異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第59話 魔神顕現

ただ1人生き延びた連合軍将官ヴイザードに集められ、傭兵たちは任務へ向かった。

ネネルの幹部というその敵を相手にした戦いは、意外なほどあっけなく終わったようだった。

傭兵たちは報酬を即座に渡せと要求する。

だがそれを渋るヴイザードの様子は何かがおかしかった。

そして…

 

「…どういうこったよ、これは」

 

完全に不意を突いた、全く殺気の無いヴイザードの攻撃を、傭兵はギリギリで受け止めた。

 

(なんだこりゃ…殺気は全くねぇのに、確実に俺を殺ろうとしてた!)

 

「……」

 

ヴイザードは気の抜けたような表情のまま、危険な短剣の攻撃を繰り出す。

 

「何のつもりか知らねぇが、そんなもんで俺が殺れるとでも…」

 

ざく。

 

「…ぁ?」

 

いつの間にか近づいてきた市民の一人が、槍でその傭兵の脇腹を突き刺していた。

それと同時に、通行人・店員・客が一斉に傭兵たちを襲う。

 

「なんだなんだなんだ!?どうなってんだ、こりゃ!?」

 

ビッシャー・マンが銛を頭上で回すと、水の渦が生じる。

 

「まぁいいわな!死ね!」

 

2人の市民が水に巻き込まれ、壁に叩きつけられた。

 

「おい、ビッシャー・マン!

彼らは操られているのかもしれん、殺すな!」

 

ボガが剣の側面で市民を叩き伏せながら、必死に叫ぶ。

 

「いや、見てみなよ!こいつらの身体!

関節が球体になってる!人形だよ!」

 

女の傭兵の1人が言う。

 

「そうか…市民に偽装して人形を!

そして連合軍の将官に偽装した人形で、傭兵たちを一網打尽にする!

そういう作戦だ!」

 

「人形だと!?そりゃちょっとおかしいんじゃねぇのか!?」

 

そう言った傭兵が、市民の1人を一刀両断した。

鮮血と臓物が地面にばら撒かれる。

 

「どうして人形が血を流すんだ!?

心臓が脈を打ってんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

「当然だ…そりゃあ、生き人形ですから…」

 

ぼろ布に包まっている何かが、含むように笑った。

 

『順調かな?モースくん』

 

この一見して惨めな生き物は、魔族の中でも7人しかいない王の1人【傀儡王】モースであった。

今やネネルの配下【薔薇の七冠】の1人でもある。

 

「ヒッ!?ももももちろんでこざいます、ネネル様ァ!

疲れて寝ている間に始末する、という本来の作戦こそ失敗いたしましたが!

か、必ずや傭兵共を一網打尽にしてご覧に入れます、へへェ…」

 

『人形師の中でも、【傀儡王】モースだけが作り出せる至高の芸術。

人間を生きたまま分解し、人形へと作り変える。

フフフ…その仕組み、とても気になるねぇ』

 

「あ、いえその!た、大した事はございません、所詮私のような虫ケラの浅知恵でございます!」

 

『だが人格すらそのままに保存し再現する技術…古代の王たちが切望した、不老不死すら叶うのでは?』

 

「い、いえ…受け答えに本来の人格との齟齬が生じた時の処理が。

そのまま即座に攻撃モードに移るようにせざるを得ず…」

 

『んー、やっぱり心を操る技術はバグの温床だねぇ。

で、どう?やれそう?』

 

「は、はいッ!ももも問題ございませんッ!

さすがにこの数は自動操縦でないと大変ですが…生き人形どもは基本不死身に近いので。

しかも我が術を見抜けるほど呪術に精通した人間など、そうはおりません!」

 

『…呪術に精通した人間、ねぇ』

 

 

 

 

 

「なんなんだコイツら…!」

 

腕を斬り飛ばされた人形はふらりと立ち上がり、腕からは糸が伸びて肉体に再接合された。

 

「不死身なのか!?」

 

「冗談じゃねぇ…こちとら竜とやり合った後だぜ!?」

 

「見ての通りだ。コイツら人間辞めてやがる。

遠慮なくぶっ殺せるぜ」

 

「……ッ!」

 

正義を抱くボガにとって、この状況は許せないものだった。

 

「聞いた事がある…これは、【傀儡王】モースの生き人形だ…!

