異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第51話 円卓血風伝 無敵の幻と最強の剣

浮遊した魔皇城内での抗争は激化を極め、今だどちらにも軍配が上がらぬまま死体だけを積み上げていた。

そんな中、城内の2大勢力でも屈指の強者が激突する。

無敵の幻術使いガスマと、最強の騎士ランスロット…その戦いは実質千日手であり、争いを好まぬガスマは程よきタイミングで戦いを切り上げようとしていた。

 

だがそこに、『半神の英雄アルキュオード死す』の報が入る。

ガスマは状況が変わった事を理解し、ランスロットの首を持ち帰ろうと決定した。

 

「全力を挙げてお相手させていただきます」

 

「はなっから本気を出せんから、お前は死ぬ。

もうこっちは温まっとるわ」

 

「フフフ…手足を拘束されてそんな事を言えるのは、貴方くらいのものでしょう」

 

ランスロットの手足は幻術の鎖によって縛られ、動きを大幅に制限されている。

幻と分かっていてなお、脱する事が出来ずにいるのだ。

 

(とはいえ、彼相手では長く保ちませんね。

効いているうちに叩かせていただきましょう)

 

ステッキの突きが、ランスロットを襲う。

決してにわか仕込みの技ではない。一撃一撃が意識を刈り取る威力を秘めていた。

 

「何を調子づいとんじゃこのマヌケがァ…!

多少動ける程度で、ワシに攻撃が当たるかい!!」

 

(ええ、でしょうね。だから伏兵を置いているのですよ)

 

見えざる刺客は、既にそこに居た。

 

(正確には、『居るはず』…ですかねぇ。

最大出力時のリュエンさんは誰にも感知できませんからねぇ)

 

ガスマと同じ幹部であるリュエンという女は、生まれながら透明化の魔法を持っていた。

だがリュエンの体質が特異なのは、あらゆる手段でも見破れないほどの強力さと、それを自分で制御できる事だった。

 

(鎖を破る時、隙が必ず生じる。その一瞬でリュエンさんには充分でしょう。

後は私が気を引き付け続ければ…)

 

「…しょうもないのォ」

 

猛烈なステッキの連撃をかわしながら、ランスロットは全身に力を込め続ける。

そしてピタリと一瞬動きが止まり、続いてパキィンと甲高い音がして、幻術が破壊された。

 

(そこですね!)

 

叩き込まれたステッキの一撃。

ランスロットの上半身が蛇のようにのたうって回避する。

人間離れした動きであった。

 

「…おやおやまぁ!」

 

「狙いがバレバレじゃ、ボケェ!」

 

わずかに掠った背中の装甲が抉れたが、肉体には傷ひとつ無し。

ランスロットの反転攻勢が始まる。

 

「死ね!!」

 

アロンダイトの斬撃を幻術によって回避しつつ…ガスマはほくそ笑んでいた。

 

(鎧の一部は剥がれ、ランスロット卿の意識は私に向いている。

…今ですよ)

 

「うらァ!るァ!あああああ!!」

 

ランスロットの勢いは止まらず、ガスマは後退を迫られる。

 

(…おや。まだ攻撃しないのですか?

リュエンさん…まさか退却した訳でもないでしょうが…)

 

思案を巡らせつつ幻術で目をくらませて下がろうとした。

 

「…これはこれは」

 

しかし実際には後退せず、その場で回避した。裾が斬られて宙を舞う。

 

「なるほど、いつの間にやら…ですな」

 

「あぁ!?…チッ、この糸は!」

 

広間全体に、糸が張り巡らされていた。

その糸に掠りでもすれば、何らかの罠に襲われていたであろう事は明白だった。

 

(この糸のせいで、リュエンさんはランスロット卿に近づけなかったようですな。

リュエンさんはあくまで姿を消すだけで、すり抜けられる訳ではありませんし)

 

「はい皆さん落ち着いて!

糸に触ったら即死すると思ってくださいね?

武器で斬ろうとしても同様なのでヨロシク」

 

嘲笑うように宣言しながら、その男は入って来た。

 

「…トリスタン。余計な事しくさりよってボケがァ」

 

「あ、ランスロット卿も動かない方がいいっすよ。

糸に触れたらどうなるか知ってるっしょ(笑)?」

 

円卓の騎士の1人、麗しきトリスタン。

彼が操る魔法の糸【フェイルノート】は弓の弦である。

術者以外が触れればその者の体内から無数の矢が飛び出す。故に回避はできない。

 

「…ま、そういう訳だから。

あなた方、テロリストの偉い人なんでしょ?

いい加減この無駄バトル終わらせたいんで、死んで貰っていいすか」

 

「私など、所詮は道化。大した価値は無いと思いますがねぇ」

 

「でも、敵幹部2()()の首なら獲る価値アリでしょ」

 

「2人、ですと?」

 

「とぼけちゃダメですよ。姿を隠せる奴が居るでしょ?

