異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第56話 血の繋がりと幹部

ドゥロワ・ネネルの配下、ロンミン・エンディミカ・ニーヴルのを倒した3人は、廃村に戻っていた。

 

「火傷、大丈夫そうですか?」

 

キルエがメルトの顔をジッと見つめる。

 

「うん?ああ…聖なる泉と言うだけあって、この湯の効き目は目覚ましいものがある」

 

メルトは湯を掬い上げて、肌にかける。

 

「…本当に入らないのか?」

 

そして脱衣所の向こうに声を掛けた。

 

「入る訳ないでしょ!混浴なんて!」

 

「大変に眼福な光景で、ありがたやありがたや」

 

「メルトに変な事したら許さないからね!」

 

「ハハハ!しませんよ~、疲れているので」

 

メルトの眼光が鋭く射抜く。

 

「女の裸に慣れているな、ずいぶんと」

 

「まぁね。裸なんてなんぼ見ても良いものっすよ!」

 

キルエは過去のとある経験から、裸を見るのも見られるのも慣れていた。

 

「それより…湯から上がったらやりたい事があるのですが」

 

「「…?」」

 

湯上がりのキルエは、着替えて村長の家らしき大きな家屋に入った。

 

「…したい事とはそんな事か!?」

 

「ええ。逃げる暇もなく死んだのですから、金庫にはまだお宝が残っているかと思いまして…お、開いた」

 

キルエは部屋中の家財道具をひっくり返して金庫を見つけ、がちゃがちゃといじくり回して開錠した。

 

「そんな事して、恥ずかしくないの…?

あなた、すごく強い人なのに」

 

「強くないですし、金の話はまた別です!

うっひょひょ!結構貯め込んでんじゃないっすかァ!」

 

金貨や首飾りなど、高価そうなものをあらかた袋に詰め込んでいく。

 

「よ~しよし…あ?なんじゃこら」

 

ある少年を映した写真。

 

「これは…写真か。向こうでは一般化が進んできているらしいが、こちらで作るにはまだまだ高価なものだぞ」

 

「村長の息子ですかね?

よっぽど大事だったんでしょうか。金庫に入れておくなんて」

 

「…親の心子知らず、という事ね」

 

「ああ…」

 

メルトとエリンは、何やら訳知り顔で納得している。

 

「おっと、説明しておこう」

 

「いや別にどうでも…」

 

「この村を滅ぼす原因になった邪教の教祖はな、村長の息子だったのだ。

村での暮らしに閉塞感を覚え、村から出してくれない親への不満を募らせていく様子が、彼の日記には克明に記されていた」

 

「はーそりゃ気の毒だ」

 

キルエは興味無さげだ。

 

「血の繋がりとは…まさに呪いだな」

 

「それは、魔族の血を引く私たちが何より思い知ってる事だけど」

 

「血が呪い…そりゃタイムリーな話題ですね」

 

一通り漁り終えたキルエは、テーブルの上に色々な道具を広げ、巻物を見ながら調合を始めた。

 

「な、何をするつもりだ?」

 

「血の繋がりは、呪術的にも一番辿りやすいって事でし」

 

そして取り出した紙に薬品を染み込ませ、その上から自分の血を垂らす。

 

「明かし給え…暴き給え…」

 

紙はぼうっと薄い光を帯びる。

 

「ふむ…」

 

続いて抉り取っておいた無貌兵の肉片を、同じ紙の異なる部分にへばり付ける。

するとこちらも光を放ち始め、2つの光は共鳴して薄紫色の強い輝きに変わった。

 

「ど、どうなった?なんだコレは!」

 

(この光り方は…『ほぼ一致』か。俺の血とあの兵隊の血が…)

 

これは彼にとって予想通りの結果だった。

キルエと無貌兵に流れる血は、ほとんど同じ物であるらしい。

 

(どうりで俺に見た目が似てる訳だ。

…多分あの兵隊どもは、ジェト族のクローンだな)

 

そうなると、かつて戦った無貌兵たちが老人ばかりだった事にも説明が付けやすくなる。

 

(クローンおなじみの、『寿命が短い』ってやつか。

自分でジェト族を滅ぼしておいて、そのクローンを作って下僕にする、か)

 

外道と呼ぶのもおこがましい、邪悪の極み。

だが、大して怒りは浮かばなかった。

 

(…いやまぁ…よく考えたら文句も思いつかないし、別にいいんだけど)

 

「お、おい?」

 

キルエは無表情に笑い掛けた。

 

「何でもありませんよ。…で、これからあなた方はどうなさるおつもりで?」

 

「当然、再び魔皇城に乗り込む。

脱出前にグレンたちと話し合って、待ち合わせたのでな」

 

「あなたは?…手伝ってくれたら嬉しいんだけど」

 

肩を竦め、わざとらしくため息をつく。

 

「嬉しい、というだけではどうしようもないですねぇ。

まぁ何ですな、これでも傭兵をしていましたし。プロなんですよね~」

 

「…お金がほしい、って事?」

 

「いやーっ、そんなつもりなかったんだけどな!