彼らは皆、生きたまま人形に改造されているんだ!」

 

「だからどうした、死にてぇなら好きにしな!」

 

罪なき民を人形に作り変えるその所業。

ボガの怒りが燃え上がる。

 

「……外道がッ!!」

 

その場で四つん這いとなり、剣を口に加える。

四肢は光を纏って、狼のような形状に変わった。

 

「ガァアアアアアアッ!!」

 

凄まじい立体的な動きによって飛び回り、人形たちの首を一撃で断っていく。

 

「ハッ、やっと本気かよ!【獣剣】のボガ!!」

 

「遅いんだよ…」

 

苛立った声で、女エルフが大弓を放つ。

巨大な矢が人形たちを蹴散らすと、着弾地点で爆発した。

人形のボロボロに崩れた肉体が、糸によって再び繋がるが…

 

「見ろ!燃え散った部分は繋がらん。

細かく千切って焼き払え!」

 

欠けた肉体の人形を差して、女エルフの【必殺砲】ガルフィアが叫んだ。

 

「おう!!今まさにやってんよ!!」

 

炎使いの傭兵たちが前面に出て、人形を焼き払っていく。

 

「…だがよぉ、足りるのか?スタミナ…」

 

何しろ敵は、この街全ての市民。

1人1人の戦闘能力は低くとも、傷つけた程度では止まらない人間が数百人。

ここに集まった傭兵たちが皆一流であるのを加味しても、かなりギリギリの戦況である。

 

「どこかで操ってる奴がいるはずだ…!」

 

「どうやって探しに行くんだ、この状況で!!」

 

「クソ共がァ…なめやがって…!!」

 

その時突然、広場の噴水が爆発して砕け散った。

 

「なんだ!?」

 

「さぁな!火薬じゃねぇのか…あぁ!?」

 

「こいつら、急に動きが…?」

 

同時に人形たちの一部が、いきなり脱力した。

 

(やっぱそういう事ね…)

 

物陰から爆弾で噴水を破壊した犯人、その少年はため息をついて爆煙に紛れた。

 

(人形を1つ捕まえて、術の流れを逆探知して大雑把な位置を掴む。

そっから魔力の集中してる部分を感知すれば…と思ったが、ビンゴか)

 

砕けた噴水から、脈打つ肉塊のようなものが現れたが…爆発の衝撃で弱っていたのか、すぐに萎びた。

 

(たぶん、人形使いの本体はここに居ない。

このキモイ肉片は中継器みたいなもんで、もっと遠くから操ってる。

さすがにそこまでは逆探知できないけど)

 

逆に言えば、中継器さえ無ければ人形を操れないという事でもあった。

 

(まだ動いてる奴がいる。

って事は中継器はコレ1個じゃないな…もうちょっと探してみるか)

 

 

 

 

 

「な、なななんという!?」

 

『うん?どうしたのかな、モースくん』

 

「あ、そ、その。我が失態でございます。

よもや分体が破壊されるとは!!」

 

『居たみたいだね。呪術の達人が。

それで、もう人形は操れないって事かな?』

 

「はい…やむを得ません。人形は諦めましょう…」

 

『おや、いいのかい?人形使いが人形を諦めるなんて』

 

「に、人形は私の得意とする分野ですが、それだけですので…!

人形は操作装置が3つ以上停止した場合、自動で命を絶つようになっております」

 

『ほう?…その心は?』

 

「人形どもの命を生贄とし、召喚術を発動させる…そういう仕組みでございます。

呼び出されるのは破壊の権化…魂無き神!傭兵ごときには倒せません!!」

 

『それは慢心じゃないかい?

人間ってのは、常に無茶を押し通す生き物さ』

 

「いえ…クククッ!もしアレを倒せたとしても、無意味ですので…!」

 

 

 

 

 

いきなり動きの止まった人形たちが、また動き出す。

 

「っ!油断すんな、コイツらまだ…」

 

そしていきなり自らの心臓を突き刺した。

ヴイザードも含めて、全ての残った人形たちが、だ。

 

「ま、まずいぜ…コレ!」

 

召喚士の傭兵が慌てふためく。

 

「自分の命を犠牲として、契約された存在を召喚する高度な召喚術…」

 

「って事は…自害した人形どもの数だけ、召喚獣が出てくるって事かよ!?」

 

「いや…全員で1つの術なんだ、コレは!

