異世界でいっちょ噛みするだけ。   作:ゴリラプリン

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第60話 背負った代償と追撃

今日は珍しい事があった。

人間が我が領域に立ち入ってきたのだ。

我が領域を訪れる者はほとんどが魔族ばかりで飽き飽きしていたし、嬉しい珍事であった。

そういう訳で適当につついて遊んでいたのだが、不遜にも話し掛けてきおった。

あまつさえ交渉をしたい、などとほざきよる!

なので殺そうと思う。

 

「…交渉も、できないんすか」

 

うん?

 

「こんな短時間のお喋りで痺れを切らすようじゃ…げほッ。

この先苦労しますよ…?」

 

ほほう。交渉どころか挑発か。

そのザマで虚勢を張る意気は買うがな。

神を前にして身の程を弁えんのなら、死ぬしかなかろう?

 

「…じゃあもうそれでいいです好きにしてください。

身の程とか言ってるけど結局ワガママ言ってるだけだし…当てが外れました。

もうちょっと会話できるものだと思ってましたよ、上位者なんて言うくらいだから」

 

当てだと?

 

「でも言っときますがね。

神は神だからエライのだ!なんて思ってるんだったら勘違いですよ?」

 

…………ふむ。では聞こう。なぜ神は尊い存在なのだと思う?

 

「そりゃ役に立つからですよ。

生活を守ってくれるとか、恵みを与えてくれるとか。

そういうご利益がなきゃだ~れも崇拝してくれないでしょう?」

 

それはそうかもしれん。

だが、神と呼ばれる者の中には、猛威を振るった事で恐れられ、崇拝されるようになった者もおるだろう。

 

「それは…『ダルいから適当に煽てて大人しくさせよう』ってだけでしょ。

そういう神だって、何の利益も無きゃ怪物扱いで討伐されるだろうし」

 

ほう?では神とは何だ?

なぜ我らはお前たち塵芥どもより強大な力を持つのか、分かるか?

 

「神は人が作るものだと思いますけど。

人間が神様って呼んで崇めなきゃ、貴方たちはただの厄介者でしかない」

 

…はははははっ!ただの厄介者か…ほざいたな人間。

ならば用件を申せ。とりあえず交渉の卓に着いてやろう。

厄介者を説き伏せる覚悟はあるのだろうな?

 

「交渉ですから…説き伏せるつもりは無いですよ。

ところで貴方の術式によって、現世に何かが召喚されているのはご存知ですか?」

 

ふむ、召喚…?

……ああ、アレか!生贄の支払いが確定したので商品を発送した。そういう契約だ。

 

「そんなフリマアプリみたいな感じなんだ…!

あ、それでですね、ちょっと今困っているというか。

暴れてて大変な事になってまして」

 

当然と言えば当然だな。アレは我の抜け殻。

かつて現世に居た頃の肉体を、そのまま召喚させている。

当然、中身の我が居ないので、訳も分からず暴れるしかない訳だが。

 

「ええ、えらい暴れようでしたよ。

このままだと、現世は大変な事になるかもしれないんです!」

 

アレをどう使うかは、その者次第だ。そこには一切関知しない契約だ。

暴れさせるなり、食べるなり、好きにすればよい。

 

「ええと…商品の発送を中断する、という訳には…いきませんか?」

 

それはこちらに言われても困るな。

召喚しているのはそちら側だ、こちらはただ送り出しただけなのだからな。

 

「じゃあもう。あなたには止められないって事ですか?

神と言ってもそんなものですか…仕方ないですね」

 

…止められないというより、止める理由が無いのだ。

 

「ほら、止められないんじゃないですか」

 

……別にぃ?止められるが?

 

「しかし、実際にはやっていただけないのですよね?

そうなると、どちらでも同じというか…」

 

止めてやってもよいが!?簡単だしなァ!!

 

「では、やっていただけると!

そういう契約でよろしいのですね!」

 

ああ、そうだ!やってやろうではないか!

愚者を導くのも神の役目だ!我が力を見せてやろう!!

 

「はい!そのお力、この目に焼き付けさせていただきます!

では自分はこれにて失礼…」

 

当然、お前の背負う代償次第だがな?

