異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第53話 ビクビク身の上トーク

半神の戦士アルキュオードを倒した事が盛大に報道され、身を隠さざるを得なくなったキルエ。

山奥に無人の村を発見し、【聖なる泉】と称される温泉に浸かって悦に入っていた。

 

しかしその時、2人の少女が突如として現れ…

 

「お前は…!」

 

「…誰?」

 

向こうには心当たりがあるらしいが、キルエには全く無かった。

 

角のある女が言う。

 

「…まあ、そうか。お前にとっては、数ある仕事のうちの一つに過ぎんだろうな。

お前昔、ドラゴンの骨の密輸犯を襲撃した覚えはないか」

 

「え?…あ、ああ、ありましたね」

 

その時強奪した素材の一部は、神獣を召喚する道具【神臣の刃】として重用していた。

 

「その密輸犯がこの私だ。お前には散々にやられた」

 

「「あっ!」」

 

キルエとほぼ同時に、背後の女が驚きの声を上げた。

 

「この人が、噂の【忌み屋】キルエ…!?」

 

「…あー、その節はあの、大変にご迷惑を…」

 

落ち着きが無くなるキルエと対照的に、その女は冷静だった。

 

「いい、昔の事だ。それにお前の方も色々とあったようだからな。

…改めて、名乗ろう。私はメルト・バストラ。魔族を父に持つ半魔だ」

 

背後の女が慌てて布を被せた。

 

「名乗る前に、服を着直したら?

…あ、私はエリン。よろしく。私も半魔だから」

 

その女は青い肌をしており、見ただけで魔族の血を引いていると分かる。

 

「はぁー、それはそれは。

御苦労も多かった事でしょう」

 

「この状況で話を続けるのも良くない。

…温泉から上がって話をしない?」

 

「え?あの、でも…もう用ないでしょ?」

 

「って言ってるけど…どうする、メルト」

 

呼ばれた女が頷いた。

 

「場合によっては、お前にも関係のある事だ」

 

「…なるほど。伺いましょう」

 

そう言いつつも、キルエはどう彼女たちから逃げるかだけを考えていた。

 

(俺に関係ある事なんかないんだよ、何も!

仕方ねぇ、温泉は惜しいけどバックレるか)

 

3人は温泉施設から出て、廃屋の1つに入った。

キルエは『身体を拭くから先に行ってほしい』と言ったが、2人はキルエが出てくるまで待っていた。

 

(…疑われてる、か?)

 

「さて。そちらが良ければ、身の上から軽く話していこうと思うのだが」

 

(ま、時間は稼いだ方がいいな。

話が長いと雰囲気がダレて、油断しやすくなる。その隙を狙うか)

「ええ、どうぞ」

 

まず話し始めたのは、メルトだった。

 

「お前にやられてから、ドーラムという老人に捕らえられてな」

 

(…あ。思い出した。そういや頭のおかしい爺さんに身柄を引き渡したんだった)

 

「憲兵を名乗っていたが、おそらくは無関係の人間だろうな。

自宅に牢獄を作って、そこに罪人を監禁しては更生させようとしていた。

私もしばらく奴と暮らし、まぁ…実際それなりに世話になった」

 

ドーラムという老爺、傭兵界では名の知れた狂人だが善性の男でもある。

違法に犯罪者を閉じ込めながらも、その更生に懸ける熱意は本物であった。

 

「更生したと判断された私は、そこを出されてな。しばらく旅をした。

その過程で、グレンたちと出会った。

…お前が【忌み屋】と呼ばれる傭兵だというのも、奴らに聞いた」

 

「グレンって…え?勇者の?

マジで?知り合いだったんです?」

 

「知り合いというか…仲間のつもりだ。

個人的に魔族には因縁もあってな…共に立ち向かう事になった。

そしてこっちの…エリンとも出会ったのだ」

 

会話を引き継ぐ青肌の女。

 

「そう。私は当時、魔族の下に身を置いていた。従者だったの」

 

「あれですか。出会った時は敵同士だった2人は、いつしか友情を育み…ってやつだ」

 

自分で『時間を稼ごう』と画策しておきながら面倒になったキルエは、話のオチを先取りした。

 

「なるほど、いかにも物語的ではあるか。

だが現実に体験した身としてはあれこれ苦悩したのだ」

 

「そうだね。

…私を傍に置いたのはゴブリンの王だった」

 

「エッッッッッ!!?」

 

奇声に、2人の女が目を剥く。

 

「ど、どうした!?今までで一番大きな反応だが!」

 

「い、いえいえ何も!あの、うん。どうぞ続けて」

 

「…で、その人は私をちゃんと生活させてくれた。

私は人間に迫害された過去から、感情を封じ…あの人の道具になった。

幸い私には鑑定の能力があって、役には立てた」

 

