ども…アイツらは馬鹿丸出しだ。

私のように将来設計をきっちりしておかないから、戦争が終わりそうになって慌ててる」

 

「お前はどうするつもりだ」

 

「国に帰ったら即引退して、結婚して子供を作る。まだ相手はいないが。

いつまでもこんな仕事などしていられるか」

 

「ハハ、ちゃっかりしてるんだな、騎士ってのも。

憧れるものか?そういう暮らしに」

 

「姉が早々に結婚してな。

子育てが煩わしいだの文句を垂れる割に楽しそうでな…」

 

ランスロットが敵を蹂躙し始めた事で、2人を始めとする兵士たちは闘志を削がれていた。

だがそれは、むしろランスロットの邪魔にならないという点で功を奏してすらいた。

他の味方が加勢するより、この男1人に暴れさせた方がよほど有効だからだ。

 

「邪魔じゃあボンクラ共がァ!!

いつまで雑魚でシラケさすつもりじゃ!大将が出て来んかい、大将がァ!!」

 

暴虐の騎士は叫んで、敵を3人まとめて両断した。

余波で背後の敵数名が葬られる。

 

(あの方の活躍を見るたび、己の弱さを思い知る。

私も軍に入った当初は一流の騎士を目指し、その道に生涯を捧げるつもりでいたが…)

 

生物としての規格が違う。

魔族と相対する度に、そしてそれを一瞬で殺戮する円卓の騎士たちを見る度に思う。

 

(バカバカしい。あんなものに、訓練した程度で追いつけると?

こんな戦いは馬鹿げている…)

 

しかし、と騎士は思い返す。

 

(勇者たちの名は聞いている。女神の血を引く少年が率いる一行と。

ただの未熟な傭兵に過ぎなかった少年たちが、実力をもって結果を示し、ついに連合軍の信頼を勝ち得た。

まさに美談だな)

 

嫉妬どころか何の感情も湧かぬほど縁遠い話だった。

だが勇者に会ったという男が、今自分の隣にいる。

そして勇者の存在が、その男を奮い立たせているのだ。

 

「…なぁ、一つ聞きた…」

 

真横を向いた騎士の視界に、虹色の花が入った。

 

「…!!?」

 

自然物としてはあまりに不気味な色彩を常に流動変化させつつ、あちこちの地面から生えてくる。

そう、石造りの床からだ。

 

「なんだコレは…おい、大丈夫か!?」

 

傭兵の男に呼びかけようとするが、彼どころか周囲から誰もいなくなっていた。

本来ならやかましく騒ぎ立てそうなランスロットすら。

 

(植物の魔法か…?しかしこの地面では根を張れないはず…!

何より他の連中はどこへ行った!?)

 

騎士の背丈ほどまで伸びた花たちは、突如花弁を散らせた。

 

(クソッ、コレに触れるのはマズい…!)

 

だが滝のように降り注ぐ花びらの雨を全てかわし切る事など到底かなわず、何枚か触ってしまう。

 

(う…身体が急に重く…毒か…?)

 

その重量はやがて騎士の下腹部に集まり、冷たい違和感を帯びさせた。

それは騎士にとって…女として心当たりのある感覚だった。

 

(嘘。…こんなの)

 

ズルリ、と音がして重みが股座を通りぬけていく。

股間から這い出てきたのは、溺死体めいて緑黒色の胎児。

 

「ま、ま。」

 

「なんだ…なにコレ…ふ、ふざけ…」

 

「まま。まま」

 

胎児はニタリと笑いながら騎士の身体を這い上る。

 

「や、やだっやだ!くるな!こ、こないで…!!」

 

「まま…」

 

「違う!こんなの私の子供じゃ…」

 

剣を振り回して胎児を引き剥がそうとした騎士は、頭に強烈な衝撃を受けて転倒した。

 

「ぎゃっ…!!?」

 

朦朧とする意識の中見上げた彼女の目に映ったのは、拳を血に塗れさせたあの傭兵の男だった。

 

「なん…で…」

 

男もまた、茫然と絶命する女騎士を見下ろしていた。

 

(何をしてる?俺は…)

 

突然奇妙な花びらが降ってきたかと思えば、男の周りに化け物が大量発生し、必死に対応していたハズだった。

だが今倒した化け物は、気付くと女騎士になっていた。

 

ふと辺りを見回すと、味方同士で斬り合い、殴り合い、殺し合っている。

 

(ダメだ…コレは。そうだ、止めないと…)

 

男が自由の利かぬ手足を動かそうとした瞬間、顔面をいきなり殴り飛ばされて気を失った。

 

「っしゃあボケがぁ~ッ!どんどん来いやァアア!!」

 

幻術に取り込まれた事を察知したランスロットは、敵味方が判別できないため、素手で全員気絶させる事に決めたのだった。

 

「寝ろ!邪魔じゃ雑魚カス共がァ!!」

 

人魔問わずその拳の一撃で、次々と意識を奪っていく。

そしてものの数分で全員を地に沈めてみせた。

 

「はよ出て来いっちゅうんじゃ!

