異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第4話 呪印

滅びた故郷を離れ、五王国連合軍の兵士たちと生活を共にする事になった少年キルエ。

しかしその兵士たちは、【呪殺伯】バザルドの軍勢によって皆殺しにされる。

ただ1人生き残ったキルエは復讐を………

 

という訳ではなく、ただなんとなくイラっとしたのでバザルドの死に顔を見に来た。

準備に準備を重ねて要塞へと飛び込んだが、魔物兵士たちの人間を遥かに超えた能力と戦闘慣れした動きに追い詰められ、負傷しながら要塞内を彷徨っていた。

 

しかしキルエは次第に魔物らの動きを捉え、隙を見抜けるようになり始めた。

それは暗殺部族ジェト族が4000年かけて作り上げた殺人の遺伝子によるもの。

 

そして―

 

「よう、派手にやってるな。人間」

 

青い甲冑の死霊騎士、【斬殺卿】ガルミラが立ちふさがった。

バザルドが唯一友と認める、騎士級魔族でも最強クラスの実力者。

 

そんな事を知らないキルエでも、眼前の魔族が秘める技量はなんとなく分かった。

 

「人の身で、しかもその歳でこれほどまで暴れてくれるとはな」

 

「あ、えっと、へへへ…勘違いじゃないでしょうか?

自分はただのチンケな雑魚でございまして…」

 

「騒ぎが起きてから、要塞中に感知網を広げていた。

我が友は感知を得意とせんからな」

 

「友…えっと、バザルド伯爵様でございますか」

 

「そういう事だ。貴様の目的はアイツだろう?」

 

「め、めめめっそうもない!」

 

脂汗をかきながら、何もかもバレていない事を祈る。

 

「ククク、隠すな。

あの廃城の兵を拷問にかけて、お前の存在は聞き出した。

数日間行動を共にしていたそうだな?」

 

「え、えええっと…」

 

「なぜ貴様がバザルドの呪いを解けたかまでは喋らなかったが。

おおかた、奴らの敵討ちに来たのだろう?」

 

「な、何をおっしゃいますやら!私はただ…」

 

ひゅう、と風が吹く。

 

「……え?」

 

少年の右腕から血が噴き出す。

皮膚と肉が裂け、かろうじて骨までは届いていない。

【堅固なる護りを授かる法】無しなら、腕ごと切断されていたに違いない。

 

(ぜ、全然見えなかった…痛みを感じるまで、斬られたかも分からなかった)

 

ジェト族の肉体をもってしても見切れぬ斬撃。

天賦の才でも、極限状況による成長でも、およそたどり着けるとは思えない。

少なくとも、キルエはそう実感した。

 

「ひ、ひいいっ…痛い!やめて、くださ…」

 

「友はこの奥にいる。だがお前は通れん。

俺はヤツと美酒をたしなんでいる途中なのだ」

 

「び、しゅ?」

 

「人間は何の役にも立たん種族だと我が友は言うがな。

モノを作るという点では抜きん出ていると思うのだ。

あの酒も、卑俗な人間が飲むにはもったいないほどの良い酒であった」

 

確信する。その酒は、兵士たちが飲むために取っておいた高級酒。

 

「…あの酒は」

 

「ん?」

 

「あの酒は、みんなが戦いに勝った後にお祝いで飲むための物なんすよ」

 

「ああ、そういう事か。

では無駄にせずに済んだという訳だ、めでたいな」

 

「アンタら魔族にくれてやるために、置いといたもんじゃねぇ!!」

 

甲冑自体がカタカタと震える。

含み笑いをしているのだ。

 

「なんだ、一丁前に怒れるじゃないか!それでいいんだ。

恐怖に震える生贄より、怒りに満ちた戦士を蹂躙する方が心地よい!」

 

「ぶち殺してやる…!」

 

「何をそこまで激昂しているかは興味も無いが…まあいい!

では、解体の時間だ!!」

 

魔剣術理・落果(らっか)

魔族に伝わる剣技のうち、基礎も基礎の技。

だが少年の目には、抜刀も踏み込みも、白刃の閃きさえも映らない。

 

「……お?」

 

突然、甲冑が砕け散る。

ガルミラにとって甲冑は肉体そのもの。文字通り手も足も出ない。

 

「な…ッ」

 

「げへへ…飲んじゃったんだね、あのお酒。

しかも2人してさぁ」

 

砕けた甲冑を蹴り転がす少年に、先ほどまでの怒りは見えない。

 

(謀られたか…だが、いったいどうやって…!?)