両者、外見で分かるほど魔族の特徴がハッキリ出ている。

それ故の苦しみは、2人の心を通わせた。

 

「その人は、【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカという公爵級の魔族。

グレンたちは彼を倒しに来て、そして認められた」

 

「…倒した、ではなく?」

 

「そう。ザバダカ様は戦いが何より好きだから…強い敵をお望みになる。

グレンたちの言葉に応じて…魔皇に挑む事を決めた。

だから私は付き従った。始めはただそれだけだった」

 

「はぁ。でもメルトさんと友達になって、自分の意志で魔皇に立ち向かおうと決めた訳だ。

色々あるんですねぇ」

 

「露骨に端折ろうとしないでよ、実際そうだけど。

…でも、あの人は裏切った」

 

「その、ゴブリンキングさんが?」

 

エリンは首肯した。

 

「正確には裏切るというより、魔皇が斃れたから次の戦いを求めただけ。

でもとにかく、今魔皇城を支配してるドゥロワ・ネネルの側に付いた」

 

「そりゃ許せませんねぇ」

 

「別に…あの人はそういう人だから。

でもケジメとして、彼は私たちが討つ」

 

「…つまりだ」

 

また交代し、メルトが話し出す。

 

「私たちはグレンたちの仲間として、奴らを倒すために行動している。

…そしてお前は、奴らの中でも最も強大なアルキュオードを殺した」

 

「げッ!も、もう広まってんの!?」

 

「雑誌や新聞くらい、私たちでも読む。特に大きく報じられていたからな。

それだけの事をしたのだ、お前は」

 

「話が見えてきましたよ…つまり、目的は同じだから手伝えって?」

 

言葉は無く、2人はただ頷いて肯定した。

 

「いいですか…俺は弱い。戦力にはならないですよ」

 

「弱い奴があのアルキュオードを殺せるものか。

奴は神の子!栄華を誇った古代ダルギア人の都市を滅亡させた、生きる災害だぞ!

…そして今は死んでる。お前が殺したんだ」

 

「あの…アレは偶然で。

アルキュオードが最強の存在であるからこそ、実力ではなく奇跡の勝利だったとは考えられませんか?」

 

「当然、幸運ではあったのだろう。だが運だけでは勝てんよ。

それはプロの傭兵であるお前の方がよく分かっているはずだ」

 

『自分は弱いので』、といういつもの言い訳が、今は通用しない。

改めて、自分のしでかした事の重大さを思い知らされるキルエ。

 

「【忌み屋】の名は、かつて戦場の恐怖そのものだった。

そして今また、その名は復活した。

お前の力を借りたい!」

 

「魔族の中でも噂されてた。あなたに狙われたら必ず無残な死を遂げる。

あなたの名が抑止力となって、多くの魔族が侵攻を諦めたって」

 

(え?俺そんなに評判だったの?

承認欲求満たされる~!でもクソめんどくせぇ~!)

 

2人の熱意は、意外なほど強かった。

 

「こと”殺す”という行為において、お前の右に出る者はおるまい」

 

「いや…殺すの殺さねえのって大げさですって!

武器があったら赤子でも人が殺せるんだよ!

問題は()()殺すかだ!強い奴は強い奴にしか殺せないの!」

 

「じゃあアルキュオードを倒したあなたは強いんじゃ…?」

 

「うぐぐ…っ」

 

キルエに残された道は、『話を変える』以外になかった。

 

「だいたいアンタら、こんな誰もいない村に何しに来たんだよ!

俺に構ってる暇ないんじゃないの!?」

 

メルトは己の気勢をぐっと呑み込み、語調を整えた。

 

「…この村は、聖なる泉を守る一族によって運営されていた。

泉の疲労回復効果を売りにして、旅人相手の商売をしていたらしい」

 

話の流れを変えた事に安堵し、キルエは手で続きを促した。

 

「だがこの平和な村に、刺激を求めた若者を取り込んだ邪教が蔓延した。

…その本尊が、本物の邪神だったようでな。ある日の儀式で、ついに接続してしまった」

 

「せ、接続?」

 

「神の権能に、な。そして召喚してしまった…邪神の眷属をな。

眷属はその悍ましき力によって、村人たちが逃げる間もないうちに食らい尽くしてしまった。

私たちがこの村を調べて分かったのはそれくらいだった」

 

(なんか別のストーリー始まってるじゃねえか!

クトゥルフ神話TRPGじゃねえんだぞ、巻き込まれてたまるか!)

 

いよいよ面倒くささが頂点に達したキルエは、言葉を遮って押し流そうとする。

 

「じゃあ早くその眷属?とやらをなんとかしないと!