 

「……はい?」

 

当たり前であろう。

神の契約を覆そうというのだ、それくらいの犠牲は覚悟してもらわねばな。

 

「で、でも!もう商品を送った時点で契約は完了してますよね!?

だったらその後に召喚を妨害しても、契約違反にはならないのでは!?」

 

なるほど、理屈を考えてはいるようだな。

だがそれでも、まだ終わっていない召喚を邪魔するのは筋が通らぬ。

覆そうというのなら、それに足るリスクを払う必要があるな?

 

「ち、ちなみにそれはどういう…」

 

そうだな。うむ…神と繋がれなくなる、というのはどうだ?

【神の力を借りる術を使えなくなる呪い】をかけてやろう!

 

「そ、それはっ…!」

 

どうだ?その歳で神の領域に接続する、卓越せし術師よ!

お前にとってはさぞ困る代償であろうなぁ?

 

「そんな事されたら、ほとんどの術が使えねぇ…!!」

 

ああ、安心しろ。

神獣の類いは、ごく低級のものなら呼び出せる。

まぁ戦えるような強力な者は召喚できぬだろうがな!

 

「その代償って、いつまで…」

 

永遠だ。何らかの手段で解くまで、永遠に呪われ続けると思え。

 

「えっ!?……じゃ、じゃあやめときます!!

あの、もうホント帰りますね!お邪魔しました!」

 

そうか、帰るのか。実に残念だ。

…ちなみに言っておくが。

 

「へっ?」

 

現世の方に召喚された我の抜け殻だが…アレは召喚が完了してすぐに暴走する。

そして自壊し、周囲一帯もろとも吹き飛ぶであろう。

つまり、倒せたとしてもお前たちは死ぬ!あははははは!!

 

「…………おい」

 

どうした?

 

「なんっで!!先に言わないんですかそういう事をッ!!」

 

まだ間に合うだろう。

お前が呪いを背負えば、召喚を無効にしてやるぞ?

 

「う、ううう…ッ!」

 

早う決めろ。そろそろ飽いてきたぞ。

 

「お、俺は…俺は……クソッ、なんでいつも俺ばっかこんなッ……」

 

ごーお。

 

「は?いや、ちょ、ちょっとッ」

 

よーん。

 

「待ってください、使える術をリストアップする時間とか…!!」

 

さーん。

 

「それは普通に違うでしょ、リスクとリターンを天秤に掛ける時間は保証されてしかるべき…」

 

にーい。

 

「あっ、あっ、あーっ!」

 

いーち。

 

「…やります、やりますから!!」

 

うん?やるって何をだ?ハッキリ言え。

でないと…ぜーろ。

 

「代償を引き受けます!!だから召喚止めろ!!」

 

……よく言った。漢気があるではないか。

じゃあ、そういう契約で決定だな?

 

「ただし。…神としてのあなたに、色々と聞きたい事があります」

 

ただし?ただしは無しだ。これで終わり。

 

「俺はリスクを負った!…あなたが負ったリスクは何です?

契約違反で死ぬとか?あるいは二度と現世と関われないとか?

まさか、何にも無しって事は無いでしょ?」

 

……なんだと?

 

「人にリスクを取らせる以上、あなたも同等のリスクを負う必要がある。

さて、あなたのリスクは?」

 

お前…驚くほど厚かましい奴だなぁ!

あはは、いや感心したぞ!

 

「で、どうするんです!?」

 

よかろう、質問に答えてやる。…3つだけな。

数に変更は無い、絶対に3つだけだ。

 

「3つ。…いいでしょう。契約成立です」

 

それ、お前が言うのか。つくづく面の皮が厚い奴よ。

 

「第一の質問!まず、代償を解く方法は?」

 

なんだ、無粋だな。それを聞くのか?

…まぁいい、神の呪いは神の力でしか解けぬ。

 

「でも、俺は神の力を借りられない…」

 

そういう事だ。つまり自力では解けない。他の呪術師でも探せ。

言っておくが、これは魂に刻まれる呪いだ。死してなお呪われ続ける。掻い潜ろうなどと思わん方がいい。

 

「性格悪ぃなクソッ…!

だったら、他人に呪いを押し付けるとか!」

 

最初に思いつくのがそれか。お前もたいがい性格悪いな。

確かに、極めて難しいが…押し付けるという方法も出来なくはないぞ?