 

「うわ、中身無いじゃん!そういう魔物か。

よかった~どの敵にもちゃんと効くみたいだわ」

 

「な、何を…した…」

 

「じゃ、もう行くんで」

 

「ま、て…!」

 

ガルミラは身じろぎすら出来ず、依り代を失った魂は魔族としての形を保てなくなって消滅した。

その格に見合わぬ、無意味な死だった。

 

「あ、この奥でいいんだっけ?

…死んだ、か」

 

興味無さげに呟き、その場を後にした。

 

「ここか…?」

 

恐る恐る扉を開ける。

 

「お邪魔しま~す…」

 

入室直後、身を伏せ高速で転がって位置を変える。

…が、攻撃は来なかった。

 

「あ、あの…?」

 

部屋の主であろう、大きな角を2本生やした男。

未だ椅子に腰掛けて足を投げ出している。

 

「貴様がここに来たという事は…我が友を倒したというのか」

 

「えっと…」

 

「いや、聞くまい。あり得ぬ事だった。

どんな悪辣な手を使った?普通に戦って奴が負けるはずはない」

 

「あ、あはは…でも、負けちゃったんですよね。

先に言っておくと、本当にセコくてあっけない仕掛けですよ」

 

バザルドの眉間に皺が寄る。

 

(俺には勝利条件がある。最初の予定とは違うが。

その条件は、『バザルドが俺に殺意を抱き、実行に移すこと』)

 

故に、挑発し怒らせねばならないと画策している。

 

「そのセコい俺に負けたお友達は何ですか?

ゴミか虫けらですかね?ああ、でも今はただの鎧の破片になっちゃいましたから、文字通りのクズ鉄ですかねぇ?」

 

「…そうか、そこまで死にたいか」

 

(おっ、来た来た来た!)

 

バザルドの端正な顔が、憎悪と嗜虐に歪む。

 

「ではどれだけ泣いても喚いても殺してはやらん!」

 

「えっ、ちょっ…」

 

「苦痛の坩堝で永遠に死を(こいねが)うがいい!!」

 

(ひーっ怒らせ過ぎたーッ!!

ヤバい!どんなに敵意に満ちていても、殺意が無ければ意味がない!)

 

「貴様の魂胆は、理解できる。

私を怒らせたいのだろう!?」

 

(コイツ、マジか…ッ!)

 

何より厄介なのは、バザルドは激怒していても冷静さを失わない事だった。

 

「貴様の目的は正直分からん…あの兵士どもも、そこまでは喋らなかった。

貴様ごときが私のばら撒いた呪いを解除できた理由もな。

だが、少なくとも貴様は呪術に理解があるらしい」

 

「うう…っ」

 

「私を怒らせたい理由も、そこにあるのだろう?

思い当たるのは…受けた傷を相手に返す古典的な呪い。

だがお前が傷を負っている事からして、傷をそのまま返す事はできないらしいな。

傷を分かち合う術か、あるいは受けた傷を数倍にして与える術か?」

 

(あの兵士たちが根性見せてくれたっぽいけど…少ない情報でそこまで推理しちゃうかね、普通さぁ!

驕っとけよ、悪の魔族なんだから!何全力出してんだ!)

 

「そういう場合、苦痛を与えず即死させるのがセオリーとされているがな。

私は貴様を苦しめたい…苦しめて生かし続けたい…!

…そこで、だ」

 

バザルドが頭上に手をかざすと、その全身がうっすらと紫色の光に包まれた。

 

「外部からもたらされる、あらゆる呪いを遮断する帳。

これで、貴様の呪術は私に届かん。

そして内側(わたし)からは一方的に―」

 

指差す先、少年の右腕がくしゃりとねじ折れる。

 

「あっがぁああああっ!!」

 

「呪いをぶつけてやれるという訳だ!」

 

凄絶な激痛が少年の脳を貫き、意識が白く飛びかける。

 

「っあ、ああ…はぁっ…」

 

「友を殺したのは、我が油断に他ならない。

故に、貴様を捕らえて生かし続ける事で戒めとする」

 

「…ふ、ふふふ」

 

「ほう、まだ笑えるか。いいだろう、それを奪う悦びが増えたというものだ」

 

「はぁっ…はぁ…友達殺したのが自分の油断って…?大正解ですよ。

そして今も油断して、勝機を逃そうとしてる…」

 

キルエの笑みは苦痛に歪んでいたが、強がりではないのが見て取れた。

 

「ご自慢の結界をぶっ壊したのが誰だか忘れたんですか?

