異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

59 / 82
第57話 せめて出来る事を

ネネルの部下を始末し、2人の半魔の少女から『勇者の戦いに協力してほしい』という依頼を受けたキルエ。

前金として奇妙な呪物を渡され、契約は成立。

だがもちろん、彼に依頼を全うするつもりはない。ネネルと話をつけるため、依頼を利用しようという魂胆だった。

その後2人と別れて山を下り、麓から少し歩いた位置にある町で休養していた。

 

(敵のボスに直接会う…考えてみりゃ、相当に危ないよな。

いや、場所さえ分かれば遠距離からでもどうにか会話して…)

 

宿の窓から街並みを眺めては、漏れるのはため息ばかり。

 

(そういや勇者が突入したら、向こうもそっちに気を取られるよな…。

その隙に姿をくらませば、追ってこられなくなるんじゃないか?

…ダメだ。それだと気づかれるかもしれないって不安が残る)

 

杞憂に思えるが、その不安こそキルエが最も嫌悪するものだった。

ただ生きているだけで常に恐怖し続けねばならない、その状況自体が耐えがたい。

だから不安の根を絶つ必要があった。

 

(だいたい、何で俺…こんな追い回されなきゃいけねぇんだよ。

勝手に村焼くのはいいよ、そこに俺を巻き込むなや!

だからこっちだってイラついて、つい反撃を…)

 

今まで殺してきた刺客を思い浮かべる。

 

神の血を引く伝説の英雄、アルキュオード。

不死身の肉体を持ち、地形を変え、小指1本の力で瀕死に追いやられた。

 

神聖魔法の達人エンディミカ。

バリアを常時展開し、一度狙われたら防御も回避も不可能な即死光線を使う。

 

氷使いのニーヴル。

易々と地面を凍土に変え、万物を一瞬にして凍結し、物理攻撃も毒も通用しない。

 

(…いや、よく生きてたな俺。

マジで運だけの勝利じゃねえか…!

今のままじゃダメだ…こんな生き方はもう辞めよう!)

 

そう思う反面、エンディミカ・ニーヴルとの戦いで得た手応えに何かを見出してもいた。

 

(あの戦いは、とっさの作戦にしては上手くいった。

これでも狩人だし…ちゃんと緊張感持って準備さえすれば俺だって結構ヤれるんだ…っ)

 

彼が育った森【死神の胃袋】で狩りをしていた時は、いつもそうだった。

狩らねば死ぬ。だがしくじれば殺される。そういうプレッシャーの中生きてきた。

故に1回1回の狩りに、切実さがあったのだと彼は思い返す。

 

(一貫した意志を持ち続けるって、意外とムズイよなぁ。

わざわざ魔皇城まで来て戦うような傭兵でも、平気で裏切っちゃうんだもんな…)

 

魔皇城で今も続いている戦いにおいて、傭兵の一部が裏切ってネネルの部下になっている。

連合軍の兵士は、鋼の忠誠と連帯によって裏切り者は出ていないらしい。

ここで奇しくも、国を背負う職業軍人と個人で戦う傭兵で、責任感の差が出た形だ。

 

(正直、責める気にゃなれんわ…俺なんて特に、甘やかされて育った現代日本人だしねぇ。

ビビッてすぐ心折れちゃうのも仕方ない!うん!)

 

これまで会った傭兵たちの顔を、うっすらとだが思い出してみる。

かなりの人数の顔が浮かぶものの、そのイメージは曖昧だ。

 

「あんま興味無いから覚えてないな…」

 

ボーっと街並みを見つめていると、イメージが次第に像を結んでいく。

吸血鬼を狩る半吸血鬼【赩の公子】。

黄金を纏って暴れ狂う老人【狂気の憲兵】。

黒炎を操る策士【卑炎の将】。

巨大な弓で貫通爆破させる女エルフ【破壊砲】。

剣を咥えて狼のごとく駆け回る【獣剣】。

 

(ああいう強い人でも裏切るのかな?

いや、強いからこそ有利な方に付くのか…?)

 

取り留めも無くそんな事を考えていると、ふと脳裏のイメージが鮮明になった。

傭兵たちの顔が、はっきりと思い出せるのだ。

 

(あれ?っていうかアイツら…傭兵か?)

 

長袖の市民に混じって、明らかに戦いを生業としている者たちが多く歩いている。

その中には、どこかで見たような顔がぽつぽつあった。

 

(なんだ…?傭兵が集まるイベントでもあんのか?)

 

キルエはマントと鞄を即座に身に着けると、窓から飛び降りた。

 

 

 

 

傭兵の1人【獣剣】ボガ・ルプレは、街を見渡して口角を上げた。

 

(名だたる傭兵が集まってきているな…やはり捨てたものではない。

多くの傭兵たちが魔皇城で逆徒に堕ちたと聞いたが、まだまだ志ある者は生き残っている!)