色々試してみるがいい。

 

「…分かりました。では、次の質問です。

神に関わる術は全く使えないんですか?例外なく?」

 

先程も言ったが、何もかも駄目という訳じゃない。

たとえば神獣を召喚する術。アレは神から既に鍵を預かっている状態だから、神との繋がりが絶たれてもある程度は使える。

 

「でも、強い神獣は召喚できないんですよね?」

 

その通りだ、せいぜいうまく抜け穴を探せ。

それで、3つ目は?

 

「っと…最後の質問は……う~ん、何か聞き忘れた事とかないかな…あ、そうだ!

俺、最近呪物を手に入れたんですが…調べてもよく分からないんです。

どういうものか教えてほしいんです」

 

なるほど。感じるぞ…懐に秘めた呪いの結晶。

 

「ここ、精神の世界ですよね。

実物を見せられなくて申し訳ないんですが」

 

いや、手に取るように分かるぞ。

これは…良質な怨念の塊だな。性質としては【血】だ。

遺伝や苦痛を象徴し、上から下へと流動する不定形の概念。

 

「なるほど…なるほど…」

 

ソレを利用するつもりか?

…まぁお前ほどの術師ならば、使い道はあるかもしれんな。

さて、質問の時間は終了だ。

 

「これで、終わりですね」

 

ああ。神に交渉を持ち掛ける愚か者に会えて、なかなか楽しかった。

我が呪いを解くため張り切って足掻くがいい!

 

「…ええ。精々そうさせていただきますよ」

 

 

 

 

「…!」

 

目を覚ますと、キルエは宿の屋上に座ったままだった。

全身に凄まじい汗をかいている。

何より奇妙なのは、対話した相手がどんな声をしていたか、どんな空間にいたか、何を話していたのかすら、一日前の夢のごとく曖昧になりつつある事だった。

 

(交渉は…上手くいったのか…?)

 

吼える巨人が、硬直している。

魔法の召喚陣が砕け散った。

 

「いきなり動きが止まったぞ!?」

 

「今だッ、一気に行け!!」

 

九頭竜も今や双頭の竜と化していたが、これを好機とみて水流を吐き掛ける。

巨人は虚脱したまま、水に圧し潰されて前に倒れた。

 

「「「うおおおおおおあああああああッ!!!」」」

 

傭兵たちがすかさず、渾身の魔力を込めた術の数々で攻め立てる。

巨人の肉が剥がれ、骨が剥き出しになった。

傷口は塵になり、空気中に還っていく。

 

「GUAHHH…」

 

わずかな叫びが、断末魔だった。

召喚術式は中断され、巨人と海竜はほぼ同時に姿を消した。

静寂が、一瞬全てを支配する。

 

「……やった」

 

勝利の実感が、傭兵たちの間を伝播していく。

 

「やったぞォオオオオオ!!」

 

「見たかオラァアアアアアア!!」

 

キルエは大きな、極めて大きな溜め息をついた。

 

(交渉成功か……いや、喜んでもいられねぇんだった!

俺あの神野郎に呪いを掛けられたんだ!)

 

秘伝書を開き、『今の自分に使える術』を検索する。

なにやら様々な術が表示されるが、どれも身を守るには頼りない。

当然だ。神や精霊と交信するのがジェト族の術の根幹なのだから、神を頼れなくなった時点で戦力は半減どころではない。

 

(う~ん、まぁ…母数が多いからいっぱい有るように見えるが。

使える術はあまり無いか…)

 

そして、メルトとエリンから前金として貰った呪物を取り出した。

 

「だが…コイツは使えるかもな」

 

半ば己を慰めるようにそう呟く。

 

(あーあ…なんでこんな事になっちゃったかな。

もういいや…さっさとここから逃げよう!)

 

 

 

 

 

 

「な、なななな!」

 

『…やられちゃったかな?』

 

「じゃ、邪神アクロメノンの肉体だぞ…!

かつて顕現した時は一国を滅亡させたという本物の神だぞ!?

その召喚術式を、中断させるなどと…!?」

 

『へぇ…やるねぇ。あの子』

 

「も!もももも申し訳ございません!