こんな数の人間を生贄にした召喚なんて、見た事がない…いったい何が出てくるのか想像すら…」

 

血が巨大な魔法陣を形成し、光を発し始める。

 

「で、でけぇぞ!陣の上から離れろ!!」

 

続いて飛び散った肉塊や人形が集まり、形を成し始める。

それは何か巨大な、人型の…

 

「なんだ、ありゃあ……」

 

死んだ人形は1つとなる。巨人の上半身のような、グロテスクで壮大な姿を作り出そうとしている。

 

「おい召喚士よ。お前分かんねぇのか、コイツが何なのか!」

 

「分からん。分からんが…恐らくは神格の存在。

それも小さな村で崇められてる程度の低級な奴じゃねぇ…!」

 

「だ、だったらお前の召喚獣でなんとか…」

 

「無理だよ!俺が操るのは神獣!神の使いっ走りだぞ!?

神と戦うなんざ無理だよ!!」

 

「……くそ」

 

ビッシャーは小さく、忌々しげに呟いた。

 

「…やりゃあいいんだろ、ちくしょうッ!!」

 

銛を構え、魔力を込める。

 

「あのな…俺も、召喚術を使える」

 

「そりゃ初耳だぜ」

 

「当たり前だ。コレ使ったらその場でぶっ倒れて、制御も出来ねぇんだからな」

 

「はぁ?お前、それじゃ意味無い…」

 

「だからよ。後はお前ら頼むわ」

 

クルクルと頭上で回してから、下部を持って真正面に構えなおす。

 

「おいおいッ、勝手に始めんなよ!?」

 

「うるせぇ、説明してやっから聞け!!

…いいか、コイツが完全に召喚されたら、もう終わりだ。

そんくらいは俺にも分かる!俺がこれから喚ぶのも、同じようなもんだからな…!」

 

銛の刃先が、弧を描いた形状に変わる。それはさながら、巨大な釣り針だった。

ビッシャーがそれを取り外すと、柄と先端は糸で繋がっていた。

銛が釣り竿に変形したのだ。

 

「はァッ!!」

 

柄の尻で地面を突くと、そこには大きな水の渦が生じる。

そして釣り糸に丸いウキを付けると、渦の中へと投じた。

ウキがプカプカと浮かび、針の位置を示す。

 

「まさか…釣り上げて召喚するのか?」

 

「異界の海に通じる渦を発生させ、その中から召喚獣を釣り上げる。

それが俺の召喚術だ…!」

 

そう呟くや否や、渦の中を揺蕩っていたウキがトプンと沈んだ。

 

「来た来た来たァ!

…いいか、術者である俺が気絶してから召喚獣は3分で消える。

その3分!化け物同士が争ってる隙に、お前らで何とかぶちのめせ」

 

「何とかって…!」

 

ビッシャーの両肩が盛り上がり、筋肉が浮き上がる。

 

「ッッッらァアアアアアア!!!」

 

柄を思い切り振り上げると、糸の先に巨大な竜の顔が現れた。

渦の中から、次々と竜の頭が出現する。計9個。

 

「マジかよッ…」

 

「これが召喚獣だっての!?」

 

9つの頭を持つ海竜が、大渦の中から顕現した。

その首一つ一つが、建物を遥かに超えるスケール。

 

対するは、無数の眼球を持つ巨人の上半身。

召喚完了には、まだ時間が掛かるようだ。

 

「あと、まかせ…た…」

 

ビッシャーが白目を剥き、仰向けに倒れる。

 

「GOOOOAAAAAA!!」

 

「AUGHHHHHHHHHH…!」

 

巨人と九頭龍が、激しく争い始める。

その余波で、建物が次々と崩壊していく。

 

「ど、どどどどうすんだぁ!?」

 

「どうって…そりゃお前…やるしかねぇだろ!!」

 

神々しくすらある破滅的光景に、傭兵たちは臆しつつも飛び込む。

何故なら彼らは戦士であり、戦いの中で生きる事を自ら宿命づけた者たちだからだ。

…ただ1人を除いては。

 

「…えーらい事になってんなぁー…」

 

宿の屋上でそう呑気な感想を漏らすのは、キルエ。

戦いなど手段でしかない彼にとって、この場に留まって戦う理由など無かった。

ただ、放置して逃げる事に対しても忌避感があった。

良心というより、恐れだ。

 

(いいのか、ここで放置して逃げても?