 

「よう…【獣剣】ボガかァ。久しぶりに見た顔だ」

 

銛を背負った人相の悪い男が、だみ声で呼びかける。

 

「…【殺戮遊漁】ビッシャー・マンか。

不死戦役以来か?壮健そうで何よりだ」

 

「へへへ…しぶとく生き残ったさ。

こんなとこにゃ来るつもり無かったんだがな」

 

「くだらねぇな。どうせ金だろ、どいつもこいつも」

 

その口の悪さに似合わぬ、美貌の女エルフが歩いて来た。

顔の左半分は仮面で覆われ、巨大な弓を背負っている。

 

「【必殺砲】ガルフィア。不死戦役の懐かしい顔ぶれが揃ったじゃないか」

 

「知るかよ。それよりほら、始まんぜ」

 

街の噴水広場の真ん中に仁王立ちして待っている、大柄な男が1人。

 

「諸君!よく呼びかけに応えてくれた!

私は五王国連合軍の大隊長、ヴイザードだ!」

 

「あれが鬼のヴイザードね…」

 

「生きてたのか!奴の部隊は全滅したと聞いたが…」

 

男の厳めしい眉がピクリと動く。

 

「……その通り!私1人生き延び、ここに居る!

1人の将兵も生き残ってはおらん!指揮官として、完全な敗北だ!

だから私は、諸君らを集めて指揮しようというのではない」

 

大きな地図を広げ、大勢の傭兵の前に掲げる。

 

「この街の西に洞窟がある!そこには魔皇城の逆賊の幹部がいる!

これを討ってほしい!…それが私の依頼だ」

 

傭兵の1人が嘲笑う。

 

「んだよ、俺ァてっきり魔皇城に乗り込もうってのかと思ったぜ!」

 

「違ぇねぇ!鬼のヴイザードも、心が折れたら可愛いもんだ!」

 

「…あの城は、地獄だ。ハッキリ言って、依頼する事も躊躇われる」

 

その実感を伴う言葉は、傭兵たちの薄ら笑いを収めるだけの迫力があった。

 

「だが恐らく、勇者グレンたちはまだ戦っている!

その彼らのため、1人でも多く敵を倒す事はできるはずだ!」

 

「…言葉は立派だがよ!結局魔皇城に行きたくねぇ、でも罪悪感は消したいって風にしか見えねぇぜ!」

 

「その指摘はもっともだ。認めよう、そういう一面もある。

だから私は…1人で魔皇城に乗り込むつもりでいる。

諸君らには依頼しない…もちろん、来なくていい」

 

「分かんないねぇ。

アタシら雇った方が勝算上がるんじゃないの?」

 

男の傷だらけの顔に、彫刻めいた硬質な皺が入った。

 

「金目的で来てほしいとは思わん。それほどの地獄だ。

それに、雇った傭兵が寝返らんとも限らんだろう。城内の様子を見ればな」

 

ボガは城内に入ってはいない。

そのため、内部の様子は完全に想像するしかない。

 

(そこまでなのか…!

どのみち俺は最初から乗り込むつもりだったが…)

 

「どう思うよ、ボガ」

 

ビッシャーが問う。

 

「想像するだに恐ろしいが…行くつもりだよ、俺は。

勇者たちはまだ子供だぞ。子供を守るべき大人が行かんでどうする」

 

「いやそんな事ぁ聞いてねぇよ!

ったく相変わらず正義ヅラが好きな奴だぜ…依頼の方だよ」

 

「依頼?…ああ、そっちももちろん行く。

お前たちは行かないのか?」

 

「とりあえず行ってみて、連中の力ってのがどんなもんか測ってやる。

それ次第で今後の立ち回り考えるわ」

 

多くの傭兵たちが、そのような判断をしていた。

 

「受ける者は、この紙に署名を!ギルドのメンバー証は不要だ!

今は公式・非公式問わず力を借りたい!」

 

「おい、受付行かなくていいのか?

報酬は1人50万だとよ」

 

「おっといけねぇ…ククク、しかしどこにそんな金があんのかね?」

 

「知るか。払えないなら殺すまでだ」

 

女エルフはつまらなさそうに吐き捨てて、ヴイザードの方へ向かった。

 

「相変わらずらしいな…俺たちも行こう」

 

「ああ」

 

ビッシャーとボガも連れ立って向かう。

 

その光景を陰から見つめるのは、褐色の少年。当然キルエだ。

 

(なるほどな。デカい作戦があったのか。

…さっそく『厄介事にか関わらない』って方針が役に立ちそうだな)

 

キルエの方針は徹底していた。

 

(ムカつくと後先考えずに行動しちゃうからな、俺。

もう全部の情報シャットアウトして、寝よう!うん!)

 

「何をしている、小僧」

 

「どわぁっ!?」

 

背後からの声に飛び退き、思わずナイフを出しかけて止める。

ここで下手に戦えそうな雰囲気を見せれば、不要な面倒事に巻き込まれかねない。

 

「なんか騒いでたので、見に来ただけです!