兵士たちに聞き込んだり、死体の状態を調べたりしてみたんすけどね。

こりゃどう考えても【不可視の敵】が居るとしか思えないんですよ」

 

「…それが事実として、ここに居るとは限らないのでは?」

 

「事実なんすね、その言い方だと。

語るに落ちるって感じで最高に滑稽です」

 

「おおっと…」

 

ガスマは大げさに口元を隠した。

 

「ほら、ランスロット卿。早く殺してくださいよソイツ」

 

「あァ!!?テメェから殺すぞボケが!!」

 

「御託はいいからさっさと殺れって(笑)」

 

「ッ!!…上等じゃ、テメェは2番目にしといちゃるわ」

 

アロンダイトを振りかざし、兜の隙間から憤怒の息を漏らす。

 

「しゃァあああああッ!!」

 

「1つ、よろしいですか?」

 

攻撃を幻術で逸らしてギリギリで回避しながら笑う。

 

「2人の首とおっしゃいましたが…正確には3人ですな」

 

「へえ?そりゃいったい…」

 

軽口を返そうとしたトリスタンは、真顔になって振り向く。

そして背後から振り下ろされたナイフを籠手で受け止めた。

 

「ちょっと~バラさないでよガスマさ~ん」

 

「ハハハ、すみませんね。

この糸があるとどうにも幻術でも逃げづらいのでね…彼を倒していただけるとありがたい」

 

刺客は鷹揚に頷いた。

 

「よろしい。頑張りましょ」

 

「あんた誰?糸が張ってあったと思うんですけど?」

 

仮面を着け、全身タイツのような装束の男。

 

「どうも、ツルードって者です。糸は…」

 

言い切る前に抜き放たれたトリスタンの剣は、ツルードの側頭部に直撃して反対側へと突き抜けた。

…しかし、手ごたえはなかった。

 

「すり抜けて来ました。こんな風にね」

 

あらゆる物質も魔法もすり抜ける特異体質…それが彼の能力。

研究者として一流であるネネルすら、その原理も分類も解明できずにいる。

 

「偉い人?」

 

「えら…あぁ、そうだよ。俺も幹部って奴の1人だ」

 

「やれやれ、持ち帰る首が1つ増えちゃいましたね」

 

「自信アリアリだね」

 

「ええ。あなた弱いでしょ?」

 

「それは事実だな。俺、元々工作員なもんで。

しかしこの状況じゃ俺が出張るしかないし…ハァ」

 

ツルードはガックリと項垂れ、つかつか歩み寄る。

トリスタンが突き出した剣も、腕も、身体もすり抜けて、2人はちょうど重なった。

 

「うおっ」

 

「でもね、人殺すのは簡単なのよ。

こうやって鎧脱がせてさぁ」

 

バチン、と音がしてトリスタンの鎧が外れる。ツルードはただ、鎧の内側からロックを外しただけだ。

 

「で、剥き出しになった身体にナイフを突き刺して…」

 

トリスタンは素早く転がり、距離を取る。

 

(ふ~む。ただ全身すり抜けるだけなら、歩く事すらできないはず。

鎧だって、触らないと脱がせるのも無理だし。

こりゃタネがあると見たね)

 

そして両手を広げ、捧げるように頭上に掲げた。

 

「ごめんねランスロット卿。そっちはそっちで上手くやってくれる?

ちょっと集中モード入るからさ」

 

「ハッ、情けねぇのう。

ま、せいぜい苦戦しとれや!こっちで全員殺しちゃるわ」

 

周囲に張り巡らされていた糸が、トリスタンの両手に集まる。

そして純白の弓を形成した。

 

「……フェイルノート、第二段階」

 

弦を引くと、光の矢が形成された。

 

「知ってるかな?ウチの国を作ったのはマーリンって爺さんなんですけどね。

あの人まだ生きてんの。で、直接教えられた術がコレ。

…術の名も、その爺さんが決めたらしいよ」

 

光の矢が放たれる。

 

(なんか、ヤバいか?)

 

ツルードはとっさに飛び退くが、矢は思ったより飛ばず足元に刺さって消えた。

 

「…っ?」

 

「名は【白き手のイゾルデ】…そういう術だ」

 

地面から、無数の矢が飛び出してツルードの爪先を貫いた。

 

「いでッ…!?」

 

(命中した!さっすが俺、天才すぎるな。

たぶん、アイツは足裏だけを実体化させている。だから地面を歩ける。

実体を消しているはずの足の甲までダメージが貫通したのは、嬉しい誤算だけど)

 

ツルードの能力には、そのような性質があった。

例えば手のひらだけを実体化したとする。

手の甲からナイフを刺しても手のひらまですり抜けるだけだが、手のひらからナイフを刺すとダメージが手の甲まで貫通する。

 

「やっぱ…慣れない事はするもんじゃねぇな。

着弾地点から矢が飛び出すって仕組みかい?」

 

「そうそう。だからさ、足元に気を付けた方がいいですよ。

これから地獄になるからね」

 

でたらめに光の矢を放った。

ツルードはあえて前に進み、矢を身体で受けに行く。

矢はツルードの身体を抜けて、後方の地面に着弾する。

 

「ナイフを持てるって事は、掌も実体化してるのかな?