俺なんかに構わず!ほら頑張って、ね!」

 

「いや、そいつはもう倒したんだ」

 

「えっ!?」

 

思わず歯噛みしそうになる。

 

「で、たった今帰ってきた所でな…あ。

これを真っ先に説明すべきだった!」

 

「もうッ、今度はなんすか!?」

 

「帰る途中、ドゥロワ・ネネルの軍勢に鉢合わせてな。

分かるか?今魔皇城を占拠している悪党どもだよ」

 

分かるどころか、キルエはその追手から逃げて来たのだ。

 

「邪神の眷属と戦った後で疲れていたし、戦わずになんとか撒いたんだが。

…奴らは魔皇城から逃げたグレンたちや私たちを追っていた」

 

「な、なら!こんな所でジッとしている暇はないんじゃないすか!?

近くに村があると知れたら、すぐここまで追ってくるでしょうね!」

 

「お前はいいのか」

 

「逃げますよもちろん!!」

 

キルエは慌ただしく立ち上がる。

 

「どこへ行く?」

 

「逃げるっつったでしょ!」

 

「逃げてどうなる…事態が解決するまで、一生逃げ続けるのか?」

 

「アンタらはともかく、俺はそこまでマジになって追われてる訳じゃねえ!

いざとなりゃこの土地を出て、戦争から遠い国に逃げられる!」

 

メルトはため息をつく。

 

「魔族の侵入を拒む【大神聖門】があるのを忘れたか?

あの厳重な関所を通してもらえるコネでもあるというのか?

壁がある限り、内地に逃げるなど不可能だ!」

 

「えっそんな壁とかあんの!?」

 

「し、知らないのか!?」

 

万が一にも魔族が連合軍の本国に侵入してこないよう、鉄壁にして絶対の防御壁が教会によって建設されている。それが【大神聖門】。

建築学・魔法工学・戦術学の粋を集めた人類の最終防衛ラインであり、1人1人が戦略級兵器を超える武力を持つ【聖騎士】が2人も常駐している。

門を通るには厳正な審査を通過する他なく、身分証を持たない少年など通れる訳がなかった。

 

「それに!お前とてここが安全だと思って逃げて来たのだろうが、こうして敵の手は迫っているぞ!

奴らはどうやってか高速で情報伝達を行なっている、いつかは情報網に引っかかり、追いつかれる!」

 

「…うぅッ」

 

初耳の情報に脳がパンクしかけるが、あえて更なる情報を入れてリフレッシュさせようとする。

 

「じゃ、じゃあ!その軍勢ってのはどんなのなんです!?」

 

「白い面を着けた兵士たちが数十名。おそらく指揮官は3人だった…はずだ。

1人は氷の魔法を使う男。もう1人は光の雨を降らす法衣の女。それと、能力は分からんが東方の出身らしき男だ」

 

(東方って言われても分かんねぇよ、弾幕シューティングか?

でも…氷使いと法衣の女は知ってる…多分、あいつらだ…!)

 

ジェト族の村を滅ぼした3人のうち2人。

冷気を操るニーヴル・ガーガップと、裁きの光を落とすエンディミカ・シュオン。

残る1人はアルキュオードであり、彼は奇しくも仇を取った形になる。

 

(…あのボケ共、まだ諦めてねぇのかよ…ッ!)

 

怒りが、じわじわと燻り始めた。

 

(…っていやいや!確かにリベンジしようとは思ってたけど!

あのデカブツと戦って懲りたんだよ!もう危ない橋は渡らねぇ!)

 

「黙っていては分からん。

もしお前が戦う気なら、私がこれからする話も変わってくるぞ」

 

「いや~…なんといいますか…」

 

「ねぇ、【忌み屋】さん。その目はどうしたの?」

 

「へ?目?」

 

不意を衝かれ、素っ頓狂な声を上げる。

確かにキルエは今、左目に眼帯を着けていた。

 

「ひょっとして、アイツらにやられたのかな~って」

 

「え?…いやまぁ、そんなようなもんですけど…」

 

「じゃあ、その借りを返そうとは思わない?」

 

「それは…」

 

ふと、キルエの脳裏でいくつかの要素が交錯した。

 

(一応いざという時のために、魔眼を閉じて魔力を貯めてある…。

うん。危ない橋は渡りたくないけど、逆に言えば危なくなければいいんじゃないか?)

 

実のところ、ずっと『殺したい』とは考えていた。

 

(…ここらでそろそろ、行き当たりばったりの行動をやめるべきだ。

そのためには、計画を立てて戦うって事を覚える必要があるよな。

そうだ、これは練習なんだ。危険を冒さず勝利するための…)

 

既に『立ち向かう』に傾いた感情を正当化するため、無数の言い訳が湧き出す。

 

「…では、とりあえず連中を片付けましょう。

話はそれからだ」

 

「奴らと戦うのか?話が早いのはありがたいが」

 

「策がありそうだね。…聞かせて」

 

〈つづく〉

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