次こそは、次こそは必ず人間共めを…!!」

 

『馬鹿め、次など無い。……ってのがお約束だけれど、安心していい。それはしないよ。

失敗は互いに補い合うのが仕事仲間というものさ』

 

ネネルの声が、優しく囁く。

 

「お許しいただけるのですか…?」

 

『ああ。既にもう1人刺客を送っている。ちょうど到着する頃かな?』

 

 

 

 

 

 

傭兵たちは勝利の余韻に浸り終わって、皆粛々と片付けをしていた。

奇跡の興奮が冷めれば、無給で仕事をした徒労感だけが残る。

 

「ったく、まんまとやられたな俺ら…」

 

「ああ。ヴイザードも結局人形だった訳だ」

 

「それこそ、魔皇城で戦った時とかな。

下らねぇ…やっぱ厄介事には首突っ込まねぇのが吉か」

 

ただ1人ボガは、己の正義を燃やしていた。

 

(外道め…人間を人形に変えて弄ぶか!

やはり野放しにはしておけない…!)

 

気絶から復活したビッシャーに目を向ける。

 

「なんだよ、ボガ?魔皇城になら1人で行けよ」

 

「そうか、やはりお前は行かないのか。

連合軍に恩を売れば、金にもなると思うが?」

 

「いくら稼いでもあの世にゃ持っていけねぇからな。

せいぜいのらりくらり逃げ回るさ」

 

傭兵たちのほとんどがその意見だった。

確かに強大な存在を打ち倒した達成感こそあるが、それに酔って魔皇城まで乗り込もうとするお調子者は1人もいない。

ボガも酔っている訳ではなく、正気(シラフ)で正義を掲げているだけだ。

 

「まぁ、魔族側に付くつもりもねぇけどな。

ムカつく野郎どもみてぇだしな」

 

「まぁ細々と依頼受けて、気楽な戦いで食いつなぐとするさ」

 

しかし当然、魔皇城を支配する悪党たちへの怒りはあった。

どうせ命懸けなら、納得できる仕事がしたいのが当然というもの。

 

「そうだな…だが、俺は行くよ」

 

「せっかく生き延びたんだ、つまんねぇ死に方すんなよ?」

 

「当たり前だ、生きて帰るつもりだぞ俺は」

 

「おうおう、意気込みは結構だが…」

 

「おい…おい!」

 

女エルフのガルフィアが、大声を上げた。

 

「アレは何だ?」

 

空を差して問う。

彼方より飛来する、大きな翼。

 

「あ?…討ち漏らしたワイバーンか!」

 

「よく見ろ!誰かがぶら下がってる!」

 

ガルフィアの弓手としての視力が、それを捉えていた。

ワイバーンの脚に何者かが掴まっている。

 

「アイツ誰だ…!?」

 

大弓を地面に突き立て、飛翔する影を狙う。

 

「おい!テメェ誰だ!!

そこで止まれ!それ以上近づいたら落とす!!」

 

叫ぶような警告にも耳を貸さず、ワイバーンは速度を緩めない。

ぶら下がっている者も、慌てる様子はない。

 

「分かった!いいんだな!?じゃあ死ね!!」

 

ガルフィアは1秒のためらいも無く、引き絞った弓を放った。

矢はワイバーンにぶら下がる何者かを狙ったが、当たる直前に消えた。

 

「ギョェアアアアアッ!」

 

ワイバーンだけが貫かれ、きりもみ落下していく。

 

「消えただと!?ンな訳が…!」

 

「ここですよ」

 

「ッ!!?」

 

その声が突然耳元で聞こえ、ガルフィアは振り向く。

…誰もいない。

 

「こちらです!お忙しいところ恐縮ですが、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか!」

 

家屋の上に、山高帽とカソックコートの男。

深いお辞儀から顔を挙げると、目出しの覆面を被っていた。

 

「よろしく無ぇな。死ね」

 

ガルフィアが第二の矢を撃ち込む。

矢は着弾して派手に爆炎を噴き上げた。

 

「手厚い歓迎、大変恐れ入ります!

では、さっそく自己紹介をば!」

 

気付けば男は傭兵たちの目前に立っていた。

その手に持つステッキで地面を叩き、跳ね上がったソレを華麗にキャッチする。

 

「私、ドゥロワ・ネネル様直属の配下【薔薇の七冠】が1人!

夢の伝道師ガスマと申します!以後お見知りおきを!」

 

〈つづく〉

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