お、おじさんこそ誰です?」

 

立っていたのは、歪んだ般若のような面を被った男。

 

(どこかで見た顔…というかお面。

多分、一緒の戦場に居た事があるんだな…久しぶり!とか言われたら困るな…)

 

「拙者か。傭兵だ…もうこの街は去るがな」

 

「そうなんですか?依頼受けないの?」

 

「そのつもりで来たが…どうにも、な」

 

それだけ言うと、男は背を向けた。

 

「あの、あの!何か気になる事があるんですか?」

(これぐらいは聞いても怪しまれないだろ。子供は好奇心の塊だし…)

 

「…お前はこの街の者か」

 

「いえ、旅人ですけど…」

 

「ならば早々にここを出るがいい。

傭兵どもが集まる前から拙者はこの街に逗留していたが、ここはどうも魔の匂いがする」

 

「えっ…?」

 

キルエは、追及を躊躇った。

 

(これ以上聞くと余計な事に巻き込まれるか…?

いや、聞かなかったせいで対応が遅れる、ってパターンもある。

どうする…とりあえず、もう少しだけ掘ってみるか?)

 

子供らしさを維持しつつ、必要以上に慌てふためいてみせる。

 

「え、ええ!?魔の匂いって…魔物!?

いるんですか、この街に!?教えてください!!」

 

「知らぬ。金にならぬ騒ぎに首を突っ込むつもりは無い。

それにこの街の近くには、かの【幻魔大公】カーミラの居城があるというではないか。

そこから漂う瘴気がここまで流れてきたのやもしれん」

 

半魔の少女たちとの話にも出た、【幻魔大公】カーミラ。

有名な魔族だというが、浦島太郎状態のキルエには全く分からない。

 

「そ、そういう事はよくあるんです?」

 

「それこそ、魔皇城の付近では痛いほどに瘴気を感じた。

強大な魔族ならばありうる事だ」

 

「カーミラって、そんなに強いんです?」

 

「…知らぬのか。ならば用心せよ、カーミラの居城には近づかぬ事だ。

拙者はもう行く」

 

「あっ…」

 

男は路地裏の闇に同化するようにして、一瞬で消えた。

 

(…【幻魔大公】カーミラ)

 

その名は、メルトとエリンたちによって特に注意深く語られていた。

 

『いい?本来魔族の爵位において、公爵の上に位置するのは魔界七王か魔皇のみ。

だけど公爵級を遥かに凌ぐとされながら、王には相応しくないと断じられて…ただ1人特別な爵位を与えられた魔族。

それが【幻魔大公】カーミラ』

 

『王に相応しくない…というのはつまり、魔皇と敵対していたからだ。

だがその強大さゆえ無視する事も出来ず、爵位を与える事になった。

それほどの強者だという事だ』

 

キルエは、敵対という部分に興味を惹かれた。

 

『魔皇の敵って事ですか?だったら協力を仰ごうって人はいなかったんです?

それほどの実力者が味方なら、魔皇討伐もはかどったでしょうに』

 

『無理だ。敵対してると言っても目的は不明、姿も不明、明らかなのは居城だけ。

その居城も、日によっては忽然と姿を消すという。故に【幻界城】などと言われている』

 

『異名からして、幻術使いじゃないかとは予想されているけど。

以前魔界七王のうち、3人が示し合わせて幻界城を襲撃した事があったって。

でもその3人は無傷で追い返されたそうよ』

 

襲撃された側ではなく、した側が無傷で帰る…その意味は重大だった。

 

『敵を完膚なきまでに叩きのめして追い返すのと、無傷で追い返すの。

後者の方が遥かに難しいのは分かるでしょう?

しかも魔界七王3人を相手にして…いったいどんな手を使ったのか想像もつかない』

 

何も分からない、という事の怖さをキルエはよく知っていた。

 

『まぁ、そういう訳だから…最短を突っ切って魔皇城に行くのはやめて。

幻界城パンタスマだけは避けて通った方がいい。

…待ち合わせに遅れなければいいんだから、一旦休んでからゆっくり来て』

 

そう聞かされた情報からして、カーミラの恐ろしさはよく理解できた。

 

(まぁ、瘴気ってのがこの街まで届いてきてもおかしくはないのか。

…だが念のためだ。ここでしばらく落ち着いて休めるかどうか、少し調べる必要があるな)

 

キルエは、腹立たしいほど思い通りにいかない現実を、今まさに思い知っていた。

 

(クソッ!面倒には首を突っ込みたくねぇけど、突っ込まないとそれはそれで危険な時もあるのがダリぃな…!

ま、何か起きるとしても、戦いに行く傭兵どもよりはマシか…)

 

それは祈りにも似た慰めであった。どうかマシであってくれ、という。

そしてやはり、その願いが叶う事はないのだ。

 

〈つづく〉

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。