でも確かに、プロとしては依頼料という名の誠意をね!

そうじゃないと仕事に責任感が生まれないんだなぁ!」

 

「では、依頼すれば手伝ってくれるというのか?」

 

「依頼料と依頼の内容次第ですねぇ…命懸けな訳ですし?」

 

キルエはプロの傭兵として、一度も任務を失敗した事は無い。

…だがそれは結果上手くいっただけで、プロ意識の現れではないという事を、彼自身よく理解していた。

 

(魔皇城に乗り込むなら、勇者たちみたいに強い連中と一緒にいた方がいい。

もし…まぁ多分無理だが、ネネルって奴と上手く話がついて見逃してもらえた場合は、こいつら置いて逃げればいいんだ。

逆に交渉が決裂した場合でも、城内で起きてるはずの混乱に乗じて逃げる。

どの道、持ち逃げできる金はなるべく多い方がいい)

 

その事に罪悪感を覚えない訳でもないが、小心者の彼にとってそれは命を懸ける理由にはならない。

 

「依頼は…我々がネネルを討つまで、積極的に協力すること。魔皇城への同行も含む。

依頼料は、これだ」

 

華美な装飾を纏った細長い箱を荷物から取り出す。

鍵を使って中を開くと、そこにはぎっしり宝石が詰まっていた。

 

「お、おぉ…!」

 

「旅の途中、とある富豪を助けた礼に貰った。

もちろん、これは前払いだ。

成功報酬は…グレンたちも合わせて支払おう!」

 

「ちょ、ちょっとメルト!?いいの、勝手に…」

 

「大丈夫だ、金に固執する奴らではない」

 

エリンは『そうじゃなくて』と首を振った。

 

「グレンって…お金持ってるの?

お礼とか傭兵としての稼ぎとか、全部魔族退治に使っちゃってたような…」

 

「…だ、大丈夫だ!グレンはそうでも、しっかり者のラスタやフェリスが…多分なんとかする!」

 

「おやぁ?多分ですか?

困りますねぇ~、そうなると前払いがこれだけではちょっとねぇ」

 

キルエの見立てでは充分すぎるほどだったが、持ち逃げできるのは前払いだけなので、もっと揺すってみる事にした。

 

「あの、それなんだけど。

あなたって呪術師だよね?そう聞いたけど」

 

「はい?ええ、そうですね」

 

「だったらコレ…価値分かる?足しになるといいんだけど」

 

エリンが差し出したのは、血を固めたようなグロテスクな赤色の石。

 

「この村を襲った邪神の眷属の体内から出てきた物。

私の鑑定術で見たところによれば、食べられた人たちの怨念が凝固した物みたい」

 

「…ふむ、これは」

 

キルエは秘伝書の通りに術を使っているだけで、そこまで高度な知識がある訳ではないが、さすがに何度も呪物を取り扱っていれば分かる。

これは上質な呪物であると。

 

「…お金はこれ以上出せないのですね?」

 

「まあな。他は生活費と、装備を整えるのにも必要だしな…」

 

「……いいでしょう!その依頼、引き受けました!」

 

2人の顔が明るくなった。

 

「そうか!お前ほどの術師の助力を得られるのならば、これに勝る心強さはない!」

 

「じゃあ、これ。待ち合わせの場所と時間」

 

渡された紙切れを見て、キルエは訝しむ。

 

「魔皇城の真下、大石柱のそば?

…あの、ここからどうやって城の中に入るんです?浮いてますけど」

 

「グレンは女神の末裔の力で、空間を飛び越えられる。

城の中じゃ使えないし、魔力もかなり食うらしいけど」

 

「はー、女神。それはそれは」

 

キルエは興味無さげに言うが、むしろ本心ではスケールに圧倒されていた。

 

(神様なら、俺も対話した事はあるけど…シャレにならんわ。

しかもうちの部族のマイナーな神と違って、きっと世界中で信仰されてるやつだろ?

いやホント、ついてけねぇ規模だわ)

 

「ああ、それからこの山を下りるんだったら注意ね」

 

エリンが地図を広げる。

 

「ここから直接魔皇城に行くなら、この【幻界城パンタスマ】の近くを突っ切るのが一番の近道だよ」

 

「パ、パン…なんです?」

 

「…知らないの?あのパンタスマを!?