あと、着てる服ごとすり抜けてるでしょ。しかもその服すごく薄いよね。

つまり体表を膜で覆ってその部分だけをすり抜けさせる、そういう性質の能力だ。

…合ってる?」

 

着弾したのは地面だけではない。壁からも、無数の矢が飛び出してくる。

前方以外のあらゆる方向から、矢が迫る。

下がれば足元の矢の餌食になる以上、ひたすら前に進むしかない。

 

「さぁねぇ!俺もよく知らんよ!!」

 

「そうそう、そうやって俺の方に進むしか、アンタの道は残されてないんだよ」

 

白い弓が翼を広げるがごとく巨大化し、黄金の輝きを放ち始める。

 

「フェイルノート第三段階。【麗しきイゾルデ】」

 

「ハハハ!どんな威力だろうと、すり抜けちゃえば……ッ!?」

 

弦が引かれるのを見た瞬間、ツルードは言い知れぬ恐怖に襲われた。

 

(マズい。何か知らんが、多分俺にも効く術だコレ。

…しゃーない、離脱するか!?)

 

足裏の実体化を解除すれば、即座に地面を通り抜けて逃げられる。

だがこの城内は現在空間がめちゃくちゃに繋げられており、へたに床をすり抜けるとどこへ出るか分からないリスクがあった。

 

「これ、弓のくせにこの距離じゃないと当たんないの。ダルいっすよね!

じゃ、死のうね」

 

(クソッ、判断遅れたか…ッ!?)

 

ドッ。…という音は、矢と剣戟に紛れてかすかにツルードの耳へと届いた。

 

「おっ…!」

 

「ぐ、がぁあああっ…」

 

トリスタンが、突然背中から血を噴き出して倒れた。

 

「やるじゃん、リュエンちゃん!見えないけど、そこに居るよね!?」

 

「…見えない敵。まさか、足音も…衣擦れの音すらしないとは、ね…!

しくった、か…!」

 

背後からの一突きが、深々と肉体に突き刺さっていた。

 

 

 

 

ところで、そんな血で血を洗う闘争など(キルエ)には無関係だ。

 

「あ~いい湯…」

 

キルエは温泉に浸かりながら、酒に舌鼓を打った。

読者の皆さんの世界では未成年飲酒だが、見逃していただきたい。

 

(【聖なる泉】っつーから回復ポイントみてーな名前だと思って立ち寄ったけどよ)

 

あれから神への奉納を終えたキルエは、慌ただしく家を出た。

そして人気の無い方へと逃げて、ほとぼりが冷めるまで身を隠す事にした。

 

「人はいねぇし、金もいらねぇし、ホントいい場所見つけたわ~…」

 

山奥にある、無人の村。

つい最近まで人が住んでいた形跡はあるが、今は死体一つ存在しない。

そして暖かい温泉だけが残っていた。

 

(…その辺がどうにも気味悪いんだよなァ。

家も荒れてるってほどじゃないし、この温泉だって受付と脱衣所まで作ってある辺り平和な村っぽいんだがな。

惜しいが長居はやめとくか…)

 

彼は今、南方戦線を脅かしている事態に一切興味が無い。

他人の事情には首を突っ込みたいが、それに巻き込まれるのは嫌だからだ。

 

(勝手に殺し合ってろっての…くだらねぇ)

 

「私はもう限界だ、早く泉に浸かろうエリン」

 

「そうだね…いや~本当に危なかっ…」

 

その時脱衣所から、2人の女の声がした。

 

(!!?)

 

「…コレ、誰の服?」

 

「本当だ…おい、誰かそこに居るのか?」

 

キルエは一瞬の逡巡の後、正直に声を上げた。

 

「ど、どうも!他にも人いたんですね!」

 

「……この、声は!」

 

「え?」

 

扉が勢いよく開かれた。

開いたのは2本の角を生やした女。露わになった裸体の各所が鱗で覆われている。

眼球は丸ごと黒くなっていて、瞳は金色だった。

 

「ちょ、ちょっとメルト!?せめて服を着直してから…」

 

追って現れたのは、真っ青な肌の女。こちらは甲冑を身に着けている。

 

「きゃっ、男の子!?

……どうしたのメルト?…知り合い?」

 

「ああ…」

 

角の女、メルトは因縁深そうにキルエを睨みつけた。

キルエに言える台詞は1つだけだった。

 

「…誰?」

 

〈つづく〉

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