このつまらんガキの遊びを止めて姿ァ晒さんかい!!」

 

「おやおや、全く乱暴な方だ…」

 

地面を埋め尽くす花弁が寄り集まり、再び散る。

そこに現れたのは、カソックコートに山高帽、目出しの覆面を纏った奇人。

この男、世界最高峰の幻術使いにして、アルキュオードと並ぶネネルの切り札。

 

「私、夢を紡ぐ奇術師ガスマと申しま…」

 

刃が空を切る。

 

「おおっと!これはこれは…どうやらせっかちな御仁のようだ。

しからば、さっそく本題に入るといたしま…ぬおっ!?」

 

刃の猛りは止まる事を知らず、あちこちに出現しては消えるガスマを正確に追いながら攻め立てる。

 

「ハハハ!全く、食えないお方ですなぁ!」

 

「しょうもない話聞いてほしいんなら、斬られながらでも喋る気概を見せんかい!!」

 

「ではそうしましょう」

 

ランスロットの胸当てを突き破り、ガスマの顔が飛び出す。

 

「…アホウが」

 

埃のようにパッパッと手で払うと、あっさりと掻き消えた。

胸当ては何事も無い。

 

「むむ、引っかかりませんか。

大抵の方はパニックになって自分の胸を突き刺してしまうのですが」

 

「多少はおもろい事が出来るようじゃが…結局ワシに傷ひとつ付けられん。

意味無い事するくらいじゃったらとっとと死なんかい」

 

「確かに、攻撃の方はそうかもしれません。

しかしどうでしょう、貴方もまた私にダメージを負わせる事は…」

 

マーリンから授けられし聖魔剣アロンダイトが、ガスマの首を刎ねる。

頭部を失った胴体は、庭に水を撒くスプリンクラーのように、血液の雨を降らせた。

 

「ダメージを負わせる事は?何じゃい?」

 

「…できない、ですよ」

 

そして降り注ぐ血はランスロットの身体に付着し、鎖となって拘束した。

足元の血溜まりから、ガスマが復活してくる。

 

「たかが幻とはいえ、先ほどのように簡単には振りほどけませんよ。

そして『傷ひとつ』とおっしゃいましたか…」

 

黄金のステッキをどこからか取り出し、掌で弄ぶ。

 

「私の幻は人を幸福へと導くもの。武器ではありません。

まだ攻撃など一度もしていませんよ?

それに――」

 

ステッキの先端が閃くのを見て、ランスロットはとっさに離れる。

だが拘束によって動きが制限され、肩に一撃を受けた。

 

「武器など、このステッキ1つで充分ですから」

 

肩鎧は粉々に砕け散っていた。

 

「…最初っからそうせえ、ボケ」

 

ランスロットの悪態には、紛れもない喜色が混じっている。

ガスマが強者であると分かったからだ。

 

(こういった図々しい方には、幻が効きにくくていけません。

あまり乱暴な手段は趣味ではありませんし、適当なところで撤退を…)

 

『皆、ちょっといいかな。連絡』

 

その時突然、主の聲が脳に響く。

 

『アルキュオードがね。死んだよ』

 

「ほほう!それはそれは…………なんと?」

 

『生命の水晶が砕けたから、まず間違いない』

 

一斉連絡では、声の送信しか行えない。

故にガスマの問いは無視された。

 

(これは…本当に緊急の連絡ですな。

そうか…あの方が死んだか……いやはや驚きだ)

 

主の声に動揺は無いが、同時に感情も無い。

そういう時のネネルは頭を働かせる事に集中している。

つまり、非常事態だ。

 

「…失礼、ランスロット卿。

少々事情が変わりまして…逃げ帰る訳にはいかなくなりました」

 

「元から逃がすつもり無いんじゃアホが」

 

「全力を挙げてお相手させていただきます」

 

〈つづく〉

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