もしアイツらが負けたら…アレが完全に召喚されたらどうなるんだ?

……ちょっと手伝うか。ちょっとな!)

 

懐から、煌びやかに装飾された巻物を取り出す。

ジェト族の秘伝書は、望んだ術を検索し、提示してくれる。

 

(ただし、なんとかなる手段があればの話だけどな!

まぁ無ければ…ね、仕方ないけども。残念ながら逃げざるを得ないですけども!)

 

特殊な道具をなるべく使わず、それでいて素早く召喚術を中断させる術…検索条件を厳しく設定してみた。

が、ヒットした。

 

(クソがッ!…え~と、【契約に割り込む法】?

術式の契約に介入し、強制的に高位次元へとうんたらかんたら~???

…意味分かんね)

 

キルエは別段、呪術の腕に優れている訳ではない。

必要なタイミングで検索し、書かれている通りに実行しているだけだ。

書かれている事が分からない場合は、要約してもらうしかない。

 

「どう使えばいいんだよ!もうちょっと具体的に使い方を教えろ!」

 

秘伝書は、問いが正確なら確かな返答を提示してくれる。

 

『まず召喚陣と自身を接続し、その術式を司る上位者と対話する』

 

「もう既に難しいが…なるほど?」

 

『そして交渉し、召喚契約を破棄してもらう』

 

「なるほどなるほど~…ってバカ!!」

 

手に持った秘伝書を引き裂きそうになった。

 

「交渉って何だよ!なんでこっちのコミュ力頼りなんだよ!?」

 

「AUGHHHHHH…!!」

 

巨人が吼え、龍の首を2本引きちぎる。

傭兵たちは果敢に挑んではいるものの、まだ決定打は与えられていなかった。

これは、負けるかもしれない。

 

「やばっ…!ああ、もうクソッ!!

失敗したら逃げればいいか!!」

 

人形を1体引きずり出し、喉を裂く。そして溢れ出る血で陣を描いた。

 

(次に、儀礼用のナイフを打ち込む…)

 

ナイフを、巨人が出てこようとしている魔法陣に投擲した。

 

(よし。後はあのナイフを刺した部分に、こちらの術を接続する…!)

 

小さな杖を掲げて念じると、描いた陣の血が蛇のようにうねりながら伸びていく。

血は建物の壁面を降りていくと、そのままナイフの刺さった位置に届いた。

 

(繋がった…!)

 

成功を確認した瞬間、抗いようのない巨大な力に引き込まれ、意識が遠のく。

 

『『『 誰 だ 』』』

 

脳内に激しく反響する、大きな何かの声。

決してまともに相対してはいけない存在。

キルエは一瞬全てを悔いた。

 

(いや、もう遅い。仕方ない…交渉してみるか!)

 

 

 

 

 

この暗闇を訪れる者は少ない。

珍しく誰かが来たと思えば、矮小極まる人間ときた。

 

「あ。あの!自分はですね…」

 

鳴き声が聞こえる。傷つけぬように優しくつついてみた。

 

「おごッ…ぉえッ!!?

がぁ、ああああッ…ぐぅえ…があ゛あ゛あ゛あ゛っ???」

 

うん。なかなか愛らしい。

ほれ、何か言うてみよ。ほれほれ。

 

「ごッ…ごゔじょゔ!!ごゔじょゔ、を…!!」

 

何のこっちゃ。うりうり、もっとはっきり言わぬか。

 

「交渉をッ…ざぜで、ぐだじゃい…ッ」

 

交渉!…人が、神と?

言葉を交わす栄誉に飽き足らず、交渉とはな!

あははははは!!

では殺すか。

 

〈つづく〉

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