切り札ひとつでアンタに挑む訳ねぇだろうが…!」

 

「あの破壊力を、もう一度発動できるとでも?この短時間でか?」

 

「…天の怒りよ。今こそ顕現せよ。

閃光と焦熱の槍もて、我が敵を…」

 

「詠唱ッ…バカな!?だが!!」

 

遅い、と内心で呟いた。

 

(怒りはあるが止むを得ん。ここで仕留める)

 

コンマ数秒の逡巡すらなく、即座に決断した。

 

バザルドは敵に触れずして、ただ意識を向けただけで生命を終わらせる。

それが【呪殺伯】たる所以、【死念の凝視】。

 

「…殺意を向けたな」

 

「ッ!!?」

 

だがキルエの笑みを見て、己の過ちを悟った。その正体すら分からぬうちに。

 

「ごばッ…」

 

バザルドは顔中の穴という穴から血を噴き出して、前のめりに倒れた。

 

「な、ぜ。呪いは…私に通用、しない、はず…」

 

「外側からは、な?内側からは防げねぇだろ?

お前の腹ん中に仕込んだ呪印はよ」

 

「ありえ、ぬ…いつ…!」

 

「いやほら、お酒飲んじゃったでしょ?

あの廃城から略奪してきた瓶詰のやつ。あれ、俺が呪っておいたの。

飲んだヤツに呪印を付与するようにさ」

 

「いや、そんな、はず、は…!」

 

バザルドは確かに確認したはずだった。

酒には有害な呪いなど掛かっていない。

 

「バレる可能性もあるから、一番検知しにくい呪いにしといた。

呪印自体に害は無いんで、発する穢れも微弱で済むらしいぜ」

 

本来は、兵士たちに呪印を植え付けるつもりであった。

自分の安全を確保するために。

 

「呪印を付けた奴が俺に危害を加えようとすると起動し、その殺意を呪いに変えて発症させる。

…予定だったんだけど、まさか殺意にしか反応しないとはなぁ」

 

「あの人間どもは…貴様の仲間であったハズ…!

奴らは拷問されてもなお、貴様の情報を…隠して…」

 

「ああ、いい奴らだったさ。結果的にはな」

 

興味なさげに答えた。

 

「なら…なぜ、こんな事を…ふ、ふ、復讐!では、ないの、か」

 

「なぜって…まぁ…いやその………なんでだっけ…?」

 

心から不可解そうに首を傾げる。

 

「おの、れ…ッ!

私には、掴むべき、栄光が…それが、貴様のような、何も無い、無価値、な…!」

 

「おいおーい!誰が無価値やねーん!」

 

「ぐがぁああああッ!!」

 

瀕死の男を容赦なく蹴り飛ばす。

 

「でもまぁその通りだな」

 

「わたし、は、こんな所で、死ぬ、はず、が…」

 

「口から出まかせの詠唱に釣られるようじゃ、どのみち大成しなかったんじゃね?

俺なんかに騙される奴がいるんだねぇ」

 

「………」

 

黙れ、とバザルドは反論しようとした。

が、もはやその力すら自分には残されていないと気づき、無力に絶望して息絶えた。

 

(ふぅ、スッキリしたぜ。

才能豊かな奴が潰れるのは、見てて気分が良いなぁ!

これでやっとぐっすり眠れるよ…)

 

「痛っ!!」

 

目的が消えた瞬間、激痛と恐怖を思い出し身悶えする。

 

(や、やっぱしばらく寝れないかも…!

それにしても、えらい事やっちまった…これ、帰れるのか俺?

あーもうなんでこんな余計な事したんだ俺は!)

 

魔物たちが首の無い主の死体に気付いたのは、この10分後だった。

その時既に犯人は要塞を抜け出していた。

 

この後、誰の仕業か『バザルド伯爵死亡』の報は瞬く間に広がり、それはアルディ中隊の怨念によるものだという噂がまことしやかに囁かれるようになった。

 

〈つづく〉

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