あの大魔族、【幻魔大公】カーミラの居城だよ!?」

 

「大公…?」

 

 

 

 

『さて、集まってもらって悪いね。

緊急事態だったんでね…何しろ、ほら』

 

その部屋の細長いテーブルの中央には、7つの水晶玉が置いてある。うち5つは真ん中から割れていた。

 

『用意してた幹部()()が5人もやられちゃってさぁ…。

いやホント良かったよ。キミたちを確保しておいて!』

 

「ええ、ええ!全く閣下の御慧眼には平伏するばかりです!!」

 

大げさに、そして高らかに語るのは、山高帽に覆面、カソックコートを着た奇人。

世界最高峰の幻術師、ガスマ。

 

『じゃあ、もうそれ要らないから。片しといて』

 

「御意にて!」

 

ガスマがステッキを振ると、5つの壊れた水晶が消滅する。

 

「スンマセン…リュエンちゃんの件は俺のせいでもあるんで」

 

申し訳なさそうに言うのは、仮面に全身タイツの男。

あらゆるものをすり抜ける謎多き異能者、ツルード。

 

『いやいいよ、気にしない!

より貴重な能力を持つキミが生きていた!それだけで大きな功績だとも!』

 

主の声は、事もなげに言った。

 

『さて…こうして全員揃うのは初めてかな?

我が最高幹部、【薔薇の七冠】たちよ』

 

「まずよォ…その珍妙なネーミングは何なんだ、気取ってやがる」

 

椅子に座る髭面の男が、テーブルに水晶を置きながら愚痴った。

【竜将】の異名を持つ裏切りの傭兵の1人、ボルド。

 

『何って…カッコいいだろう!?響きが!!

7って数字もいい、幹部はやっぱりこれくらいズラッと並んでないと!』

 

「ああ…そうなの。もう好きにしろよ…」

 

ボルドはめんどくさそうに会話を打ち切った。

 

「仮にも雇い主だ。口の利き方は考えなさい」

 

そう窘めつつ水晶を置くのは、スキンヘッドに奇妙な入れ墨が特徴的な男。

【血溜まり司教】と呼ばれた破戒の聖職者、メルディゲ。

 

(…まぁ、それも一時的なものだがね。

いずれは私が王となり、この城を…!)

 

『僕はキミのそういう野心家なところが大好きだ!

幹部には1人くらいそういうキャラ入れたいからね!』

 

「…ッ」

 

メルディゲは舌打ちする。

 

「別に忠実でなくともいい、というのは同感だ。

ここにいる全員、成り行きで集まっただけ。忠誠を求める方がおかしい」

 

鋭いバイカケット帽を被った女が、乾いた口調でそう言う。

かつては英雄として名を馳せた【鎚葬者】リュリ。

 

『紅一点!やっぱり女子は欲しいよね。

まぁ適格なのがいなかったら諦めてたけど、キミなら文句無しだ!』

 

「どうでもいいな、何もかも。

…薄汚い魔族と肩を並べる事すらもな」

 

「キヒャヒャヒャ!薄汚ぇ人類の裏切り者に言われると、説得力があるなァ?」

 

刺々しい鎧に身を包む、ゴブリン種にしては大柄な男。

ゴブリンの王【蟲龍(とうりゅう)公】ザバダカが、水晶を指で弄んでからテーブルに置く。

 

「オイオイ睨むなって!殺し合いならいつでも歓迎だがよ!

俺ァそのためにここに居んだ!ヒャヒャヒャ!」

 

『戦闘狂!これも定番だね!

他の幹部との小競り合いは、見ているだけで頬が緩んでくるよ!

こういうのでいいんだこういうので!』

 

その声に紛れて、ぼろ布をすっぽりと被った何かが、細い腕で震えながら水晶を置いた。

【傀儡王】モース。

 

「どう思うよ、魔界七王のモースさんよォ!」

 

「ヒッ!?

あ、ああああの、私など所詮穴埋めで王にして頂いただけで…!

皆様と同格などとは、夢にも思っておりませんので!へぇ!」

 

『経歴はスゴいのにやけに卑屈な奴、いいよね!

だいたい本性を隠してるもんだけど、シンプルに謙虚なだけってのもアリ!』

 

7つの水晶が再び揃った。

 

『はい、これにて【薔薇の七冠】結成!

これから忙しくなるよ!』

 

「ところで、もう1つ気になるんだがよ」

 

【竜将】ボルドが遮る。

 

「…それは何だ?」

 

ボルドが指差した先に、ネネルの顔が投影され、浮かび上がっている。

先程からベラベラと喋っているのは、これだった。

 

『ああコレ?今さ、魔皇の死体から力を吸い上げてるところでね。

魔皇城のシステムの一部に干渉できるようになったから、試してみたのさ』

 

「魔皇の力なァ…」

 

ザバダカが興味を示す。

 

「完全に吸い尽くしたら、アンタが魔皇になるのかい?」

 

『そうだね、今まさに実験中!

でも上手く行けば、城内の空間の乱れも直せるし…頑張ってみるよ!』

 

 

 

玉座の間で、己の頭に生えてきた角を撫でつつネネルは呟く。

 

「幹部に恥じないラスボスになれるよう、僕も一歩一歩地道に行こうっと」

 

〈つづく〉

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